環境感染
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20 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 茅野 崇, 鈴木 理恵, 新谷 良澄, 吉田 敦, 奥住 捷子, 森屋 恭爾, 木村 哲
    2005 年 20 巻 2 号 p. 81-84
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    病院感染対策には手洗いおよび手指消毒が基本かつ重要である. 近年のアルコールゲル擦式手指消毒薬 (ゲル剤) に関する報告ではKramerらがその殺菌効果の低さを指摘している. 我々はKramerらの報告と異なるグローブジュース法によりゲル剤の殺菌効果を検討した.
    総付着菌数の対数減少値は, 液体石けん0.99±0.53 (n=29), ゲル剤A1. 61±0.66 (n=36), ゲル剤B1.52±0.55 (n=29), アルコール擦式手指消毒薬 (ラビング剤) 2.05±0.67 (n=38) であった (Mean±SD). ラビング剤およびゲル剤は液体石けんに比べ有意に菌数を減少させた (P<0.0001). この結果は, Staphylococcus aureusおよびEscherichia coliの菌種別および被験者を医療職・事務職に分けた職種別の各検討結果においても同様の成績が認められた.
    以上より, ゲル剤の殺菌効果はラビング剤よりも若干劣り, 石けんと流水による手洗いよりも優れていることが示された.
  • 森本 美智子, 田辺 文憲, 中山 栄浩
    2005 年 20 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    看護ケアに用いられている種々のプリコーションガウンを対象として, MRSAのガウン裏側への透過性を時間毎に検討した. その結果, 撥水性のないコットン35%・ポリエステル65%のガウンではMRSA付着直後からガウン裏側へ透過したのに対し, 撥水性のある一層性不織布と三層性不織布のガウンでは付着2時間後まで菌の透過がみられなかった. また, プラスチックガウンでは付着24時間後まで菌の透過はみられなかった. 次に, 体位交換などの看護ケアにより生じる摩擦を撥水性のガウンに加えたとき, MRSAの透過性が変化するかどうかを調べた. 看護者が患者の上半身および下半身を水平移動する際に生じる摩擦とほぼ同じ摩擦力を各ガウンに加えたところ, 一層性不織布と三層性不織布のガウンではMRSAの透過性が著明に増加することがわかった. 一方, プラスチックガウンは摩擦を加えてもガウン裏側への菌の透過はみられなかった. これらの結果より, 撥水性のある一層性不織布と三層性不織布のガウンは, 看護ケアで生じる摩擦が加わることにより, ガウン裏側へMRSAが透過し感染を広げる危険があることが示唆された.
  • 麻生 幸三郎, 鈴木 昌代, 二村 正希, 境 冨美子
    2005 年 20 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    院内感染対策の一環として重心病棟利用者に流行性耳下腺炎 (ムンプス) 酵素免疫測定法 (EIA) IgG抗体価を測定しワクチンを接種予定であったが, 予防接種施行直前に0病棟でムンプスが流行, 入院利用者10名と職員1名がムンプスに罹患した. 罹患者10名中5名の罹患前EIA IgG値は4以上と「陽性」であり, 2名はワクチン接種を施行したことが母子手帳で確認されており, EIA IgGも7-8であったにもかかわらずムンプスを発症した. 発症前後のEIA IgG値比は11-498 (平均69) で, 最低でも11倍以上抗体価が上昇していた. ムンプス流行終熄から約1年たった時点のEIAIgM, 中和抗体 (NT) はいずれも全員陽性であった. しかし, 非流行病棟でムンプスワクチンを接種した利用者49名のNT陽性率は12%ときわめて低率であった. 流行病棟においてムンプス流行前にムンプスHIを測定していた27名の検討では, HIとEIA IgGを組み合わせてもEIA IgG単独で判定した場合に比べムンプス罹患阻止指標として精度が高くなるとは考えられなかった. 感受性, 特異性ともに高い満足のいくムンプス罹患阻止指標はないが, 現時点ではEIA IgG8以上を抗体保有と判定するのが実際的であろう.
  • 小椋 正道, 矢野 久子, 利根川 賢, 中村 敦, 伊藤 誠, 岡本 典子, 高阪 好充, 溝上 雅史, 新井 亜希子, 倉田 浩
    2005 年 20 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    発熱と呼吸困難を繰り返し過敏性肺臓炎が疑われた77歳女性に対し, 原因微生物を検索する目的で患者宅環境調査を行った. 調査方法として (1) 浴室, 超音波式加湿器 (以下加湿器), 患者寝室の滅菌綿棒による拭き取り,(2) 加湿器内の水 (加湿器水) の培養,(3) 患者寝室押入れと加湿器の置いてある居間のエアサンプリングを行った. その結果, アレルゲンと成り得るグラム陰性桿菌と真菌が合計11菌種検出された.これらの菌から作製した抗原液と患者血清による沈降反応 (Ouchterlony 法) を行い, 加湿器の内壁, 加湿器水, 加湿器稼動中の居間の空気の3箇所より検出されたCandida guilliermondiiが陽性であった. 3箇所から検出されたこの菌はPFGE解析により核型が一致しており, 加湿器内で増殖していた本菌が加湿器を稼動させたことで空気中に飛散したことが示唆された. 本事例は加湿器を廃棄したところ症状の再発がみられなくなった. 以上からC. guil-liermondiiを原因微生物とした加湿器肺が強く疑われた.
  • 小児科外来, 保育所, 家庭を対象として
    法橋 尚宏, 池原 恵美子, 大森 和子
    2005 年 20 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    子どもの玩具の細菌汚染の実態を明らかにするために, 小児科外来18ヵ所, 保育所19ヵ所, 保育所児がいる家庭21ヵ所から協力を得た. 絵本, プラスチック製人形, プラスチック製ガラガラ, ゴムボール, 積み木を対象として, スタンプ法で細菌を採取し, 一般細菌による汚染度を解析した.
    その結果, 91.2% (274検体中250検体) の玩具が細菌に汚染されていた. 採取場所別に玩具の汚染度を比較すると有意差が認められ, 小児科外来にある玩具が最も汚染度が低かった. また, 玩具の素材別に汚染度を比較すると, ゴム製玩具が最も高く, 紙製玩具が最も低かった. 家庭において, 子どものオムツ使用の有無別に玩具の汚染度を比較すると, オムツを使用している家庭にある玩具のほうが有意に高かった.
    以上より, ほとんどの玩具は細菌に汚染されており, 玩具が機械的ベクターとなる可能性があることを再認識する必要がある. さらに, 玩具の細菌汚染の実態に即して適切な環境整備を工夫することで, 玩具の衛生管理の向上を図ることが望まれる.
  • 阿島 美奈, 岡垣 篤彦, 西村 美樹, 上平 朝子, 山崎 邦彦, 吉崎 悦郎, 勝 順子, 白阪 琢磨
    2005 年 20 巻 2 号 p. 112-118
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    サーベイランスは, 病院感染の発生状況を把握し, 分析した情報をケア提供者にフィードバックすることによって, 感染予防対策の評価と改善を行うための活動であり, 病院感染管理上は対象を定めたサーベイランスが重要となる. しかし, 手作業と伝票の集積に頼ったサーベイランスでは, 実施に時間と労力を要するため担当者の負担が大きく, しかも報告書記載の不備や報告の遅延が生じれば不正確なサーベイランスとなる. 当院では省力化と正確性を目指して, 既存の院内LANシステムを活用したサーベイランスシステムを構築した. サーベイランスの対象として中心静脈 (以下CV) カテーテル関連血流感染 (以下BSI) を定め, 病院全体におけるCVカテーテル関連BSIのベースライン把握と, 感染管理サーベイランスを継続的に実施した. 本システムでは, アクセス権限を持つ感染管理者が病棟などの端末から院内LANを通じてサーバーにアクセスし, 感染情報をリアルタイムで入手でき, さらに当該患者を病棟配置図で識別できるので, 実際の感染管理上で有益性が高い. コンピューターネットワークを活用した本システムの導入は, 効果的な感染管理を少ない労力で効率よく実施する上で有意義であった.
  • 國島 広之, 平 真理子, 野津 田志保, 金澤 悦子, 佐藤 力ク子, 八田 益充, 位田 剣, 阿部 裕子, 金光 敬二, 賀来 満夫
    2005 年 20 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    宮城県における感染対策地域ネットワークに関する調査を行い, その結果を解析した. 集計結果では58.5%の施設が院内感染に関する情報は十分ではないと回答し, 61.5%の医療施設が市中感染症について, 68.9%の医療施設が感染対策について, 相談・コンサルテーション体制の構築を希望していた. また, 81.5%の医療施設で院内感染対策に関する意識の向上が見られるものの, 実際には68.9%の医療施設において感染対策マニュアルの理解は不十分と回答していた. 地域ネットワークについては医療施設・地域における教育・啓発での連携, ICD・ICN (医療現場) での連携, 薬剤部門・微生物検査部門での連携などにおける様々な要望がみられた.
    地域ネットワークに参加している病院では, ICTが組織され, より実質的な活動がおこなわれていた. 院内感染に関する院内・院外講習会も定期的に行われており, 外来トリアージやワクチン接種を始めとする職業感染対策なども進んでいた.
    我が国における地域感染対策ネットワークはまだ緒に就いたばかりではあるが, 多くの施設が様々な連携を必要とし, また強く要望していた. 感染対策地域ネットワークの活動は, 着実に感染対策のレベルアップに貢献していることが示唆された.
  • 佐竹 幸子, 小林 冴葉, 西川 直子, 猫平 千夏
    2005 年 20 巻 2 号 p. 124-128
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    トイレの手洗い設備に石けんとペーパータオルが設置されていない環境と設置されている環境で, 看護学生の排泄後の手洗い行動に関する観察調査を実施した. その結果, 石けんとペーパータオルの設置により平均手洗い時間が2.7秒 (n=38) から8.1秒 (n=35) と長くなり (p<0.001), 手拭き率も13% (5名/38名) から71% (25名/35名) に上昇した (p<0.001). これらの結果から, 石けんとペーパータオルの設置は手洗いの質向上に効果があったと考える. 排泄後の手洗いに関する看護学生の意識を知るためにアンケート調査を行った結果, 83% (63名/76名) が石けん使用の必要性を認めており, 41% (31名/76名) が実際に石けんを使用すると回答した. しかし, 観察調査で実際に石けんを使用したのは31% (11名/35名) であった. また, 手洗い後に髪に触れる動作が多く観察され (34%) (12名/35名), アンケート調査で50% (38名/76名) が手洗い後に髪に触ると回答した. 手洗い行動について看護学生の注意を喚起するために, この観察結果とアンケート調査結果を看護学生に報告した.
  • 杉田 久美子, 吉田 芳子, 小西 ゆかり, 三代 理恵, 宮本 良平, 西村 忠史
    2005 年 20 巻 2 号 p. 129-132
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    看護行為における手洗いの手指消毒は病院感染防止策の第一段階として重要である. とりわけ正しい手洗いの実施は連続医療行為の必須事項であり, 医療行動の効果の評価に関連するものである. 肉眼的汚染のない場合の衛生的手洗いは, 石けんと流水によるものから今日はアルコール含有消毒薬の使用が通常行われている.
    看護学生についても病院実習を行うことにから病院感染防止策を実施する必要があり, 看護学生を対象に衛生的手洗いの実態を把握するため, まず実習を終えた44名の看護学生にアンケート調査を実施した. 41名の看護学生より回答があり, そのうちの82.9%が手洗いについての講義を受けたことがあった. 実習前後と患者に接する前後にそれぞれ88.2%, 97.1%が手洗いを行っていた. 95.1%の学生は手洗いの後にペーパータオルを使用していた.
    その翌年に18名の看護学生の実習中に手洗いの講義と実技, そしてアンケート調査を実施したところ, 1回の手洗いに要した時間は20-30秒が38.9%, 30秒以上が38.9%を占めた. 今までの手洗いの方法が不適切であったと自己評価した学生が72.2%であった.洗い残しについても実習前後で調査をしたところ, 実習前には洗い残しが全員に見られたが, 後には66.7-72.2%と改善した.洗い残し部位は特に爪に多くみとめられた. 看護学生においては手洗いについての知識を持ち, 実習していると思われるが, 手洗いを含めた病院内感染防止対策の継続的実践により, その知識はさらに深まることと思われる.
  • ICUの肺炎に注目して
    須賀 万智, 吉田 勝美, 武澤 純
    2005 年 20 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2005/06/15
    公開日: 2010/07/21
    ジャーナル フリー
    2002年6月-2003年12月, 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 (JANIS) に参加した18施設のICU収容患者10314名を対象にして, 分母の設定が異なる5種類の院内感染率を比較検討した. 院内感染の定義はICU入室2日目以降の感染であり, 本研究では肺炎に注目した. 院内感染率の分母は (1) ICU入室数,(2) ICU在室日数,(3) 人工呼吸器装着日数の3種類であり,(2) と (3) に関しては感染後の日数を含めた場合 (NNISが提唱している感染率) と感染前の日数に限定した場合を設定した.
    ICU在室日数あたりの感染率は感染後の日数を含めた場合 (7.4/1000在室日) と感染前の日数に限定した場合 (7.8/1000在室日) とで有意差を認めなかった. ICU入室数あたりの感染率とICU在室日数あたりの感染率を施設別にプロットした結果, 有意な相関を認めて, 18施設の順位付けが0致した. 人工呼吸器装着日数あたりの感染率は感染後の日数を含めた場合 (14.1/1000装着日) と感染前の日数に限定した場合 (15.6/1000装着日) とで有意差を認めなかった. ICU入室数あたりの感染率と感染前の日数に限定したICU在室日数あたりの感染率について, APACHEIIスコアを調整した標準化感染比と粗感染率は必ずしも一致せず, 18施設の順位付けに違いがみられた.
    NNISが提唱している感染率は (1) 集計・解析のプロセスが簡略であり, 実践的である,(2) ICU在室期間やディバイス装着によるリスクを調整できる,(3) 疫学的観点からも許容できる値を算出できる点から有用である. ただし, ICU在室期間やディバイス装着を考慮しないICU入室数あたりの感染率を用いても施設問比較に耐え得ると考えられた. 患者の重症度を調整しうる感染率の定義を確立することは今後の検討課題である.
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