有明海の潮汐減少に関して,宇野木は観測データの解析から,最大で減少量の約65%は諌早湾干拓事業に伴う内部の地形変化の効果,残りは外海の潮汐減少によるという結果を得た。一方,塚本と柳は数値シミュレーションに基づいて,上記と逆に内部の地形変化の効果は10~20%に過ぎず,減少の主体は外海の潮汐減少の効果であると発表した。現実の観測データと比較した結果,塚本と柳が潮受堤防の締切り後の開境界における条件として,M
2分潮の振幅減少を2.5cmと過大評価したことが,地形変化の効果の過少評価を導いたと推測された。他方,宇野木は有明海内の地形変化が湾口の潮汐に及ぼす影響は微小なことを前提にして上記結果を得たが,観測資料と理論による検討の結果,この前提は妥当であることが認められた。かくして有明海における潮汐減少の主体は諌早湾干拓事業に伴うものであることが確認できた。また,潮流の減少の面からも,内部の地形変化の効果が外部の効果よりもかなり大きいことが指摘され,とくに潮受堤防の前面で潮流が80%~90%も減少していることは干拓事業の影響を強く示している。
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