北部薩南海域におけるメソ動物プランクトン群集組成,現存量(個体数密度および生物量),タンパク質合成酵素活性の時空間変動を明らかにした。メソ動物プランクトン現存量では時間および空間変動の両方が,タンパク質合成酵素活性では時間変動が卓越した。メソ動物プランクトン群集中ではカラヌス目およびポエキロストム目カイアシ類が優占し,多変量解析では鹿児島湾口部で季節的に遷移する6系群,湾外の季節性に乏しい2系群に識別された。メソ動物プランクトン現存量は鹿児島湾外よりも湾口部で高かったが,タンパク質合成酵素活性は両海域で同等であった。タンパク質合成酵素活性は水柱平均クロロフィル a 濃度と明瞭な傾向を示さなかったが,個体あたりの体重が小さいほど高くなった。また,水柱平均塩分が低いほど個体あたりの体重が小さく,メソ動物プランクトン個体数密度は増加する傾向を示した。これらの結果から,北部薩南海域におけるメソ動物プランクトン現存量やタンパク質合成酵素活性の時空間変動は,低塩分水の移流もしくは伸展に伴う小型のカラヌス目およびポエキロストム目カイアシ類の流入の影響を受けていることが示唆された。
海洋において,細菌が溶存有機物を利用することで始まる微生物ループは,炭素循環の駆動システムとして重要である。微生物ループは,細菌が原生生物に捕食されることで高次栄養段階へと有機物を転送する役割を担っている。酸素非発生型好気性光合成細菌(aerobic anoxygenic phototrophic bacteria,AAnPB)と呼ばれる機能細菌群は,海洋表層に普遍的に分布し,増殖速度が速いため,微生物ループを介した炭素循環におけるキープレイヤーとして重要と考えられる。本稿では,広い系統学的多様性,大きな細胞サイズ,速い増殖速度,高い潜在的生残能,ユニークなカロテノイド色素組成といった,AAnPB が有する生理生態学的特性についてこれまでの知見をまとめ,そこから推察される生残戦略について考察した。
従来,南極氷床は安定で質量は大きく変動しないと考えられていた。しかし,過去20年程度の各国の研究によって,南極大陸の氷の損失が年間約0.3 mm 程度の海面上昇に寄与していることが明らかになってきた。南極沿岸域の大陸棚上へ流入する高温の水塊が,棚氷を融解/ 薄化させ,南極大陸から海への氷の流出を加速させているためである。特に,南極の氷損失の70%以上がアムンゼン海東部で起きているとされ,国際的な協力によって,この海域の氷床/ 海洋観測が重点的に行われてきた。こういった背景のもと,南極域の海洋モデル開発において,「限られた観測データを利用する」という従来の方式だけでなく,「観測データと数値モデルを統合的に利用し,過去の観測をできるだけ再現できる数値モデルを開発する」という流れが生まれつつある。本稿では,海洋と棚氷について考える上で重要な,(1)高温の水塊の陸棚上への流入,(2)棚氷の融解,(3)棚氷融解水の流出について,著者の研究を含めて紹介する。さらに,観測データと数値モデルを統合的に利用した研究という観点から,今後の方向性について議論する。