人類學雜誌
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92 巻, 1 号
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  • 栃原 裕
    1984 年 92 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    身体的鍛練を行なっている男女各8名の大学生を被検者とした。気温は9.5°C(低温),22.0°C(常温),34.5°C(高温)の3条件で,相対湿度は55~65%で,気流は20cm/secであった。各気温下20分間の安静の後,あらかじめ常温下で数回測定した各人の最大酸素摂取量の40%に相当する強度の自転車エルゴメータ運動を100分間行なわせた。実験中,心拍数,収縮期血圧,直腸温,肺換気量,酸素摂取量及び発汗率を測定した。
    低温時と常温時の心拍数,直腸温増加度には性差は認められなかった。しかしながら,高温時には,運動終期の心拍数,直腸温増加度は,有意に男子の方が大であった。男子のみが高温下運動時に肺換気量の増加が認められ,しかも高温下運動中の酸素摂取量の増加は男子の方が著しかった。高温時には,男子の収縮期血圧は運動80分目以後低下傾向があったが,女子にはこの傾向は認められなかった。直腸温上昇度に対する発汗率は男子が,有意に大きく,高温高湿下運動時には,男子の発汗は女子ほどには効率的ではない様であった。
  • 井上 直彦, 伊藤 学而, 亀谷 哲也
    1984 年 92 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    歯と顎骨の大きさの不調和(discrepancy)の成立過程とその病因性を明らかにするため,著者らはすでに,主として東日本の各地から出土した後•晩期縄文時代,古墳時代,鎌倉時代,室町時代および江戸時代の古人骨について,顎顔面形態の変化,discrepancy の頻度および程度,不正咬合の発現頻度や歯科疾患の分布状況などについて調査を進めてきた(HANIHARA et al.,1981,INOUE et al.,1981A,B and C,1982Aand B, ITo et al.,1982,KAMEGAI et al.,1982,SHINO et al.,1982,KURAGANO etal.,1983)。そして,これらの所見からこの現象が,人類進化の過程における歯および顎骨の縮小の不均衡によって起こったものであろうということ,および不正咬合,齲蝕,歯周病などに対して病因論的に重要な意味を持つということがほぼ確かであると考えている。しかし,これまでの調査では,早•前期縄文時代,弥生時代の資料はなく,また古墳時代の資料はきわめて少なく,このため,これらの形質や疾病像の推移の連続性には問題が残されていた。その後,九州大学第二解剖学教室および長崎大学第二解剖学教室の古人骨標本を用いて,かねて疑問としていたこの部分について調査する機会を得たので,ここでは,西日本出土の早•前期縄文時代,後•晩期縄文時代,弥生時代および古墳時代における,とくに不正咬合とその要因の頻度について報告し,すでに得られている東日本出土古人骨による調査結果と対比して考察した。
    総資料数は,九州大学および長崎大学のものを合わせて324体であったが,不正咬合の調査にはこれらのうち,保存状態が良く,とくに上下顎が揃っていて,紛失歯も少なく,咬合状態の再現が可能であったもの,早•前期縄文時代9体,後•晩期縄文時代34体,弥生時代125体,古墳時代50体,合計218体を用いた。不正咬合の分布は,早•前期縄1文時代22.2%,後•晩期縄文時代20.6%,弥生時代49.8%,古墳時代36.0%であった。不正要因のうち, discrepancy のあるものの分布は,それぞれ,0%,17.6%,16.8%および24.0%で,骨格型に関する要因は,22.2%,2.9%,28.0%および8.0%であった。不正咬合の頻度は,後•晩期縄文時代には東日本(20.0%)と差がないが,弥生時代には一時的にかなり増加し,古墳時代には再び減少して東日本(45.5%)よりも低い値を示している。 Discrepancy の頻度は,早•前期縄文時代には0%であったが,後•晩期縄文時代には東日本(8.9%)よりも高く,弥生時代には一時低下するがその後増加して,さきに報告した鎌倉時代以降の推移と合流するもののように思われる。一方,弥生時代においては骨格型要因の頻度がきわめて高く,不正咬合のなかでも反対咬合が異常に高率を示していたことから,この時代には骨格,とくに下顎が大きかったと考えられる。その理由としては,顔の型の異なる異民族の流入という可能性が大きいが,本研究の結果のみからは結論づけ難い。また,同様な傾向は東日本においては古墳時代に,もう少し弱い形で現われていることはきわめて興味深い点と思われた。
  • 鈴木 隆雄
    1984 年 92 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    北海道渡島半島西海岸の上之国町に位置する中世城跡「勝山館」は1979年から発掘調査が進められている。今回報告するものは,1982年に発掘された多数の人骨片のうち,幾つかの骨片に認められた興味ある古病理学的所見についてである。この病変を示す骨片は頭蓋片,右大腿骨,左脛骨,左腓骨の4つであり保存は良好である。これらの骨片は発掘状況や病変からみて同一個体(熟年•男性)に属すると推定されるものである。
    古病理学的所見として,特に頭蓋では,後頭骨において,底面に不整な骨溶解像を呈するクレーター状の陥凹が数個所に存在している。また頭頂骨では骨硬化像を伴う星芒状の"ひきつれ"たような病変が不整な骨新生像とともに認められる。このような特徴ある骨病変は明らかに骨梅毒症と診断されるものである。
    上之国町「勝山館」遺跡は,その考古学的調査から,室町時代末葉から江戸時代初頭のものであることが確認されている。従って本人骨も同時期に属するものと考えられるが,この時期は我が国に梅毒がもたらされた時期とほぼ一致する。その意味において,本例は我国の梅毒の起源とその伝播やその初期の爆発的流行とも深く関連のある症例と考えられ,極めて興味あるものであるろう。
  • 石井 千賀良, 三沢 章吾, 尾本 恵市
    1984 年 92 巻 1 号 p. 33-35
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    中枢神経系の伝達物質 γ-aminobutyric acid の代謝に関与する酵素 γ-aminobutyric acid trans-aminase(GABAT)は,脳のほか,肝臓などの臓器にも存在することが知られている。 JEREMIAH とPOVEY(1981)は,肝臓をサンプルとして用い, GABAT には,デンプンゲル電気泳動法によって検出できる遺的多型が存在し,それらは常染色体上に存在する2つの対立遺伝子 GABAT1, GABAT2 の組み合わせによって決定され,表現形としては GABAT1,GABAT2-1, GABAT 2の3つが存在することを報告した。本実験では日本人肝臓をサンプルとしデンプンゲル電気泳動法を用いて,75個の試料を泳動し,日本人における GABAT 遺伝子の対立遺伝子頻度を GABAT1 について0.547, GABAT2 について0.453と推定した。JEREMIAH とPOVEY(1981)の推定値と本報告の推定値との比較においては,ヨーロッパ人と日本人との間に GABAT 対立遺伝子頻度に関して統計的に有意な差は見られない。
  • 福場 良之, 神谷 幸宏
    1984 年 92 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    一定負荷作業時の O2-kinetics を用いて anaerobic threshold(AT)の概念の確認と AT 判断基準の妥当性について検討した。5名の被検者が AT を求めるための漸増負荷作業テストと,5強度の一定負荷作業テストを自転車エルゴメータで行なった。一定負荷作業テストの O2-kinetics を見ると,AT 以上のレベルでは Vo2の定常状態が成立せず,また回復期に slow 成分の出現が顕著に認められ,本研究で使用された AT 判断のための基準,すなわち VE と Vco2の非直線的増加開始点を主な基準にして決定する方法は妥当なものであった。
  • 馬場 悠男, 茂原 信生, 芹沢 雅夫, 江藤 盛治
    1984 年 92 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    米沢市戸塚山古墳出土女性人骨に顎関節の変化と歯の異常磨耗が見られた。
    下顎窩は後下方に拡大し,下顎頭にもそれに対応する関節面が形成されている。左下顎歯列頬側にいわゆるクサビ状欠損があり,左上顎臼歯舌側と左下顎臼歯頬側には,そぎ取られたような異常磨耗がある。この斜めの異常磨耗は細い棒等を挿入することによって形成されたと推測される。
  • 遠藤 萬里, 馬場 悠男
    1984 年 92 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 1984年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    In 1982, we published a paper dealing with the morphology of the human innominate bones from the Pleistocene in Japan (ENDO and BABA, 1982). As a part of the results of our investigation, it was concluded that the Akashi innominate is morphologically very modern unlike other specimens and that it must be of a Holocene Sapiens. Recently, NAORA (1983) and YOSHIOKA (1983) criticized these conclusions from various viewpoints.
    However, as far as the morphological characteristics and their statistical treatments are concerned, we consider that their arguments are based on various misunderstandings and that nothing can alter the above conclusions.
    We believe, as WEIDENREICH (1943) maintained, that we should not discuss the problems on geology and prehistory, because we are not specialized in these sciences.
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