人類學雜誌
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95 巻, 4 号
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  • 植竹 桃子
    1987 年 95 巻 4 号 p. 421-432
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    衣服設計の立場から,肥り痩せの度合いによる個体の分類および評価を行った.被検者は,未婚の若い日本人成人女子251名である.身体の周径•矢状径•横径等の身体計測値から大きさのファクターを除去するように変換された27項目を用いてクラスター分析を行った結果,被検者は4クラスターに分類された.この分類は外形的な肥痩の程度によるものとみなされ,またこれは変換された胴囲•上腕最大囲•下腿最大囲の3項目のみを用いても89.24%の確率で可能であることが認められた.
    このように本研究では,体脂肪率に基づいて定義されている肥痩に対するものとして,「外形的に肥っている」或は「外形的に痩せている」という身体の外形から判断される「肥痩」,すなわち「外形的肥痩」の概念を打ち出した.そして,この外形的肥痩と皮下脂肪厚とは,肥りと判定される個体以外では高い関連性をもつまでには至らないことが,また一般的に,外形的肥痩の程度にしたがって身体の太さ•厚さ•幅に関するプロポーションが変化することが認められた.
    したがって,外形的肥痩の概念は,体脂肪率により定義されている肥痩とは異なった意味をもつこと,さらに外形的肥痩を充分に考慮した衣服の設計が必要であることが,提示された.
  • 大中 忠勝, 山崎 信也, 田中 正敏, 高崎 裕治, 栃原 裕, 吉田 敬一, 佐藤 陽彦, 草野 勝彦
    1987 年 95 巻 4 号 p. 433-441
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    小学生の体格,体力を都市と山村において測定し,小学生の体格,体力に及ぼす地域環境の影響を調査した.調査対象者は小学校4~6年生の男女(年齢9~12歳)であった.東京都目黒区内の某小学校の児童(男154名,女163名)と宮崎県椎葉村の8小学校の児童(男94名,女92名)について,体格(身長,体重,座高,胸囲,皮脂厚)と体力(握力,背筋力,立位体前屈,伏臥上体そらし,反復横跳び,垂直跳び,踏台昇降運動)を同じ測定チームにより測定した.
    身長,体重は目黒区の児童がやや大きな値を示したが,有意差はなかった.皮脂厚は目黒区の児童が大きな値を示し,年齢によっては有意差が存在した.体力においては,反復横跳び,踏台昇降運動の項目は椎葉村の児童が,垂直跳びは目黒区の児童が優れた値を示した.体格と体力の地域差を主成分分析により検討した.体の大きさを表す第一主成分と体力を示す第二,第三主成分との関係をみると,男女とも椎葉村の子供の方が体の大きさをが小さいにもかかわらず,体力は高い値を示した.地域間の差異は女子において大きかった.
  • 和田 洋, 池田 次郎, 鈴木 隆雄
    1987 年 95 巻 4 号 p. 443-456
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    この報告は,イラク•メソポタミア出土のイスラム期人骨に認められたトレポネーマ症 (endemic syphilis; 非性病性梅毒)と考えられる骨病変について記載している.また,世界におけるトレポネーマ症の分布と進化論的背景を概説し,イラク•メソポタミアでのトレポネーマ症の臨床的,骨学的病態,およびその古病理学的意義について考察している.
    人骨は,イラクのハムリン盆地にあるテル•グッバから出土し,1例は壮年男性,他は熟年女性で,両者とも保存状態は良好である.これらの骨格の頭蓋,肩甲骨,肋骨,挽骨,尺骨,中手骨,大腿骨,脛骨,腓骨および中足骨がトレポネーマ症に罹患している.それらの病態は,肉眼的観察では変色し,多孔性の,あるいは単に不規則な凹凸の骨表面を,緻密質に及ぶ複雑な格子状の細溝を,全周に及ぶ,あるいは部分的な骨肥厚および骨変形を示すものと種々である.また,それらのレントゲン像は内•外膜性による緻密質の骨肥厚,骨髄腔の狭窄を裏付ている.
    イラクにおけるトレポネーマ症の古病理学的記載は断片的なものしかなく,それゆえにこの病気の記載は,骨学的病態,メソポタミアにおける病気の流行,ひいてはこの病気の歴史を考察するうえでも必要である.
  • 大塚 柳太郎, 稲岡 司, 稲岡 司, 河辺 俊雄, 鈴木 継美
    1987 年 95 巻 4 号 p. 457-467
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    パプアニューギニア•ギデラ族の成人136名について,最大握力と体組成を測定した.対象者は生態学的に対照的な2村落,すなわち伝統的な生活様式を維持する村落と近代化の影響を受けている村落に居住している.性および村落別のどの集団においても,握力は除脂肪体重とも体重とも有意に相関した.村落間の比較を行うと,握力は近代化の進んだ村落で高値であったが,体組成の相異を反映し,単位体重あたりの握力では伝統的な村落で高値となった.回帰分析の結果,伝統的な村落では握力の1kgの上昇は男で1.34 kg,女で1.67kgの体重の増加と対応した.近代化の進んだ村落では,この値が1.81kg,4.41 kgと高値であった.ただし,BMI(体重/身長2)が24以上の者を除外すると,伝統的な村落での値に近づいた.日本人の標準値との比較から,近代化の進んだ村落における体重あたりの握力は,少なくとも男では,工業化の進んだ集団におけるパターンと類似すると判断された.
  • 河内 まき子, 埴原 和郎
    1987 年 95 巻 4 号 p. 469-476
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    昭和51年から61年にわたって東京在住の中学2年生男子の生体計測を行い,このデータにどのような時代変化がみられるかを検討し,以下の結果を得た。(1)高身長化傾向は認められず,一部の日本人集団では高身長化が止まっている可能性が考えられる。(2)胴長には年度とともに短くなる傾向があった。(3)胸囲,胸郭幅,寛上最小囲などに,年度とともに平均値だけでなく分散も大きくなる傾向があった。これは肥満児の増加傾向と関係する。(4)本資料では全国平均に比べて肥満傾向児が多い。
  • 森本 岩太郎
    1987 年 95 巻 4 号 p. 477-486
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    打ち首(斬首)の所見が認められる古人首例は比較的少なく,偶然に発見されたとしても,頭蓋の刀創などから斬首を間接的に想定した場合が大部分を占めると思われる.著者が最近経験した鎌倉市今小路西遺跡出土の南北朝期(14世紀後半)に属する斬首された2個体分の中世頭蓋の場合は,切られた上位頸椎が一緒に残っていたので打ち首の技法がよく分かる.当時の屋敷の門付近に,A•B2個体分の頭蓋と上位頸椎だけが一緒に埋められていた.首実験後に首だけが遺族に返されず,そこに仮埋葬されたものであるらしい.2体とも男性で,年齢は A が壮年期前半,B が壮年期後半と推定される.頭蓋は無傷で,それぞれの頸椎が日本刀のような鋭利な刃物により切断されている.頭蓋と第1~3頸椎からなる男性 A の場合,切断面は第3頸椎体の前下部を右後下方から左前上方へ走って椎体の途中で止まり,その先の椎体部分は刀の衝撃によって破壊され失われている.切断面の走向からみて,第4頸椎(残存せず)を右後下方から切断した刃先が第3頸椎体に達して止まったと思われる.頭蓋と第1~4頸椎からなる男性 B の場合,主切断面は第4頸椎の中央を右からほぼ水平に走っている.切断面より上方にある右横突起と右上関節突起の上半部だけが残存し,それ以外の第4頸椎の大部分は失われている.A の場合と同様に,刃先が第4頸椎の椎体の途中で止まって,その先の部分が破壊されたものと推定される.別に第3頸椎の左下関節突起先端部から右椎弓根基部上面へ向けて椎体を左下方から右上方へ斜めに走る副切断面があり,この副切断面によって改めて首が切り離されている.失われた第3頸椎の椎弓板もこのとき壊されたと思われる.切断面の走向からみて,両個体とも,垂直に立てた頸部を横切りにされたというよりは,むしろ正座のような低い姿勢をとって前方に差し伸べた頸部を,左側やや後方に立った右利きの執刀者により切り下ろす形で右背後から鋭く切断され,絶命したと推定される.この際,首は一気に切り落とされていない.これは俗に「打ち首はクビの前皮一枚を残すのが定法」と言われるところに近似の所見であり,この技法の確立が中世までさかのぼり得るものであることが分かる.2体とも最初に第4頸椎部を正確に切断され,頭蓋には刀創の見られないところから,同一の練達者によって斬首されたと推測されるが,切られたほうも死を覚悟した武士であったかも知れない.英国のSutton Walls 出土の鉄器時代人骨における斬首例のように,首を刀で一気に切り離すのが昔のヨーロッパ流のやり方とすれば,中世における日本の打ち首では頸部を後方から半切して処刑する点にその特徴があると思われる.
  • 高崎 裕治, 中倉 滋夫, 安西 定
    1987 年 95 巻 4 号 p. 487-495
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    身長と体重により構成される W/Hp 型の体格指数について,その適合性を子供を対象にして検討した.データとして,北九州に在住する6歳から17歳までの8000余名の男女の生体計測値を用いた.理想的な P 値を算定するために,従来より採用されている2つの基準(体格指数が身長の影響を受けないこと,及び脂肪量と相関が高いこと)に従った.前者の基準に基づくP 値の計算過程は相対成長式の計算と同じものであり,女子において2つの変異点が確認された.それらは身長で135cm,150cm,年齢で9.9歳,14.2歳に相当した.一方,しばしば用いられている W/HP 型の体格指数である W/H, QUETELET 指数, ROHRER 指数の他に幾つかの体格指数を含めて,身長または皮脂厚との相関係数を相互に比較した.これらの結果をもとに,計算が複雑にならないなど実際的な観点から,男子,及び思春期女子においては ROHRER 指数,思春期前後の女子においては QUETELET が上記基準により近いことが認められた.女子を全体でみると, P の値は3に近く,概ね子供の男女に ROHRER 指数を適用してもよいものと思われる.
  • 馬場 悠男, 小野 寺覚, 江藤 盛治
    1987 年 95 巻 4 号 p. 497-513
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    福島県薄磯貝塚出土の繩文時代晩期小児骨格を観察•計測し,他資料と比較した。年齢は10歳と推定。性別不明。脳頭蓋は丸い。顔面は低いが,眼窩は高い。眉間はわずかに隆起する。鼻根の陥凹はないが,鼻骨は広かったらしい。歯槽性突顎が顕著。咬合型は鋏状ないし屋根状。四肢骨は著しく細い。上腕骨•腓骨の骨体は扁平だが,大腿骨•脛骨の骨体は扁平ではない。腓骨はすでに樋状である。前腕は上腕に比べてわずかしか短くないが,下腿は大腿に比べて著しく短い。蹲踞特徴は顕著である。
  • 石本 剛一, 宇陀 秀晃
    1987 年 95 巻 4 号 p. 515-518
    発行日: 1987年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    唾液タンパク変異を37例のニホソザルで調べたところ,ヒトの多型性 proline-rich proteins セこ相当するMPRP は全く変異が見られなかったが,より陽極側に位置する酸性タンパクに個体差を見出した.ニホンザルでアミラーゼ以外にも唾液タンパクの遺伝標識が存在することになる.このタンパクは耳下腺液に殆んど認められず,ヒトのシスティン含有りんタンパクの1種に相当すると推測している.
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