ヒトの適応と生存と云う視点から,ヒト個体,及び,ヒト個体群(集団)の,それらを包む環境に対する関係について明らかにしたいと考え,千葉県千倉町川口地域集団を対象として,海産物採集漁獲活動を中心とする生業活動につき,野外調査を行ない,直接観察を基本として記載した.
特に地域集団内における性的一年令的分業の問題(HERsKovITs, 1952, pp. 124-152)を,その集団が,自然環境の中で生存する時の,性一年令による仕事の配分と云う生態学的問題として捉えることにより,ヒト個体の行動を通して形成される,ヒト個体群(集団)と自然環境との間の全体的な関係であるヒトの生態系と,それを構成する要因(WATANABE,1964,PP. 1-164.)とについて,焦点が向けられた.その結果は,次の様に要約される.
(1)隣接する地域集団から独立した活動域を有する「川口地域集団」において,岩礁帯と云ら自然環境に特異的な,いくつかの採集漁獲活動が見られ,その活動様式の種類に応じて,具体的な活動集団が存在する(Table 1).
(2)これらの活動集団は,各々,異なる性一年令構成を持ち(Tables 2-1,2-2),さらに,その自然環境に働きかける活動を通して,それぞれ独自の活動時間(Fig. 3),及び,活動空間を利用する(Fig. 7).
(3)従って,「川口地域集団」の,これをとりまく自然環境との間の全体的な関係は,各々の種類の活動集団をその単位とする生態系の時間一空間構造として,具体的に統合される(Fig. 8).しかも,各活動集団を構成する各個体の資質として最も基本的な生理学的背景である性的一年令的特徴が,「川口地域集団」内における活動(仕事)の配分を通して,この生態系の時間一空間構造の形成に関与していることが,指摘された.
最後に,ヒトの適応と生存の問題についての研究は,自然環境に対する地域集団全体の活動の構造と,その中におけるヒト個体の具体的な行動を中心に行なわれる必要があることについて考察された.
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