人類學雜誌
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87 巻, 4 号
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  • 山田 博, 井本 廣麿, 原田 吉通
    1979 年 87 巻 4 号 p. 367-375
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    九州地区日本人の下顎第2乳臼歯に見られるDeflecting Wrinkleについて,その出現頻度およびその原始的形質との相関々係を調査してみた。その出現率は大臼歯よりも高く,しかも第2乳臼歯に出現するある種の原始的形質との間では強い相関を示していた。また第1大臼歯との間においても有意の順相関が認められた。本形質は九州日本人に多く出現し,かつ原始的形質であると考えられた。
  • 神島,答志,桃取および鳥羽の4集団間における集団遣伝学的諸関係について
    片山 一道, 豊増 翼
    1979 年 87 巻 4 号 p. 377-392
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    報告者らは,三重県鳥羽市に属する神島,答志および桃取地区で集団遺伝学的調査を行い,これまでに,多型性形質の分布と集団構造についての報告を行ってきたが,本報では,これら3集団に鳥羽地区を加えた4集団について,遺伝的距離,"親縁的"距離および地理的距離を求め,各々の集団の間にみられる集団遺伝学的諸関係について検討を加えるとともに,集団間の遺伝的変異の特性を明らかにした。遺伝的距離は,Harpending と Jenkins (1973)の方法によって,また"親縁的"距離は姓の分布を利用した新しい方法によって推定された。この両距離については,比較を容易にするために,dendrogramとdiagramが作成された。さらに,遺伝的距離,"親縁的"距離および地理的距離の間で相関関係が検討された。以上の分析と考察とから次の成績が得られた。
    1.姓の分布を利用して得られた"親縁的"距離は,これらの集団間の歴史的,人口学的諸関係についての従来の知見とよく合致しており,集団間の交流の比較に有効な指標を与えることができると考えられる。
    2.遺伝的距離の分析から,これらの集団間の遺伝的関係は,神島のみ僅かに隔っているが,いずれもほぼ等しい間隔で存在しており,特に近縁な集団対は認められなかった。
    3.遺伝的距離および"親縁的"距離に基づいた2つのdendrogramsは,分岐の相対的位置の違いを除くと,相互によく似たパターンを示した。
    4.遺伝的距離は,"親縁的"距離との間には相関が見られた(r=0.69)が,地理的距離との間には相関が見られなかった。このことは,これら集団間の遺伝的変異には島モデルの適用が応しいことを示唆する。
    5.これら4集団の間に存在する遺伝的変異は,集団間の交流量の差異とrandom genetic driftに帰因しており,遺伝的変異のほぼ50%がinter-migrationに帰因した変異に,残りの50%がrandomな変異に対応するものと考察される。
  • アイヌおよび韓国人との比較
    安部 国雄
    1979 年 87 巻 4 号 p. 393-422
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    1972年から1977年に10回にわたって琉球12地域,南九州4地域の住民を調査して1795名(男920,女875)の形質人類学的資料を得た。その資料から主な観察項目を南の波照間から北の椎葉に至るまで,ほゞ地理的配列に従って整理して表(図)示すると共に,著者らによって得られた韓国人やアイヌの結果と比較して,琉球人の観察的形質の特徴の把握に便ならしめた。またこれら地域住民の先人の業績をまとめて参考に供した。なお計測項目については他にまとめて(安部ら,1979)発表した。
    本篇で特記すべきは琉球人の上眼瞼のヒダの性状である。即ちこのヒダが内眼角に附着しないもの(ヒダの認められないものも含めるがその頻度は稀)が,他地域の日本人のそれよりも,琉球人においてはかなり高い頻度で認められ,しかもこの頻度は北から南にゆくに従って次第に高くなってゆく(cline)。
    琉球人のこのヒダの特徴は,台湾の原住民に連続し(未発表),そしてそのルーツは南東アジアの原住民の「マレー目」に帰着するものと推測している。
  • 第1~第3主成分にもとつく計測項目の選択
    河内 まき子
    1979 年 87 巻 4 号 p. 423-437
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    主成分分析法(PCA)は,からだつきの変異を分析する方法として使われており,これまでに報告された生 体計測データの分析結果から,第1主成分(CP1),第2主成分(CP2)については再現性が認められている。しかしからだつきの変異としては,CP1, CP2の表現するような大雑把な変異(それぞれgeneral size factor, linearity factor とよばれる)だけでなく,もっと細かい変異も重要であり, PCAの価値は,このような細かい変異がどのようなところにあるのかを客観的に示せるところにある。しかし,これまでのところ第3以下の主成分については再現性が確認されていないので,PCAをからだつきの分析法として有効なものと認めるには,以下の2点をまず明らかにする必要がある。すなわち,1)第3以下の主成分の内容が報告によって異なる原因を明らかにすること,2)PCAの結果が生体学的な意味を持つことは,よく似た意味内容を持つ計測項目どうしが,CP1とCP2の寄与の程度に基いてグループ分けされる(KOUCHI, 1977)ことから示唆されるが,このグループ分けが安定したものであることを,もっと多数の項目を分析して確認すること。
    以上の2点を明らかにするため,18~27才の男子112名について計測を行ない,表1に示す44項目の計測値間の相関行列に対して主成分分析を行ない,その結果をこれまでに報告された7論文(井上•柳沢,1978; KOUCHI, 1977; VANDENBERG, 1968; FUKUSHIMA, 1967; MASUDA, 1965; HAMMOND, 1953; HEATH, 1952)の結果と比較検討し,以下の結果を得た。
    1)第3主成分の内容はマルチン式項目を分析する場合と被服学の項目を分析する場合とで異なっているが,マルチン式の項目をひどい偏りのないように選んで分析する場合には結果はよく似たものとなる。同じことは被服学の項目についてもいえる。したがって,異った項目を分析することが,第3主成分の内容が研究ごとに異なる最大の原因と考えられる。
    2)計測項目の関係,すなわち項目のグループ分けは,8報告の被験者の性,年令,人種がさまざまであるにもかかわらず,坐高を除けば一定の傾向を示す。しかも,これらのグループの大部分は生体学的に明確な意義をもつことが明らかにされたので,項目選択の際の基礎とみなしてさしつかえないと思われる。
    3)PCAに基いた項目のグループ分けを検討するため,上述の相関行列に対しクラスター分析を行なったが,この結果はPCAに基いたグループ分けと非常によく一致した。
    4)実用的立場からは計測する項目数は少ないほどよいので,上述のグループ分けにもとついて偏りのない項目選択を試みた。表3に示す20項目を暫定的に選択したが,選択された項目がもとの項目の示す変異をどのくらい代表できるかに関しては続報で詳しく検討する。なお,今回分析した項目は,おもにマルチン式項目からはば広く選んであるが,被服項目の分析結果との比較からみると,マルチン式の項目だけでは表現できない変異があると予想される。たとえば,ねこ背か反身体かというような変異は生体観察においても重視されるが,マルチン式項目の中にはこれを表現できるものはないようである。
  • 高崎 裕治, 鎌滝 昭男, 山崎 昌広
    1979 年 87 巻 4 号 p. 439-444
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    19才から25才までの男性被検者31名の体密度測定を実施し,身体各部位の皮脂厚及び周径から体密度を推定する式を作成した。水中体重測定法により求めた体密度は平均1.073g/m1で,他研究にみられる数値の中間的な値を示した。ステップワイズ重回帰分析により皮脂厚と周径を説明変数とする体密度推定式を作成した結果,皮脂厚のみを説明変数とする2変数と4変数からなる2つの式が得られた。得られた式の体密度推定精度は他研究の式と比較して体密度測定値との誤差をより少なくするものであった。
  • 判別関数法による
    埴原 和郎, 小泉 清隆
    1979 年 87 巻 4 号 p. 445-456
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    上•下顎I1~M2の14本の歯の歯冠近遠心径に基づき,性別判定のための判別係数を計算した。その結果,日本人では直接計算方式で76%,変数選択方式で77%の的中率をえた。さらに日本人以外の集団でも同様の計算を行なったところ,歯の大きさに強い性差のある集団では判別の効果も高いことが認められた。またある個体が男性又は女性に属する確率を計算することにより,判別をより確実に行なうことができる。歯の大きさによる性別判定の大きな利点は,比較的若い個体にも応用しうる点にあると考えられる。
  • 山田 博之, 大野 紀和, 酒井 琢朗
    1979 年 87 巻 4 号 p. 457-471
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    歯のもつ生物学的意義から,歯の諸形賃をもちいて数量的にも数質的にも多くの研究が行なわれてきた。しかし,歯の形質とくに歯の計測値をもちいて集団間の違いを多変量的に分析した研究は数少ない。今回の研究の目的は,男性の上•下顎中切歯,犬歯,第1小臼歯,第1大臼歯の歯冠近遠心径•頬舌径の計測値から,日本人•ハワイ人•パスツーン人(アフガニスタン)の3集団について分類学的立場から比較検討することである。
    もちいた距離iおよび類似係数はそれぞれ,Penrose's size and shape distance, Mahalanobis'generalized distance, canonical variatesおよびQ-mode correlation coeffcientである。これら類似係数に対し,林の数量化理論類を応用して二次元平面上で各集団相互の位置関係を比較した。また,Q-modeで基準化したデーターに対しても同様の分析を試みた。以上,結果を要約すると次のようである。
    1.パスツーン人はI1の歯冠近遠心径および唇舌径の項目を除き,日本人•ハワイ人に比べて最も小さい値を示した。
    2.パスツーン人とハワイ人のI1, C, P1, M1の歯冠近遠心径およびM、の歯冠頬舌径は日本人のそれよりも小さい値を示していた。
    3. 日本人•ハワイ人•パスツーン人の3集団の間では後方歯群,とくにM1の大きさの差が著しい。
    4. 日本人の中では,秋田•島根•東海地方の間に若干の大きさの違いが認められた。
    5.二次元平面上で各集団の分類をした場合,日本人はP1の歯冠近遠心径およびM1の歯冠頬舌径が大きい集団,またパスツーン人はI1の歯冠唇舌径が大きい集団,ハワイ人はP1の歯冠頬舌径が大きい集団として特徴づけられた。
    6. マハラノビス汎距離および正準変量分析,Q-相関係数は生物学的にもほぼ満足する結果が得られた。
    7.計測絶対値をQ-modeで基準化した値は分類学的にもかなり有効な手法であることがわかつた。しかし,これらの手法によつて得られた結果は,集団間の類似性に対し各方法で若干の相違があるにせよ,本質的には同様な結果が生じてくるため,どの手法が最も妥当性が高いかを言明することはむつかしく,今後の研究を必要とする。
  • 遠藤 萬里
    1979 年 87 巻 4 号 p. 473-481
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    先史学や人類学の研究における対象標本はかなり不規則な形態をもつものが多い。このような形態に対しては,ふつう行われているような直線距離計測や2直線交角の測定はあまり有効でないことがしばしばある。このような場合,近年発達しつつあるパターン認識法を適用することが良いように見える。しかし,多数の標本を処理しなければならない先史学や人類学においては,高価な装置やオンライン•コンピューターを長時間使用せねばならず,そのようなことは通常困難であろう。したがつて,通常のパターン認識法よりはるかに簡単で,大掛りな装置なしに行なえるような測定法も必要である。
    そのため本報告において,二次元図形を慣性モーメントを中心とする9個の特性値で表現する簡便な方法を構成した。この場合,パターン認識における画像関数に相当するものとして,二次元図形を簡略化して薄板になぞらえ,その面に直交する方向への加速度の方程式を導入した。したがつて,この方法は通常の計測法とパターン認識法の中間的なものであり,一方では復雑な計測法であるともいえ,他方では最も簡略化したパターン認識法であるともいえる。ただし,この方法は通常のパターン認識法と異なり,得られる特性値はそれぞれ分りやすい具体的意味をもち,それが従来の記述的特徴に対応させることができる。また,この方法では慣性主軸座標系をもちいるため,図形の長軸や短軸を一義的に決定できる。本報告ではこの方法を「慣性モーメント法」と呼んだ。この方法による具体的な測定と計算についての詳細な説明は別の報告(遠藤i,1978:考古学
    と自然科学11号)に和文で述べてあるので,必要ならば参照されたい。
    この慣性モーメント法を西アジアのドゥアラ遺跡の中期旧石器の分析に適用することを試みた。その結果は,この方法が実際の研究に有効に使用しうることを示した。
  • 山極 寿一
    1979 年 87 巻 4 号 p. 483-497
    発行日: 1979年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ニホンザルの生体の外形特徴が,地域変異を示す有効な指標となりうるかどうかを検討するために,年令差,性差,側差,あるいは特徴間,母子間の関係等の各特徴のもつ属性を分析し,次の結果を得た。1)ニホンザルの外形特徴は,成長の初期段階に多様になり,各特徴の出現年令には著しい性差がある。また,加令に伴なう出現頻度の変化から,集団比較に用いられる資料の年令層を定めた。2)年令変化の大きい特徴は,すべて大きな性差を示した。3)左右聞,前後肢間には,白化爪以外のすべての特徴に有意な相関が認められた。4)特徴間の有意な相関は,オスでは11特徴の9組み合わせに,メスでは16特徴の10組み合わせに,認められた。5)有意な母子相関は20特徴中13特徴に認められ,性差のない特徴には母子相関の高い特徴が多い。6)ニホンザル亜種間の比較の結果,多くの特徴に有意な出現頻度差を認めた。各特徴の年令差,性差,他の特徴との相関等を考慮して資料を選択し,集団比較に用いれば,ニホンザルの地域差の検討にきわめて有効な手段であることを明らかにした。
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