人類學雜誌
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91 巻, 2 号
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  • 大中 忠勝, 栃原 裕, 山崎 信也, 田中 正敏, 吉田 敬一, 小川 庄吉, 長田 泰公
    1983 年 91 巻 2 号 p. 123-129
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    8名の男子大学生を被検者とし,人工気候室において気温20,22,24,26及び28°Cの環境下で60分間の安静坐位ののち,40W の自転車エルゴメータ作業を30分間行わせた。相対湿度は50%,気流は20cm/sec 以下に保った。被検者の衣服は短パンのみとし,作業中の直腸温,平均皮膚温,代謝量及び心拍数を測定した。各測定値は作業終了前5分間について検討された。
    直腸温は気温26及び28°Cにおいて,気温20°Cより有意に高い値を示した。また気温28°Cにおける直腸温は気温22°Cにおける直腸温より有意に高かった。平均皮膚温及び心拍数は気温が高い程,高い値を示し,平均皮膚温及び心拍数と気温との間には正の相関が存在した。代謝量は気温26°Cにおいて最低値を示した。
    従来の作業時生理機能に及ぼす低温及び高温の影響に関する研究において,対照として採用されることの多い気温条件の範囲内(20~28°C)においても,作業時の生理機能が気温の影響を受けることが示された。特にそれらの条件下において,体温や心拍数のみならず代謝量においても気温の影響が存在することが示された。
  • 葡匐運動および走行と歩行について
    岩田 浩子
    1983 年 91 巻 2 号 p. 131-152
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    幼児(2~6歳)162名の葡匐運動および走行と歩行の動作を16mm 映画またはV.T.R. を使って記録し,四肢の協調型式を分析して幼児期の移動運動の発達を検討した。
    2,3歳児の葡匐運動では後方交叉型が多いが加齢にともなって前方交叉型の出現率が増加した。5,6歳の後方交叉型の動作速度や上肢の振り出しは前方交叉型よりも大きかった。
    走行は2歳以後に獲得され,前方交叉型の事例が各年齢で半数以上を占めた。5,6歳では完全交叉型と後方交叉型の出現率が増した。
    上肢に振りがない歩行が2,3歳児に多かったが,上肢に振りがあらわれた当初から成人と同型の前方交叉型歩行がみられ,その出現率は加齢にともなって急速に増加した。
  • 横山 泰行
    1983 年 91 巻 2 号 p. 153-168
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    Heath-Carter 法によって9歳から16歳までの男女精薄児693名,対照群の男女健常児641名の Somatotype の rating score を算出した。各年齢群の内胚葉型,中胚葉型,外胚葉型の平均値の最小値と最大値は次の通りである。
    1)男子精薄児:3.1-4.8,3.8-4.2,2.8-3.5. 2)男子健常児:2.9-3.9,3.9-4.4,3.2-3.6. 3)女子精薄児:4.5-5.9,3.6-4.5,1.7-2.9. 4)女子健常児:3.4-5.4,3.1-3.7,2.5-3.9.
    男女精薄児の内胚葉型の rating score は健常児の値よりも高く,肥満傾向を示唆している。
  • 百々 幸雄
    1983 年 91 巻 2 号 p. 169-186
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    伊達市南有珠6遺跡の続縄文時代恵山期の貝層下部より掘りこまれた土壙墓より,人骨1体分が発見された(図1)。土壙墓は一部撹乱を受けていたが,層位的にみて恵山期のものであることは確実であり,恵山期に特徴的な片刃の石斧一点が副葬されていた。
    人骨の保存状態は,頭蓋はきわめて良好であったが,四肢骨は概して不良であった。したがって,ここでは頭蓋のみを研究の対象として報告した。性別は明らかに女性であり,年齢は熟年程度と推定された。
    頭蓋計測値と形態小変異の出現状態は,それぞれ表1と表4に示した。
    脳頭蓋は,中型,高型,尖型であり,顔面頭蓋では,中上顔型,中眼窩型,広鼻型,狭口蓋型である。顔面頭蓋は,縄文人に比して,概して繊細であり,とくに頬骨と上顎骨体の退縮が著しい。歯槽性の突顎も著明である。しかし,歯の咬耗は著しく進んでおり,大臼歯で3度ないし4度の段階にある。また,歯の生前脱落と歯槽に膿瘍の痕跡も認められる。
    21項目の計測値を,近世道南アイヌ,道央•道東北部のアイヌ,東北地方縄文人,西日本の縄文人(吉胡•津雲貝塚)および現代東北地方人女性頭蓋の平均値と比較し,これらとの間にペンローズの形態距離(Cz2)を求めると,南有珠6頭蓋は,道南アイヌに最も近く,次いで道央•道東北部のアイヌに近い。東北地方縄文人とも比較的近い距離にあるが,西日本の縄文人と現代東北地方人とはかなり離れる(表2)。
    近世アイヌと本州縄文人頭蓋を比較的良く分離する頭蓋示数6項目を比較すると,長幅示数,頭蓋底示数,コルマンの上顔示数および口蓋示数の4示数では,南有珠6頭蓋は近世アイヌに近い。矢状前頭々頂示数はどちらかといえば,縄文人に近いが,前頭弧長および頭頂弧長の絶対値は,はるかに縄文人平均を上回っている。下顎枝示数は著しく大きく,超アイヌ的であるといって良い(図2-図7)。
    顔面平坦度計測では,頬上顎部の示数のみがアイヌおよび縄文人の示数平均より大きく,南有珠6頭蓋の著しい突顎性を表わしているが,他の2示数,すなわち前頭部と鼻根部の示数は,アイヌと縄文人の示数平均の中間に位置する(表3)。
    29項目の頭蓋の形態小変異の出現型を用いて,南有珠6頭蓋が,アイヌか和人のいつれかの集団から抽出されたものかを調べるために,尤度比を求めてみたが,和人に対するアイヌの尤度比は9.86となり,南有珠6頭蓋はアイヌ集団に帰属すると判定することができる(表4)。
    以上の結果を総合的に判断すれば,南有珠6頭蓋は,本州の縄文人頭蓋よりも,近世アイヌ,とくに道南部のアイヌ頭蓋との親近性が強いといえ,山口(1980a,1981)が指摘するように,恵山期の続縄文時代人は,縄文から近世道南アイヌへの形態に移行していく過程にあると推察される。
  • プロトコーンとハイポコーンの関係を中心にして
    名取 真人
    1983 年 91 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    プロトコーンとハイポコーンとの関係について,リスザル上顎臼歯の個体変異を5つのタイプに大別した。これらの変異は entoflexus が稜で分断されないタイプを一端とし, postprotocrista の舌側の部分と prehypocrista とが一連の構造となってプロトコーンとハイポコーンとをつなぐタイプを他端とする,一連の変異系列ととらえることができる。この系列のなかで, postprotocrista に弱い prehypocrista のつくタイプの出現頻度がもっとも高い。第4乳臼歯,第1大臼歯ではこのタイプで安定していて変異性にとぼしい。第2大臼歯では個体変異の巾が大きく,このタイプがもっとも多いが,他のタイプの出現頻度もかなり高い。
  • 横山 真太郎
    1983 年 91 巻 2 号 p. 199-214
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    身体主要7筋群の随意持続性収縮における最大エネルギー代謝量(Mjmax;j=1,2,…,7)の推定を試みた。そのたあに推定対象7筋群の双極表面誘導筋電図の積分値と総エネルギー代謝量の同時測定を16の静的筋労作ならびに姿勢保持項目中に行うとともに,7筋群の最大筋力発揮時の表面誘導筋電図の積分値の測定を行った。
    被験者は年令20~30歳の日本人健康男子7名で,身長•体重等の各身体計測値の変動が比較的大きくなるよう被験者群を設定した(Table 1参照)。推定対象筋群は前腹筋群•脊柱起立筋群•臀筋群•後大腿筋群•前大腿筋群•後下腿筋群•前下腿筋群の7筋群であった。連立方程式の構築のために選択された労作項目は,これまでの経験により静的姿勢保持8項目の他に,筋力トレーニング装置を用いる静的労作8項目を新たに追加し,総計16項目とした。
    16項目における表面誘導筋電図の積分値と最大筋力発揮時の積分値から7筋群の最大筋力比を各個人毎に算出した。その最大筋力比と総エネルギー代謝量を用いて著者の推定方法(YOKOYAMA,1980a)に準拠し,各筋群の最大エネルギー代謝量の推定を行うが,推定の精度を期すため,それに先立ち各個人毎のデータセットのクリーニングを行った。今回の総エネルギー代謝量の測定が,労作ならびに回復過程を含めたものであったところから,呼吸商が0.7~1.0の範囲を逸脱した項目および総エネルギー代謝量の値自体が同世代の基礎代謝量の標準値とされる37.5kca1/m2h(沼尻,1970;佐々木,1975)より過小な項目をデータセットより除外した。次に,連立方程式の解法に3つの生理学的規準を導入し,方法に改良を加えた。データセットの中より8元1次の連立方程式の組合せを全て計算し,その解すなわち7筋群の最大エネルギー代謝量(Mjmax)と7筋群以外の代謝量(B1)が(a)非負であること;(b)前下腿筋群の推定量(M7max)はそれ以外の6筋群の推定量よりも小であること;(c)前大腿筋群の推定量(M5max)は後大腿筋群(M4max)と後下腿筋群(M6max)よりも大であること,を満たす組合せを選択した。それらの組合せに現われる各項目の度数を重みとする重み付け最小二乗法により,各個人毎に7筋群の最大エネルギー代謝推定量を決定した。ただし,7名中2名の被験者において,データクリーニングの過程で前下腿筋群(M7max)の推定のために必須な項目が欠損したので,改めて6筋群推定のためのプログラムを作成し,M7max を除く6筋群の推定量を求めた。その際の生理学的規準として,7筋群推定の3項目の中から(a)と(c)の2項目を採択した。
    上記の手順に従い,最大エネルギー代謝量は前腹筋群254.047±139.76(平均値士標準偏差);脊柱起立筋群126.343±49.672;臀筋群131.091±35.575;後大腿筋群80.169±20.689;前大腿筋群154.977±38.362;後下腿筋群75.838±38.290;前下腿筋群34.475±9.583〔kcal/h〕と推定された。今回の推定量は,他に研究例が見受けられないので,直接比較する対象がないが,同一被験者から背筋力と大腿屈群力の値を得たので比較した。その結果,その活動だけで背筋力を規定しているとはされないが多大な影響を及ぼすとされる脊柱起立筋群の推定量と背筋力との間には大むね比例関係が認められた(Fig.4参照)。大腿屈筋力と後大腿筋群の推定量の比較では,両者の間に有意な一次比例関係が示された(Fig.5参照)。一方,今回の青年男子7名の結果と松島(1927)の入院患者の筋重量比の資料との比較では,前腹筋群を除く6筋群については比例関係が成立していた。従って,松島(1927)の資料が入院患者のものであることあるいは筋線維別のエネルギー代謝率の変異ということを考えれば,今回の身体主要筋群の最大エネルギー代謝推定量が十分意味のあるものと結論された。
  • 佐藤 陽彦
    1983 年 91 巻 2 号 p. 215-222
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    等尺性収縮時の小学生の上腕二頭筋の双極表面筋電図を記録し,自己相関関数のフーリエ変換法によって,そのパワースペクトルを6Hzから192Hz までの周波数成分にわたって求めた。小学生の筋電図パワースペクトルを以前求めた成人男子のもの(SATO,1976b)と比較した。小学生の男女間及び小学生と成人男子の間には筋電図パワースペクトルの著しい相違は観察されなかった。少なくとも5歳から25歳までの年齢の健康な被験者においては,年齢及び性は表面筋電図のパワースペクトルに影響を与えないと考えられる。
  • ネグロイド的形質を保有する部族
    安部 国雄
    1983 年 91 巻 2 号 p. 223-230
    発行日: 1983/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    1982年1月,西ガーツのジャングルに住むシディ族を調査して男27人女31人の形質人類学的資料を得た。その体格は南または中央インドの諸部族よりも少し大きく,長頭型,広顔型の上界,中鼻型,中顎型に属す。頭髪は男女共に約半数が糸球毛で,これに弯曲毛と短波状毛を合せると90%以上となり,長波状毛と直毛は極めて少ない。このようにネグロイド的形質を強く保有するシディ族は,また一方で,それらの形質の中に顔ヒゲの比較的に濃い等の南インド住民(ドラビダ語族)的要素の混入もみられて遺伝的に興味深い。
    ここには資料として各個人別の全計測値13項目を提供すると共に,代表的な統計値と観察値および,顔の写真数葉を付した。
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