人類學雜誌
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88 巻, 2 号
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  • 井上 直彦
    1980 年88 巻2 号 p. 69-82
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    Tooth to denture base discrepancy is a concept which has been developed by orthodontists as their diagnostic measure for the decision of permanent tooth extraction for orthodontic treatment. It is now coming to be considered as one of the major etiologic factors, not only in malocclusion, but in dental caries, periodontal disease, pericoronitis, tooth impaction, dentigerous cyst, and so on.
    In the present paper, these instances were shown (Figures 1-3), and the nature and origin of this unfavorable phenomenon were discussed from the stand point of human evolution and civilization.
    The author's conclusive opinion may be summarized as follows: Under the close effect of civilization, especially of the eating behavior, diminution of the facial bones and the tooth has consistently taken place through the course of human evolution. However, the rate of reduction was higher in bones which is more labile to the circumferential functional stimuli, while the tooth has been more stable because the tooth crown does not have any remodeling process after the completion of its formation. Thus the disharmonious diminution of these two components of occlusion, being accompanied with the acceleration through the selection by favorable facial esthetics directed to the orthognathism, has resulted in the discrepancy.
    Considering the rather rapid increase of malocclusion, dental caries, and other related disorders in the present era, even collapse of human occlusion might be expected in relatively near future, if a catastrophic rush occured in further development of the discrepancy.
    The present study on the discrepancy problem has brought to the author the poignant realization that the interdisciplinal communication between anthropology and dentistry is really worthwhile, and even requisite for further advance in both of these fields.
  • 諏訪 元
    1980 年88 巻2 号 p. 83-96
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    頭蓋の集団間に存在する形態学的差異を研究する場合,基準面として耳眼水平面を用いるならば,耳眼水平面が各集団の間で同じ生物学的意味を持つのが望ましい。この条件が満足されているか否かを調べるため,本研究では男女各21名の成人日本人について水平視時における自然頭位を記録し,その時の耳眼水平面の前後方向の傾きを調べ,文献にある欧米白人のデータと比較した。
    本研究では耳眼水平面の決定に通常生体計測で用いられるオルビターレと両トラギオンを用いず,触診により外耳道上縁点(ポリオンに対応する)を求め,骨学での耳眼水平面と一致させるよう努めた。
    水平視は垂直に立てられた鏡で自身の目を見ること,あるいは単に真直前方を見ることの二通りの方法により,それぞれ立位,座位の二通りの姿勢で行なった。即ち,四通りの条件で耳眼水平面の傾きを調べた。左側0リオン,オルビ ^"レの直上にマーカーを付着し,被験者から約6m離れた35 mm判カメラ2台(200mmレンズ装備)で立位,座位交互に左横顔を撮影した。鉛直線はおもりの付いた糸で示し,これと耳眼水平面のなす角度をネガフィルムより計測した(Fig 1)。
    マーカー付着時に生じる誤差,被験者の矢状面とフィルム面が平行でない事による誤差,ネガフィルムを計測する時の誤差が存在したが,いずれも十分小さく,結果を左右するものではなかった。
    自然頭位が一義的に決定できるか,定常性はどの程度あるか調べるため,各被験者について各々四通りの条件で21回の観測を行なった。21回の観測から平均,標準偏差,歪度,尖度を計算した(Table 1)。歪度,尖度はk一統計量より算出し,小標本での正規性の検定を岸根(1977)に従って行ない,基本的に正規分布と見なして差し支えないとの結論を得た。従って,21回の観測の平均値をもって自然頭位とすることは妥当である。
    頭位の定常性の程度は21回の観測値の標準偏差によって表わされる。かなりの個人差が存在したが(Table1),一般に,立位,座位に差はなく,鏡を使用した方が定常性が向上した(Table 3)。
    各被験者の平均値をその被験者の自然頭位の代表値として,前述の四通りの条件について男性,女性の平均値を計算した(Table 4)。その結果,耳眼水平面は日本人では前上方へ傾くことが見いだされた。立位,座位に差はなかったが,鏡を使用しない場合,前上方の傾きがより強くなる傾向があったように見えるが,これは統計学的に有意ではなかった。また男性では女性より前上方の傾きが強かった。この男女差は5%レベルで有意であった。
    欧米白人のデータとの比較をTable 5にまとあた。セファログラムによる研究の多くは耳眼水平面の決定にポリオンを用いず,耳積(ear rod)の上縁あるいは下顎関節突起上縁を用いるため,ポリオンを用いた場合に比してそれぞれ6.3°,3.4°の差異が生じる(Fenart et al, 1973)。この補正を行なうと,欧米白人の耳眼水平面は前下方へ5°以上傾いていることが明らかとなる。日本人との差異は角度で5°から10°におよび,従って耳眼水平面は日本人と欧米白人の双方で必ずしも同じ生体学的意味を持たないことが示された。
  • 横山 真太郎
    1980 年88 巻2 号 p. 97-108
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    筋エネルギー代謝の変動と線形関係にある指標及び総エネルギー代謝の同時測定値を用いる局所筋エネルギー代謝量の推定方法を提示した。推定方法の理論的根拠を考察するとともに,推定の過程で重要となる連立方程式の構成様式について検討を加えた。推定精度の向上という点で総エネルギー代謝量の変動の少ない労作項目によって連立方程式は構成される必要のあることが示された。連立方程式の解が不能や不定に陥いらない,すなわち一意的な推定量を得るため労作項目の選択(線形指標群の抽出)方式の考察を行ない,実験手順を考慮に入れた有効な方式を示した。
    筋エネルギー代謝の線形指標の一つとして特に表面誘導筋電図の積分値を検討した。等尺性持続収縮の場合,温熱環境因子の設定と疲労状態の回避を考慮することにより,今回の推定方法への適用には十分な妥当性のあることが明らかとなった。等尺性持続収縮以外の収縮様式への適用拡大の可能性を論じた。
    また,今回提示した推定方法の適用の一例を紹介し,参考に供した。
  • 青木 健一, 尾本 恵市
    1980 年88 巻2 号 p. 109-122
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    日本人のABO式血液型遺伝子頻度につきよく知られている地理勾配が,遺伝子頻度を異にし東西に対立する2集団の漸次混合により生じた過渡的勾配であるとの作業仮説を検討した。資料は本州,四国,九州の42箇所の遺伝子頻度データを用いた。勾配形成のモデルは遺伝子頻度の不連続な変化を初期条件とする拡散方程式の解として導かれる。A遺伝子頻度にもとづく模擬試験により,初期の2集団の境界は現在の岐阜市附近,混合開始の時期は約2,000年前と推定された。さらに他の模擬試験の結果も加え,西日本の弥生時代に農耕によりひき起された移住があったとの観点より検討を行なった。
  • 項目選択の有効性について
    河内 まき子
    1980 年88 巻2 号 p. 123-132
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    前報では分析結果の再現性を検討することにより,主成分分析法が,多数の生体計測値のもつ情報を総合的に解釈する手段として適切なものであることを確認し,また,クラスター分析を併用して,かたよりのない計測項目の選択を試みた。今回は,以下に述べる2つの観点から,前報で選択した20項目(Table 1)が,全44項目のもつ情報を十分に保持しているかどうかを検討した。資料としては,前報で使用した112名の資料のうち,44項目の身体計測値の完全なデータをもつ,成人男子109名のものを用いた。
    1)選択された項目が全体としてもっている情報が,全44項目のもつ情報を十分に代表するものであるかどうか。これを調べるため,被験者間の距離係数行列を,全項目および選択された項目から算出し,Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数によって,両者の一致度を調べた。距離係数としては, Mean Square Distance, Penroseのsizeおよびshape distance,およびQ相関係数を用いた。なお,これらの算出にあたっては,単位および生体学的意味が異なる体重を除き,43および19項目を使用した。
    2) からだつきの変異に関して,いくつかの互いに無相関な要因が主成分によって示されるが,選択された項目は,要因のおのおのを十分に表現することができるかどうか。これを調べるため,主成分ごとに全項目に基づく得点(O-score)と,選択された項目中,その主成分の因子負荷量の大きいものに基づく得点(S-score)とを算出し,その間のPearsonの積率相関係数を計算した。
    結果としては:1)選択された項目全体としては,全項目のもつ情報をかなりよく保存しており,sizeに関する情報の方がshapeに関する情報よりも損失が少ないようである。2)解釈可能な6主成分により,からだつきの変異の7つの要因(Table 5)が示されるが,このうち,第1,第2主成分が示すCP1'とCP2'の2つはほぼ完全に,第3主成分が示すCP3'(sk)とCP3'(so)および第5,第7主成分が示すCP5', CP7'の4つはかなりよく再現される。しかし,第4主成分が示すCP4'の再現性はあまりよくない。
    以上の結果から,選択された項目を主成分分析のように分析的に扱うばあいには情報の一部が失われるが,距離分析のように総合的に扱うばあいには,選択された項目に基づく結果と全項目に基づく結果とは,かなりよく一致すると考えられる。また,からだつきの変異を表わす7つの要因のうち,CP4'を除く6つの要因については,おおよその測度として,S-scoreを使用してさしつかえないと考えられよう。
  • 佐藤 方彦, 高崎 裕治, 山崎 和彦
    1980 年88 巻2 号 p. 133-140
    発行日: 1980/04/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    安静酸素摂取量の上下臨界温度はヒトの温熱適応能の総合的指標と看倣されており,下臨界気温the lower critical air temperatureについては, ERIKSON et al.(1956)が,環境気温37°Cのときは生体と環境との熱収支は零になること,及び,環境気温の低下に伴う体表からの放熱はNewtonの冷却の法則に従って気温低下に比例して増加するという仮定のもとに,簡便な推定法であるintersect methodを提案して以来,その推定が可能になり,幾つかの結果が発表されている。それらによると白人の下臨界気温はほぼ25°Cと27°Cの間に存在し,日本人の下臨界気温は24°C(YOSHIMURA and YOSHIMURA 1969)或は21.7°C(石井1976)とされている。しかし,上臨界気温the upPer critical air temperatureや上下臨界体温the upPer and lower body temperaturesについては,その概念は広く知られているにも拘らず,推定方法も開発されておらず,従って実際にその温度を決定した研究もないようである。
    本研究は9人の成人男子により,気温20°Cより50°Cに至る環境条件に長時間曝露を行った際の安静酸素摂取量と体温の測定結果にもとついて,酸素摂取量の気温及び体温に対する多項式回帰を求め,酸素摂取量の最小値の信頼上限に対応する気温と体温を,酸素摂取量から各温度への変換式を求めた上で決定して,上下臨界温度を推定する新しい方法を考案し,それを実行した結果を示したものである。その結果,下臨界気温は23.8°C,上臨界気温は45.4°C,上下臨界直腸温は37.9°Cと,35.5°C,上下臨界平均皮膚温は35.9°Cと30.0°Cと決定された。新推定法はthe polynomial equation methodと命名された。
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