海の研究
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19 巻, 6 号
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原著論文
  • 安田 秀一, 山口 哲昭, 河野 史郎, 高島 創太郎
    原稿種別: 研究論文
    2010 年 19 巻 6 号 p. 263-282
    発行日: 2010/11/05
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    瀬戸内海周防灘において係留系による底層近傍の15日間の現地観測を実施し,潮流による再懸濁の振る舞いを調べた。それによると,中潮期から大潮期にかけて,流れは潮流が優勢となり,それに関連する濁度の上昇が観測された。一方,小潮期には,潮流以外の優勢な流れが突発的に生じることがあるが,その流れに伴う底層の濁度の上昇は認められなかった。調和解析によると,大潮期にはM4潮周期で濁度が上昇する傾向が認められるが,M2潮周期の変動も大きく現れた。このことは,濁度がM2潮流の移流によって運ばれるということの他に,濁度の上昇が下げ潮時よりも上げ潮時で大きいという片潮的な現象を示唆している。この関係をさらに詳しく調べるために,大潮期の25時間に注目して,音響を利用した高精度の精密流速計を用いで16 Hzで流れと音響散乱強度(濁度と高い相関)を測定した。解析に際しではSSの乱流拡散フラックスの考え方を整理し乱れの振る舞いを解析した上で,鉛直方向の乱流フラックスの潮時変動を調べたりそれによると下げ潮時に比べて上げ潮時では流れのスぺクトルのパワーも高い傾向にあり,乱流フラックスも大きく見積もられた。

2010年度日本海洋学会賞受賞記念論文
  • 上 真一
    2010 年 19 巻 6 号 p. 283-299
    発行日: 2010/11/05
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    生物海洋学における研究目的の一つは,植物ブランクトンから魚類などの高次栄養段階動物に至る食物連鎖の中でのエネルギー転送過程や物質循環過程を解明することであるが,人間活動の高まりが海洋生態系の変化を引き起こしている現在では,食物連鎖構造に及ぼす人間活動の影響を解明することも主要な研究テーマとなる。本稿は著者がこれまで行ってきた動物プランクトン(特にカイアシ類)の生産生態研究とクラゲ類大発生機構解明研究を概説し,魚類生産が持続するための沿岸生態系の保全と修復の必要性について述べる。食物連鎖の中枢に位置する動物プランクトンの生産速度の推定を目的として,まず分類群別に体長一体炭素重要関係を求め,動物プランクトン現存量測定の簡素化を図った。次lこ最重要分類群であるカイアシ類の発育速度,成長速度,産卵速度などと水温との関係から,本邦沿岸産カイアシ類の平均日間成長速度は冬季では体重(あるいは現存量)の約10%,夏季では約40%であることを明らかにした。瀬戸内海全域を対象とした調査航海を行い,現場のプランクトン群集の生産速度を求めた。その結果,植物プランクトンから植食性動物プランクトンへの転送効率は28%,さらに肉食性動物プランクトンへの転送効率は26%と,瀬戸内海は世界トップレベルの単位面積当りの漁獲量を支えるにふさわしい優れた低次生産構造を示した。1990年代以降瀬戸内海の漁獲量は急減し,一方ミズクラゲの大発生が頻発化し始めた。さらに2002年以降は巨大なエチゼンクラゲが東アジア縁海域に毎年のように大量発生し始めた。両現象に共通するのは人間活動に由来する海域環境と生態系の変遷(例えば,魚類資源の枯渇,富栄養化,温暖化,自然海岸の喪失など)であり,海域はいわゆる「クラゲスパイラル」に陥っているようだ。クラゲの海からサカナ溢れる豊かな「里海」の創生に向けた海域の管理が必要である。

2010年度日本海洋学会岡田賞受賞記念論文
  • 上野 洋路
    原稿種別: 総説
    2010 年 19 巻 6 号 p. 301-315
    発行日: 2010/11/05
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    海洋の表層-中層の循環および変動は,熱・物質の輸送交換過程を通じて気候変動や生物生産と深い関わりがある。筆者は,北太平洋亜寒帯域に存在する水温逆転構造と中規模高気圧性渦をターゲットとして,北太平洋中高緯度域の海洋循環や熱・物質輸送交換過程に関する研究を行ってきた。水温逆転構造は,亜表層から中層にかけて水温が深さとともに高くなる水温の鉛直構造のことであり,ヂータ解析の結果,黒潮の影響を強く受けた中層水の日本東方海域からアラスカ湾北部への輸送によって亜寒帯域の水温逆転が維持されていることが示された。また,北太平洋北岸を南西向きに流れるアラスカンストリーム域に存在する高気圧性渦を調べた結果,渦が亜寒帯域中西部の水温塩分場および生物生産に大きな影響を与えていることが示された。

総説
  • 横田 華奈子, 勝又 勝郎, 山下 幹也, 深尾 良夫, 小平 秀一, 三浦 誠一
    原稿種別: 総説
    2010 年 19 巻 6 号 p. 317-326
    発行日: 2010/11/05
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル フリー

    マルチチャンネル皮射法地震探査(Multi-Channel Seismic survey, MCS survey)は,これまで地震学において地下の構造探査に用いられてきた手法である。2003年にこのMCSデータ告用いて海洋中の密度構造を可視化できることが指摘されてから,地震音響海洋学(Seismic Oceanography)と呼ばれるMCSヂータを用いた海洋物理学が発展してきた。この新しい研究分野を本稿で紹介する。MCSデータとは人工震源から発振された音波の反射強度を記録したものである。ノイズが多いなどの難点はあるが,従来の海洋観測法では様々な制約から取得することが難しい水平・鉛直ともに高解像なデータである(水平分解能6.25-12.5 m,鉛直分解能0.75-3 m)。観測は船舶を停止せずに行われるため,約200 kmの測線を前述の分解能で1日で観測できる。MCSデータを用いると広範囲の海洋中のファインスケールの密度構造を可視化することができる。ここでは一例として,伊豆・小笠原海域の1測線に見られた反射強度断面上の低気圧性渦を挙げる。

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