主成分分析法(PCA)は,からだつきの変異を分析する方法として使われており,これまでに報告された生 体計測データの分析結果から,第1主成分(CP1),第2主成分(CP2)については再現性が認められている。しかしからだつきの変異としては,CP1, CP2の表現するような大雑把な変異(それぞれgeneral size factor, linearity factor とよばれる)だけでなく,もっと細かい変異も重要であり, PCAの価値は,このような細かい変異がどのようなところにあるのかを客観的に示せるところにある。しかし,これまでのところ第3以下の主成分については再現性が確認されていないので,PCAをからだつきの分析法として有効なものと認めるには,以下の2点をまず明らかにする必要がある。すなわち,1)第3以下の主成分の内容が報告によって異なる原因を明らかにすること,2)PCAの結果が生体学的な意味を持つことは,よく似た意味内容を持つ計測項目どうしが,CP1とCP2の寄与の程度に基いてグループ分けされる(KOUCHI, 1977)ことから示唆されるが,このグループ分けが安定したものであることを,もっと多数の項目を分析して確認すること。
以上の2点を明らかにするため,18~27才の男子112名について計測を行ない,表1に示す44項目の計測値間の相関行列に対して主成分分析を行ない,その結果をこれまでに報告された7論文(井上•柳沢,1978; KOUCHI, 1977; VANDENBERG, 1968; FUKUSHIMA, 1967; MASUDA, 1965; HAMMOND, 1953; HEATH, 1952)の結果と比較検討し,以下の結果を得た。
1)第3主成分の内容はマルチン式項目を分析する場合と被服学の項目を分析する場合とで異なっているが,マルチン式の項目をひどい偏りのないように選んで分析する場合には結果はよく似たものとなる。同じことは被服学の項目についてもいえる。したがって,異った項目を分析することが,第3主成分の内容が研究ごとに異なる最大の原因と考えられる。
2)計測項目の関係,すなわち項目のグループ分けは,8報告の被験者の性,年令,人種がさまざまであるにもかかわらず,坐高を除けば一定の傾向を示す。しかも,これらのグループの大部分は生体学的に明確な意義をもつことが明らかにされたので,項目選択の際の基礎とみなしてさしつかえないと思われる。
3)PCAに基いた項目のグループ分けを検討するため,上述の相関行列に対しクラスター分析を行なったが,この結果はPCAに基いたグループ分けと非常によく一致した。
4)実用的立場からは計測する項目数は少ないほどよいので,上述のグループ分けにもとついて偏りのない項目選択を試みた。表3に示す20項目を暫定的に選択したが,選択された項目がもとの項目の示す変異をどのくらい代表できるかに関しては続報で詳しく検討する。なお,今回分析した項目は,おもにマルチン式項目からはば広く選んであるが,被服項目の分析結果との比較からみると,マルチン式の項目だけでは表現できない変異があると予想される。たとえば,ねこ背か反身体かというような変異は生体観察においても重視されるが,マルチン式項目の中にはこれを表現できるものはないようである。
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