発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
31 巻, 3 号
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原著
  • 吉井 勘人, 若井 広太郎, 中村 晋, 森澤 亮介, 長崎 勤
    2020 年 31 巻 3 号 p. 105-117
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,発達年齢2歳代の自閉スペクトラム症(ASD)児1名を対象として,特別支援学校の授業を通して意図共有を伴う協同活動の獲得可能性を検討した。意図共有を伴う協同活動とは,目標の共有,相互の役割理解,相互支援の3つの要件を満たす活動であると定義して,問題解決型(研究1)と社会的ゲーム型(研究2)の協同活動の獲得を目標として,共同行為ルーティンを用いた支援を行った。その結果,第1に,対象児は2タイプの活動において支援者への協調的な関与が可能になった。そして,支援者が各活動の最中にその役割遂行を中断すると,対象児は支援者に対して顔注視や発語等の対人志向的行為を示した。第2に,研究2において対象児が社会的ゲーム型の協同活動を獲得した後には,2タイプの協同活動の般化が複数場面で確認された。第3に,研究1において問題解決型の協同活動が限定的に遂行可能になった時期から,意図共有の成立指標の1つとされる共同注意の始発が家庭と学校の日常生活場面で生起するようになった。以上の結果から,まず,2つの協同活動に共通する獲得過程として,ルーティンの中の特定の要素について注意を共有して行為する段階から,目標を共有して相互の役割理解に基づき行為する段階へと移行するプロセスが見出された。次に,協同活動の遂行と共同注意の始発との連関の可能性が示唆された。最後に,協同活動の獲得を促すための共同行為ルーティンの役割が考察された。

  • 佐々木 真吾, 仲 真紀子
    2020 年 31 巻 3 号 p. 118-129
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学1年生62名と4年生58名,大学生60名を対象に,出来事の想起における,「だいたいでよいので教えて下さい」と「できるだけ正確に教えて下さい」という異なる質の報告を求める教示の効果を検討した。実験では,小学校生活で体験する出来事を口頭で提示し,「だいたい(概ね教示)」「正確(正確教示)」の教示で想起を求めた。研究1では両教示をそれぞれ個別に(参加者間要因),研究2では両教示を対比した状況で実施し(参加者内要因),想起の文脈の効果を検討した。その結果,教示が個別に行われる場合,正確教示では,重要度の高い情報が多く報告され,一方で概ね教示では重要度の低い情報の報告が控えられた。さらに,教示が対比されて行われる場合,正確教示では,重要度の高い情報が逐語的に報告されるようになり,概ね教示では重要度が中程度の情報も控えられるようになった。ただし,概ね教示の効果には年齢差があり,児童は大学生に比べて情報を控えることが困難であった。以上の結果から,出来事の想起における正確教示,概ね教示は,想起の文脈によりその解釈が変化し,情報量のコントロールを導いたり,情報の詳細さのコントロールを導いたりすることが示唆された。これらをふまえ,子どもから正確で詳細な情報を得るための司法面接への応用的示唆を考察した。

  • 谷口 あや, 山根 隆宏
    2020 年 31 巻 3 号 p. 130-140
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下,ASD),アスペルガー障害(以下,AS)の診断名の提示が大学生のASDに対するスティグマにどのような影響を及ぼすのか,またASDへの知識との関連がみられるのかを検討することであった。大学生286名を対象に質問紙調査を実施した。ASDの特性(関心の制限,社会的相互作用の困難)を示す登場人物を描写した2つの場面のビネット(グループ課題場面,クラブ活動場面)を提示し,1)ASD条件,2)AS条件,3)診断なし条件の3条件をランダムに配布し,ビネット内の登場人物に対する社会的距離を評定させ,スティグマを測定した。その結果,どちらの場面においても,ASD条件,AS条件,診断なし条件のすべての条件間において,社会的距離に差は見られなかった。次に,どちらかの診断名を提示している,診断あり条件と,診断名を提示しない,診断なし条件間で知識の影響を確認するために,社会的距離を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果,診断名の有無と知識の交互作用が確認された。どちらの場面においても診断あり条件において知識の単純傾斜が有意であり,知識が高い場合には社会的距離が近かった。以上のことから,大学生のASDに対するスティグマには提示する診断名そのものの効果はみられず,診断名提示の有無と知識の高低の関連を踏まえた上で検討していく必要性があることが示唆された。

展望
  • 田川 薫
    2020 年 31 巻 3 号 p. 141-159
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/09/20
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(以下,ASD)児が不適切な養育,特に身体的虐待を受けるリスクは定型発達児よりも高く,知的障害を伴わない高機能児では時に深刻な虐待被害が報告されている。近年,親が不適切な養育行為に至るプロセスや親の認知リスク要因に加え,それらと子ども側の要因の相互作用を明らかにする重要性が指摘されている。そこで本稿では身体的虐待における社会的情報過程モデル(SIPモデル)を参照し,子どもの行動に対する不適切な帰属,不適切な発達期待,不当な適応評価という親側の認知リスク要因と,これらに影響を与えうる子ども側の特徴について先行研究を概観した。そして子どもの行動タイプ,問題行動の深刻さ,障害の有無・種別が親の認知リスク要因に関連しうることを整理した。これらをもとにASD児の特徴と親の認知リスク要因の関連についての仮説モデルを提唱した。ASD児の場合,その疫学的な特徴に加え,非定型的な行動パターンや問題行動の深刻さが親の否定的な帰属を引き起こし得ると考えられた。高機能児の場合はこれらに加え,障害のわかりにくさ,認知・適応能力の凸凹・個人差が大きいことから,親が子どもの特性を障害として捉えづらく否定的帰属が抑制されにくい可能性,適切なレベルの発達期待を見極めるのが難しい可能性,適応評価が不当に低くなりやすい可能性が考えられた。最後に今後の研究の課題と展望を述べた。

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