発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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24 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 尾山 智子, 仲 真紀子
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児が感情を伴う出来事をどのように自律的に語るようになるのかを検討するため,5-6歳の幼児50名(年中児28名,年長児22名)とその保護者を対象とした調査を行った。保護者には,幼児にとってのポジティブな出来事とネガティブな出来事をそれぞれ2つずつと,日常的ルーチンを1つ挙げてもらい,その内容について調査票に回答してもらった。次に,幼児と約20分の個別面接を行った。面接では,幼児に,親が挙げた日常的なルーチンを1つ,親が挙げたポジティブな出来事とネガティブな出来事,幼児に挙げてもらったポジティブな出来事とネガティブな出来事を1つずつ,計5つについて自由報告するよう求めた。親が選定した出来事やポジティブな出来事は特別で特徴的なエピソードを含むものが多く,一方,幼児が選定した出来事やネガティブな出来事には日常的なエピソードが多かった。報告には年齢差,課題差があり,年長児は年中児よりも出来事についてより多くの情報を報告した。また,幼児はポジティブな出来事や親が選定した出来事について多く語り,特にポジティブな出来事については,時間,場所,人物,活動の報告が多かった。感情語の使用については,ネガティブな感情語よりもポジティブな感情語を用いて出来事を語ることが多く,事物にコメントするために感情語が多く用いられた。
  • 平林 ルミ, 河野 俊寛, 中邑 賢龍
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    従来の書かれた文字を分析する書字評価手法では,そのプロセスや連続性を明らかにできなかった。そこで,本研究では小学1〜6年生の615名にデジタルペンを用いて文章の書き写し(視写)を行い,その書字行動を記録した。書字行動の停留時間を抽出して測定し,文字間停留と文節間停留の差を個人内で比較することで,意味のまとまりである文節を視写に利用しているかを検討した。両者に差がある児童を文節利用群,差がない児童を非利用群とし,各群に含まれる児童の割合を学年ごとに算出し,カテゴリー間の差を検定した。その結果,2〜5年では文節利用群が多く,1・6年では非利用群が多かったことから,1・2年生の段階で意味のまとまりを活用して情報入力を行うようになると考えられた。また,停留時間から書字動作のまとまりを検討し,それに基づいて書字パターンを1文字ずつ書き写す「粒書きパターン」,ある程度のまとまりで書き写す「まとまり書きパターン」,連続して書く連続書きパターンに分類した。その結果,1〜3年生では粒書き・まとまり書きパターンの児童が主流であったが,4〜6年生では連続書きパターンの割合が高かった。したがって,6年生では連続して書くことができるために,意味のまとまりで停留しないと考えられた。また,6年生でも粒書きパターンの児童が5.6%存在し,この児童に関して書字困難との関連を検討する必要性が示唆された。
  • 大島 聖美
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では成人初期の子どもを持つ中年期の母親22名に半構造化面接を行い,母親の子育てに関する主観的体験を,グラウンデッド・セオリーの手法を援用し,検討した。母親はこれまでの経験の中で作り上げられてきた【理想の母親像】を基礎に,子に良かれと思いながら子育てを開始するため, 子本位の関わり】が多くなるが,時に【子育ての義務感】を感じ,【気づけば自分本位の関わり】をしてしまう時もある。そのような時ち,【身近な人からの子育て協力】を得ることとにより,【子から学ぶ】という体験を通して,子どもと一緒に成長していく自分を感じ,【離れて見守れる】するようになり,【心理的ゆとり】を獲得し,視野が家庭内から家庭外へと広がり,自分の生き方を模索しはじめる。以上の結果から,次のようないくつかの示唆が得られた。(1)母親はどんなに子に良かれと思って子に関わっていても失敗することがあり,その失敗の背景には【子育てへの義務感】がある場合が多いこと,(2)このような失敗を乗り越え,母親の成長を促進する上で,【子から学ぶ】体験が重要な役割を果たしていること,(3)【心理的ゆとり】だけではなく,【離れて見守れる】できるようになることも,母親としての成長であるということが示唆された。
  • 高坂 康雅
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,恋人のいる大学生を対象とした3波のパネル調査によって,アイデンティティと恋愛関係との間の因果関係を推定することであった。恋人のいる大学生126名を対象に,多次元自我同一性尺度(谷,2001)と恋愛関係の影響項目(高坂,2010)への回答を求めた。得られた回答について,交差遅れ効果モデルに基づいた共分散構造分析を行った。その結果,恋愛関係からアイデンティティに対しては, Timel及びTime2の「関係不安」得点がTime2及びTime3のアイデンティティ得点にそれぞれ影響を及ぼしていることが明らかとなった。一方,アイデンティティから恋愛関係に対しては有意な影響は見られなかった。これらの結果から,アイデンティティ確立の程度は恋愛関係のあり方にあまり影響を及ぼさないとする高坂(2010)の結果を支持するとともに,Erikson(1950/1977)の理論や大野(1995)の「アイデンティティのための恋愛」に関する言及を支持するものであり,青年が恋愛関係をもつ人格発達的な意義を示すことができたと考えられる。
  • 田中 あかり
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 42-54
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児が幼稚園生活の中で遭遇する葛藤や小さな混乱の場面を「つまずき」場面として,幼児にとっての情動的な場面で教師がどのように関わっているのかに注目し,幼児期の子どもの情動調整の発達を促す大人の行動を探索的に明らかにしたものである。幼稚園の3歳児学年1クラス26名の子どもたちと教師2名のやりとりを縦断的に観察し,観察記録とその観察場面についての教師へのインタビュー記録の2つのデータについて心理学的エスノグラフイーの手法を採用して分析を進めた。また分析の過程では教師の行動の機能的分析を実施した。その結果,幼児の「つまずき」場面における教師の関わりの中には幼児を肯定したり情動を立て直すまでの全プロセスに関わったりするような関わり以外に幼児を突き放す行動があることが見えてきた。さらにその中でも本来の行動や言葉が意味することとは異なることにその行動の目的があると推測される教師の「突き放す行動」に注目し,これらの行動の機能的分析を実施した。その結果これらの行動は幼児に"混乱の落ち着き""悲しみ・悔しさの助長""情動の出し方の転換"という変化をもたらしていたことが明らかになった。これらの結果から教師の「突き放す行動」の機能として,幼児の喚起された情動を瞬間的に弱め,幼児自身がその問題に向き合い自律的に情動を調整するきっかけを作る働きがあることが示唆された。
  • 大島 聖美
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 55-65
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    両親の夫婦関係が子の心理的健康に影響することはよく知られているが,親子の性別による影響の受け方の違いに関する研究は少ない。本研究の目的は,両親の夫婦関係(夫婦間の信頼感)と両親から子への支持的関わりの両者が青年期後半の息子及び娘の心理的健康に与える影響の男女差を検討することである。そのため,父親用,母親用,若者用の質問紙を作成し,若者(男性140名,女性153名:平均年齢22.4歳)とその両親293組を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果,両親の夫婦間の信頼感は相互に影響しあいながら,母親・父親それぞれの子への関わりに影響を与えていることが示された。息子の場合,父母から子への支持的関わりが多いほど,息子も父母から多くの支持的関わりを受けたと認識する傾向が見られた。一方で娘の場合,夫への信頼感が高い母親の娘ほど,父母から支持的な関わりを多く受けていると認識していることが示唆された。また,息子・娘ともに両親から支持的な関わりを受けていると認識しているほど,抑うつは低く,幸福感は高くなることが示された。
  • 黒澤 泰, 加藤 道代
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 66-76
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    117名の子育てをする親を対象に,質問紙調査を行い,夫婦間のストレス場面における関係焦点型コーピング尺度を作成し,妥当性と信頼性を検証した。関係焦点型コーピング尺度は,「回避的関係維持」「積極的関係維持」「我慢・譲歩的関係維持」の3因子に分かれた。回避的関係維持の頻度は結婚満足度と負の相関を示した。積極的関係維持の頻度は共感性,結婚満足度,精神的健康と正の相関を示し,年齢と負の相関を示した。しかし,我慢・譲歩的関係維持と有意な相関を示した変数はなかった。補足的に行った判別分析の結果,関係焦点型コーピングの3側面は有意にWHO-5の健常群と精神的健康悪化群を判別していた。回避的関係維持の頻度の少なさ,積極的関係維持と我慢・譲歩的関係維持の頻度の多さが健常群の判別につながっていた。これらの結果から,夫婦間で,関係維持のために回避的に関わることの不適応性と積極的に関わることの適応性が示され,子育て期の夫婦における関係焦点型コーピングの妥当性が示された。
  • 倉屋 香里
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,児童期の子どもがいつ,どのように情動を表す比喩の持つ印象的伝達機能を理解するかについて検討した。調査1では大学生に質問紙調査を行い,大学生が情動を表す比喩の印象的伝達機能を理解していることを確認した。調査2では,小学校2,4,6年生の児童265名を対象に質問紙調査を行い,比喩機能理解力の発達的変化および,比喩機能理解力と語感理解力との関連を検討した。物語の主人公が喜び・悲しみ・怒りのいずれかの情動を他者に伝える際に用いる言葉として,適切な比喩文・情動語を用いた字義通り文・不適切な比喩文の3種類の文を提示し,主人公の言葉に最もあてはまると思うものを1つ選択するという方法を用いた。参加児は,主人公が自分の気持ちを「より相手の心に残るようにわかりやすく伝えようとしている」という条件文のある伝達条件明示群と,条件文のない非明示群に分けられた。その結果,群間で適切な比喩文の選択率に差はなく,どちらの群でも2年生よりも4年生,6年生の方が比喩文を選択する人数が多かった。さらに,語感理解力の高い子どもほど伝達意図が明示されていなくても適切な比喩文を選択する傾向が見られた。これらの結果より,小学校4年生ごろから情動を他者に伝える際に比喩文を用いることが選択肢として加わり,比喩機能理解力が語感理解力のような,コミュニケーションにおける言葉の選択にかかわる能力と関連している可能性が示唆された。
  • 長橋 聡
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 88-98
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究ではVygotskyのごっこ遊び論をもとに,そこに空間構成という観点を加えて,幼児のごっこ遊びを分析した。S市内の保育施設をフィールドとして観察を行い,そこで2か月にわたって行われた協同的なごっこ遊び「病院ごっこ」の生成過程を検討した。同時に,子どもたちが「病院ごっこ」の遊びのために遊び空間を積木などで作っていく過程も微視的に分析した。初期の「病院ごっこ」には役の分担やストーリー性はみられなかったが,子どもたちが遊びの中で新しいモノを加えたり,「病院」内の空間構成を作り変えていったことによって,「病院ごっこ」での活動は複雑でストーリー性を伴ったものになっていき,子どもたちは「病院ごっこ」の遊びのシナリオのための役を演じるようになっていった。このことから,子どもたちが協同的な遊びでストーリー性のある行為展開をすることと,道具を使って「病院」としての遊び空間を作っていくこととは相互規定的な関係になっていることを議論した。
  • 齋藤 信, 亀田 研, 杉本 英晴, 平石 賢二
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 1 号 p. 99-110
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,青年期後期から成人期前期における自己の発達の特徴を,Keganの構造発達理論に基づいて検討することを目的とした。青年期後期40名,成人期前期(25-35歳)40名の参加者に,日本語版の主体-客体面接とエリクソン心理社会的段階目録検査を実施した。まず参加者の大部分は,Keganの構造発達段階における第3段階から第4段階の間の移行とされる段階にあることが示された。そして,年齢とKeganの構造発達段階の間に,正の関連が見受けられた。次に本研究では,Keganの構造発達段階とEriksonの心理社会的危機の関連について検討した。その結果,Keganの構造発達段階とEriksonの勤勉性,アイデンティティの心理社会的危機が解決されている感覚,および全体的なアイデンティティの感覚の間に,正の関連があることが示された。これらの結果について本研究では,青年期後期から成人期前期における,Keganに依拠した自己の発達およびEriksonに依拠したアイデンティティの発達の観点から考察を行った。
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