発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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26 巻, 2 号
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原著
  • 砂川 芽吹
    2015 年 26 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害(ASD)の女性は,知られている有病率の少なさと,ASDの症状が分かりにくいことから,これまで焦点が当たってこず,見過ごされている可能性がある。本研究では,①ASDの女性を見えにくくする要因は何か,及び,②ASDの女性は診断に至る過程のなかでどのように生きてきたのか,という2つの問いを明らかにするために,大人になって初めてASDの診断を受けた成人女性12名を対象としたインタビューを行い,GTAによって質的に分析した。その結果,【「大人しさ」のベール】,【就労状況のベール】,【家庭のベール】,【精神症状のベール】という,周囲からASDの女性を見えにくくする4つの社会環境的な要因が見いだされた。さらに,これらのベールの下で,ASDの女性が適応の【努力と失敗の繰り返し】から【社会適応のスキルを学習】することもまた,周囲がASDの女性を認識し難くなる要因となっていることが示唆された。一方で,ASDの女性は,診断に至る過程であらゆる失敗経験を〈自分に原因帰属〉しているために,【自尊心の低下】が起きていた。そのため,ASDの女性は表面的な社会スキルによってASDであることが周囲から見えにくくなっているが,自尊心が低く,支援が必要な状態だと考えられた。本研究を通して,ASDの女性が障害を持つことを見えにくくする要因と適応過程を見いだし,ASDの女性におけるアセスメントや支援についての示唆を得た。
  • 畑野 快, 原田 新
    2015 年 26 巻 2 号 p. 98-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,大学新入生の前期課程に着目し,アイデンティティを中核的同一性,心理社会的自己同一性に分離して捉えた上で,大学生の心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を明らかにすることであった。そのために,大学1年生437名(男性221名,女性212名,性別不明4名)を対象に4月と7月の2時点で縦断調査を実施した。まず,中核的同一性,心理社会的自己同一性および主体的な学習態度の可変性について確認するため,2時点における平均値の変化をt検定によって確認したところ,全ての変数の平均値は有意に低下していた。次に,3つの変数の2時点における相関係数を算出したところ,中核的同一性では高い相関係数が得られたことに対して,心理社会的自己同一性,主体的な学習態度の相関係数は中程度であった。さらに,潜在変化モデルによって中核的同一性,心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を検討したところ,中核的同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間には有意な関連が見られなかったものの,心理社会的自己同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間に有意な正の関連が見られた。最後に,心理社会的自己同一性を向上させるための支援の方策について議論を行った。
  • 川本 哲也, 小塩 真司, 阿部 晋吾, 坪田 祐基, 平島 太郎, 伊藤 大幸, 谷 伊織
    2015 年 26 巻 2 号 p. 107-122
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,大規模社会調査のデータを横断的研究の観点から二次分析することによって,ビッグ・ファイブ・パーソナリティ特性に及ぼす年齢と性別の影響を検討することであった。分析対象者は4,588名(男性2,112名,女性2,476名)であり,平均年齢は53.5歳(SD=12.9,23–79歳)であった。分析の対象とされた尺度は,日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J;小塩・阿部・カトローニ,2012)であった。年齢と性別,それらの交互作用項を独立変数,ビッグ・ファイブの5つの側面を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,次のような結果が得られた。協調性と勤勉性については年齢の線形的な効果が有意であり,年齢に伴って上昇する傾向が見られた。外向性と開放性については性別の効果のみ有意であり,男性よりも女性の外向性が高く,開放性は低かった。神経症傾向については年齢の線形的効果と性別との交互作用が有意であり,若い年齢では男性よりも女性の方が高い得点を示した。
  • 永瀬 開, 田中 真理
    2015 年 26 巻 2 号 p. 123-134
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)者におけるユーモア体験について,構造的不適合を説明する手がかり(手がかり情報)がユーモア体験にかかわる認知処理に与える影響及び,ユーモア体験の強さに与える影響について検討を行うことであった。ASD者12名,典型発達者20名を対象に手がかり情報のある条件(手がかり有り条件),手がかり情報のない条件(手がかり無し条件)のユーモア刺激を用いて,ユーモア体験の強さに影響を与える「分かりやすさの認知」と「刺激の精緻化」の2つの認知的な処理の特性と「ユーモア体験の強さ」について比較検討を行った。その結果,主に以下の2点が認められた。1)典型発達者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)典型発達者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。以上の結果から,典型発達者とASD者とでユーモア体験の強さに影響を与える認知的な処理の内実が異なることが示された。
  • 藤戸 麻美, 矢藤 優子
    2015 年 26 巻 2 号 p. 135-143
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児を対象にうそ行動の前提要因となる認知的基盤について検討した。4~6歳児75名を対象にうそ課題と誤信念課題,葛藤抑制課題,反事実的推論課題を実施し,うそ課題とそれぞれの課題の成績間の関連をみることで,うそ行動に必要な認知的基盤を検討した。重回帰分析の結果,誤信念課題と月齢の交互作用および反事実的推論課題の交互作用が認められた。誤信念課題との関連は,4歳児のみでみられた。誤信念の理解がうそ行動の前提要因として不可欠であるという従来の知見とは一致せず,誤信念理解はうそ行動に必要不可欠な認知的基盤であるとはいえない。また,全年齢群で反事実的推論課題との関連が認められたが,特に6歳児ではその関連がもっとも強かった。この結果は,年齢が上がるにつれて,うそ行動の前提要因としての認知的基盤が,誤信念理解から反事実的推論能力へと推移していくだろうことを示している。つまり,年齢範囲によって,うそ行動の認知的基盤が異なる可能性が明らかとなった。この可能性からは,4歳児にとってのうそ行動とは,他者のこころの状態の推測に基づいて行われる行動だと考えられる。誤信念理解ができている年齢時期だと考えられる6歳児では,現実とは異なる仮定を想定し,それに基づいて結果を推論するという反事実的推論の能力を支えとして,うそ行動を行うようになると考えられる。
  • 川本 哲也, 遠藤 利彦
    2015 年 26 巻 2 号 p. 144-157
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,東京大学教育学部附属中等教育学校で収集されたアーカイブデータを縦断的研究の観点から二次分析し,青年期の非言語性知能の発達とそれに対するコホートの効果を検討することであった。分析対象者は3,841名(男性1,921名,女性1,920名)であり,一時点目の調査時点での平均年齢は12.21歳(SDage=0.49;range 12–17)であった。分析の対象とされた尺度は,新制田中B式知能検査(田中,1953)であった。青年の知能の構造の変化とスコアの相対的な安定性,平均値の変化について別個に検討を行った。その結果,知能の構造に関しては青年期を通じて強く一貫していること,相対的な安定性は先行研究と同様の中程度以上の安定性を保つことが示された。また平均値の変化については,知能は青年期を通じて線形的に上昇していくが,コホートもまた知能の平均値に対して有意な効果を示し,かつその変化の傾きに対してもコホートが効果を持つことが示唆された。ただしその効果の向きについては一貫しておらず,生まれ年が新しいほど,新制田中B式知能検査のうちの知覚に関連する領域では得点が上昇し,その上昇の割合も大きなものであった。その一方で事物の関連性などを把握する能力では,生まれ年が新しいほど得点が低下してきており,加齢に伴う得点の上昇の割合も緩やかになってきていることが示唆された。
  • 竹島 克典, 松見 淳子
    2015 年 26 巻 2 号 p. 158-167
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/06/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,児童の抑うつ症状と対人関係要因を縦断的に検討し,その関連を明らかにすることであった。小学4年生の児童108名(平均年齢9.94歳;男子59名,女子49名)を対象として質問紙調査を二時点で実施した。第一時点では,自己評定による抑うつ症状,コーピングスキル,ソーシャルサポートおよびソシオメトリックテストによる仲間関係の測定を行った。約9か月後の第二時点では,自己評定による抑うつ症状と対人ストレッサーの測定を行った。その結果,第一時点の抑うつ症状を統制した上で,撤退型コーピング,母親サポート,および対人ストレッサーとコーピングスキルの交互作用が後の抑うつ症状を有意に予測することが明らかになった。交互作用効果においては,家庭ストレッサーが高い場合に,撤退型コーピング(disengagement coping)が後の抑うつ症状の高さを予測することが示された。これらの結果は,抑うつの対人モデルを部分的に支持するものであり,児童期の抑うつにおいて対人関係要因にアプローチすることの重要性が示唆された。
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