北海道西岸沖において,冬季から春季の対馬暖流は鉛直混合により徐々に不明瞭となり,夏季から秋季の対馬暖洗は石狩湾沖で局所的な時計回りの蛇行流を伴って北上している。このような遷移的な疏れパターン変化を理解することを目的に,2005年から2008年の5~6月にXCTDやXBTによる調査を実施した。我々は季節躍層下において6℃以下の冷水が水温一様の厚い層として存在し,地理的には武蔵堆周辺海域に制限されて分布していることをみつけた。それゆえ,本研究ではこの水塊を「武蔵堆モード水」と呼ぶことにした。調査を実施した4年間の中で,2006年と2008年に観測された武蔵堆モード水は特に厚い層を形成しており,これは強い冬季海面冷却の結果であることが示された。対馬暖流の流れパターンが大きく変化する5~6 月において,武蔵堆モード水の水平的な拡がりは北上する対馬暖流を二分岐させているようにみえる。沿岸側の分枝流は石狩湾沖で,小さな畷水渦流を形成した後,北海道西岸沖の陸棚縁に沿って北上し,沖合側の分枝流は武蔵堆モード水の沖側端を時計回りに迂回する北上流となる。
アルゴによる全球海洋観測網の整備が進み,海洋の貯熱量変化やそれに伴う海面上昇の精密な議論が可能となった。その結果,一部のアルゴフロートで観測された圧力データにバイアスが含まれること,あるいはその可能性が指摘されている。海洋研究開発機構は,気象庁と協力し,率先してこの問題に取り組んできた。国際アルゴでの調査の結果,この圧力バイアスはハードウェアとソフトウェアの様々な要因が複合的に作用した結果であり,特に地上局でのデータ処理過程で生じる人為的な要因が予想以上に深刻であることが明らかとなった。本稿は2009年3月末現在における既知の圧力バイアスの詳細とその発生原因を解説するとともに,国際アルゴにおけるこの問題への対応や,データ補正作業の現状を説明する。また,アルゴ以前のフロートデータに含まれうる圧力バイアスにも触れる。海洋貯熱量変化や海面上昇に関する研究結果をふまえると,フ口一トによる圧力観測は,系統誤差を取り除くことを第一とし,その上でランダムな観測誤差を±5 dbarの範囲に収めることを当面の目標とすべきである。これにより,全球海洋貯熱量は約±0.5x1022 J, Steric Heightは約±3 mmの精度で推定できることになる。現在,アルゴデータを含む海洋観測データから推定されるSteric Heightの上昇量と衛星観測によって推定される海面高度の上昇量の時空間的な不一致が指摘されているが,これはアルゴデータの圧力バイアスの補正を適切に行うことにより減少する傾向にあり,今後の詳細な検討が待たれる。
沿岸海域に人手をかけて生物多様性を上げるということは,生物にとっての多様な生息環境な整備することと同じであることを,石干見を例に述べる。それは,里山において植生を極相にいかせないように人手を加えて生物多様性を上げていることとは,少し質が異なることも述べる。