西部北太平洋およびその縁辺海は,世界でも有数の生物生産の高い海域として知られている。この研究では,乱流鉛直混合という物理過程に注目し,乱流計を用いた船舶観測を中心として,高い植物プランクトン生産の維持に寄与する栄養塩輸送過程の解明に取り組んだ。ベーリング海南東部の大陸棚斜面域での乱流観測および採水観測と,数値実験から,潮汐混合に伴う下層からの硝酸塩・鉄供給が,夏季の持続的な植物プランクトンの生産を維持する上で重要であることを示した。また,高解像度の乱流観測を行った黒潮や津軽暖流域では,流路上に点在する海底地形の起伏に富んだ海域が,乱流鉛直混合に伴う下層からの硝酸塩輸送のホットスポットであることを示した。栄養塩乱流鉛直輸送の観測は,観測技術の進歩とともに,多項目化および高解像度化しており,栄養塩輸送過程のさらなる理解に向けた今後の観測研究の課題についても議論する。