東京大学西アジア洪積世人類遺跡調査団は,1967年に,西アジア地方,主としてレバノン国シリア国で,旧石器時代遺跡の発見を目的とした第三次調査をおこなった(Note1).その際に,シリア国,シリア砂漠の北端に位置するパルミラ地方に於て特に組織的調査をおこない,あらたに46遺跡を発見し,約4,500点の石器を採集した(Fig.1).
本稿は,このパルミラ地方で採集された石器群のなかで,当地方のPost-PalaeolithicIndustryに対応すると推定される資料を抽出し(SUZUKI and KOBORI,1970:51,92-101),その石器製作工程を復原したものである.分析標本は石核並びに石器製作の過程で生ずる種々の剥片である(Table1,Figs.2-11).
その結果,石核を製作するための原石の加工から石刃の剥離作業に至る一連の作業を復原することができた(Fig.12).本工程の先史学的位置については,比較標本並びに同種の研究が乏しいために,十分に検討できないが,若干の点で極めて独特である.なかでも,石核の両端からおこなわれる石刃剥離作業がそれぞれ石核正面からみて左方向に偏する傾向を示し(Figs.2,3,13,15),その結果,例えば,Parallel-sidedflake等の特異な剥片が生ずる点である(Fig.8).
分析材料が表面採集品であるがために未解決の問題が多いが,近い将来発掘標本の分析あるいは実験的研究等を通してさらに検討したい.
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