理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター発表
  • 妹尾 祐太, 戸田 晴貴, 井上 優, 津田 陽一郎, 加藤 浩
    セッションID: A-P-35
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】下腿三頭筋 (Triceps Surae,以下TS) は,歩行能力と強い相関があり (Posner, et al., 1995),歩行の推進力に寄与する重要な筋である。TSは腓腹筋内側頭 (Medial head of Gastrocnemius,以下MG),外側頭 (Lateral head of Gastrocnemius,以下LG),ヒラメ筋 (Soleus,以下SOL) からなる。我々の先行研究 (2012) では,自然速度での歩行(以下,自然歩行)において,TS3 筋に対し,周波数パワーと時間因子を同時に解析できるwavelet変換を用いた表面筋電図周波数解析により,運動単位の活動状態について検討した。その結果,Terminal swing (以下TSw) で,SOLのTypeI線維が優位に活動し,荷重直前から足関節を安定させる可能性が示唆された。最大速度での歩行 (以下,最速歩行) は,歩幅や歩行率の変動が少なく,再現性が高いことや (Bohannon RW., 1997),歩行能力を最大限引き出せるため,歩行の評価に適していることが報告されており (村田ら,2004),臨床でも一般的に利用されている。歩行速度が増加すると,各関節のモーメントは増加し,関与する筋活動も変化する (金ら,2001)。しかし,最速歩行でTSが,どのように活動するかは明らかではない。そこで本研究は,wavelet変換を用いた筋電図周波数解析により,最速歩行におけるTS3 筋の周波数パワーの差異を求め,運動単位動員の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】被検者は健常若年男性16 名 (平均年齢25.4 ± 2.0 歳) であった。課題動作は,10mの最速歩行とした。被検筋は左下肢のMG,LG,SOLとし,筋活動の測定には,表面筋電図EMGマスター (小沢医科器械社製) を用いた。解析する周波数帯域は,12.5 〜200Hzとし,低 (12.5 〜60Hz),中 (61 〜120Hz),高周波帯域 (121 〜200Hz) に分類した。1 歩行周期時間を100%とし,階級幅10%ごとの累積パワーを,最大等尺性収縮時の累積パワーで正規化 (以下,%パワー) した。任意の5 歩行周期を抽出し,加算平均した値を代表値とした。統計学的解析は,Shapiro-Wilk検定により正規分布しないことを確認し,各周波数帯域の3 筋間の%パワーの差を階級ごとにSteel-Dwass法にて多重比較を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,被検者に研究の目的と方法を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】%パワーは,歩行周期0 〜10%の低・中周波帯域で,SOLがLGより有意に大きかった。11 〜20%の低・中周波帯域で,MGとSOLがLGより大きかった。21 〜30%の中周波帯域で,MGとSOLがLGより大きかった。41 〜50%の全周波数帯域で,SOLがMGより大きかった。91 〜100%の低周波帯域で,SOLがLGより大きかった。【考察】本研究は,最速歩行におけるTS3 筋の周波数パワーの差異を求め,運動単位動員の特徴を明らかにすることを目的として実施した。低,中,高周波帯成分は各々TypeI,IIa,IIb線維の活動を反映する (永田ら,1982)。本研究の結果から,Initial contact〜Loading responseでは,SOLのTypeI・IIa線維が,Mid stanceでは,MG・SOLのTypeI・IIa線維が,TSwでは,SOLのTypeI線維が優位に活動することが示された。これらは我々の先行研究 (2012) で示した自然歩行における特徴と一致した。TSwでのSOLの活動により,荷重直前から足関節を安定させる可能性が示唆された。運動開始前に,主運動で生じる重心動揺を最小限に抑えるための姿勢調節について諸家により報告されており,先行随伴性姿勢調節 (Anticipatory postural adjustments,以下APA) と呼ばれる。運動速度が速い場合,APAによる筋活動は増加する (Crenna, et al., 1991)。我々の先行研究 (2012) と比較すると,自然歩行より最速歩行での%パワーが高値であり,APAの関与で,より多くSOLの運動単位が動員されることが示唆された。最速歩行のTerminal stance (以下TSt) 後半である歩行周期41 〜50%では,自然歩行で検討した我々の先行研究 (2012)では認めなかったSOLのTypeI・IIa・IIb線維の優位な活動が示された。TStでは,足関節の底屈モーメントが最大となり,TSは遠心性から求心性に収縮し,身体に働く慣性を制御する (Simon SR, et al., 1978)。歩行速度の増加に伴い,足関節モーメントは増加傾向となる (金ら,2001)。速く歩行する場合,TSt後半でのSOLの強い筋活動が重要である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,歩行能力を最大限引き出せる最速歩行で,TStにおけるSOLの活動の重要性を示したことである。歩行速度を増加させるためには,SOLの活動に着目する必要性が示唆された。今後の課題として,速度変化の影響を受ける歩幅や歩行率,歩行中の関節角度とTSの運動単位動員との関連について,検討が必要である。
  • 広瀬 太希, 飯島 弘貴, 伊藤 明良, 長井 桃子, 山口 将希, 太治野 純一, 張 項凱, 井上 大輔, 青山 朋樹, 秋山  治彦, ...
    セッションID: A-P-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】Heat-Shock Proteins 70(以下HSP70)は,細胞質タンパクのフォールディングを行い,ときには異常タンパク質を分解する作用を担うことで,細胞内のホメオスタシス維持に関与するタンパク質のひとつであることが知られている.関節軟骨とHSP70 に関する報告では,変形性関節症所見を示す表層の軟骨細胞でその発現促進が確認されており,軟骨細胞においてはその機械的刺激応答を示す一因子として,同タンパク質が関与することが示唆されている.しかし,関節軟骨にかかるメカニカルストレスとHSP70 の発現局在の関係性については報告が少なく未解明な部分が多い.関節軟骨は,各層により細胞機能が異なる上に,その部位によっても受ける力学的特性が変化する.そのため,細胞の保護作用をもつHSP70 の発現動態を明らかにすることで,関節軟骨が受けるメカニカルストレスの変位と軟骨細胞の機能的役割を関連づけることができると考えた.本研究の目的は,ラットの正常関節軟骨におけるHSP70 の発現局在を解明することである.また,メカニカルストレスが軟骨細胞に及ぼす影響を考察するために,荷重量の変化によるHSP70 発現の動態にどのような関係がみられるか比較検討する.【方法】対象として,6 週齢のWistar系雄性ラットを使用した.実験動物は,自由飼育を実施するControl群(CO群),尾部懸垂Tail Suspension群(TS群),尾部懸垂中に週5 日1 時間の自由飼育を行う体重負荷Weight Bearing群(WB群)の3 群にそれぞれ分けた.介入期間は2 週間とした.飼育終了後に安楽死させ,後肢を採取して4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行い,10%EDTA溶液による組織脱灰後,パラフィン包埋したものを6 μmに薄切した.観察部位は,大腿骨・脛骨の矢状断面とした.免疫組織化学的分析は,抗HSP70 を一次抗体とし,ABC法にて行った.各サンプルの比較は,先行研究での報告に従い,関節軟骨の関節面から表層・中間層・深層の3 層に分け,大腿骨と脛骨の荷重部位・非荷重部位のそれぞれを,光学顕微鏡を用いて観察した.CO群でHSP70 陽性細胞の局在を明らかにしたのち,TS群とWB群でその発現局在の変化を比較した.【倫理的配慮、説明と同意】所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した.【結果】CO群の荷重部位では,脛骨のほぼ全層でHSP70 陽性細胞が観察された.各層で比較すると,深層にいくにつれその染色性は低下していた.大腿骨は中間層で陰性細胞がみられた.非荷重部位では,大腿骨は深層でのみ陽性細胞が観察された.脛骨で著明な差異は認められなかった.TS群の荷重部位では,CO群と比べて大腿骨は表層で,脛骨は中間層で陰性細胞が観察された.非荷重部位では,両骨ともに著明な変化はみられなかった.WB群は,大腿骨の荷重部位で,表層にCO群と同等の陽性細胞が観察された.脛骨はTS群と比べて著明な差異は認められなかった.【考察】本研究結果より,ラットの正常軟骨細胞におけるHSP70 の発現は,脛骨のほうがより多いことが明らかになった.この要因として,関節軟骨に与えるメカニカルストレスが両骨間で異なることが考えられる.これは,軟骨基質のコラーゲン配向性や両骨間の軟骨厚の違いとも関係性があると考える.また,TS群とWB群の結果からは,適度な荷重がHSP70 の発現に必要な刺激であることが示唆される.TS群の荷重部位の大腿骨表層と脛骨中間層で陰性細胞が観察された.このことから,非荷重によって軟骨細胞にかかるメカニカルストレスが減少した結果,HSP70 の発現が抑制されたと考えられ,同部位が正常荷重時にメカニカルストレスを最も受けている箇所であった可能性があると推測される.これは,運動療法による適度なメカニカルストレスが,軟骨基質の変性を防ぐだけではなく,軟骨細胞の保護作用を増強するという点でも必要となることが示唆される.【理学療法学研究としての意義】荷重量の変化が軟骨細胞におけるHSP70 の発現局在にどのような影響を及ぼすか示している研究は少ないが,軟骨細胞が受けるメカニカルストレスと同タンパク質の発現量には関係があると示唆されるため,今後は,非荷重期間の延長や過荷重による発現動態の変化をさらに比較することで,荷重訓練における適正負荷を検討し,運動療法の有効性を裏付けることができると考える.
  • 長井 桃子, 伊藤 明良, 山口 将希, 飯島 弘貴, 太治野 純一, 張 項凱, 井上 大輔, 広瀬 太希, 青山 朋樹, 黒木 裕士
    セッションID: A-P-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】長期間の関節の不動化は関節拘縮につながる。関節拘縮に伴う関節構成体変化の病態理解は理学療法介入の治療根拠を確立するうえで不可欠である。関節を不動化すると軟骨細胞数が変化し、軟骨基質が変化することが明らかにされている。本研究において我々は軟骨基質に存在するヒアルロン酸(以下HA)レセプターであるCD44 の発現に着目し、関節固定後の関節軟骨の変化を実験動物ラットによる膝関節不動モデルを用いて病理組織学的に検討することを目的とした。【方法】対象は8 週齢のWistar系雄ラットを用いた。それらを創外固定で膝関節を固定し拘縮を作成した固定群(n=15)と非介入のコントロール群(n=10)に無作為に分けた。固定群は関節固定期間ごとに1、2、4、8、16 週間の5 グループに分けた。コントロール群は固定群の実験終了時と同週齢まで自由飼育した。固定群の膝関節固定法は瀧田らに倣った方法(理学療法学,2008)にて膝拘縮モデルを作成した。施術方法は、キルシュナー鋼線を大腿骨骨幹中央部および脛骨骨幹中央部にそれぞれ1 本ずつ前額−水平軸にそって貫通させ、歯科用レジンを用いて一定角度(140 ± 5°)でキルシュナー鋼線を接合固定した。固定群は左後肢を固定側とし、右後肢は固定せずキルシュナー鋼線のみの挿入とした。固定が外れている際はただちに開始時と同屈曲角度で固定した。拘縮の完成は膝関節の可動性の低下で確認した。飼育終了後、安楽死させたのち膝関節を採取し4%パラホルムアルデヒドにて48 時間の浸漬固定後、10%EDTA溶液にて脱灰し、矢状面が観察できるように膝関節を切り出し、中和、脱脂操作を経てパラフィン包埋した。6 μmで薄切したのち、H-E染色を行い組織観察、軟骨厚比較を行った。観察部位は内顆中央部矢状面とし、膝関節屈曲固定状態での大腿骨・脛骨の接触面・前方非接触面を評価部位とした。免疫組織化学的分析は、抗CD44 を一次抗体とし、ABC法にて行った。【倫理的配慮、説明と同意】所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】固定術を施した実験群すべての膝関節で拘縮の完成が確認された。コントロール群の全観察部位と実験群の両非接触面において、明らかな軟骨厚の変化は見られなかった。固定群の接触面脛骨部については固定処置後8 週、16 週で軟骨厚が著明に減少していた。コントロール群では、飼育開始から8 週、16 週後には深層におけるCD44 陽性細胞の減少がややみられるものの、観察部位におけるほぼ全層でCD44 陽性細胞が観察された。固定群では、大腿骨・脛骨両接触面で固定処置後8 週、16 週で著明な細胞数の減少とCD44 陽性細胞数の減少がみられた。またCD44 陽性細胞の減少は両骨とも、特に軟骨深層の下骨に近い部位で観察された。軟骨細胞数・CD44 陽性細胞数の割合は不動期間の長期化に伴い減少傾向であり、その傾向は特に大腿骨・脛骨接触面において強くみられた。【考察】CD44 へ結合しているHAは軟骨細胞表面へプロテオグリカン会合体を結合する働きを持ち、その作用は軟骨代謝や恒常性の維持に関与しているといわれている。本研究でみられた不動期間の延長に伴うCD44 陽性細胞割合の減少は、CD44 とHAの結合破綻の可能性を示唆している。またその傾向は軟骨下骨に近い深層で観察されたことから、軟骨同士が接触する表層よりも、下骨に近い細胞における軟骨代謝が影響を受けやすい可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究でみられた、関節の不動化を行った軟骨でみられた細胞数の低下とCD44 陽性細胞の割合の低下は、関節拘縮下における軟骨の病態理解につながると考えられる。また、今後さらに軟骨変化のメカニズムの解明を進めることは、拘縮関節軟骨に対する理学療法介入の根拠につながると考える。
  • 山口 将希, 伊藤 明良, 長井 桃子, 張 項凱, 飯島 弘貴, 太治野 純一, 青山 朋樹, 秋山 治彦, 広瀬 太希, 井上 大輔, ...
    セッションID: A-P-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性関節症(OA)は、加齢や遺伝的要因、外傷、メカニカルストレスなど様々な要因によって発症する疾患であることが知られている。関節軟骨に慢性的な過荷重などの過剰なメカニカルストレスが加わることにより炎症性のサイトカインの上昇や炎症に関連するNF-κBのシグナル経路が活性化し、その下流にある分子のMMP13 やVEGF が関節軟骨の破壊を招くことが近年報告されている。寒冷刺激は炎症抑制効果のある物理刺激として、炎症性疾患やスポーツ外傷などの急性期、あるいは運動後の関節等に対して用いられている。関節軟骨に対する寒冷刺激の効果、とくに膝OA の関節軟骨に対する効果はほとんど報告されていない。これまでに損傷した神経や肺疾患において寒冷刺激をするとNF-κBを抑制する効果があることが報告されていることから、関節軟骨においても寒冷刺激によってNF-κBを抑制し、その結果、OA進行を遅らせる効果があると考えられる。そこで本研究はOAモデルラットに対して寒冷刺激を行い、その影響を組織学的に評価することを目的としている。【方法】対象は9 週齢のWistar 系雄ラット2 匹、平均体重229.5gを対象とし、両後肢に対してネンブタール腹腔内麻酔下にて前十字靭帯、内側側副靭帯、内側半月板の切離を行い、OA モデルとした。それぞれのラットに対し、術後一週後より、右後肢に対してのみ寒冷刺激を加えた。寒冷の刺激条件は0 〜1.5℃、10 分間/日、3 回/週の条件で冷水槽にて吸口麻酔下で寒冷刺激を加えた。術後3 週飼育、寒冷刺激9 回の後、ラットをネンブタール腹腔内麻酔致死量投与により安楽死させ、両側後肢膝関節を摘出し、4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行なった。固定後、PBSにて置換した後、EDTA 中性脱灰処理した。脱灰後、パラフィン包埋処置を行い、包埋したサンプルをミクロトームにて6㎛切片に薄切した。組織観察は薄切した切片をトルイジンブルーおよびHE 染色にて染色し、OARSI (Osteoarthritis Research Society International)のGrade、Stage およびScoreを用いて光学顕微鏡下で膝関節軟骨の組織評価を行った。正常ではOARSIのGrade、Stage、Scoreはいずれも0 となる。加えてII型コラーゲン免疫組織化学染色(col2 免疫染色)にて形態観察を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】寒冷側はGrade; 4.8 ± 0.30、Stage; 4 ± 0.0、Score; 19 ± 1.0 となり、組織画像上では大腿骨内側部に中間層にまで軟骨の欠損が見られた。非寒冷側ではGrade; 3.5 ± 1.00、Stage; 4 ± 0.0、Score; 14 ± 4.0 となり、組織画像において軟骨表面の連続性が消失した個体と中間層までの軟骨が欠損した個体が見られた。非寒冷側に比べて寒冷側ではOAの悪化が見られた。しかしcol2 免疫染色画像での形態観察では、非寒冷群に比べて寒冷群において強いcol2 染色の発現が見られた。【考察】術後1 週後という、手術侵襲による炎症症状が治まった後の寒冷刺激は、むしろ軟骨損傷の進行を招く恐れがあることが示唆された。しかし本結果は関節軟骨の主要な構成成分であるll型コラーゲンの破壊は抑制されることを示していた。つまり寒冷刺激により助長された軟骨損傷の進行は、ll型コラーゲンの破壊以外の要因によるものであると考えられる。【理学療法学研究としての意義】炎症抑制効果のある寒冷による物理刺激でも、変形性関節症の関節軟骨に対しては必ずしも良好な効果をもたらすわけではないことが示唆された。今回はOAに対する寒冷刺激単独の効果を検証したが、今後、運動刺激との併用により炎症症状が強まった状態やより急性期の関節軟骨においてはどのように影響するか調べることが必要だと考える。
  • 小澤 淳也, 金口 瑛典, 木藤 伸宏, 田中 亮, 森山 英樹
    セッションID: A-P-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は、第47 回本学術集会にて、ラットに対し低強度走行運動を行うことで、関節軟骨の主要タンパクであるⅡ型コラーゲンの代謝が走行6 週で同化に傾くこと、さらに腓腹筋へのA型ボツリヌス毒素 (BTX) 投与により足関節底屈筋力が低下した状態では、Ⅱ型コラーゲンは走行1 週で一過性に同化に傾くものの、その後は消失したことを報告した。しかし、その研究では血清軟骨代謝マーカーを指標としたため、軟骨代謝の変化が生じた関節部位を同定することが出来なかった。本研究では、「走行や足関節筋力低下状態での走行による軟骨代謝の変化は膝関節で生じる」との仮説を立て、膝関節軟骨の組織学的ならびに形態定量学的解析による検証を行なった。さらに、BTX投与後のラットの歩行動作解析を行うことで、歩容の異常と膝関節軟骨の形態学的変化との関連を運動学的な観点より検討することを目的とした。【方法】14 週齢雄性ウィスターラットを使用した。ラットを対照群、走行群、BTX+走行群の3 群 (各5 匹) に分けた。走行群とBTX+走行群には、5° の上り傾斜、12 m/minで合計60分のトレッドミル走行を5日/週行った。BTX+走行群には、走行開始3 日前に0.2 U/kg体重のBTXを右腓腹筋に注射して足関節底屈筋力を低下させた。対照群は自由飼育とした。6 週間後にラットを屠殺し、腓腹筋の筋湿重量を測定した。膝関節を採取し、固定、脱灰後、パラフィン切片を作製した。サフラニンO染色後、脛骨外側プラトーの軟骨厚を計測した。ラットの歩行動作解析には、三次元動作解析装置キネマトレーサーを用いた。BTX+走行群の注射前および注射後1、3、6 週のラットの両後肢の膝関節裂隙、外果、第5 中足骨頭にマーカーを添付し、トレッドミル上を走行する動作を記録し、歩行時の足関節可動域の変化を算出した。得られたデータは一元配置分散分析もしくはクラスカルワーリス検定およびその後の多重比較を行なった。統計学的有意判定の基準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、広島国際大学動物実験委員会の承認を得て行った (承認番号AE12-015)。【結果】右腓腹筋湿重量/体重比 (mg/g) は、対照群で4.9 ± 0.3 に対し、走行群で4.9 ± 0.3 とほぼ同様 (99%) であった。一方、BTX+走行群では2.2 ± 0.2 (45%) と対照群に比べ有意な筋萎縮を認めた。BTX+走行群の歩行立脚期における足関節最大背屈角度は、BTX注射前が右側 (投与側) vs 左側 (非投与側) で37 ± 4° vs 33 ± 11°(右 /左 = 110%) に対し、注射後1、3、6 週ではそれぞれ51 ± 8° vs 29 ± 4°(175%、 P < 0.05)、47 ± 7° vs 33 ± 11°(168%、 P < 0.05)、35 ± 9° vs 24 ± 11°(142%、 P = 0.20) といずれもBTX投与側で増加もしくは増加傾向がみられた。組織学的観察では、対照群と同様、走行群で軟骨基質にプロテオグリカンを豊富に含むことを示す高い染色性が認められた一方、5 標本中3 標本で嚢胞が観察された。BTX+走行群では、両膝ともに重篤な損傷は観察されなかったが、一部に基質染色性低下、軟骨表面の不連続性やタイドマークの消失が観察された。軟骨厚は対照群では320 ± 57 μmに対し、走行群では329 ± 53 μm(103%) と両群間に差は認められなかった。一方、BTX+走行群では、BTX投与側で247 ± 20 μm (77%)、BTX非投与側で283 ± 48 μm (88%) と、共に対照群と比べ有意な減少を示した。【考察】BTX+走行群の立脚期の足関節最大背屈可動域が、BTX投与側で非投与側より増加した原因として、荷重時の脛骨の前方モーメントにより生じる足関節背屈を底屈筋で抑制することが出来なかったためと考えられた。膝関節軟骨厚は、走行群では維持されていた一方、BTX+走行群では、両側の膝関節軟骨に菲薄化がみられた。BTX投与側では、足関節の床反力に対する衝撃緩衝機能が足関節筋力低下により消失し、膝関節へのメカニカルストレスが増大した結果、軟骨代謝を異化に導いたと考えられた。さらに、BTX非投与側では、歩行時の荷重量が代償的に増加し過負荷となったため、軟骨代謝が異化に傾いたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動は膝関節軟骨代謝を維持・促進させる一方、下肢筋力が低下した者の歩行や走行は条件によっては悪影響を与える可能性がある。本研究は、膝関節疾患の運動療法の禁忌や適応を判断するうえで有用なデータとなる。
  • 大野 元気, 国分 貴徳, 金村 尚彦, 西川 裕一, 上原 美南海, 高柳 清美
    セッションID: A-P-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝前十字靱帯(以下,ACL)は,損傷頻度が高い靱帯であり,手術療法が第一に選択されている.我々が行った研究では,ラットACL損傷モデルを作製し,蛋白質分解酵素Matrix Metalloproteinase-13(以下,MMP-13)とその阻害酵素Tissue Inhibitor of Metalloproteinase(以下,TIMP-1)のmRNAの発現量を検討した結果,急性期においてmRNA発現量が増加することを報告した.先行研究では,炎症性サイトカインInterleukin-1 β(以下,IL-1 β) は、MMP-13mRNAの発現を誘発し,また靱帯のリモデリング期においてα-smooth muscle actin(以下,α-SMA)mRNA発現量が増加することが報告されている.しかし急性期におけるα-SMAやIL-1 βのmRNAの発現は明らかにされていない.本研究では,ラットACL損傷後急性期における靱帯のリモデリングに関連する因子の動態を明らかにすることを目的とした.【方法】Wistar系雄性ラット24 匹(8 週齢,ACL損傷群12 匹,sham群12 匹)を対象とした.損傷後1 日群,3 日群,5 日群とランダムに分けた.すべてのラットにおいて,餌や給水は自由に摂取させた.損傷群は,膝蓋腱内側縁部の関節包を切開し,マイクロ剪刀を関節内に侵入しACLを切断し,関節包を縫合した.その後,歯科用ドリルを使用して脛骨に骨孔を作製し,骨孔と大腿骨遠位部顆部後面にナイロン糸を通し,大腿骨に対する脛骨前方引き出しを制動するモデルを作成した.各実験期間終了後,各群のラットに対し深麻酔をかけ,ACLを採取した.採取したACLからtotal RNAの抽出を行い,逆転写反応により作成したcDNAを鋳型とし,最後にリモデリング関連因子mRNAプライマーを用い,リアルタイムPCR法にてmRNA 発現量を検討した.プライマーは,MMP,TIMP,IL-1 β,α-SMAを使用した.各mRNA発現量はbeta actin mRNAで正規化し,比較Ct法による比較を行った.損傷群,sham群についてmRNA発現量を比較するために,一元配置分散分析と多重比較検定Turkey法を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った.【結果】TIMP-1 はsham群と比較し損傷群において有意に高い発現量を示した(p<0.01).また,損傷後5 日群と比較して,損傷後1 日群で有意に高い発現量を示した(p=0.019).α-SMA,MMP,IL-1 βにおいては全ての群において発現量に有意な差を認めなかった.【考察】本研究では,ACL損傷後急性期のラットACLにおけるリモデリング関連因子のmRNA発現量を検討した.MMP-13 は,細胞外マトリックスの分解をはじめ,細胞表面の蛋白質分解に関与することが報告されている.Blteauらは,ウサギACL切断によるOAモデルを用いてMMP-1,3,13 のmRNAの発現を9 週間経時的に追った結果,MMP-13 は損傷後2 週経過時に発現のピークを迎え,その後減少していくことを報告した.MMPの阻害酵素であるTIMP-1 は,MMPの分解活性を特異的に抑制することが知られている.今回ACL損傷後急性期におけるMMP-13 とTIMP-1 のmRNA発現量を検討した結果,TIMP-1 においては,sham群と比較して損傷群においてmRNA発現量が有意に高値を示したが,MMP-13 においてはsham群,損傷群に有意な差は認められなかった.また,TIMP-1 においては,損傷後5 日群と比較し1 日群において有意に高値を示した. Xie Jらは,ヒトACLと内側側副靱帯を用いて、損傷・非損傷靱帯におけるIL-1 βとMMP,タンパク質リシン-6-オキシダーゼのmRNA発現量を検討したところ,ACL損傷群においてMMP-1,2,3,12 が有意に発現し,IL-1 βがMMPの発現を誘発していることを報告した.本研究の結果では,IL-1 βの発現量においては,sham群,損傷群に有意な差は認められず,IL-1 βがMMP-13 の発現を誘発している可能性が低いことが示唆された.さらにα-SMAは収縮性の筋線維芽細胞であり,損傷を受けた細胞外マトリックスの治癒過程において重要な役割を果たすことで知られている.Weiler らは,ヒツジのACL損傷モデルを作製し,α-SMAの組織学的検討を行ったところ,損傷後6 週経過時点においてα-SMA が有意に発現し,損傷後24 週から104 週にかけてα-SMAの密度や配列が非損傷靱帯に近づいていくことを報告した.本研究では,α-SMAのmRNA発現量に有意な差は認められず,先行研究が示すように,急性期以降の組織の修復過程に関わっていることが示唆された.今後は,関節制動を行わない群を作製することにより,関節制動が損傷靱帯に及ぼす影響を明らかにすることや,長期的に経過を追うことにより,リモデリング関連因子の動態を明らかにする必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】損傷靱帯のリモデリングに関連する因子のmRNA発現量に着目し,研究を行った.損傷靱帯のリモデリングに関連する因子の動態を明らかにすることにより,ACL損傷における保存療法の基礎的研究における根拠を明らかにすることができる可能性がある.
  • 大賀 智史, 片岡 英樹, 関野 有紀, 濵上 陽平, 中願寺 風香, 坂本 淳哉, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: A-P-37
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床において創外固定・ギプス固定などにより長期の不動期間を経た患者に対して理学療法を実施する際,触刺激のみならず,筋に圧刺激を加えると,それが軽度であっても痛みを訴えられることをしばしば経験する.しかし,そのような不動により惹起される筋痛または深部痛について検討した報告は見当たらず,病態の詳細は不明であり,どのような時期に発生するのかもわかっていない.一方,近年の研究によれば遅発性筋痛の病態として神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)の関わりが注目されており,小動物を用いた基礎研究によれば遠心性収縮により惹起された遅発性筋痛モデルラットの腓腹筋においてNGFの発現が増加していること,またNGFを筋内に投与すると筋圧痛覚閾値の低下を引き起こすことが報告されている.NGFは元来,神経線維の成長や発芽を促し,また神経細胞の機能維持に働くサイトカインであるが,痛みの内因性メディエーターとしても作用することが知られており,前記したような不動により惹起された筋痛に関わっている可能性がある.そこで本研究では,足関節不動モデルラットにおける腓腹筋の圧痛覚閾値の推移とNGFの発現について検討した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット11 匹を用い,4 週間通常飼育する対照群(n=5)と右側足関節を最大底屈位にて4 週間ギプス固定する不動群(n=6 )に振り分けた.実験期間中,痛覚過敏の指標としてvon Frey filament testを実施し,足底部にfilamentで刺激(4,8,15g;各10 回)を加えた際の逃避反応回数をカウントした.また,腓腹筋の筋圧痛の指標として,圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を測定し,5 回の測定を行った結果から最大値と最小値を除外した3 回の測定値の平均値を圧痛覚閾値として採用した.すべての測定とも週1 回の頻度で経時的に行い,測定は覚醒下でギプスを除去した状態で行った.実験終了後,ラットをペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)で麻酔した後に腓腹筋を摘出し,Western blot法によるNGF発現量の測定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】不動を開始して1週目から,不動群において4g,8g,15gのvon Frey filament刺激に対する逃避反応回数は増加した.また,不動を開始して2 週目より不動群において腓腹筋の圧痛覚閾値は低下した.von Frey filament testでは不動1 週目より,腓腹筋の圧痛覚閾値は不動2 週目より不動群と対照群の間に有意差を認めた.そして,これらの症状は不動期間に準拠して顕著となった.また,NGF発現量は対照群と比較して不動群において有意な増加を認めた.【考察】今回の結果から,足関節の不動により足底部の機械的刺激に対するアロディニア・痛覚過敏が観察された.この症状について我々は同じモデルラットを用いたいくつかの先行研究を報告しており,具体的には不動によって足底皮膚の菲薄化や末梢神経密度の増加,表皮におけるNGF発現量の増加といった末梢組織の変化が生じ,これらがアロディニア・痛覚過敏の発生に関与することを示してきた.また,今回は腓腹筋においても圧痛覚閾値の低下を不動2 週目から認めたことから,不動に由来する痛覚過敏は皮膚のみならず骨格筋においても生じることが明らかとなり,そのメカニズムにはNGF発現量の増加が関わっている可能性が示された.今後さらに検討を進め,長期の不動期間を経た患者で見られる筋痛・深部痛の病態を明らかにしていきたい.【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動により骨格筋の圧痛覚閾値の低下が惹起され,そのメカニズムにはNGFの発現が一端を担っている可能性を提示した.われわれ理学療法士は骨格筋を含む末梢組織に対して直接介入可能であることから,本研究の発展は不動に伴う筋痛・深部痛に対する理学療法的な介入方法の開発につながると期待でき,理学療法学研究として十分意義があると考える.
  • 柳澤 卓也, 小野瀬 慎二, 林 和寛, 藤原 光宏, 井上 貴行, 福安 紗織, 坂野 裕洋, 岩田 全広, 鈴木 重行
    セッションID: A-P-37
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】身体の不動状態は疼痛を惹起することが指摘されている。ラットを用いた先行研究では、足底の皮膚への触刺激および痛み刺激による逃避反応回数は後肢を4 週間ギプス固定すると固定2 週後から固定期間に伴って増加したことが報告されている。一方、固定によって惹起された疼痛に対するストレッチングの効果として、固定開始日からストレッチングを行うことにより、固定4 週間後には足底の皮膚への触刺激による逃避反応閾値の低下が抑制されたと報告している。しかし、固定によってすでに疼痛が惹起された状態で、かつ固定が継続される中でストレッチングを行った際の疼痛に対する効果は明らかではなく、本研究では行動学評価を用いて検証した。【方法】Wistar系雄性ラットを用い、両足関節を最大底屈位にてギプス固定した。実験群は4 週間ギプス固定する群(Im群、n=6)、4週間の固定期間中の後半2週間にストレッチングを行う群(St群、n=6)の2群とした。ストレッチングは麻酔下にて、自作した他動運動装置を用いて40°の可動範囲で足関節最大背屈位まで行い、30 分/日、6 日/週、固定2 週後から2 週間実施した。ギプスの巻き直しはすべてのラットで固定2 週後までは週1 回、以後は週6 回の頻度で行った。評価指標は足関節最大背屈角度、腓腹筋に対する筋圧痛閾値、足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値とした。足関節最大背屈角度は麻酔下にて、足部を徒手的に背屈して測定した。腓腹筋に対する筋圧痛閾値はRandall-Selitto装置を用い、先端径2.6 mmのプローベを右腓腹筋外側の筋腹に当て、漸増的に圧迫し、逃避反応が出現した際の圧力を記録した。足底および下腿の皮膚への触刺激による逃避反応閾値は、先端径0.5 mmのvon Frey hairフィラメントを用いて、足底については足底中央部、下腿は右腓腹筋外側の筋腹皮膚にフィラメントを押し当てて、up down法により測定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学医学部動物実験委員会保健学部会の承認を得て実施した。【結果】足関節最大背屈角度は両群ともに固定期間に伴って低下し、Im群は固定7 日後、15 日から28 日後において、St群は固定7 日、17 日後において有意差を認めた。また、St群はIm群と比較して固定21、24、28 日後において有意に高値を示した。腓腹筋に対する筋圧痛閾値は両群ともに固定14 日後までは低下し、以後は低下したまま推移して、両群ともに固定7 日後以後有意差を認めた。また、St群はIm群と比較して固定15、24、28 日後で有意に高値を示した。足底の皮膚への触刺激による逃避反応閾値は、固定14 日後までは低下し、以後は低下したまま推移して、Im群は固定14 日後から28 日後まで、St 群は固定15 日後のみ有意差を認めた。しかし、群間で有意差は認めなかった。下腿の皮膚への触刺激による逃避反応閾値は固定14 日後までは低下し、以後は低下したまま推移したが、両群ともに有意差は認めなかった。また、群間での有意差も認めなかった。【考察】ストレッチングは、固定によって惹起された足関節の拘縮を抑制し、骨格筋の疼痛を軽減したが、皮膚の疼痛には軽減効果がなかった。足関節の拘縮が抑制されたことから、ストレッチングは十分な刺激量であったことが推測される。また、骨格筋における疼痛は軽減され、皮膚における疼痛は軽減されなかったことから、ストレッチングはギプス固定によって生じる中枢神経系や骨格筋、皮膚における変化の中で、骨格筋の疼痛に関与する変化には影響を及ぼし、皮膚の疼痛に関与する変化には影響を及ぼさなかったと考えられる。また、皮膚の疼痛が軽減されなかったことは、固定開始日からストレッチングを行い、足底の皮膚への触刺激による逃避反応閾値の低下を抑制したことを示した先行研究の報告と異なっていた。これについては、介入時期の違いが影響を及ぼした可能性も考えられる。また、足底の皮膚への触刺激による逃避反応閾値は固定14 日後以後低下しなかったことは先行研究の報告と異なっていた。この要因として、本研究は固定期間の後半2 週間において、ギプスの巻き直しを頻回行っていたことが考えられ、これによってストレッチング効果が確認できなかった可能性も考えられる。したがって、今後は実験条件をさらに検討した上で、ストレッチング効果について検証していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】疼痛を訴える患者の中には身体の不動が疼痛を遷延化させる一因になっていることを窺わせる者が存在する。これらの病態ならびに介入方策については未だ十分なエビデンスが確立されていない。ゆえに、理学療法学の視点から、これらの病態の解明や有効な介入方策の検討を行うことが必要であり、本研究はその一助となると考える。
  • 小野瀬 慎二, 柳澤 卓也, 林 和寛, 藤原 光宏, 井上 貴行, 福安 紗織, 坂野 裕洋, 岩田 全広, 鈴木 重行
    セッションID: A-P-37
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ギプスによる関節固定は患部の安静や治癒目的に行われるが、その弊害として疼痛の発生が報告されている。これまでに我々は、ラットの両側足関節を4 週間ギプス固定すると、腓腹筋および足底において機械的刺激に対する逃避反応が亢進し、固定除去後にさらに亢進することを確認している。また、ストレッチングにより逃避反応の亢進は抑制され、壊死線維数も低値を示した。しかし、先行研究で2 週間のギプス固定によっても腓腹筋、足底に疼痛が惹起されることが確認されているが、ストレッチングの効果は明らかではなく、筋線維損傷の関与についても検証の余地がある。よって、本研究はラット後肢を2 週間ギプス固定した後に生じる疼痛にストレッチングが及ぼす効果を検証することを目的とした。【方法】モデルはWistar系雄性ラットを用い、両側足関節を最大底屈位にて2 週間ギプスで固定することで作製した。実験群はギプス固定除去後に2 週間通常飼育を行う群(通常飼育群、n=6)と、通常飼育に加えて2 週間ストレッチングを行う群(ストレッチ群、n=6)の2 群とした。ストレッチングは自作した他動運動装置を用いて40°の可動範囲で足関節最大背屈位まで行い、30分/日、6日/週、固定除去直後から実施した。評価指標は足関節最大背屈角度の測定、腓腹筋に対する筋圧痛閾値、足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値とした。足関節最大背屈角度は徒手で股・膝関節を90°屈曲位に固定し、足部を他動的に背屈することで測定した。腓腹筋に対する筋圧痛閾値はRandall-Selitto装置(Ugo Basile、Italy)を用いて測定した。具体的には、先端径2.6 mmのプローベを右腓腹筋外側の筋腹に当て漸増的に圧迫し、逃避反応が出現した際の圧力を記録した。足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値は、先端径0.5 mmのvon Frey hairフィラメントを足底中央部、もしくは右腓腹筋外側の筋腹に押し当ててup down法により測定した。また、実験期間終了後に腓腹筋外側頭を採取し、凍結横断切片を作製後、HE染色に供し、損傷した筋線維数を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学医学部動物実験委員会保健学部会の承認を得て実施した。【結果】足関節最大背屈角度、腓腹筋に対する筋圧痛閾値ならびに足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値は固定期間に伴い両群ともに低下した。固定除去以降では、両群ともに足関節最大背屈角度、腓腹筋に対する筋圧痛閾値ならび足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値が経過とともに上昇する傾向を示した。一方、ストレッチ群は足関節最大背屈角度が通常飼育群に比べ固定除去以降に高値を示したが、腓腹筋に対する筋圧痛閾値ならび足底および下腿皮膚への触刺激による逃避反応閾値は群間に有意な差を認めなかった。また、腓腹筋外側頭の組織学的所見では固定除去14 日後において両群ともに著明な筋損傷像を認めなかった。【考察】本研究では固定除去後において、ストレッチ群では足関節最大背屈角度の改善が促進される傾向を示したが、腓腹筋に対する筋圧痛閾値、足底および下腿皮膚への逃避反応閾値、組織学的所見には群間での差を認めなかった。これまでに我々は4 週間のギプス固定後に同様のストレッチングを行い、腓腹筋および足底における逃避反応の亢進が抑制されることを確認しているが、本研究の結果は異なる傾向を示した。先行研究において、ギプス固定により惹起される足底における逃避反応の亢進は固定期間が延長するのに伴い増強することが報告されていることから、2 週間のギプス固定では4 週間固定した場合と比べて疼痛が軽度であったと考えられる。また、組織学的所見において本研究では通常飼育群においても筋損傷像を認めなかったが、4 週間のギプス固定では壊死線維が散見されている。これらから、短期間の固定では疼痛ならびに筋損傷の程度が軽度であり、ストレッチングの効果が生じにくい状態にあったことが推測される。しかし、本研究では固定除去後の下腿骨格筋における組織学的な経過を詳細に確認できておらず、今後さらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】ギプス固定後に疼痛が生じることが報告されているが、その病態は未だ明らかではなく、介入方策についての検討が必要である。本研究の結果は、固定期間の違いによりギプス固定後の疼痛に対するストレッチングの効果が異なることを示しており、病態にあった適切な介入方策を検討していくための知見となるものと考える。
  • 松沢 匠, 谷口 誠基, 飯田 圭紀, 出口 早希, 川原 有紀子, 渡邊 晶規, 肥田 朋子
    セッションID: A-P-37
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床では組織損傷がないにもかかわらず痛みが持続する慢性痛患者に対して理学療法を行うことは少なくない.このような慢性痛は,ギプスや装具での固定,麻痺などによって不動化されることで末梢からの刺激入力が減少することが影響していることが示唆されている.さまざまな不動化に対する研究がなされている中,我々の研究室では,ラット足関節の不動化前のトレッドミル走では,皮膚痛覚閾値,筋圧痛閾値の結果から皮膚・筋ともに痛覚閾値の低下を抑制する効果が得られたことを報告している.一方,不動期間中にトレッドミル走を行い皮膚痛覚閾値を調べた結果,むしろ痛覚過敏を助長してしまった.これらはトレッドミル走のような強制運動による理学療法効果であるが、非強制的な自動運動を用いた報告はされていない。また,Nishigamiらは手関節不動化ラットの後根神経節(以下,DRG)において,神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(以下CGRP)の中型細胞(Aδ線維と考えられる)が増加したことが慢性痛発生に影響している可能性を報告している.よって我々は,不動期間中の自由運動が不動化によって生じる痛覚過敏に及ぼす影響とCGRP含有細胞との関係性について検討した.【方法】8 週齢のWistar系雄ラット13 匹(開始時体重;約225g)を無作為に両後肢の足関節にギプス固定を行うG群とギプス固定を行わないコントロール群(以下C群,7 匹右7 肢;n=7)に振り分けた.G群はさらに自由運動を行う両足固定群(以下F-G群,3 匹6 肢;n=6)と自由運動を行わない両足固定群(以下N-G群,3 匹6 肢;n=6)に振り分けた.F-G群,N-G群は足関節最大底屈位で足趾基部から膝関節まで非伸縮性テープを巻き,その上にギプスを巻いて固定した.自由運動を行うF-G群は15 分間の自由運動時間を設け,自由運動させた.自由運動実施期間はギプス固定期間中,週5 日間とし,F-G群・N-G群の固定期間は4 週間とした.飼育期間中の週5 日,ギプス固定を一時的に除去し,体幹をつるした状態で足底部に自作のvon Frey filament(VFH)刺激を行い,逃避反応から皮膚痛覚閾値を測定した.また,圧刺激鎮痛効果測定装置を用いて下腿内側部の筋圧痛閾値を測定した.得られたデータは,各肢で1 週間ごとに平均し,その値を各期間の代表値とした.飼育終了後,イソフルラン麻酔下で灌流固定し,L4-6 のDRGを取り出し,CGRPの免疫染色を行った.顕微鏡から得られた神経細胞画像はパーソナルコンピューターに取り込み,直径を算出し,直径600 μm以下の小型,600 〜1200 μmの中型,1200 μm以上の大型に分類し,全細胞数に対するCGRP含有細胞比率を算出した.皮膚痛覚閾値と筋圧痛閾値の各群間比較には対応のないt検定を用いた.CGRP含有細胞比率の各群間における統計処理には一元配置分散分析を用い,その後Tukey法を用いて多重比較検定を行った.全ての統計手法の有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,本学の動物実験委員会の承認を受けて行った.【結果】皮膚痛覚閾値は,4 週目ではN-G群21.67 ± 4.55g,C群26.18 ± 2.23g,F-G群25.58 ± 2.69gとなり, F-G群に比べてN-G群は低下傾向を示した(p=0.05).筋圧痛閾値は,4 週目ではN-G群132.93 ± 15.78g,C群256.78 ± 10.31g,F-G群150.54 ± 10.57gとなり,F-G群に比べてN-G群が有意に低値を示した(p<0.05).CGRP含有細胞比率は,N-G群は小型が7.20 ± 4.20%,中型が3.26 ± 1.16%,大型が0.50±0.38%であった.C 群のそれは順に4.91±1.79%,2.15±1.91%,1.14±0.69%であり,F-G 群のそれは順に1.68±0.72%,1.22 ± 0.23%,0.47 ± 0.44%であった。C群に比べてN-G群では小型細胞・中型細胞において増加傾向を示し,N-G群に比べF-G群では小型細胞において有意に低値を示した(p<0.05).【考察】皮膚痛覚閾値・筋圧痛閾値は不動化により低下し,CGRPは小型・中型細胞で増加した.これは,手関節を不動化することでCGRPが中型細胞で増加し,痛覚閾値の低下に関与するという先行研究の報告と類似した結果であった.我々の研究室の先行研究では,不動化中のラットにトレッドミル運動を行わせたところ疼痛閾値が低下し,CGRP含有細胞が増加傾向を示したが,本研究では自由運動を行わせたことで疼痛閾値の低下は緩和され,CGRP含有細胞率は有意に減少した.本研究により,自由運動を行うことで疼痛発生がある程度抑制されることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究からも,不動化によって疼痛が発生することが確認できたが,発生する疼痛は運動させることで緩和され,その強度は疼痛自制内で行える自由運動が効果的であることが示唆された.
  • 菊池 春菜, 松田 史代, 榊間 春利, 生友 聖子, 甲斐 千尋, 米 和徳, 吉田 義弘
    セッションID: A-P-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年高齢化社会に向けて認知症予防や認知症の進行を遅らせるために、運動療法が効果的であると言われているが、科学的なデータは不十分である。認知症の症状も幅広く、様々な症状を有するので認知症の研究は困難を極めているのが現状である。今回、認知症の中でも特に発症率が高く治療法や予防法が確立していないアルツハイマー病に着目し、アルツハイマー病の直接的な因子ではないが、晩発性家族性アルツハイマー病で保有率が高く、遺伝的危険因子のひとつであるApolipoproteinを組み込んだマウスを用いて、行動学的評価や海馬の神経細胞数に着目し、研究を行ったので報告する。【方法】実験動物として、アルツハイマー病の強力な遺伝的危険因子であるApolipoproteinE4 を保有しているAPP/E4 マウスとコントロールとしてAPP/E3 マウスを使用した。まず、APP/E4 マウス7 匹とAPP/E3 マウス9 匹の行動学的評価を行うために、SMARTビデオ行動解析システム(バイオリサーチセンター製)を使用し、50cm× 60cmのケージに一定時間慣らした後、2 時間ビデオで撮影し、2 時間の総移動距離、静止時間、平均速度(静止時間抜き)の3 項目について分析した。次に、組織学的変化を検討するために、60 週齢のAPP/E4(E4 正常マウス)8 匹・APP/E3 マウス(E3 正常マウス)5 匹、12週齢時に片側の総頸動脈を結紮し脳血流量を意図的に低下させ60 週齢まで通常飼育したAPP/E4(E4 閉塞マウス)11 匹・APP/E3 マウス(E3 閉塞マウス)6 匹の計30 匹、4 群の脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド燐酸緩衝液(ph7.4)で一晩浸漬固定した後、パラフィン包埋を行い、厚さ4 μmの連続冠状断切片を作製した。ブレグマから尾側約2mmの切片をNissle染色し、海馬CA1・CA2・CA3 領域(各50 × 285 μm)の神経細胞数を計測した。統計学的検定には、行動学的評価はF検定後対応のないT検定を行い、また神経細胞数は一元配置分散分析を行い、その後多重比較検定を実施した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】行動学的評価の結果、2 時間の総移動距離、静止時間、平均速度(静止時間抜き)の3 項目全てにおいてAPP/E4 マウスとAPP/E3 マウスの2 群間に有意な差はみられなかった。しかし、2 時間の総移動距離がAPP/E4 マウスは384.7 ± 118m、APP/E3 マウスが352.1 ± 131mとAPP/E4 マウスが多く動く傾向にあった。一方、静止時間はAPP/E4 マウスが67.6 ± 19.2 分、APP/E3 マウスが63.5 ± 11.3 分であり、また、平均速度はAPP/E4 マウスが9.0 ± 0.6cm/sec、APP/E3 マウスが9.1 ± 2.5 cm/secと、APP/E4 マウスの方が静止している時間が長く、また移動速度も遅い傾向にあった。海馬の神経細胞数は、CA1・CA2・CA3全ての領域においてE4閉塞マウスが他3群と比較し、有意に神経細胞数が減少していた。E4正常マウスは、E3 正常マウス・E3 閉塞マウスと比較し、海馬全領域で神経細胞数が減少傾向にあったが、有意差はみられなかった。【考察】今回の結果より、行動学的評価では、ApolipoproteinE4 を保有するだけでは、有意な異常行動や活動に差はみられなかった。しかし、APP/E4 マウスでは静止時間が長い傾向や平均速度が遅い傾向があり、今後もっと高齢のマウスや脳血流量を低下させたモデルでは何かしらの特異的な症状が出る可能性が示唆された。また、海馬の神経細胞は、ApolipoproteinE4 を保有することでE3 蛋白保有マウスと比較し神経細胞数が減少する傾向にあり、かつ脳血流量を低下させると有意に神経細胞脱落が生じることがわかった。このことは、脳血流量低下がアルツハイマー病のトリガーになっている可能性は先行研究でも言われており、今回の結果はこれを裏付ける結果となった。今回は、匹数も少なくTau蛋白やアミロイドβ蛋白の蓄積等、アルツハイマー病の特異的な病理学的変化については検討していないため、今後これらの蛋白含有率についても検討していきたい。また、両マウスに運動介入を行うことで、アルツハイマー病と運動介入効果についても検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】認知症患者さんへの運動介入効果は、ヒトを用いた臨床研究でも一定の効果が言われている。しかし、ヒトの研究では合併症や社会的因子など個々での差が大きく、さまざまな因子が絡み合い複合的な面が考えられ、運動介入を行うことで何故効果的なのか分子レベルで検討することは困難である。そのため、認知症様のマウスの確立は、我々理学療法士が病態を理解するとともに、運動介入等行い、客観的に効果を立証することができ、そのことは理学療法エビデンスの確立に繋がると考える。
  • 猪村 剛史, 松本 昌也, 深澤 賢宏, 孫 亜楠, Khalesi Elham, 上床 裕之, 中田 恭輔, 河原 裕美, 弓削 類
    セッションID: A-P-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,iPS細胞やES細胞等の万能細胞の発見により再生医療の実用化が加速している.神経再生医療分野においても臨床応用が現実味を帯びており,脳卒中患者に対する骨髄由来細胞を使用した自己幹細胞移植で運動機能回復が促進される治験例が報告されている.移植の効果に関して,細胞移植により一定の効果があることが示されているが,その回復が十分でないケースも報告されている.我々はこれまで,脳損傷モデルマウスを用い,神経幹/前駆細胞移植後に運動介入を行うことで,移植後の機能回復促進に対するリハビリテーション効果を報告してきたが,回復過程における脳内変化は明らかでない.そこで本研究では,脳損傷モデルマウスを用い,神経幹/前駆細胞移植後に運動を行わせ,運動機能変化および回復過程における脳内の変化について検討した.【方法】脳損傷モデルマウスを作製し,損傷7 日後に,細胞移植を行った.移植細胞には,マウスES細胞由来神経幹/前駆細胞を用いた.細胞移植後の運動として,移植翌日よりトレッドミルを使用し運動を行わせた.実験群は,細胞移植のみを行う群 (trans群),運動のみを行う群 (ex群),細胞移植後に運動を行う群 (trans+ex群),治療を実施しない群 (cont群),頭部切開のみの群 (sham群) の5 群とした.運動機能評価には,rotarod testおよびbeam walking testを用いた.組織学的評価として,神経分化マーカーのMAP2 およびアストロサイト分化マーカーのGFAPで免疫染色を行い,移植細胞の動態を評価した.また,運動機能回復過程における脳損傷領域での遺伝子発現変化を解析するため,損傷後11,15,28,35 日に脳を摘出した.摘出後,損傷領域よりmRNAを抽出しreal-time PCR法を用いて,脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor : BDNF)や成長関連タンパク質 (growth associated protein-43 : GAP43)の発現を解析した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,広島大学の動物実験委員会指針及び広島大学自然科学研究支援センターの動物実験施設の内規に従って行った.【結果】運動機能評価では,cont群と比較してtrans群,ex群で運動機能の改善がみられた.さらに,trans+ex群で最も運動機能が改善した.免疫組織学的解析では,MAP2 の陽性率は,trans+ex群でtrans群と比較して高かった.損傷領域におけるBDNFやGAP43 は,回復初期過程においてtrans+ex群で最も強い発現を示した.【考察】GAP43 は,傷害後の再生ニューロンに強く発現し,損傷後の可塑性に影響することが報告されている.BDNFおよびGAP43 の発現は,trans+ex群で最も強かったことから,細胞移植後の運動介入により生じる運動機能回復は,BDNF GAP43 経路を介した,移植細胞も含めた神経回路の再編成による可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】再生医療の対象疾患の多くは,同時に理学療法の対象でもある.再生医療の臨床応用が期待される中で,脳損傷に対する細胞移植後のリハビリテーションの有効性が示されたことは,神経再生医療分野における理学療法の発展に大きく寄与するものと考える.
  • 野口 泰司, 濱川 みちる, 玉越 敬悟, 戸田 拓弥, 豊國 伸哉, 石田 和人
    セッションID: A-P-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳梗塞発症時には活性酸素やフリーラジカルが大量に産生され、その酸化ストレスは組織障害を拡大させ脳梗塞を増悪させる因子である。一方で、健常なラットに長期間運動させると、脳内で抗酸化物質が増加し酸化ストレスの減少がもたらされることが報告されており、運動は脳内の抗酸化作用を高めることが示されている。また、先行研究では脳梗塞モデルラット作成前に一定期間の運動を行うと、運動していないラットに比べて、脳梗塞後の梗塞体積が減少し運動機能障害も軽減するといった脳梗塞障害軽減効果が報告されている。しかし、この運動により高まる脳内の抗酸化作用が、脳梗塞時の酸化ストレスに影響を及ぼしているかどうかは不明である。そこで本研究では、脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果およびその作用機序を、脳内の抗酸化作用に着目して検討することを目的とする。【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(5 週齢)を用いた。無作為に(1)Sham群、(2)運動+sham群、(3)脳梗塞群、(4)運動+脳梗塞群に分け、脳梗塞+運動群と運動+sham群は3 週間のトレッドミル運動(15 m/min,30 分/日)を毎日行った。脳梗塞群とSham群は走行させずにトレッドミル装置内に暴露させた(1 日30 分間)。3 週間後、運動+脳梗塞群と脳梗塞群に対し、小泉法による脳梗塞モデル作成手術を施行した。手術24 時間後に、運動-感覚機能評価として、麻痺の重症度を評価するneurological deficits(ND)、歩行時のバランス能力の評価としてbeam walking(BW)、はしごの上の歩行における前肢の協調運動機能の評価としてladder test、前肢の感覚運動機能の評価としてlimb placing(LP)を行った。その直後に脳を採取し、TTC染色により非梗塞半球体積に対する梗塞体積の割合を算出した。また、酸化ストレス関連指標として、脂質過酸化の指標である4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)とDNAの酸化的損傷の指標となる8-Hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)、抗酸化酵素であるthioredoxin(TRX)の免疫組織化学染色を行い、陽性細胞数及び光学濃度を計測した。またSOD Assay kit-WST(同仁化学研究所)を用いて抗酸化酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)活性を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究における全処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。【結果】運動+脳梗塞群は脳梗塞群に比べて、NDとladder testのスコアが低値となり有意に障害が軽度であった。LPとBWは群間に有意差は認められなかった。また、梗塞体積割合は運動+脳梗塞群の方が脳梗塞群よりも有意に小さかった。4-HNE 及び8-OHdG陽性細胞数は、運動+脳梗塞群の方が脳梗塞群に比べ有意に少なかった。一方、TRXの光学濃度は群間に有意な差は認められなかったが、SOD活性は運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ高値を示す傾向にあった。【考察】脳梗塞モデル作成前に3 週間のトレッドミル運動を継続することで、脳梗塞後の麻痺の重症度および前肢の協調運動機能障害が軽減すること、梗塞体積が縮小すること、また脳梗塞時の脂質やDNAに対する酸化ストレスを抑制することが示された。さらに抗酸化酵素であるSOD活性が高められることが示された。これらの結果より、脳梗塞前の運動による脳梗塞の障害軽減効果には酸化ストレスの抑制とSODの活性化が関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果を行動学的、組織化学的に示した。加えて、運動による酸化ストレスの抑制と抗酸化作用の増加の関連も示され、その作用機序の一端を明らかにした。これらの結果は、脳梗塞の予防として推奨されている運動の効果を科学的に検討し、予防医療分野における理学療法のさらなる発展に寄与するものと考える。
  • 柴山 靖, 大塚 亮, 小出 益徳, 梶栗 潤子, 伊藤 猛雄
    セッションID: A-P-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】骨格筋は姿勢保持などに主要な役割を果たす赤筋と運動時にその主要な役割を果たす白筋よりなる。これらの骨格筋のエネルギー代謝は、それぞれの代謝バランスを考慮した生体の調節機構が必要であると考えられているが、その詳細は不明である。細動脈のトーヌスは、シェアーストレスなどによる血管内皮細胞の興奮や自律神経の活動状態によって調節されている。我々は、第47 回学術大会にて、ラット腓腹および前脛骨動脈での血管内皮細胞の興奮を介した内皮依存性弛緩反応の性質の相違について報告した。自律神経は骨格筋供給動脈に密に分布しており、その興奮により骨格筋血流分配を調節していると考えられる。しかし、赤筋と白筋の供給動脈におけるアドレナリン受容体による収縮調節機構の差異に関する報告はほとんどない。我々は、内皮細胞を除去したラット腓腹および前脛骨動脈を用いて、これらの点について検討し、以下の知見を得た。【方法】9 週齢のWister系雄性ラットを使用した。研究に使用する動脈は、ヒラメ筋(赤筋)に血流を供給する腓腹動脈と長趾伸筋(白筋)に供給する前脛骨動脈とした。実態顕微鏡下にて、腓腹動脈と前脛骨動脈を採取した。摘出血管を縦切開後、血管内皮を注意深く丁寧に除去した後、輪状切片標本を作成し、チャンバー内の張力歪計にセットした。溶液は灌流にて投与した。実験のスタート1 時間前から、標本の交感神経機能を除去するためグアネチジン(5 μM)を、プロスタグランジン生成を抑制するためジクロフェナック(3 μM)を投与した。その後、各々の標本における最大収縮反応を得るために、高カリウム溶液(128mM)による収縮を得た。次に、β1 アドレナリン受容体(以下β1 受容体)拮抗薬ビソプロロール(300nM)存在下でのノルアドレナリン(以下NAd)収縮に対する、α1 アドレナリン受容体(以下α1 受容体)拮抗薬プラゾシン(1-10nM)とα2 アドレナリン受容体(以下α2 受容体)拮抗薬ヨヒンビン(30-300nM)の効果を検討した。最後に、NAd-収縮に対する、ビソプロロール(300nM)とβ2 アドレナリン受容体(以下β2 受容体)拮抗薬ICI-118551(300nM)の効果を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。【結果】NAdは、腓腹動脈と前脛骨動脈の両動脈をほぼ同程度に収縮させた。プラゾシン(1-10nM)はその収縮を両血管で濃度依存性に同程度抑制した。両血管においてヨヒンビンは30nMでNAd収縮に影響を与えなかったが、100nM以上では濃度依存性にNAd-収縮を抑制した。ICI-118551 は、両血管におけるNAd-収縮に影響を与えなかった。一方、ビソプロロールは腓腹動脈でのNAd-収縮を増強したが、前脛骨動脈でのNAd-収縮に影響を与えなかった。【考察】日常生活で活動量が比較的低い時は姿勢保持などに関与する骨格筋の血流量が増加しており(赤筋優位)、一方、活動量が増加した時の骨格筋血流量は赤筋・白筋共に増加するものの赤筋<白筋となる(Williams and Segal,1993)。このことより、骨格筋の血流再分配は生体のエネルギー代謝調節と密接に関連し制御されているものと考えられる。しかし、その詳細な機序は不明である。我々は、前回、赤筋と白筋の血流再分配に内皮由来弛緩因子の差異が関与している可能性について報告した。今回は、赤筋と白筋の供給動脈におけるアドレナリン受容体による収縮調節機構の差異に関して検討した。これまで、骨格筋血管で、NAdは主にα1 受容体の興奮により血管を収縮させ、一方、アドレナリンはα1 受容体の興奮による収縮とβ2 受容体興奮による弛緩のバランスによりそのトーヌスを調節していると考えられてきた。今回、我々は、ラット腓腹動脈と前脛骨動脈の両血管で、NAdは、(i)α1 受容体活性化によって収縮を発生させる、(ii) β2 受容体の機能は関与しない、(iii)β1 受容体活性化により血管を弛緩させ、その機能は腓腹動脈>前脛骨動脈であることを明らかとした。これらの結果は、運動時など交感神経の興奮時、血管収縮は前脛骨動脈(白筋の供給動脈)>腓腹動脈(赤筋の供給動脈)となり血流が再分配されている可能性が明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】理学療法学的治療効果の向上を考えていく上で、骨格筋のエネルギー代謝を調節する血流再分配機構の解明は必須であり、本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。
  • 用皆 正文, 榊間 春利, 米 和徳
    セッションID: A-P-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性関節症、関節リウマチ等の炎症性疾患は、通常では疼痛を感じない程度の刺激によって生じる疼痛であるアロディニア (Allodynia) を来すことがある。アロディニアは、痛覚過敏 (Hyperalgesia) と比較して、進行性かつ持続性である為、罹病者の日常・社会生活の支障やQOL (Quality of life) 低下をもたらすだけでなく、理学療法を実施、進行する際の阻害因子となる。近年、運動器炎症性疾患に伴うアロディニアの原因の一つに、脊髄内反応性アストロサイトにおける細胞内シグナル伝達物質であるMAPK (Mitogen-activated protein kinase;分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ) の一つ、JNK1 (c-Jun N-terminal kinase 1;c-Jun N末端キナーゼ 1) の関与が示唆されている。しかし、脊髄内反応性アストロサイトにおけるJNK1 の上流に位置するシグナル伝達物質とその誘発物質は、特定されていない。本研究の目的は、持続性の炎症性疼痛による腰髄後角内TNF-α誘導性pASK1-JNK1 経路の活性化と、反応性アストロサイトとの共発現、アロディニアとの関連性について検討することである。【方法】実験動物には雄性Wistar系ラットの9 週齢の無処置群3 匹 (対照群) 、完全フロイントアジュバント (Complete Freund’s Adjuvant;CFA) 注入後7 日群 (CFA7 日群) 、CFA注入後17 日群 (CFA17 日群) 、CFA注入後28 日群 (CFA28日群) を各5 匹使用した。ラットは、CFA注入前、片側後肢足底へCFA (ヒト型結核死菌、1mg/mL) 0.15mL注入7,17,28 日後にペントバルビタールナトリウムを腹腔内過剰投与により安楽死させ、ヘパリン加生理食塩水で脱血灌流後、胸腰髄移行部を摘出し、4%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸緩衝液pH7.4 に一晩侵漬固定した。その後、組織は、パラフィン包埋後、第5 腰髄部連続横断切片 (厚さ:5 μm) を作製し、形態学的・免疫組織学的観察を実施した。また、両後肢足部の足部厚足底、運動学的評価、痛覚反応閾値検査も定期的に実施した。統計処理は、各群間比較の為に、一元配置分散分析後、多重比較法を実施した。また、各群内比較の為に、対応のある二標本t 検定を実施した。さらに、TNF-α,pASK1,pJNK1,GFAP陽性領域割合、疼痛反応閾値との関連性を検証する為に、全群を対象に、Pearsonの相関係数を実施した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は鹿児島大学医学部動物実験委員会の承認 (承認番号:第M11005 号) を得て、実施された研究である。【結果】片側足部CFA誘発炎症性疼痛モデルの腰髄両側後角内のTNF-αとpASK1、pJNK1 の陽性領域割合がCFA注入7 日後に有意に増加していた。pASK1、pJNK1 は、反応性アストロサイト、神経細胞、オリゴデンドロサイト内に共発現していた。TNF-αとpASK1、pASK1 とpJNK1、pJNK1 とGFAP陽性領域割合、GFAP陽性領域割合と疼痛反応閾値が有意に相関していた。【考察】片側足部CFA誘発炎症性疼痛モデルの腰髄両側後角内のTNF-αとpASK1、pJNK1 の陽性領域割合がCFA注入7 日後に有意に増加していた。また、TNF-αとpASK1、pASK1 とpJNK1、pJNK1 とGFAP陽性領域割合が有意に相関すること、pASK1 とpJNK1 が反応性アストロサイト内に共発現していたことから、末梢炎症に伴い、腰髄後角の反応性アストロサイト内のTNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路が活性化されていることが推測された。GFAPの陽性領域割合と疼痛反応閾値も有意に相関していることから、TNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路がアロディニアに関連していることも推測された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、炎症性疼痛モデルにおけるアロディニアが腰髄後角の反応性アストロサイト内のTNF-α誘導性ASK1-JNK1 経路に関与している可能性を示した。このことは、炎症性疼痛に対する理学療法有効性の科学的根拠と効果判定に貢献するものと考える。
  • 寺中 香, 近藤 康隆, 片岡 英樹, 佐々部 陵, 濱上 陽平, 関野 有紀, 坂本 淳哉, 中野 治郞, 沖田 実
    セッションID: A-P-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】急性の関節炎に対しては,患部の安静や薬物療法により炎症の沈静化を図るのが一般的である.しかし,近年,四肢の一部の不動が慢性痛の危険因子になると指摘されており,急性期における患部の必要以上の安静は慢性痛発生に影響をおよぼすと予想される.一方,変形性膝関節症患者を対象としたランダム化比較対照試験の結果では,筋力増強効果を認めない低強度の大腿四頭筋運動でも疼痛軽減効果をもたらすとされている.しかし,関節炎発症直後からの筋収縮運動の治療介入効果については明らかになっていない.そこで,本研究ではラット膝関節炎の発症直後から患部を不動状態とする場合と低強度の筋収縮運動を実施する場合をシミュレーションし,痛みや腫脹におよぼす影響を検討した.【方法】8 週齢のWistar系雄性ラット21 匹を用い,1)3%カラゲニン・カオリン混合液300 μlを右膝関節に注入し,関節炎を惹起させる関節炎群(n=5),2)関節炎の惹起後,右膝関節をギプスで不動化する不動群(n=5),3)関節炎の惹起後,低強度の筋収縮運動を実施する運動群(n=6),4) 疑似処置として生理食塩水300 μlを右膝関節に注入する対照群 (n=5) に振り分けた.そして,不動群に対しては起炎剤投与翌日から右膝関節を最大伸展位で4 週間不動化し,運動群に対しては,起炎剤投与翌日から膝関節伸展運動を20 分間(週6 回)実施した.具体的には,麻酔下で低周波治療器トリオ300(伊藤超短波製)を使用し,大腿四頭筋を電気刺激することで膝関節伸展運動を誘発させた.なお,実験終了後は筋収縮運動による筋肥大効果を確認するため,大腿直筋の凍結横断切片をH&E染色し,各群の筋線維直径を比較した.一方,各群に対しては起炎剤(生理食塩水)投与の前日ならびに1・7・14・21・28 日目に右側膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに遠隔部である右足底の痛覚閾値を評価した.方法としては,膝関節の横径をノギスで測定することで腫脹を評価し,プッシュプルゲージにて膝関節外側裂隙部に圧刺激を加え,後肢の逃避反応が出現する荷重量を測定することで圧痛閾値を評価した.また,右足底の痛覚閾値は4・15gのvon Frey filament(VFF)を用いてそれぞれ10 回刺激し,その際の痛み関連行動の出現回数を測定することで評価した.【倫理的配慮、説明と同意】今回の実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】大腿直筋の筋線維直径は関節炎群と運動群の間に有意差は認められなかった.腫脹に関しては,関節炎群,不動群,運動群の3 群は起炎剤投与1 日目をピークに14 日目まで対照群より有意に増加していたが,実験期間を通して3 群間に有意差を認めなかった.膝関節の圧痛閾値に関しては,関節炎群,不動群,運動群とも起炎剤投与1 日目において対照群より有意に低下し,3 群間に有意差を認めなかったが,運動群では7 日目から関節炎群,不動群より有意に上昇し,21 日目以降は対照群との有意差も認めなかった.足底の痛覚閾値は4・15gのVFFともほぼ同様の結果で,関節炎群は起炎剤投与1 日目から有意に低下し,これは28 日目まで持続した.また,不動群は起炎剤投与1 日目から28 日目まで対照群より有意に低下し,さらに,21 日目以降では,関節炎群のそれより有意に低下していた.一方,運動群は起炎剤投与1・7 日目までは対照群より有意に低下していたが,それ以降は有意差を認めず,関節炎群,不動群よりも有意に上昇していた.【考察】関節炎を惹起した3 群における起炎剤投与1 日目の評価結果はいずれも有意差を認めず,これは同程度の関節炎が発症していることを裏付けている.しかし,関節炎群と不動群は遠隔部である足底の痛覚閾値の低下が約1 ヶ月持続していることから慢性痛に発展している可能性が推測され,不動群においてはその兆候が顕著であることから,関節炎発症直後からの患部の不動は慢性痛発生に大きく影響すると推察される.一方,運動群においては患部の圧痛閾値のみならず,足底の痛覚閾値の低下が関節炎群や不動群と比べ早期に回復しており,この結果は筋収縮運動による疼痛軽減効果ではないかと考えられる.そして,大腿直筋の筋線維直径の結果からは,筋収縮運動による筋肥大効果は認められておらず,低強度での運動を再現できていると思われる.つまり,関節炎発症直後からの低強度の筋収縮運動は慢性痛の発生予防に好影響をもたらす可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】本研究は,関節炎発症直後より患部を不動状態に曝すと慢性痛に発展すること,逆に,低強度の筋収縮運動を行うと患部の痛みのみならず,遠隔部における慢性痛の発生を予防できる可能性を示唆している.つまり,本研究の成果は炎症後の安静による弊害と運動療法の有効性を示した意義ある基礎研究と考える.
  • 金口 瑛典, 小澤 淳也, 山岡 薫
    セッションID: A-P-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝関節疾患の多くは関節内に炎症や病変を有するにもかかわらず、膝関節周囲筋にも機能的・形態的変化が生じる。しかし、膝関節内炎症に続発して生じる関節可動域制限や、関節周囲筋の組織形態学的変化については、関節不動や運動麻痺のモデルと異なりほとんど報告がない。本研究ではラット関節炎モデルを用いて、膝関節可動域および膝関節周囲筋の組織学的変化について調査することで、膝関節炎の持続に伴う関節周囲筋への影響や、関節炎症に誘導される関節拘縮の要因を探ることを目的とした。【方法】雄性Wistar ratを使用し、対照群 (n = 5)、2 週間の関節炎群 (2wCFA群、n = 6)、4 週間の関節炎群 (4wCFA群、n = 5)の3 群に分けた。2wCFA群は、炎症を惹起するため右膝関節腔内にComplete Freund's Adjuvant (CFA) を0.1 ml注入後、2 週間飼育した。4wkCFA群は、CFAを右膝に0.1 ml注入し、2 週間後に再び同量注入して2 週間飼育した。対照群は、右膝に生理食塩水を0.1 ml注入し、2 週間飼育した。実験終了時に全てのラットが12 週齢となるようにした。右後肢の皮膚を切除した後、麻酔下にて膝関節伸展方向に14.60 N・mmのモーメントをかけた状態で、三次元動作解析装置を用いて大転子、膝関節外側裂隙、外果のなす角度を測定し、膝関節最大伸展角度 (伸展ROM) とした。さらに、膝関節屈筋を切除した後、同様の方法で再度伸展ROMを測定した。その後、右後肢から大腿直筋と半腱様筋を採取し、凍結横断切片を作成した。大腿直筋にはヘマトキシリン・エオジン染色、半腱様筋には抗slow myosin抗体を用いた免疫組織化学を行った。それぞれの筋の深層の顕微鏡像を写真撮影し、画像解析ソフトを用いて筋線維横断面積の測定を行った。統計解析には一元配置分散分析とその後の多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,広島国際大学動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】伸展ROMについて、対照群で141 ± 10°に対し、2wCFA群で113 ± 8°(対照群の80%)、4wCFA群で112 ± 13°(79%)とそれぞれ有意な屈曲拘縮が生じた。膝屈筋を切除して筋性要因を除去した後の伸展ROMは、対照群で171 ± 8°に対し、2wCFA群で142 ± 18°(83%)、4wCFA群で134 ± 6°(79%) とそれぞれ有意な伸展制限が残存した。大腿直筋の筋線維横断面積は、対照群で2366 ± 568 μm 2 に対し、2wCFA群で1953 ± 327 μm 2 (83%) 、4wCFA群で1703 ± 78 μm 2 (72%、 P < 0.05) と、炎症期間に依存して筋萎縮が進行した。一方、半腱様筋では、対照群で2171 ± 531 μm 2 に対し、2wCFA群で2288 ± 397 μm2 (105%) 、4wCFA群で2091 ± 397 μm2 (96%) といずれも差は認められなかった。しかし、筋線維タイプ別の比較では、slow myosin陽性線維は対照群で1322 ± 152 μm 2 に対し、2wCFA群で1105 ± 189 μm2 (84%) 、4wCFA群で1005 ± 133 μm2 (76%、 P < 0.05) と炎症期間依存的に萎縮した。一方、slow myosin陰性線維は、対照群で2335 ± 605 μm 2 に対し、2wCFA群で2476 ± 470 μm2 (106%) 、4wCFA群で2218 ± 424 μm2 (95%) といずれの群間にも有意差はなかった。【考察】ラットアジュバント膝関節炎モデルにおいて屈曲拘縮を認めた。関節拘縮の主な責任病巣として、筋と筋以外の関節構成体が考えられる。CFA群では筋切断後も伸展ROM制限が残存したことから、関節構成体による屈曲拘縮が生じたことが明らかとなった。また、いずれの群においても屈筋切除により約30°の伸展ROM拡大がみられた。このことは、関節構成体ではなく筋が先行して伸展ROMを制限することを示唆する。CFA群で筋切除前の伸展ROM制限が認められたことから、膝屈筋も伸展ROM制限に寄与することが推測された。大腿直筋ではCFA投与により萎縮が生じた一方で、半腱様筋では萎縮が生じなかった。さらに、半腱様筋で観察されたslow myosin陽性線維の選択的萎縮は、脊髄切断後の痙縮筋の特徴的所見であることから、CFA投与群の半腱様筋では不随意な筋活動が生じ、萎縮が抑制された可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝関節における炎症や疼痛が、屈曲拘縮および関節周囲筋の筋特異的な組織学的変化を引き起こすことが示された。関節の消炎・鎮痛を目的とした理学療法は、単に症状を抑制するだけでなく、続発する機能障害を予防する上でも重要と考える。
  • 原槙 希世子, 岡村 千紘, 本田 祐一郎, 坂本 淳哉, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: A-P-40
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】医療分野で利用されている磁気刺激装置とは,主に電磁石によって生み出される急激な磁場の変化によって弱い電流を組織内に誘起させることで,神経細胞を興奮させる非侵襲的な方法であり,脳血管疾患に対する経頭蓋磁気刺激治療はよく知られている.一方,ギプス固定などによって骨格筋が不動状態に曝されるとしばしば筋性拘縮が発生するが,所属研究室の先行研究によれば,このメカニズムには骨格筋における低酸素状態の惹起や強力な線維化促進作用のあるTransforming growth factor(TGF)-β1 とよばれるサイトカインの発現が関与すると考えられており,これは骨格筋の不動によって筋の長さ変化が生じず,張力負荷が減少することが一因とされている.よって,ギプス固定下であっても何らかの手段で筋収縮を誘発し,張力負荷を高めることができれば筋性拘縮の発生が軽減できる可能性があり,上記の原理に基づけば磁気刺激装置はその手段として利用できると思われる.よって,本研究ではギプス固定によって不動状態に曝されているラットヒラメ筋に対して,磁気刺激を用いて周期的な筋収縮を誘発することで筋性拘縮の発生が軽減できるかを検証した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット16 匹を用い,これらを4 週間通常飼育する対照群(n=5),両側足関節を最大底屈位で4 週間ギプス固定する不動群(n=5),4 週間のギプス固定期間中に脊髄を磁気刺激することでヒラメ筋の周期的な筋収縮を誘発する刺激群(n=6)に振り分けた.そして,4 週間の実験期間終了後に麻酔下で体重と両側足関節の背屈可動域(ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した.採取したヒラメ筋は直ちに筋湿重量を測定し,右側筋試料についてはその凍結横断切片に対してHematoxilin & Eosin染色ならびにPicrosirius red染色を施し,組織病理学的検索に供するとともに,筋線維横断面積の計測を行った.一方,左側筋試料についてはRT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲン,筋線維芽細胞のマーカであるα-smooth muscle actin(α-SMA),TGF-β1,特異的低酸素転写因子であるHypoxia inducible factor-1 α(HIF-1 α)といった線維化の標的分子ならびに内因性コントロールであるGAPDHそれぞれのmRNA 発現量を検索した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は長崎大学動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】ROMは不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に低値であったが,刺激群は不動群より有意に高値を示した.一方,筋湿重量を体重で除した相対重量比ならびに筋線維横断面積は不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に低値で,この2 群間に有意差を認めなかった.そして,組織病理学的にはすべての群で筋線維壊死などの炎症を疑わせる所見は認められなかったが,不動群と刺激群は対照群に比べ筋周膜や筋内膜に肥厚が認められ,その程度は刺激群が不動群より軽度であった.次に,線維化の標的分子のmRNA発現量をみると,タイプIコラーゲンとα-SMAについては,不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に高値であったが,刺激群は不動群より有意に低値を示した.また,タイプIIIコラーゲンとHIF-1 αについては,不動群が対照群,刺激群より有意に高値であり,対照群と刺激群の間に有意差を認めなかった.一方,TGF-β1 については不動群は対照群に比べ有意に高値を示したが,刺激群は対照群,不動群のどちらとも有意差を認めなかった.【考察】今回の結果から,ギプス固定下でも磁気刺激によって周期的な筋収縮を誘発すると,骨格筋の低酸素状態が緩和され,併せて線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化が抑制され,コラーゲン産生の減少,すなわち線維化の発生が軽減することが明らかとなった.加えて,ROM制限の発生も軽減していることから磁気刺激は筋性拘縮の発生を抑制する効果があると推察され,新たな治療手段となり得る可能性が示された.しかし,TGF-β1 の発現に対しては明らかな効果を認めず,これは磁気刺激の頻度や時間などが影響していると思われ,今後の課題としたい.【理学療法学研究としての意義】通常,ギプス固定されるとその当該筋に対しては治療介入が難しく,筋性拘縮の発生を許してしまうことが多いが,磁気刺激を用いることでその軽減を促すことが可能であることを本研究によって明らかにした.つまり,本研究の成果は筋性拘縮に対する新たな治療手段開発の糸口を提示した理学療法の基礎研究として意義深いと考える.
  • 後藤 育知, 山崎 諒介, 大谷 智輝, 岩井 孝樹, 籾山 日出樹, 松本 仁美, 金子 純一郎
    セッションID: A-P-39
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩回旋筋腱板の断裂は棘上筋に最も多く生じるとされている.通常保存及び手術療法ともに4 〜6 週間の肩関節自動運動が禁止されることで,その期間の廃用症候群が問題となる.棘上筋は僧帽筋上部線維より深層を走行するため視診や筋電図学的に機能や構造を検討するには困難な解剖学的特徴をもつ筋といえる.そこで本研究では超音波画像診断装置を用いて深層に存在する棘上筋の筋厚を複数箇所測定し自動運動による棘上筋への負荷の程度や構造的特性を解明する事と,棘上筋の構造的特性を踏まえた廃用症候群を予防する方法について検討する事を目的に研究を行った.【方法】1)対象:肩関節障害の既往のない健常成人男性12名(平均年齢21.6±1.61歳,平均身長173.4±5.5cm,平均体重63.4±5.9kg)を対象とし,利き腕において計測を行った.2)方法:(1)測定機器は計測機器超音波画像診断装置(L38/10-5ソノサイト社製)を用いた.(2)棘上筋筋厚の計測方法:棘上筋の測定肢位は椅子座位にて上肢下垂位,耳孔‐肩峰‐大転子が一直線上となる肢位で行った.測定部位は肩峰と棘三角を結ぶ線に上角から下した垂線(以下,上角ポイント),肩峰と棘三角を結ぶ線の中点(以下,中点ポイント)の2 点を棘上筋の走行に対して直角に超音波画像診断装置のプローブ面を全面接触させて測定した.測定する肩関節外転角度は安静下垂位(外転0°),外転10°,30°,90°の角度において無負荷で測定を行った.(3)統計処理:各ポイントにおける角度ごとの比較は一元配置分散分析にて多重比較検定を行い,異なるポイントの角度ごとの比較には,正規性の確認後,対応のあるt検定を用いた.いずれも有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】超音波による棘上筋厚の測定の実施に際し,本研究に関する説明を担当者から行い,研究で得られた結果は目的以外に使用しないことなどを十分に説明し文書にて同意を得た.【結果】上角ポイントでは棘上筋の筋厚は0°で0.9 ± 0.34cm,10°で1.02 ± 0.37cm,30°で1.15 ± 0.33,90°で1.65 ± 0.28cmで,90°において最も筋厚が厚くなり,0°,10°,30°と比較して統計学的に有意に厚くなったことが明らかとなった.また,0°,10°,30°において各々を比較した場合では統計学的に有意差を認められなかった.中点ポイントでの筋厚は0°,10°,30°,90°それぞれの角度間において棘上筋の筋厚に統計学的有意差は認めなかった.【考察】今回の研究において上角ポイントにおける筋厚は,肩関節外転0°〜30°において各々を比較した場合,棘上筋の筋厚に統計学的有意差は認められなかったが,0°,10°,30°での筋厚を90°と比較した場合では統計学的有意差が認められた.坂井らによると,肩関節外転における棘上筋は通常最初の10°までに働いているとされており,肩関節10°付近で筋厚が最大膨隆するという仮説が考えられた.また,棘上筋は30°まで作用するとされる説もあるため30°付近においても筋の膨隆はプラトーに達すると考えられた.しかし,得られた結果より肩関節外転0°〜30°における棘上筋の筋厚に統計学的有意差が見られなかったことから,0°〜30°までは負荷が増大しても筋厚が変化しないことが明らかとなった. 中点ポイントでは角度間において,統計学的に有意な差を認めなかったことから,測定部位が異なれば負荷の影響は同じであっても筋厚の変化は異なることを示している.これら2 ポイントの異なる筋厚の変化は羽状筋である棘上筋とその収縮様式,筋の起始部が関係しており,自動外転90°の最大負荷時に筋腹部が上角ポイントに滑走し,中点ポイントでは同じく90°で平均値が最も低値である事から筋腹部から筋腱移行部になったことで90°での筋厚が薄くなったと考えられる.つまり30°〜90°での筋の滑走が最も大きかったと推察される.【理学療法学研究としての意義】臨床における腱板断裂例では手術療法後の肩関節自動運動禁止による廃用症候群が早期ADL獲得に影響を与える.この問題に対し今回の結果から,0°〜30°の範囲内の肩関節外転自動運動は棘上筋に筋厚に変化がみられないことから,この角度範囲であれば筋厚を高めることなく収縮を促すことができ,肩関節自動運動禁止による棘上筋の廃用性筋萎縮を予防できる可能性があることが示唆された.
  • 松本 浩希, 真田 将幸, 加納 一則
    セッションID: A-P-39
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】中殿筋は、解剖学的構造より前部・中部・後部線維に分けられ、それぞれの部位によって機能が異なる可能性がある。先行研究では、中殿筋を単一の線維と捉え機能を推論することは不適当であることが述べられている。しかし、従来の筋活動に関する報告は中殿筋を筋全体として捉えたものが多く、筋の各部位ごとに筋活動をみているものは少ない。また、先行研究の対象者は健常者であることがほとんどであり、股関節疾患患者や股関節術後患者での検討は非常に少ないのが現状である。そこで、本研究の目的は、表面筋電図を用いて変形性股関節症患者(以下、股OA患者)の片脚立位時(以下、OLS)の中殿筋前部線維、中部線維における筋活動量を調査することとした。【方法】対象は、人工股関節全置換術術直前の片側股OA患者9 名(57.7 ± 8.7 歳)とした。対象者は全例女性であった。一般調査項目として、罹病期間、OAの病期、股関節可動域(屈曲、伸展、外転、内転、外旋)、OLS保持時間、OA側・非術側外転筋力、OA側股関節機能判定基準を調査した。筋力の評価は徒手筋力計を用いた。また、測定値を体重で除し、体重支持指数(Weight Bearing Index;WBI)を算出した。方法は、OLS時の中殿筋前部・中部線維の筋活動量を、表面筋電図を用いて測定した。筋電図測定時には、指先介助程度のハンドサポートを行ない、OLS動作を安定させた。筋電図の測定にはNORAXON社製Myosystem1200 を用い、解析にはNORAXON社製Myoresearchを用いた。測定はOA側、非術側の両側実施し、直径22mmの電極を用い、双極誘導法にて電極間距離を20mmとした。各筋線維の電極の設置位置は池添らの方法に準じ、皮膚抵抗は、10KΩ以下となるように皮膚前処理を行った。OLS時の筋電波形を整流平滑化処理し、波形の安定している3 秒間の積分値を求めた。次に、非術側OLS時の波形を100%difference とし、OA側OLS時の%differenceを求めた。OA側および非術側OLS時の前部線維と中部線維の%difference における差の検定には、ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】今回の調査は、ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し、研究の趣旨、測定の内容、個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】一般調査項目は、罹病期間が33 ± 25.1 年、OAの程度は末期7 名、進行期2 名、股関節可動域は屈曲が83.9 ± 16.9 度、伸展が2.2 ± 6.7 度、外転が12.8 ± 12.8 度、内転が6.1 ± 5.5 度、外旋が23.9 ± 10.8 度、OLS保持時間は15.0 ± 8.7 秒、OA 側・非術側外転筋力(WBI)はOA側10.7 ± 2.9%、非術側14.6 ± 3.1%、OA側股関節機能判定基準は58.1 ± 13.9 点であった。筋電図評価では、OA側前部線維が179.8 ± 122%、OA側中部線維が182.2 ± 70.9%であった。統計学的検討において、前部線維では有意差を認めなかった(P=0.14)が、中部線維で有意差(P=0.008)を認めた。【考察】本研究の結果、OA側OLS時の%differenceは非術側OLS時と比し、前部線維では有意差を認めなかったが、中部線維で有意差を認めた。先行研究において、OLS時における中殿筋の筋活動量は、非術側あるいは健常者に比べ、OA側の活動量が有意に大きいことが報告されている。これは、中殿筋の弱化の代償として、過剰な筋活動を呈していたこと、関節変形によりレバーアームが短縮し、中殿筋の作用効率が悪化していたこと、疼痛による影響等が要因として述べられている。今回、中部線維で有意差を認めたことは、先行研究と同様の要因が影響していたと考える。一方、前部線維において有意差を認めなかったのは、骨盤〜股関節のアライメント異常の影響を受けていたためではないかと考えた。また、前部線維と中部線維で違う結果が出たことにより、股関節疾患患者においても中殿筋内での機能分化の可能性を示唆しているのではないかと考える。しかし、今回の調査は対象者数が少なく、個人間のばらつきも大きいため、どのような因子を持つ股関節疾患患者が中殿筋内で活動量に差が生じるのか検討するまでには至っていない。今後は、対象者数を増やしアライメントとの関係も考慮して再検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】先行研究では、股関節疾患患者の中殿筋の部位別での機能を調査した報告は非常に少ない。中殿筋のそれぞれの部位での機能を知ることは、歩行分析・リハプログラムの立案などの際に、有意義な情報になると思われる。
  • 杉本 はるか, 田中 雅侑, 二階堂 茜, 藤田 直人, 藤野 英己
    セッションID: A-P-39
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】運動は骨格筋における脂質代謝を亢進させることで、肥満の予防や改善に効果的であることが広く知られている。また、肥満の予防や改善に対しては、栄養サポートを用いた介入も数多く試みられている。一方、脂肪を低減させる効果をもつサプリメントの一つであるグラボノイドは、肝臓における脂肪合成酵素を抑制し、脂肪酸分解酵素を活性化することで脂肪蓄積軽減や体重減少、血糖値低下の効果が報告されている。しかし、グラボノイドを用いた脂肪量減少に関する研究は多く行われているが、グラボノイドによる骨格筋での脂質代謝や運動とグラボノイドの組み合わせによる脂肪量減少への効果は明らかにされていない。本研究では、運動に加えてグラボノイドによる栄養サポートを組み合わせることで骨格筋と肝臓の脂質代謝が相乗的に活性化し、効果的に内臓脂肪組織量を減少させることが可能ではないかとの仮説を立て、運動とグラボノイドが脂質代謝に与える影響について検証を行った。【方法】8 週齢の雄性SDラットを対照群(Con群,n=7)、運動群(Ex群,n=7)、グラボノイド群(Gn群,n=7)、運動+グラボノイド群(ExGn群,n=7)の4 群に分けた。Ex群及びExGn群には、トレッドミルを用いた中等度強度の持久運動を週に5 日実施した。Gn群とExGn群に対しては1 日あたり1500mg/kgの量のグラボノイドを、他の2 群に対しては同量のオリーブオイルを朝と夜の2 回に分けて経口投与した。7 週間の実験終了後、サンプルとして精巣上体脂肪、肝臓、足底筋を摘出し、湿重量を測定した。精巣上体脂肪のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を用いて、白色脂肪細胞の直径を測定した。肝臓における脂質代謝の指標として、カルニチンパルミトイル転移酵素(CPT)活性を測定した。また、骨格筋における脂質代謝の指標として、3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(HAD)活性及びクエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。得られた結果は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定及びKruskal-Wallis検定を行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】すべての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】精巣上体脂肪の湿重量に関して、Ex群、Gn群、ExGn群ではCon群に対して有意に低値を示した。また、ExGn群はEx 群に対して有意に低値を示した。白色脂肪細胞の直径は、Gn群とExGn群ではCon群に対して有意に低値を示した。また、ExGn群はEx群に対して有意に低値を示した。一方、Con群とEx群及びEx群とGn群の間に有意差はなかった。肝臓のCPT活性は、Gn群とExGx群はCon群及びEx群に対して有意に高値を示した。足底筋のHAD活性及びCS活性は、Ex群とExGn群ではCon群及びGn群に対して有意に高値を示した。【考察】脂肪組織量は運動とグラボノイドの併用で最も減少した。骨格筋の脂質代謝は運動によってのみ活性化され、肝臓の脂質代謝はグラボノイドによってのみ活性化した。骨格筋では運動によりβ酸化の酵素であるHAD及びTCA回路の酵素であるCS活性が活性化した。脂肪酸はβ酸化を受けアセチルCoAとなりTCA回路で代謝される。運動により骨格筋においてβ酸化を受ける脂肪酸の動員数が増加し、それに伴いTCA回路で代謝される脂肪酸も増加し、脂質代謝が活性化した。一方、肝臓ではグラボノイドにより脂肪酸のミトコンドリア内マトリックスへの輸送に関わる酵素であるCPTが活性化した。脂肪酸はCPTの働きによってミトコンドリア内に取り込まれ代謝される。グラボノイドにより肝臓においてミトコンドリア内に取り込まれる脂肪酸の動員数が増加し、脂質代謝が活性化した。また、運動とグラボノイドを組み合わせることにより最も脂肪減少がみられたのは、骨格筋と肝臓での脂質代謝がどちらも活性化されたことによると考える。さらに骨格筋や肝臓の脂質代謝活性化にはPPARδやシトクロームP450 の関与も考えられている。今後は運動とグラボノイドの組み合わせによる脂肪減少の作用機序を明らかにするためにPPARδやシトクロームP450 を含んだ解析が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】運動とグラボノイドを組み合わせることにより、骨格筋と肝臓の両方における脂質代謝が活性化し、脂肪量減少の相乗効果が期待できることは、肥満に対する理学療法を発展させる可能性があるため、意義があるものと考える。
  • 新井 保久, 佐野 純子
    セッションID: A-P-39
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】われわれ理学療法士は患者さんに直接,手指で接することが多い。そのため感染症には常日頃から注意する必要があり,接触感染の予防のための手指消毒は非常に重要である。そこで今回,当院のリハビリ技師の手指についている細菌を3 つの目的の下に調査した。目的1=患者さんのリハ途中の技師の右手指に細菌が付着しているのか。目的2=アルコールの3 つの使用方法の違いによって消毒に差が出るのか。〔A法=本人が普段行っているアルコール使用。B法=推奨されている手指消毒の手順表(以下,手順表と略)を見せながら本人に行わせる。C法=アルコールの量を指定して手順表を見せながら行う〕の3 法に選別。目的3=手指消毒の効果を培養したコロニーを比較させ実感させるという教育的な目標。【対象および方法】当院のリハビリ技師の中で中堅から新人までの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の17 人を対象とした。その右手掌を,消毒前とアルコール消毒後にそれぞれ,栄研化学社製の環境微生物検査用試薬の『ハンドぺたんチェック』に,押しつけさせた。それを細菌検査室にて約48 時間の培養後,細菌数をコロニーの数として数えた。(アルコールはリハビリ技師に常に携帯させている速乾性手指消毒剤のゴージョーMHS60mlを使用)【倫理的配慮、説明と同意】調査対象者に調査の目的や方法,個人情報の厳守等について説明し同意を得た。【結果】(1)『リハビリ途中の消毒前の細菌の存在』 患者さんのリハ途中において,技師の右手掌に多くの細菌数が検出された。その種類は〔黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・コリネバクテリウム・バチルス・ミクロコッカス・グラム陰性桿菌〕である。その中でも,病原性が高いとされる,ブドウ球菌(以下ブ菌と略)とグラム陰性桿菌(以下GNRと略)は,17 人の26 例の標本においてブ菌は26 例のうち8 例で,GNRは26 例のうちの7 例で検出された。総コロニー数では,約50 コロニー以上は26 例のうち24 例であり,更に約 100 以上のあったのは26 例のうち19 例だった。(2)『消毒後の細菌の存在』〔病原性の高い細菌の場合〕・A法の「本人の使用」=ブ菌とGNR合わせて6 例あったうち2 例が消毒されなかった。・B法の「手順表を使用」=ブ菌とGNR合わせて3 例あったうち2 例で消毒されなかった。・C法の「アルコール量指定と手順表を使用」=ブ菌とGNR合わせて6例あったが全て消毒された。〔全ての細菌の総コロニー数〕(総コロニー数30以下を概ねきれいになったとする) A法=7 例中3 例が30 以下にならなかった。 B法=7 例中3 例が30 以下にならなかった。(但し3 例のうち2 例は消毒前に 200 以上の多量の細菌が存在していた) C法=12 例中2 例が30 以下にならなかった。(但しその2 例ともバチルスが多く生存しており,バチルスを除くと30 以下になる)(3)『教育学的視点』 17 人の内16 人において,数回の指導の下にアルコール消毒後にはコロニー数が30 以下になることを確認させた。残りの1 人もバチルス以外では30 以下になった。【考察】今回の手指消毒は,「目に見える汚れがない」ためアルコール製剤を使用した。消毒の3 要素は,消毒剤の『温度・濃度・接触時間』と言われている。今回の方法では『温度と濃度』は問題ない。しかし『接触時間』は「アルコールの量と手指消毒の手順方法」によっては不十分になる。A法の場合「アルコール量と消毒手順が不十分」の可能性があり,またB法の場合「アルコール量が不十分」の可能性がある。病原性の高い細菌については「アルコール量と手指消毒手順」を遵守させると検出されなくなった。検出されたバチルスは,芽胞菌でありアルコールに耐性があるため,今回の調査でも消毒できなかった。そのバチルス菌を除いた結果では「アルコール量と手指消毒手順」を遵守させると,全ての菌量は著明に減少し,調査した職員全員にアルコール消毒の効果を確認させることができた。【理学療法学研究としての意義】手指に付いた細菌に対しアルコール消毒の有用性は確認できた。それをいかに臨床で活用させるか,そのための職員教育の重要性を改めて感じさせられた研究であった。
  • 笠井 健治, 西尾 尚倫, 下池 まゆみ, 市川 忠
    セッションID: A-P-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】近年、認知課題と運動課題を含む二重課題について多くの報告がなされている。しかし、二重課題が学習に与える影響についての報告は少ない。本研究では二重課題(以下DT)が学習に与える影響を脳血流量変化を用いて検討した。【方法】認知課題(A)は30 秒間のストループテストの読み上げ3 回、運動課題(B)はクッション(酒井医療AMB-Elite)上での片脚立位保持とした。対象者はストループテストの経験のない健常な成人男性12 名とし、AとBを同時に行うDT群6 名(36.5 ± 9.42 歳)と、安楽立位でAのみを行うST群6 名(35.8 ± 10.23 歳)を設定した。研究デザインはAを繰り返し3 セット行うこととし、DT群では2 セット目を二重課題とするA-AB-Aデザイン、ST群では全て単一課題のAを行うA-A-Aデザインとした。脳血流量変化は光トポグラフィー(日立メディコETG-7100)を用い前頭前野を対象に合計48chを計測した。ストループテスト実施時の酸素化ヘモグロビン変化量(以下Oxy-Hb、単位mMmm)をベースライン補正後に加算平均処理し、プローブセット背外側に位置する4 個のchのOxy-Hbの平均を前頭前野背外側(以下DLPFC)、内側10 個のchのOxy-Hb の平均を前頭前野内側(以下MPFC)として算出した。また、両群とも課題に対する反応関連性の高いチャンネルの数をROI(region of interest)解析(r>0.7)で求めた。学習の効果判定は、両群とも1 セット目と3 セット目で以下の項目を比較した。脳血流量変化の評価としてDLPFCとMPFCのOxy-Hbと、ROI解析により求められたチャンネルの数を比較した。また、パフォーマンスの評価としてストループテストの正答数の平均(以下Score)を比較し、学習の根拠とした。統計処理はDr.SPSS2 を用いて対応のあるt検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】本研究は当センター倫理委員会の承認(承認番号H24-14)を得て、対象者へ十分な説明をし、同意を得た上で行われた。【結果】Oxy-HbはDT群で1 セット目の右DLPFC 0.12 ± 0.146、左DLPFC 0.16 ± 0.113、右MPFC 0.13 ± 0.061、左MPFC 0.13 ± 0.057、3 セット目では右DLPFC 0.16 ± 0.096、左DLPFC 0.08 ± 0.117、右MPFC 0.04 ± 0.045、左MPFC 0.04 ± 0.042 となり、両側MPFCで有意にOxy-Hbが減少した(p<0.05)。ST群では1 セット目は右DLPFC 0.21 ± 0.206、左DLPFC 0.28 ± 0.152、右MPFC 0.05±0.146、左MPFC 0.35±0.142、3セット目では右DLPFC 0.10±0.198、左DLPFC 0.19±0.187、右MPFC 0.003 ± 0.140、左MPFC-0.03 ± 0.184 となり、ST群では右DLPFCで有意にOxy-Hbが減少した(p<0.05)。ROI解析で関連性を認めたchの数はDT群で1 セット目11 個、3 セット目21 個、ST群で1 セット目14 個、3 セット目5 個であった。ScoreはDT群で1 セット目47.9 ± 14.95、3 セット目51.4 ± 14.00、ST群で1 セット目45.1 ± 9.31、3 セット目49.1 ± 11.02 であり、DT群のみ3 セット目で有意に増加した(p<0.01)。【考察】先行研究で、学習が進むと課題遂行に必要な局所の脳血流量は保たれたまま、活動領域が縮小すると報告されている。またストループ課題遂行時には左DLPFCが賦活するとされている。本研究でもDT群では課題遂行に関連が少ない両側MDPFCで有意にOxy-Hbが減少し、ストループ課題遂行に必要な左DLPFCのOxy-Hbは保たれていた。また、ROI解析では課題に関連して反応するChが増加していた。これらは課題に対する学習が生じ、脳活動が効率化したことによる脳血流の変化と考えられた。また、パフォーマンスとしてのScoreが改善したことはDT群において学習が生じたことを裏付けるものと考えられた。一方でST群では同様の脳血流変化は少なく、有意なパフォーマンスの改善も得られなかった。つまり、二重課題トレーニングは単純課題トレーニングと比較し、学習効率に優れるトレーニング法であることが脳血流量変化から示唆された。【理学療法学研究としての意義】二重課題トレーニングは単一課題と比較して学習効果の高い方法である可能性が示唆された。臨床における理学療法の介入手段として、二重課題トレーニングを選択する際の根拠の一つになると考える。
  • 滝本 幸治, 竹林 秀晃, 宮本 謙三, 宅間 豊, 井上 佳和, 宮本 祥子, 岡部 孝生, 椛 秀人
    セッションID: A-P-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】随意運動におけるタイミングと力は動作協応の主要なパラメータである(乾, 2007)。数多くの先行研究により力とタイミングの制御特性は報告されているが、この両者の関係性についての結論は必ずしも一致していない。このような力とタイミングの制御特性を検討する際には、設定するタッピング速度や発揮筋力の相違により結果が左右されるため注意が必要である。加えて、タッピング課題では加齢による影響も報告されている。また、これらの報告の多くは手関節や手指のタッピング課題を用いた報告が多く、上肢に比べ周期運動を遂行する頻度の高い下肢では上肢とは異なる力とタイミングの制御特性を備えている可能性もある。そこで今回は下肢タッピング課題により、力とタイミングの制御特性を見出すため異なるテンポ速度を用い加齢の影響について検討したので報告する。【方法】対象は健常若年者8 名(若年群:平均22.5 ± 4.7 歳、男性5 名、女性3 名)、自立生活を営んでいる地域在住高齢者7 名(高齢群:平均72.9 ± 6.9 歳、全員女性)とし、Chapmanの利き足テストにより全対象者で利き足(測定肢)は右であった。対象者は、股・膝関節90°屈曲位、足関節底屈・背屈中間位の端坐位で、利き足の前足部直下のプレートに設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち、同肢位にて足関節底屈の等尺性最大随意収縮力(MVC)を測定した。運動課題は、異なる3 種の音刺激周期(ISI)下で、MVCより求めた20%MVCを目標筋出力とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下、足タッピング)とした。対象者は、電子メトロノーム(SEIKO社製)により与えられる3 種のISI (500ms, 1000ms, 2000ms)に同期するとともに、目前に設置されたPCモニターに表示される20%MVCの目標筋出力ラインと自身の筋出力値を視覚的に確認しながら足タッピングを実施した。各ISIにつき50 回の足タッピングを3 セット行い、3 セット目の中間30 回(11 〜40 回目)を解析対象とした。なお、筋力測定装置により得られたデータはAD変換され、サンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。データ解析には、力量解析ソフト(エミールソフト開発社製)を用いて各足タッピングの筋出力ピーク値を検出し、3 種のISIと2 つの連続するピーク値より求めた足タッピング間隔との誤差(タッピング間隔誤差)の恒常・絶対平均、またタッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また、20%MVCと筋出力ピーク値との誤差である筋出力誤差の恒常・絶対平均、筋出力ピーク値のCVを求めた。統計学的分析として、加齢や異なるISIが足タッピング間隔や筋出力の精度に及ぼす影響を検討するため、2(若年群、高齢群)× 3(500ms, 1000ms, 2000ms)の二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】すべての対象者に、実験に先立ち本研究の目的と方法を紙面にて説明し、同意を得た上で測定を行った。また、実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。【結果】タッピング間隔誤差の絶対平均について、若年群より高齢群の誤差が大きく(p<0.01)、またISI別では500msおよび1000msより2000msの誤差が大きい結果であった(順にp<0.01、p<0.05)。タッピング間隔のCVにおいても、若年群より高齢群の変動が大きかった(p<0.01)。一方、筋出力誤差の絶対平均において高齢群よりも若年群の誤差が大きかった(p<0.01)。また、筋出力ピーク値のCVにおいては、若年群より高齢群の変動が大きかった(p<0.01)。なお、いずれも交互作用は認めなかった。【考察】タッピング間隔からみたタイミング制御の側面は、明らかに加齢に伴い困難になることが示唆された。乾ら(2009)は手指タッピング課題を用いて500ms以下のISIで同様の傾向を報告しているが、足タッピングにおいて1000 および2000ms でも同様に加齢の影響が示されたことは重要な結果である。また、Miyakeら(2004)はISIが1800msを超えると時間的間隔を保持することが難しくなることを報告しているが、今回の結果ではタッピング間隔のCVがISI2000msを含むすべてのISI間で相違を認めなかったことも興味深い。一方、力の制御の側面では、タイミング制御と同様に筋出力ピーク値の変動は高齢群で大きかったものの、筋出力誤差の絶対平均では若年群の方が大きいという意外な結果を得た。仮説の域を脱しないが、目標筋出力ラインに自らの筋出力を合わそうとする筋出力調節の加減の程度が若年群の方が大きかったためと考えらえる。いずれにしても、加齢に伴い力制御の戦略が異なることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】異なる音刺激周期で加齢に伴う周期運動の特性を知ることは、歩行をはじめとした周期運動の機能向上を目的とした介入条件設定の根拠になる。
  • 高田 勇, 冨田 昌夫, 伊藤 慎英, 藤野 宏紀, 宮下 大典, 八木 崇行, 遠松 哲志, 野口 健人, 蒲生 一将, 栗田 貴史, 三 ...
    セッションID: A-P-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】姿勢制御を評価する方法として従来から重心動揺計を用いた測定があり,そこから得られる単位面積軌跡長(以下L/A)は姿勢制御の微細さを示す指標とされている.しかし,L/Aのみでは,姿勢制御における各身体部位の動きを読み取ることはできない.そこで,今回の研究では,各身体部位の動きを捉えるために加速度計を用いた測定を行い,同時に測定したL/A の大きさによって対象を任意に分類し,各身体部位の動きとL/Aとの関係性を分析した.これらの結果をクラインフォーゲルバッハの運動学で定義されている,微細な筋活動で姿勢制御するCounter activity(以下,CA)と,重りの釣り合いで姿勢制御するCounter weight(以下,CW)の活性化という2 つの姿勢制御戦略の概念に基づいて考察したので報告する.【方法】対象は,健常男性40 名(平均年齢22.4 ± 2.3 歳).加速度計(ATR-Promotions社製WAA-006,sampling周波数100Hz)を頭部(額),胸部(胸骨柄),仙骨部(左右上後腸骨棘間の中央)の3 ヵ所に取り付け,重心動揺計(Medicapteurs社製WinPod,sampling周波数10Hz)の上で,3m前方のホワイトボードを眺めるように静止立位をとらせ,各部位の加速度と足圧中心を30 秒間,2 回測定した.解析対象は,全ての部位の加速度データの同期に成功した45 試行とした.L/Aの結果により,a;0<L/A<1.5(/mm), b;1.5 ≦L/A<2.0, c;2.0 ≦L/A<2.5, d;2.5 ≦L/Aの4 群に分類した.加速度データは積分処理し位置変化情報に変換,移動平均法にてノイズを除去した.各部位の前後方向の動揺幅(mm)と動揺距離(mm)を算出し,Kruskal Wallis H-testを用いて各部位の群間及び群内比較を行い,有意差が認められた場合,Mann-Whitney U-test with Bonferroni correctionを行った(有意水準p<0.05).【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学疫学・臨床研究等倫理審査委員会の承認の下,事前に紙面と口頭にて十分な説明を行い,同意を得て実施した.【結果】L/Aの分類結果は,a群;12 例,b群;10 例,c群;14 例,d群;9 例であった.各部位の前後方向の動揺幅,動揺距離の平均値と標準偏差を以下に示す.動揺幅は,頭部a;4.1 ± 2.5, b;4.7 ± 3.3, c;2.6 ± 1.2, d;2.5 ± 1.0,胸部a;2.1 ± 0.8, b;2.3 ± 1.5, c;1.7 ± 0.6, d;1.5 ± 0.7,仙骨部a;2.0 ± 1.1, b;1.5 ± 0.3, c;1.1 ± 0.6, d;1.0 ± 0.4 で,いずれにおいても群間で有意差は認めなかった.群内比較では,頭部と仙骨部の間でb群(p=0.0143),c群(p=0.0099),d群(p=0.0097)に有意差を認めた.動揺距離は,頭部a;223.3 ± 81.7, b;170.7 ± 61.3, c;190.8 ± 52.3, d;279.7 ± 92.8,胸部a;139.9 ± 66.5, b;101.8 ± 65.9, c;112.1 ± 87.0, d;147.5 ± 111.0,仙骨部a;211.5 ± 59.2, b;103.5 ± 64.2, c;154.5 ± 65.5, d;215.8 ± 98.1 で,a群とb群の間で有意差を認めた(p=0.0427).群内比較では有意差を認めなかった.【考察】動揺幅の群内比較では,b,c,d群で頭部と仙骨部の間に有意差を認めた.有意差は認めなかったが,各部位の動揺幅はb,c,d 群の順に小さかった.動揺距離は,a群とb群に有意差を認めたが,その他の郡内,群間には有意差は認めなかった.よって,L/Aが大きいほど,頭部,胸部,仙骨部の動揺幅は減少し,仙骨部よりも頭部の動揺幅が大きくなる傾向がみられた.動揺距離は有意差を認めなかったが,d群が他群と比較して頭部,胸部,仙骨部の全てにおいて最も長い結果となった.このことにより,L/Aが大きいほど,動揺距離が長くなる可能性が残った.以上により,クラインフォーゲルバッハの運動学の概念に基づいて考察すると,L/Aが大きいほど,身体各部位の動揺幅は小さくなり,動揺距離が大きくなるという結果は,身体各部位が連動しながら微細かつ複雑な動きによって姿勢制御していることを示唆しているのではないか考えられる.つまり,CAの戦略が優位になっていることを示す.この逆の結果は,重りの釣り合いで姿勢制御するCWを活性化する戦略を判定できるのではないかと考えた.今回は,姿勢制御戦略の評価を試み,L/Aの分類によって,加速度計とのデータを検討した結果,CA とCWを活性化する戦略を定量的に評価できる可能性がみられた.今後は,身長,体重などを考慮するデータ補正,さらに,精密な評価を同時に行い,L/Aの分類によって,姿勢戦略の判別が可能となるか検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】姿勢制御にアプローチする理学療法の治療効果を示すための評価法の研究は,理学療法学研究として大変意義のあることである.研究で詳細な検討を行い,臨床では,簡便かつ安価にできる評価法を確立していきたい.
  • 高橋 優美, 笠原 敏史, 齊藤 展士, 寒川 美奈
    セッションID: A-P-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】高齢者の転倒は骨折や打撲にとどまらず廃用症候群をも引き起こす重大な問題である。鈴川らの調査によると、要介護高齢者の施設利用時の転倒の直接的原因は躓き、踏み外し、接触や滑りの総数よりも立位でのバランス崩壊が多かったと報告している。一方、リハビリテーションを受ける患者や利用者も疾病による運動障害に加え加齢による転倒の危険性も加わる。したがって、加齢による姿勢制御の変化を明らかにすることは、転倒予防のため運動療法のバランス訓練作成の一助となる。姿勢応答への加齢の影響は運動開始について調べられているが、運動停止についての知見は乏しい。外乱刺激を用いて姿勢応答を調べたLinら研究では、高齢者は刺激を受けてから安定した姿勢に戻るまでに足圧中心(COP)の大きな動揺を示し、COPを安定させるまでの時間が延長したと報告した。歩行停止に関する研究では、転倒群は非転倒群に比べ歩行停止に要するステップ数の有意な増加を示していた。このように転倒と運動停止の遅れの関係が指摘されているが、日常生活を意識した随意的な立位バランスでの動作の停止に関する研究はみられない。以上のことから、本研究では加齢の随意運動の停止へに影響を明らかにするため、立位姿勢時のCOPの随意的運動停止課題に着目し、高齢者と若年者を比較検討した。【方法】健常若年者14 名(平均年齢20.7 歳、身長172.0cm、体重60.0kg)、健康高齢者23 名(69.6 歳、164.1cm、体重 62.8kg)を対象とした。いずれも過去1 年間に整形外科疾患、中枢神経疾患、眼疾患等のバランス障害を引き起こす疾患の既往はなかった。被検者は目の高さに置かれたディスプレイを見ながら、裸足で床反力計上に両脚で立つ。画面を上方に動く目標とCOPを示すマークを同時に写し出し、目標にCOPを一致するように指示された。目標の動きは目標振幅(=最大前方移動量)は50 mm、周波数0.25 Hzのランプ状の離散運動課題とした。各課題10 周期以上繰り返し行わせ、LabViewにて記録、処理した。COPの座標データは10Hzのローパスフィルタにて平滑化した。Matlabを用いて目標の位置と被検者のCOPの軌跡のデータを微分した速度波形から各被験者の7 〜10 周期分の平均値を求め、以下の項目について高齢者と若年者を比較した:運動反応時間を目標の運動開始(T0)とCOPの運動開始(T1)との差とし、COPの運動開始は安静立位時の平均± 2 ×標準偏差(2SD)を超えた点とした;運動準備時間はT1 からCOP後方最大速度(T2)までの時間とした;推進時間はT2 からCOP前方最大速度(T4)とした;制動時間はT4 からCOP停止(T5)までとし、COP停止は安静立位時300 msecの平均± 2SD内を500 msec以上続く最初の点とした。総運動時間をT1 からT5 までとした。統計解析はSPSS を用いて有意水準0.05 以下とした。【説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており(承認番号08-3)、被検者に書面をもって十分な説明を行い、同意を得た者が実験に参加した。【結果】COPの前方及び後方の最高速度に年齢差を認めなかった。反応時間は若年群224.1 ± 93.1 msec、高齢群314.2 ± 56.0 msec、高齢群で有意に遅れていた。運動準備時間は若年群290.4 ± 83.7 msec、高齢群261.5 ± 66.4 msecで有意差をみなかった。推進時間は若年群564.0 ± 164.7 msec、高齢群451.3 ± 110.0 msec、若年群は有意に延長していた。制動時間は若年群2179.5 ± 653.0 msec、高齢群1787.9 ± 507.3 msec、若年群で有意に延長していた。総運動時間は若年群3033.9 ± 713.7 msec、高齢群2474.7 ± 494.1 msec、若年群で有意に延長していた。【考察】高齢群の反応時間はこれまでの報告と同じく若年者に比べて遅延していた。本研究では高齢群の推進時間や制動時間の延長を予想したが、結果は反していた。この結果に対する可能性のある説明として、加齢と運動速度(本研究では周波数)と関係があげられる。Fittsによると運動の正確さは運動速度の増加とともに低下し、この関係は運動速度と正確さのトレードオフと呼ばれる。前々回の本大会で我々の研究グループは運動の正確さは必ずしも運動速度と線形関係を持たず、より低い速度域でも運動の正確さが低下し、U字型の曲線関係を持つことを発見した。そして、課題や被験者の特性によって運動パフォーマンスを最大限に引き出す速度域があることを報告した。このことから、本研究での運動周波数0.25Hzは若年群に比べて高齢群とってより適した周波数であったのかもしれない。今後、更なる研究が様々な周波数や被験者で検証する必要がある。【理学療法としての意義】高齢化する患者の理学療法において加齢に伴う機能低下を考慮する必要がある。本研究により、高齢者の低速度での運動パフォーマンスが向上することから、安全な運動速度での動作の遂行が奨励される。
  • 白木 春菜, 平井 達也, 伊藤 忠
    セッションID: A-P-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy: MMN)は、脱髄性疾患であり、臨床学的には下位運動ニューロン障害に類似している。主な症状として筋萎縮や筋繊維束攣縮を認めるが、詳細な病態や原因については未だ不明である。MMN症例は日本において約400 名しか確認されていない非常に稀な疾患であり、リハビリテーション分野における報告も少なく、筋活動の病態も明らかになっていない。そこで本研究の目的は表面筋電図を用い、MMN症例における下肢筋の病態を電気生理学的に検索することとした。【方法】本症例は40 歳代後半の男性であり、2009 年5 月ごろから徐々に筋力低下を認め、2010 年9 月にMMNと診断された。本症例の臨床症状として、中間的な筋収縮が発揮しにくい、ゆっくりとした関節運動が行えないなどの特異的な点が挙げられた。本症例の運動時の下肢筋活動を携帯型筋電図計測装置(マイオトレース400、酒井医療)を用いて測定した。運動課題は、端座位にて膝関節90 度屈曲位での膝関節伸展運動の等尺性収縮において、開始から10 秒後に最大随意収縮となるような段階的な伸展運動とした。被験筋は右側の大腿直筋とし、前処理を十分にした後に、上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ約半分の位置に電極中心間距離2.0cmにて電極を貼付した。解析ソフトウェア(マイオリサーチXPマスター、酒井医療)を用い、全波整流後、課題の開始時から終了時までの1 秒毎の積分値を算出した。分析は、1 秒間毎の積分値の最大随意収縮時積分値に対する比率(%MVC)、及び各1 秒間の%MVCの増減とその平均値、変動係数を算出した。比較対象は、神経学的、整形外科的疾患のない健常若年男性1 名(27 歳)とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の主旨と倫理的配慮について説明し、書面にて同意を得た。【結果】運動課題における1 秒毎の%MVCの増減は、MMN症例では8.7%、1.7%、13.9%、-5.8%、28.0%、38.0%、-10.2%、7.6%、6.3% であり、変動係数は1.6 となった。健常若年者では9.5%、7.4%、12.7%、5.3%、1.4%、5.4%、16.6%、16.1%、10.8%であり、変動係数は0.5 となり、MMN症例は健常若年者に比べてばらつきが大きい結果となった。【考察】今回、表面筋電図にて大腿直筋における段階的な収縮運動時の筋活動を計測したところ、MMN症例は健常若年者に比べて1 秒毎の増減の値にばらつきがみられた。これは、MMN症例は健常若年者と比べて筋出力の調節が行えていないと言える。サイズの原理に従うと、通常、弱い収縮すなわち本実験課題の初期段階では、運動ニューロンのサイズや神経支配比が小さいS型の運動ニューロンが発火する。徐々にFR型の中くらいの運動ニューロンが発火し、最終的にはFF型の神経支配比が大きく高張力を生み出すニューロンが発火する。徐々に筋活動を高めていく場合、これらの運動ニューロンが時間的にオーバーラップし、極端な張力の増減がコントロールされると考えられる。一方、MMNの場合、それらのニューロンが脱髄により量的に欠落し、スムースな張力のコントロールが困難であったと考えられる。特に中間的な張力を維持することが困難で、急激な張力の増加が特徴的であり、FR型の運動ニューロンの著しい欠損が疑われた。【理学療法学研究としての意義】MMNは非常に稀な疾患であり、理学療法分野での報告は数少ない。今回、MMN症例の膝関節伸展運動において段階的な筋収縮が困難であり、健常者とは異なる筋収縮をすることが示唆された。このような筋の病態を電気生理学的に知ることで、今後の理学療法アプローチの手段に寄与すると考える。
  • 田中 恩, 上原 一将, 窪田 慎治, 隠明寺 悠介, 守下 卓也, 藤本 周策, 平野 雅人, 船瀬 広三
    セッションID: A-P-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】理学療法実施において他者の動作を模倣することは,患者にとって基本的な練習方法の1 つであり,理学療法士にとっても評価・治療に必要なスキルの1 つである.Sakamoto(2009)らによると,他者の動作の観察時にM1 の興奮性が高まり,同時にイメージをすることでM1 の興奮性がさらに高まることをミラーニューロンの働きと関連付けることで説明されており,漫然と観察しているのか,注視して観察しているのか等,観察条件の違いが結果に影響することも知られている.他方,体性感覚野における視覚と触覚の多感覚を統合するシステムが存在することが明らかになっているが,異なる体性感覚刺激の入力によるM1 興奮性に関する検討はされていない.そこで,本研究では,他者の把持動作観察時にタイミングを合わせて観察者の手指の体性感覚を刺激し,視覚と体性感覚という異なる感覚入力を同時に刺激した場合の観察者の手指筋支配M1 の興奮性変化についての検討を通してミラーニューロンシステム(MNS)が活性化されやすい神経生理学的因子について明らかにすることを目的とする.【方法】被検者は健常成人8 名(22-29 歳)とし,他者が右手の拇指と示指で水平U字鋼のつまみ動作を行う映像を観察する際に,観察者である被検者の右手第一背側骨間筋(FDI)および小指外転筋(ADM)支配の一次運動野(M1)に8 の字コイルを用いて経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え,両筋から運動誘発電位(MEP)を記録した.TMS強度はFDIの安静時閾値の1.2 倍とした.被験者は安静座位でテーブルに両手を回内位で置き,眼前1mに設置された映像モニターを注目し,以下の4 条件が与えられた.1)control:映像モニターの背景静止画を見る,2)指先への電気刺激(ES)のみ,3)提示映像の観察(OBS)のみ,4)OBS+ES.提示映像は,被験者にとってつまみ動作が一人称視点になるように,実験者が水平U字鋼をつまむ動作をビデオカメラで撮影しリアルタイムでモニターに映した.また,U字鋼に歪みゲージを貼付し,つまみ動作と同時にESおよびTMSのトリガーがかかるようにした.課題1,2 は実験者の任意のタイミングでESおよびTMSを行い,課題3,4 はつまみ動作トリガーによりESおよびTMSを与えた.ESとTMSの刺激間隔は刺激感覚入力の対側感覚野への遅延時間を考慮し25msとした.ESは母指と示指にバータイプ電極を当て,5ms間隔で1ms矩形波を5 発与えた.ES強度は指先に触覚を引き起こす程度(感覚閾値の約1.3 倍)とした.統計処理は,条件と筋を要因とした二元配置分散分析を行い,post-hoc test としてBonferroni testを行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院総合科学研究科倫理委員会の承認を得て実施した.また,被験者には十分な説明を行い書面にて同意を得た.【結果】二元配置分散分析の結果,FDI,ADM間に有意な差がみられた.また,FDIにおける各条件下でのMEPはいずれもcontrolと比較して減少傾向がみられ,多重比較の結果controlとOBS+ES間に統計的有意差がみられた.ADMにおいては各条件間の有意差はみられなかった.【考察】筋間の差から,つまみ動作時に実際に活動するFDIにおいて観察者のM1 興奮性が高まることが示唆された.また,先行研究ではOBS条件でMEP増大がみられたが,本研究では,視覚刺激と触覚刺激を同時に行った場合,MEP振幅が減少することが示された.これは異なる2 種の感覚入力により,観察者の当該筋支配M1 興奮性が抑制されることを示しており,MNSに対する効果を示唆するものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】動作の観察模倣システムが明らかとなり,効率的な模倣が可能となれば,理学療法士にとっても患者にとっても有意義なことであり,本研究はその基礎的知見となると思われる.
  • 鈴木 智高, 東 登志夫, 髙木 峰子, 菅原 憲一
    セッションID: A-P-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】大脳半球は対側上下肢の運動を制御するとともに、半球間の連動により1 つのシステムとして機能するため、片手運動時、運動肢と同側の一次運動野にも活動(ipsilateral M1 activation)がみられる。この活動は、左右大脳半球間で非対称性を認め、右利き者が左手で運動をしている時の左M1 で著明となり、さらに複雑な運動課題でより顕著になることが報告されている。しかしながら、そのメカニズムの詳細は明らかになっていない。そこで、本研究では、複雑な片手運動時に生じるipsilateral M1 activationとその左右非対称性が、運動学習によってどう変化するのかを経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて検討した。【方法】右利き被験者11 名が参加した。本研究の運動課題はtwo-ball-rotation課題(kawashima et al. 1998)とし、20 分間の練習前後で本課題のパフォーマンス測定とTMS測定が行われた。パフォーマンスはできるだけ速く運動課題を行うよう指示し、ビデオ撮影の記録からその回転数を指標とした。TMSは単純反応時間課題を用いて、課題実行時母指球筋(Thenar)の筋電位onsetに基づき誘起した。全ての測定において、運動課題は左右それぞれの手で実施され、TMSコイルはtask handと同側半球に置き、対側のThenarと第一背側骨間筋(FDI)から安静時の運動誘発電位(MEP)を記録した。解析はtwo-way repeated-measures ANOVAとpost hoc t-testを使用して、task hand(右、左)と練習(Pre、Post)の要因を検討した。加えて、練習による上達度とMEPの変化について、ピアソンの積率相関係数を求めた。有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究は,本学研究倫理審査委員会による承認後実施した。参加者には,事前に書面および口頭にて説明し,同意が得られた者を対象とした。【結果】本運動課題においてtask handの左右差はなく、両側とも練習後有意にパフォーマンスが向上した(p < .001)。ipsilateral M1 activationの指標となるMEPに関して、PreではThenar(p = .792)、FDI(p = .587)ともにtask handによる差はなく対称的であった。しかしながら、Postにおいて、右側のThenar(p = .014)とFDI(p = .022)のみ有意に減少し、左側では変化が生じなかった。加えて、左Thenarにおいて、練習による技能向上(回転数増加率)とMEPの減少(減少率)は、r = -.683(p = .029)で有意な負の相関を認めた。【考察】本研究では、運動課題中に著明なipsilateral M1 activationが両側性にかつ対称的に生じていた。しかし、先行研究ではこの活動は左右非対称性に生じると報告されている。この非対称性は系列運動課題(タッピング、対立運動)において示されている。一方、本運動課題は手内筋や前腕筋群を協調的に活動させることが必要となる。すなわち、より複雑な運動制御を要する課題である。ゆえに、課題とその難易度に依存してipsilateral M1 activationは両半球において対称性に生じるものと推察される。しかし、運動学習後、左ipsilateral M1 activationのみが有意に減少し、非対称な変化が生じた。さらに、この活動の減少は左半球の興奮性においては、課題の上達と関連が無かったのに対して、右半球のipsilateral M1 activationは課題の技能向上に依存して変化する可能性が認められた。先行研究から、左(優位)半球に顕著なipsilateral M1 activationは、右(非優位)半球からの不十分な抑制によるものと仮定される。しかしながら、対称性に生じていたipsilateral M1 activationが、学習後、右半球では変化せず、左半球では減少したことから、この活動は半球間抑制における優劣とは関連しないと推測される。Liangら(2008)は、task handと対側に生じるMEPの促通は皮質内抑制の減少によるものであると示唆している。よって、運動学習後にみられるipsilateral M1 activationの減少は、皮質内抑制の増強に影響を受けるものと考えられる。これまで、左半球は運動学習や運動制御において優位であると仮定されてきた。この運動優位性は片手運動時のipsilateral M1 activationとも関連しており、運動学習においてより顕著に示されることが示唆された。さらに、左半球のipsilateral M1 activationは、運動制御において技能向上に依存することなく予測的に減少するのに対して、右半球では課題の上達に連動し、段階的に変容し得ることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年、半球間抑制メカニズムを根拠としたニューロリハビリテーションが注目されている。TMSの二連発刺激を用いた更なる検討により、ipsilateral M1 activationの半球間および皮質内抑制動態を明らかにするとともに、その機能の左右非対称を明らかにすることは、ニューロリハビリテーションの根拠として重要な知見となる。
  • 谷本 正智, 田辺 茂雄, 兒玉 隆之, 瀧 昌也
    セッションID: A-P-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】微弱な電気刺激を頭皮上から刺激することで皮質興奮性変化を及ぼすとされる経頭蓋電気刺激法(Transcranial electrical stimulation以下TES)の基礎ならびに臨床での有用性は近年多く報告されている.しかしそれら刺激の種類や頻度,持続時間,強度は様々であり,さらにTESによる直接的な皮質興奮性変化の特定には一定した見解が得られていない.そこで本研究ではTES における直流刺激(Transcranial Direct Current stimulation 以下DCS)と交流刺激(Transcranial Alternative Current stimulation以下ACS)を,縦断的に同一被験者へ短時間刺激として行った.さらに脳内神経活動の三次元画像表示法であるstandardized Resolution Brain Electromagnetic Tomography(以下sLORETA)解析により,DCSならびにACSそれぞれの神経活動部位を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は運動・感覚障害または神経疾患の既往のない健常成人3 名(男性2 名,女性1 名)平均年齢21.6 ± 0.58 歳とした.測定環境は24°定温の防電・防音室にて実施し,被験者が室内入室から15 分後以上経過した後より測定を開始した.測定肢位はリクライニング車椅子での安楽座位とした.実験手続きとして,まずTES(Neuro Conn社製Eldith DC-Stimulator Plus)刺激電極を左側一次運動野(M1)と右側頭頂皮質(P4)に設置した.脳波測定にはNECバイタル社製EEGsanei-1A97Aを用いた.設置電極は国際10/20 法における標準電極設置位置の18 部位より導出した.基準電極は両耳朶A1・A2 とした.インピーダンスチェックにおいて全ての電極は5kΩ以下とした.バンドパスフィルターは0.3-60Hz,サンプリング周波数256Hz,計測時間は60 秒とした.課題条件として安静座位時の脳波を1)Control条件とし計測した.次に2)左M1 を陽極(Anodal),右P4 を陰極(Cathodal)としてDCSを90 秒間通電,180 秒の安楽座位休息後,3)ACS刺激周波数20Hz(β周波数帯)にて同部位に90 秒間通電した.2)および3)の直後に脳波測定を実施し,順序効果およびカウンターバランスを考慮し2)と3)の条件は被験者毎に入れ替え計測した.導出したEEG 結果よりsLORETA解析を行った.得られたsLORETAデータの各課題条件と周波数帯域をsLORETA statisticsによって,二元配置分散分析および多重比較検定を行い比較検討した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究における電流密度はDCS:0.0285mA/cm2,ACS:0.01mA/cm2であり,臨床神経生理学会指針に準拠し安全性に配慮されている.また.被験者全員には研究をいつでも中止できる権利があることなどを同意取得説明文によって説明し,直筆同意書を得て愛知県済生会リハビリテーション病院倫理委員会の承認(承認番号201205)を受けて研究を実施した.【結果】Controlにおいてはδおよびθ波の活動性を認めず,High α波帯域にて健常者の安静時に認められるDMN部位(後部帯状回)の神経活動性を認めることから安静であることが確認された.2)DCSでは,Controlに比べμ波の有意な減衰およびHigh α帯域で有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.3)ACSではControlに比べβ帯域にて有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.DCSとACSの比較では,High α帯域でDCSが有意に,またβ帯域でACSが有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.【考察】脳波測定での周波数帯変化と,同領域における脳血流量変化ならびにfMRIとLORETA解析の空間分解能には相関があることが報告されている.したがって,本研究結果における神経活動部位の定義は妥当性があると考えられる.DCSにおいてμ波の有意な減衰とHigh-α帯域におけるDMNを反映する後帯状回,楔前部の活動性向上を認めたことについて,先行研究よりDCSは感覚運動領野を有意に賦活すること,さらに刺激電極直下のみならず遠隔部位機能連関がこれまでも報告されており,本研究における短時間DCSは感覚運動領野ならびに後帯状回への影響が示唆された.またACSでは,Control,DCSと比較して有意にβ帯域の広範囲な皮質興奮性を認めたことについて,先行研究では特にβ帯域である20Hz刺激周波数依存的にニューロン同期振動活動が共鳴・増幅し,皮質を伝播することから興奮性が増大すると推察されており,本研究結果もそれらを支持する結果であった.【理学療法学研究としての意義】本研究における短時間DCSでは,感覚運動領野とHigh α帯域に特異的にDMN部位の賦活を認めた.またACSでは脳の活動状態を反映するβ周波数帯域において脳全体の皮質興奮性が確認され,TES刺激時間,種類の違いによる皮質興奮性の位相変化が確認された.
  • 富永 孝紀, 市村 幸盛, 大植 賢治, 湯川 喜裕, 平本 美帆, 森岡 周
    セッションID: A-P-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】体性感覚は,巧みに道具を扱うために重要な役割を果たす.また,臨床において運動機能回復を目的に体性感覚を利用することは多い.体性感覚と一次運動野(M1)の神経活動動態の関係ついて,皮膚電気刺激によるM1 の興奮性増加(都丸2003),接触の有無と運動イメージとの関係におけるM1 の興奮性増加(Mizuguchi 2011),触覚識別の有無における感覚運動野の活性化(村上 2008)などの報告がある.しかし,他動運動による知覚対象との関係とM1 の興奮性の変化についての報告は少ない.今回,健常成人を対象に他動運動における知覚対象の違いおよび対象識別の有無がM1 の神経活動動態に及ぼす変化について,経頭蓋磁気刺激(TMS)を用い検討した.【方法】対象は,健常成人9 名(男性3 名,女性6 名,年齢25.7 ± 3.6 歳)とした.被験者は,椅子座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した.課題は,表面素材が異なる4 種類の平面パネル(接触条件)と物体形状が異なる4 種類の対象物(形状条件)を使用し,各課題前に被験者に提示した上で記憶するように指示した.課題は,4 課題を設定し,検者が被験者の右第3 指を保持してすべて他動運動で接触,形状条件を実施した.課題1 は,接触条件におけるパネルを1 種類のみ触れさせる課題とした.課題2 は,接触条件における4 種類のパネルからランダムに検者が選択し,被験者にどの素材を触れたか識別させることを要求した.課題3 は,課題1 の手順と同様に形状条件で実施し,課題4 は課題2 の手順と同様に形状条件で識別させることを求めた.課題中は,被験者から右手が見えないように台を設置し実施した.TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8 の字平型コイルを用い,運動誘発電位(MEP)は,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1 背側骨間筋から記録した.刺激のタイミングは,対象物に触れさせ他動運動開始から約2 秒後に左M1 の手指領域の直上を刺激した.左M1 への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3 次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した.刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10 〜15 回ずつ測定し,MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比を算出した.統計学的処理は,各課題を要因としたMEP振幅比の値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた対象者に実験を行った.【結果】MEP振幅比は,課題1;2.1 ± 1.2,課題2;3.7 ± 1.9,課題3;3.4 ± 1.4,課題4;5.3 ± 2.4 であり,課題の違いによって変化が生じることが示された(F (3,32)=4.23,p<0.05).課題4 におけるMEP振幅比は,課題1,課題3 に比較して有意な高い値を示した(p<0.05).その他の課題間におけるMEP振幅比には,有意な変化は認められなかった.【考察】今回,物体形状を識別させる課題4 においてMEP振幅比が高い値を示した.物体形状を認識するためには,主に触覚や運動覚の統合が要求される.感覚野からM1への入力は,3野,1野あるいは3野,1野,2野といった階層処理を終えた情報が,機能連結していると考えられている.そのため一次体性感覚野の階層処理が必要と考えられる課題4 は,主に触覚の情報が処理される課題1 に比較して左M1 の神経活動動態の興奮性を高めたと考えられる.さらに,物体形状を識別するということは,感覚情報に対して注意を向けるといった能動的触覚(active touch)の要素を含む.一次体性感覚野は,能動的触覚に際し活性化することが報告されており,課題3 に比較しより能動的な要素をもつ課題4 は,一次体性感覚野の活性化に伴ない左M1の神経活動動態の興奮性を高めたと考えられる.また,その他の課題間には有意な差は認められないものの,識別を要求する課題2,4 において左M1 の神経活動動態の興奮性を高める傾向が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,健常人を対象とした体性感覚とM1 の神経活動動態の変化を検討したものであるが,今後の中枢神経疾患におけるM1 の神経活動動態を検討する上で基礎的な指標となる.
  • 森田 とわ, 山口 智史, 立本 将士, 前田 和平, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平, 田中 悟志
    セッションID: A-P-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】両脚交互運動であるペダリング運動は、歩行に類似した筋活動の賦活が可能であり、脳卒中後の下肢運動機能障害のリハビリテーションとして使用されている。しかしながら、ペダリング運動に伴う大脳皮質の可塑的変化の詳細については、未だ明らかではない。本研究では、健常者を対象として5 日間のペダリング運動前後における大脳灰白質の局所的な体積変化を、磁気共鳴画像計測(magnetic resonance imaging: MRI)とvoxel-based morphometry (VBM)解析(Ashburner & Friston, 2000)により明らかにする実験を行った。【方法】対象は健常成人26 名とし、介入群14 名(年齢:25.0 ± 3.8 歳,男性10 名)、非介入群(統制群)12 名(年齢:24.5 ± 1.1歳,男性8 名)とした。介入群は5 日間連続でペダリング運動を行った。ペダリング運動の初日と最終日に頭部解剖MRI画像を計測し、VBM解析によりペダリング運動に伴う大脳灰白質の局所的な体積変化を検討した。非介入群はペダリング運動を行わず、5 日間の間隔をあけて同様のMRI画像を計測した。ペダリング運動は、StrengthErgo240(三菱電機エンジニアリング社製)を使用し、設定はアイソトニックモード5Nmとした。行動計測課題は、ペダル回転速度を変動させることにより、ディスプレイ上を上下に移動するマーカーを不定周期の上下曲線に合わせるトラッキング課題とした。被験者は1 日20 分のペダリング運動を5 日間連続で実施した。データ解析は、トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(root mean square : RMS)を算出した。統計解析は、学習効果の評価をするため、課題のRMS値と日にちの経過との間でPearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。MRI計測には、フィリップス社製1.5 テスラMRI(Intera)を使用した。フィールドエコー法によるT1 コントラスト画像を用い、以下のパラメータで全脳領域をカバーする範囲をペダリング運動の初日と最終日で計2 回撮像した(repetition time; TR = 9.9 ms, echo time; TE = 4.6 ms, flip angle; FA = 8°, field of view; FOV = 256 mm, matrix = 256 x 256 x 170, voxel size = 1 × 1 × 1 mm, 170 axial slices)。解析にはSPM8およびVBM8 toolboxを使用した。まず得られたMRI画像を、灰白質、白質、脳脊髄液の3 領域に分離した。この分離には、標準脳座標空間における確率密度分布マップ(DARTEL template, Ashburner, 2007)を用いた。その後、8mm幅のハウチ幅を持つガウスカーネルによって空間的なスムージングを行った。このような空間的データ処理を実施した灰白質画像に対して、ペダリング運動前後での体積変化をボクセルごとに対応のあるt検定で実施した。解析の対象とする脳領域は、ペダリング運動時の脳活動がポジトロン断層撮像を用いて報告されている下肢一次運動野領域(Talairach標準空間座標x=7, y=-31, Z=62 を中心とした半径20mmの領域)とした(Christensen et al., 2000)。有意水準は0.5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属機関の倫理審査会により認可され、事前に全ての対象者に研究内容を説明し、同意を得た。【結果】日にちの経過と共にトラッキング誤差は有意に減少していった(r=-0.63)。このことは、介入群の被験者が新規な環境におけるペダリング運動に順応していったことを意味している。また、ペダリング運動実施前に比べて5 日後において下肢一次運動野の灰白質体積が有意に増加した(ピークの座標位置 x = -5, y = -48, z = 51; t統計値 = 3.86, p < 0.001, cluster size = 68 voxels)。このことは、介入群において5 日間のペダリング運動の実施に伴い下肢一次運動野において脳の形態的な可塑的変化が生じた可能性を示唆している。一方、非介入群では、下肢一次運動野において有意な体積の差は認められなかった。【考察】本研究の結果から、健常成人の5 日間のペダリング運動に伴い、下肢一次運動野領域の灰白質体積が増加するという新たな知見を得た。近年、ヒトの運動学習に伴い、灰白質の局所的な体積変化が生じることがMRIとVBM法を使った研究により相次いで報告されている(例えばDraganski et al., 2004; Boyke et al., 2005)。本研究では、理学療法で使用される運動介入においても、大脳皮質運動野において形態的な変化が生じうる可能性を初めて示した。今後、脳卒中患者でもペダリング運動の実施によって同様の灰白質の可塑的変化が認められるか、およびその変化がどのように機能回復と関連しているかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回観察されたような運動やトレーニングに伴う灰白質体積の増加は、今後知見が充分に蓄積されていけば、理学療法の効果を非侵襲かつ定量的に評価する上での新しい画像診断法となり得る可能性がある。
  • 河内 淳介, 浅川 大地, 福原 隆志, 川越 誠, 坂本 雅昭, 臼田 滋
    セッションID: A-P-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】日常生活における歩行では,信号や段差を確認する,会話をする,といった複合した課題を遂行していることが多い。また環境に応じた歩行速度や歩幅などの調整が要求される。高齢者はこれらの複合課題能力が低下することで,転倒リスクが増加するとされている。近年,二重課題下での動作分析,特に歩行に関して検証された研究が数多くみられる。しかし比較的短距離のものが多く,また歩行速度との関連を示したものは少ない。歩行速度の増減は歩行という運動課題の遂行に必要な注意量を増加させ,安定性に影響を及ぼすことが考えられる.そこで本研究では認知課題の有無による歩行の変化,また歩行速度による注意量の違いが,それらの変化に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は健常大学生19 名(男性10 名,女性9 名,平均年齢21.6 ± 1.0 歳)とした。認知課題としてストル−プテスト,運動課題としてトレッドミル歩行を行った。ストループテストとは,表示される色名ではなくその文字色を答える視覚的認知課題であり,赤青黄緑の計4 色,60 コマ/分のものを使用した。課題内容はトレッドミル歩行のみを行う単一課題(single task:以下ST)と, ストル−プテストを行いながらトレッドミル歩行を行う二重課題(dual task:以下DT)とし,歩行速度5 条件(至適歩行速度,至適歩行速度+1km/h,+2km/h,−1km/h,−2km/h)とそれぞれに認知課題の有無2 条件の計10 条件とした。計測時間はSTを20 歩行周期分,DTを1 分間とし,それぞれ中央の10 歩行周期分を解析対象とした。測定機器として3次元動作解析装置VICON612を使用した。マ−カ−貼付位置は第7頚椎棘突起,両踵骨後面中央の計3点,サンプリング周波数は60Hzとした。測定項目は1 歩行周期の平均時間,1 歩行周期時間の変動係数,歩幅の平均距離,歩幅の変動係数,1 歩行周期あたりの体幹の左右動揺距離の平均値とした。またデジタルビデオカメラで撮影した映像と音声より,ストル−プテストの誤答数を計測した。統計処理にはSPSS19.0 を使用し,各測定項目について歩行速度条件と認知課題の有無の2 要因による反復測定2 元配置分散分析を行った。その後認知課題の有無毎に速度条件間で多重比較,速度条件毎に認知課題の有無間で対応のあるt検定を行った。また誤答数について歩行速度条件のみの反復測定1 元配置分散分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し,研究内容と起こり得る危険について口頭および書面を用いて十分に説明を行い,同意を得た。【結果】1 歩行周期の平均時間(0.94 ± 0.04 から1.78 ± 0.43 秒)では,歩行速度と認知課題の有無で交互作用がみられ(p<0.01),低速度条件においてSTと比較しDTで平均時間の短縮が有意であった。歩幅の平均距離(40.12 ± 5.35 から77.39 ± 8.01cm)はSTと比較しDTで低値となる傾向があり,−2 km/h,−1 km/h,± 0km/hで有意であった(p<0.01)。1 歩行周期時間の変動係数(1.61 ± 0.82 から3.87 ± 1.38%),歩幅の変動係数(3.76 ± 1.29 から8.59 ± 6.05%)では,速度間でのみ有意差がみられた(p<0.01)。1 歩行周期あたりの体幹の左右動揺距離の平均値(66.37 ± 11.10 から148.78 ± 38.50cm)はSTと比較しDTで高値となる傾向があり,± 0 km/h(p<0.05),+1 km/h(p<0.01),+2km/h(p<0.01)で有意であった。誤答数(2.32 ± 2.58 から2.79 ± 3.41 回)は速度間で有意差は見られなかった。【考察】DT条件では認知課題への注意を要求されることで歩行へ配分される注意量は減少し,歩行の不安定性が増大することが考えられる。それに対し健常成人では,歩行周期時間,歩幅を短縮し両脚支持時間の割合を増加させることで,歩行の安定化を図っていると考えられた。これらの変化が低速度条件において顕著であったことから,課題遂行に必要な注意量は低速度で最も大きくなると考えられる。体幹の左右動揺距離はDT条件下で有意に高値を示し,二重課題下における歩行への影響,転倒リスクの増大との関連性を示唆していた。高速度において変化が顕著であったのは,1 歩行周期あたりの総動揺距離として算出したため,DTで歩行周期時間の短縮がみられる低速度条件においては有意差が出なかったことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究において,速度の違いにより歩行動作に必要とされる注意量は変化することが示唆された。今後,複合課題能力が低下するとされる高齢者を対象に検討することで,転倒リスクの予測や歩行能力の評価に有用な指標となることが考えられる。
  • 米田 浩久, 實光 遼, 松本 明彦, 岩崎 裕斗, 金子 飛鳥, 守道 祐人, 鈴木 俊明
    セッションID: A-P-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】課題指向型の運動学習条件としてpart method(分習法)とwhole method(全習法)がある(Sheaら,1993)。このうち分習法は獲得する動作を構成する運動要素に区分して別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作をひとまとめに練習する方法である。全習法は分習法と比較して学習効果が高く、運動学習の達成度は早い。これに対して分習法は学習した運動の転移が可能なことから難易度の高い運動に有用であるが、獲得から転移の過程を経るため全習法よりも時間を要する。一方、理学療法では早期の動作再獲得を図るため障害された動作の中核を構成する運動を選択的かつ集中的にトレーニングする分習法を採用することが多く、1 回あたりの治療成績は全習法よりもむしろ分習法の方が良好であり、早期に改善する印象がある。そこで今回、分習法による早期学習効果の検討を目的にバルーン上座位保持(バルーン座位)による下手投げの投球課題を用いて全習法と分習法による運動学習効果を比較検討した。【方法】対象者は健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名、平均年齢20.4 ± 0.4 歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ、2m前方にある目標の中心に当てるように指示し、お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。バルーン上座位は投球前後に各5 秒間の保持を要求し、学習課題前後に各1 回ずつ実施した。目標から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描き、中心からの16 本の放射線で分割した64 分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40 点、30 点、20 点、10 点と順次点数付けし、その得点をもって結果とした。学習課題は3 種類の方法を設定し、それぞれA〜C群として無作為に対象者を均等配置した。全群の1 セットあたりの練習回数は5 回、セット間の休憩時間は1 分とした。A群では検定課題と同様の方法でバルーン上座位保持による投球をおこなわせた。実施回数は主観的疲労を感じない回数として12 セット実施した。B群は、まず椅座位での投球を6 セット実施した後、バルーン上座位を6 セット実施した。C群では椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ実施した。学習課題ではお手玉が当たった分画の中央の座標を1 試行ずつ記録し、中心からの距離と方向とした。得られた結果から、検定課題では学習前後での得点の比較をおこない、学習課題では各群の成功例を基に投球結果座標による中心からの平均距離を標準偏差で除した変動係数とセット間の平均距離の比の自然対数を基にした変動率による比較をおこなった。統計学的手法は、検定課題では学習前後の結果比較に対応のあるt検定を用い、A〜C群の比較として検定・学習課題ともにKruskal-Wallis検定とBonferroni多重比較法を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は、A群11.3 ± 16.4/26.3 ± 15.1 点、B群6.3 ± 9.2/33.8 ± 7.4点、C群10.0 ± 15.1 点/18.8 ± 16.4 点であり、B群で有意な学習効果を認めた(p<0.01)。学習課題中の投球結果の変動係数はA群19.67 ± 1.06、B群8.42 ± 0.49、C群13.50 ± 1.24 で、A群に対してB群で有意な減少を認めた(p<0.05)。また、学習中の投球結果の変動率は群間で有意差は認められなかったものの、他群に対してB群で安定する傾向を認めた。【考察】Winstein(1991)は、分習法はスキルや運動の構成成分を順序付ける過程の学習であるとしており、運動全体の文脈的な継続性を考慮して動作を学習させる必要があるとしている。本研究ではB群によって検定・学習課題とも他群に比べて良好な結果を得た。B群では分習法により投球とバルーン上座位を各々別に集中して学習したが、運動学習中の変動係数の減少と変動率の安定化を認めたことから、バルーン上座位での投球の重要な要素である動的姿勢を集中的に獲得できたことが全習法に対して効果が得られた成因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から運動学習課題の設定によっては、全習法よりも学習効果が得られる事が示唆された。特に運動時の姿勢の改善を目的とする学習課題を分習法に組み込むことによって学習効果が向上する可能性があり、理学療法への分習法の応用に有用であると考えられる。
  • 岩月 宏泰, 神成 一哉, 髙橋 廣彰
    セッションID: A-P-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】全身振動(Whole body vibration:WBV)トレーニングは特殊な機器上で立位,坐位などの姿勢を取らせて全身を機械的に振動するものである。即時的効果としては,筋柔軟性,筋温上昇という局所のものと,立位バランスや歩容の改善,パフォーマンスの向上などという全身に及ぶものが既に報告されている。WBVによる生理学的変化は足底からの振動刺激が内耳の前庭器,骨格筋,筋交感神経活動を刺激することと,内臓振盪の関与によると考えられている。しかし, 20Hz 未満のWBVの負荷時間による立位及び坐位姿勢制御に及ぼす効果は未だ明らかにされていない。今回,健常者を対象に振動周波数12.5HzのWBVの負荷時間の違いが不安定板上での坐位姿勢制御に及ぼす影響について,運動力学的視点から検討した。【方法】対象は研究の参加を了承した健常青年17 名(男性5 名,女性10 名,平均年齢23.4 歳)であった。方法は被験者に全身振動機器(BIO Relax:大島製作所)の振動テーブル上に足間を20cm離し,かつ両膝を軽度屈曲位して5 分間保持させた立位(非振動条件)と同姿勢で振動刺激(周波数12.5Hz,振幅10mm)を5 分間(振動A条件)と10 分間(振動B条件2)負荷した3 条件を順不同で各1 回行わせた。各条件終了後,被験者を直ちに床から 50cm離れた台上に設置した重心動揺計(グラビコーダーGS-10:アニマ社製)の上に置いた不安定板(SAKAI製DYJOCボード)上に坐らせ,両上肢を胸の高さで交叉させた端坐位を30 秒間とらせた。なお,各条件間に10 分以上の休憩を取らせた。不安定板上で端坐位を保持させている間,頭頂部に固定した3 軸加速度計(MVP-RF8-AC:Micro Stone社製)により,X方向(前額面)とY方向(矢状面)の加速度を測定し,各々の実効値(RMS:Root mean square)と両者の合成加速度を算出した。また,重心動揺計からは30 秒間の圧中心軌跡の総軌跡長と実効値面積を記録した。さらに,端坐位保持終了後には産業科学技術研究開発プロジェクト作製による官能性尺度の一過性ストレス主観で心理状態を評価した。統計処理は3 条件間の各測定値の変化を一元配置分散分析で検討し,効果がみられた場合多重比較検定(Tukey法)を併用した。各測定項目間の関係についてはピアソンの積率相関係数を算出し,一過性ストレス主観については非振動条件と振動条件A,B間でMann-Whitney検定を実施した。【説明と同意】全対象者は本学研究倫理委員会の指針に従って筆者から説明を受け,実験の参加を了承した上で同意書を提出した。【結果と考察】X方向の加速度では,非振動条件3.87±1.41mG,振動A条件10.13±5.21mG,振動B条件12.53±4.98mGであり,一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。Y方向の加速度では,非振動条件8.05 ± 3.22mG,振動A条件7.45 ± 3.05mG,振動B条件11.44 ± 3.62mGと一元配置分散分析で効果を認め,振動B条件が非振動刺激と振動A条件よりも有意な高値を示した。しかし,合成加速度は3 条件間で有意な差を認めなかった。一方,総軌跡長では,非振動条件28.5 ± 4.1mm,振動A条件34.2 ± 5.2mm,振動B条件45.6 ± 6.3mmと一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。実効値面積では,非振動条件0.88 ± 0.34cm2,振動A条件1.53 ± 0.66cm2,振動B条件2.21 ± 0.74cm2 と一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。さらに,振動A・B条件における各測定項目間の相関係数はY方向の加速度と合成加速度,総軌跡長,実効値面積で正の相関を認めた(r≧0.53)。一過性ストレス主観では振動B条件が非振動条件より「注意の集中がしにくい」「ストレスを感じた」などの項目で有意な高値を示した(p<0.05)。本研究の結果,振動負荷時間が長い振動B条件では不安定板での端坐位を保持する際に頭頸部及び体幹の運動や骨盤の傾斜による動揺が振動A条件よりも増大した。振動B条件では,体幹側屈による前額面での運動よりも頭頸部や骨盤の前・後傾といった矢状面での動きが多いことが推測された。WBVによる振動負荷時間が長くなると負荷中の前庭器の撹乱や下肢全体におよぶ筋緊張亢進状態での適応と負荷後の撹乱された前庭覚,固有感覚の解放という相乗効果によって坐位姿勢制御に影響が生じたものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】健常者に対する振動周波数12.5HzのWBVは負荷時間の長さの違いによって,前庭器や下肢や体幹筋の固有感覚に生じる撹乱効果と負荷後の解放効果により,端坐位の姿勢制御に影響を及ぼすことが示唆された。
  • 岩坂 憂児, 坂上 尚穂
    セッションID: A-P-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ミラーセラピー(以下MT)はラマチャンドラン(1995)らが幻肢の改善のために実施した治療法であり、近年では脳血管障害患者に対して実施し改善を示唆する研究も見られている(平野ら,2008 など)。しかしながら実際にMTを実施するときには、鏡像と同様の位置にターゲットとなりうる肢を置くことができないことも十分に考えられる。我々は第46 回日本理学療法学会学術大会でMTを実施するときの上肢位置はパフォーマンスに影響を及ぼさないことを報告した。しかしながら、前回の課題は書字動作という個人技術によって左右されうるものであり、かつ上肢位置の固定が徒手によるものであり一定性が確保されなかったという問題もあった。そのため、今回はこの二つの問題を改善し、改めて研究を行った。【方法】上肢に整形外科的・神経内科的疾患の既往を持たない健常成人21 名を被験者(男性7 名、女性14 名、平均年齢19.8 ± 3.8 歳)とした。被験者を(1)対照群:一切の介入を行わない群(2)MT一致群:鏡像と同様の位置にターゲットとなりうる肢をおく群(3)MT不一致群:鏡像と異なる位置にターゲット肢をおく群の3 群にランダムに振り分けた。全ての群で練習側を直接見せないように箱で覆う、肩関節の外旋角度以外の影響を排するために肘関節90 度、前腕回外位でシーネ固定を行なった。課題は新規性を確保するために、Kawashimaら(1996)が用いた小球回転課題を用い、左手での10 秒間の回転数(3 回実施)を測定値とした。介入手順は(1)対照群:介入を行なわず、20 秒間ボールを落ちない程度に握ってもらい40 秒休憩を10回実施(2)MT群および不一致群:右手で20 秒× 10 回(運動間隔は40 秒)の練習し、鏡に映る腕を観察とした。練習中には5 回終了時に「残り5 回です」9 回終了時に「あと1 回です」と教示した。統計処理は二元配置の分散分析を採用し、有意差が得られた場合には多重比較(Bonferroni法)を実施した。また統計処理にはRを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には研究の目的および身体に及ぶ影響と実験への自由参加の権利について十分に口頭および書面で説明し、同意を得た。【結果】ボール回転数のそれぞれの平均について、対照群は介入前6.64 ± 4.09 回・介入後8.07 ± 4.53 回、MT群7.71 ± 3.20回・介入後11.64 ± 2.21 回、不一致群7.57 ± 4.48 回・介入後11.79 ± 2.97 回であった。介入前後と群間に主効果が見られたため(介入前後:F(1.84)=15.79、p<0.01、群間:F(1.84)=3.71、p<0.05)多重比較を行った結果、介入後において対照群とMT群、不一致群との間に有意差を認めたが、MT群と不一致群との間には有意差を認めなかった。【考察】MTは運動イメージと視覚的フィードバックによるミラーニューロンシステムの賦活化が関与していると考えられている。運動イメージは身体図式を基にして想起されることが考えられており、その身体図式はオンライン上の身体位置に影響を受けることが示唆されている(例えば鶴谷,大東,2007)。そのため、鏡を介して入ってくる視覚情報と実際の位置関係との間に相違がある不一致群ではMT群よりも効果が低い可能性が考えられたが、本研究では見られなかった。仮説として考えられるものとして(1)学習転移効果がMTの効果を不明瞭にしてしまったか(2)いわゆるラバーハンド現象が起こってしまい、不一致群においてもMT群と同様に鏡像を自分の手と解釈されたことが考えられた。本研究では上記の可能性を両方とも否定することはできないため、今後これらを明確に区分するための方法がさらに必要であると考えられる。しかしながら、本研究から少なくとも健常者においては、MTでの上肢の位置はそのパフォーマンスに影響を及ぼさないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、今後ミラーセラピーを導入するに当たって重要な視点を与えるものと考える。
  • 野嶌 一平, 川又 敏男, 奥野 史也, 美馬 達哉
    セッションID: A-P-41
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ミラーセラピー時の脳活動に関しては、運動錯覚を伴う視覚入力により実際には運動を行っていない状況でも、対側の運動関連領域の興奮性が増大することが報告されている。また、運動観察を行うことでも対象となる運動特異的に課題遂行成績が向上すると共に、運動関連領域の興奮性が増大することが報告されている。しかしこれらの脳領域の興奮性変化が、どのような神経生理学的機序によって出現するのかは明らかになっていない。一方、近年視覚刺激による脳機能変化の要因としてミラーニューロンシステム(以下MNS)の関与が広く示唆されており、ミラーセラピーや運動観察時のMNSの影響を検討する必要がある。そこで今回、運動錯覚を伴う運動観察法を用いて、介入による運動機能と脳機能の変化を検討すると共に、介入中の脳機能についても検討することを目的に研究を実施する。【方法】対象は神経学的障害を有していない右利きの健常成人24 名(24.0 ± 3.9 歳、男性20 名、女性4 名)である。本研究における運動課題は非利き手で2 つのボールを30 秒間にできるだけ早く回す課題とした。脳機能計測には経頭蓋磁気刺激(TMS)を使用した。TMSでの刺激領域は右一次運動野(M1)とし、左背側骨間筋(FDI)より運動誘発電位(MEP)を表面筋電図にて導出した。運動域値は、安静時にFDIより10 回中5 回以上MEP振幅が50 μVを越える最小の刺激強度とした。MEPは1.0mVとなる強度での刺激を介入前後で実施した。またM1 への二連発刺激を用いて、皮質内抑制(SICI)と促通(ICF)も検討した。SICIとICFは各々単発刺激に対する割合で表した。実験1 として、予め熟練者の課題遂行時の手の動きをビデオカメラで記録した映像を被験者に提示する運動観察法を用いた。具体的には、運動課題遂行中の手が映し出されたPCモニタの下に被験者の手を入れることで運動錯覚も誘発した。対照群としては、PCモニタの下に被験者の手を入れた状態で静止画を提示した。そして、これら介入前後のM1 機能とボール回し回数の変化を測定した。実験2 としては、運動観察法による介入中のM1 機能を検討した。また対照課題として動画を反転させた課題(反転群)と静止画を見せる課題(静止画群)を用い、任意の順番で被験者に視覚刺激を提示している最中のM1 機能を測定した。実験2 では、介入中に運動学習が発生してしまうと時間経過によりM1 の興奮性が変化する可能性が考えられたため、介入前にボール回し回数が一定になる程度まで十分練習を行ってから実施した。またM1 機能に関しては、介入前後の値の平均値に対する各群の割合を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、京都大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。また、被験者は医師から口頭で実験内容を十分説明され、実験への参加は任意とした。【結果】実験1 では、ボール回し回数が運動観察群で介入前24.8 ± 1.8 回が後28.6 ± 1.7 回となり、対照群では20.3 ± 2.2回から20.8 ± 2.4 回となり、運動観察群で有意な向上を示した。また脳機能に関して、MEPは運動観察群で介入前687.4 ± 133.0 μV、後938 ± 205.5 μVとなり、対照群では678.0 ± 122.5 μV から680.2 ± 128.6 μVとなり、運動観察群で有意にMEPが増大した。 ICFでも運動観察群で1.202 ± 0.071 μVが1.549 ± 0.119 μVとなり、対照群では1.353 ± 0.111 μVから1.293 ± 0.087 μVとなり、運動観察群で有意な増大が見られた。一方 SICIでは変化が見られなかった。実験2 は、MEPにおいて運動観察群1.543 ± 0.09、反転群1.442 ± 0.147、静止画群1.156 ± 0.123 となり運動観察群で有意なMEPの増大を認めた。またICFでも、運動観察群1.368 ± 0.074、反転群1.208 ± 0.052、静止画群1.210 ± 0.056 となり、運動観察群で有意なICF増大を認めたが、SICIでは有意差を認めなかった。【考察】運動錯覚を伴う視覚入力介入により、実際の運動を伴わなくても対側M1 の興奮性を増大し、それに伴う運動機能を向上が得られた。またこの興奮性の増大は、皮質内の興奮性回路を特に活性化させていることが示唆された。そして、介入中のM1 の機能変化から、介入前後の結果同様、M1 の興奮性増大に皮質内の興奮性回路の関与が強く示めされた。【理学療法学研究としての意義】臨床において、自主訓練として今回検討した運動錯覚を伴う視覚入力方法を用いることで、M1 の機能改善に伴う運動機能の改善を図ることができる可能性が示唆されたものと考える。また運動が困難な重度麻痺患者などへの応用も今後検討していく。
  • 平田 大勝, 岡 真一郎, 森田 義満
    セッションID: A-P-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】頭部を支える頸部筋は固有受容器が豊富にあり,身体の姿勢制御,眼球運動制御に重要な感覚情報を提供している.頸部筋の筋紡錘は,1gあたりの数および筋の直列配列が僧帽筋や下肢筋などと比較して非常に多い.また,頸部筋への振動刺激は,立位姿勢を5.5 〜6.5 度前方へ傾斜させることから,姿勢制御において頸部の感覚入力が重要であると報告されている.頭頸部と姿勢制御の関係について,頭部を前方変位時および頸部筋の筋疲労時に姿勢動揺が増加すると報告されている.頭頸部屈曲および伸展深層筋により頸部を中間位に保持することは,頸部筋の固有受容器からの適切な感覚情報により,姿勢制御を行う上で重要である.しかし,健常成人を対象とした頭頸部屈曲および伸展の筋力比,頸部屈曲筋持久力,重心動揺の関連についての報告は少ない.本研究では,健常成人を対象に頭頸部屈伸筋力比および頸部屈曲筋持久力とバランス能力との関連を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常若年者21 名(男性10 名,女性11 名),平均年齢20.7 ± 1.2 歳であった.バランス能力は重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用いて測定した.重心動揺の測定は,閉脚立位で開眼および閉眼を各60 秒間行った.頭頸部屈曲および伸展筋力は,徒手筋力計μ-tas F1(ANIMA)を用いて測定した.測定の条件は,耳孔と肩峰を同じ高さとして,頭頸部屈曲筋力では背臥位で下顎の下に,伸展筋力では腹臥位で外後頭隆起に歪みセンサーを固定した.測定方法は,各肢位にて5 秒間の等尺性収縮による最大筋力を3 回測定し,平均値を代表値とした.頭頸部屈曲伸展比(以下,F/E)は,頭頸部伸展筋力/屈曲筋力にて算出した.頭部屈曲筋持久力は,両側の胸鎖乳突筋筋腹中央よりやや近位部に電極を接地し,表面筋電図Bagnoli-8(Delsys)を用いて測定した.測定方法は,頭部支持部が稼働するベッドの上で対象者を背臥位とし,ベッドの頭部の支えを除いた後,できるだけ長い時間頸部を中間位に保持させ,表面筋電図を測定した.得られたデータを周波数解析し,1 分間当たりの中央パワー周波数の低下率(以下,dMDF)を算出した.統計解析は,Dr SPSS 11.0J for Windows(SPSS Inc.)を使用して,各測定結果の関係についてSpearman順位相関分析を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った.【結果】F/Eは,外周面積(r=−0.47,p<0.05)および矩形面積(r=−0.64,p<0.01)のロンベルグ率と有意な負の相関があり,開眼(r=−0.50,p<0.05)および閉眼(r=−0.48,p<0.05)におけるY方向動揺平均中心変位と有意な負の相関があった.dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があった(r=0.49,p<0.05).【考察】本研究の結果,F/Eは外周面積および矩形面積のロンベルク率,開眼,閉眼時のY方向動揺平均中心変位と負の相関があった.筋紡錘の密度が高い頭頸部伸展筋の筋力は,屈曲筋力に対して大きくなるほど,頭部を保持,制動する能力が高く,視覚情報を制限することが重心動揺の面積に与える影響が少なかった可能性がある.また,頭頸部伸展筋への振動刺激は,重心動揺を増加させ,動揺中心が前方に変位したと報告されており,頭頸部伸展筋が姿勢制御において重要であることが示唆されている.本研究においても,頭頸部伸展筋力は屈曲筋力に対して大きいほど,姿勢制御能力が高く,視覚情報の有無に関わらず動揺中心が後方となったと考えられる.dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があった.先行研究と同様に,dMDFは,大きくなるほど頸部屈曲筋持久力が低下していることを示唆する.頸部疾患患者は,健常者と比較して,重心動揺が大きいと報告されているが,健常者では,頸部屈曲筋持久力が高いほど重心動揺の距離が短く,姿勢制御が安定している可能性がある.本研究の結果,F/Eは,外周面積および矩形面積のロンベルグ率と有意な負の相関があり,dMDFは,総軌跡長のロンベルグ率と有意な正の相関があったことから,F/Eおよび頸部屈曲筋持久力は,バランス能力と関連し,姿勢制御に影響を及ぼしている可能性がある.【理学療法学研究としての意義】健常成人を対象に,F/Eおよび頸部屈曲筋持久力とバランス能力を調査することは,頸部筋力と姿勢制御の関係を明らかにする上で重要である.
  • 平松 佑一, 陣内 裕成, 木村 大輔, 伊藤 太郎, 門田 浩二, 木下 博
    セッションID: A-P-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】日常生活におけるヒトの行為の多くには指先での物体把持機能が欠かせない。一般的に「摘まみ動作」と称されるような微細な運動制御を必要とする場合には、母指と示指による精密把握が用いられ、その多くは100g以下の物体重量で多用される。一方、精密把握運動に関するこれまでの研究は国内外を通して100g以上の重量を用いたものに限られている。本研究では、100g以下の物体重量での計測が可能な把握器を試作し、健康成人での測定を行い、得られたデータから軽量物体の精密把握力調節の方略について検討することを目的とした。【方法】被験者は、20 名の健康成人(23.4 ± 6 歳、男性9 名、女性11 名)とした。試作した把握器は、3 台の自作軽量力覚センサーを組み合わせ、母指と示指による把握力、持ち上げ力を独立に計測できるようにした。その総重量は6gであった。課題は、椅子座位にて母指と示指を用いて把握器を持ち上げ、空中で10 秒間保持した後に、ゆっくりと手指の力を緩めることにより把握器を滑り落とさせた。重量は、把握器の下部に異なる錘を吊り下げることにより行い、6, 8, 10, 14, 22, 30, 40, 50, 70, 90, 110, 130, 150, 200gの14 段階を設定した。また、把握面における摩擦係数を変化させるために、滑りにくいサンドペーパーおよび滑りやすいレーヨン素材を両面テープで固定・可変できるようにした。各重量において8 試行、14 段階の重量変化、2 種類の把握面変化を条件として、各被験者で計112 回の試行を実施した。力信号は、応力アンプにて増幅し、各チャンネル600Hzの取り込み周波数でコンピュータに記録した。得られた力データからは、母指および示指の摘み力、把握器の持ち上げ力から、(1)把握開始から5 秒後の7 秒間における安定保持中の摘み力の平均値(安定把握力)、(2)滑り発生直前の摘み力(最小把握力)、(3)余剰な摘み力(安全領域値)、(4)安定把握力に対する安全領域値の割合(安全領域相対値)、(5)摩擦係数を評価指標として算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は大阪大学医学部研究倫理審査委員会の承認を得ている。全ての被験者に対して書面および口頭での説明を行い、自筆による署名にて同意を得た上で実施した。【結果】個々の力覚センサーの精度試験の結果、荷重3Nまでの範囲で高い線形性と精度を確保できた。安定把握力は物体重量にほぼ比例しており、比例係数(傾き)はサンドペーパーに比べてレーヨンで大きかった。最小把握力は、100g以上では重量とほぼ比例関係となったが、それ以下では比例値よりも低値となった。そのため、摩擦係数はサンドペーパーでは200gで平均値が1.1 であったが、重量の減少に伴い、6gでは1.3 となった。一方、レーヨンでは200gで0.6 前後であったが、6gでは平均値が0.9 となった。安全領域値は安定把握力と同様に物体重量にほぼ比例しており、サンドペーパーに比べてレーヨンにおいて全ての重量で大きくなった。また、両素材面において、安定把握力に対する安全領域値の相対値は6gの重量では80%と大きく、重量の増大に伴い曲線的に減少し、150g以上では40%となった。【考察】指腹部と把握面に生じる摩擦係数は、物体重量の減少に伴い上昇することが明らかとなった。特に、レーヨン面での上昇が顕著であった。これは、指腹部と把握面に生じる発汗の影響により、凝着力が関与していた可能性が考えられる。これにより、最小把握力においても50g前後の重量で顕著な減少を示した。一方、安定把握力は最小把握力の減少には比例しておらず、安全領域相対値が軽い重量域において高値を示す原因となっていた。その背景には、以下のような可能性が考えられる。軽重量では、(1) 把握面の接触面積・圧力が減少するため、指先の触・圧覚信号による滑り情報が減少し、補償的に把握力を強めた。(2)指先の皮下組織が有する粘弾特性により、随意的な力発揮とは異なる形で、付加的に把握力を増大させた。(3)非常に微小な力発揮のため、関連筋への負荷が効率的な問題となりにくく、結果的に粗大な力調節となり、把握力を余計に発揮した。現在、個々の要因についての検討も進めている。【理学療法学研究としての意義】これまで情報の存在しなかった100g以下の軽量物体における精密把握運動制御を客観的に測定するための、小型で簡便な装置を試作して健康成人での基礎データを提示した。本研究での測定装置・評価方法および基礎データは、脳卒中やパーキンソン病患者などの疾患特異的な運動制御方略や感覚運動機能の回復を客観的に調査するための手段となる可能性が示唆された。
  • 上野山 貴士, 松村 宏樹, 滝本 幸治
    セッションID: A-P-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】随意運動は筋出力の上昇と下降の組み合わせによって遂行され、正確に筋出力を調節するためには、出力上昇相と下降相などの切り換えを円滑に制御することが重要である。また、次第に力を入れていく漸増運動、発揮された力の保持、次第に力を抜いていく漸減運動の制御メカニズムは異なると考えられている。また、実際の日常生活場面において下肢ではClosed Kinetic Chain(以下CKC)下での動作が多く、例えば、歩行時の立脚側下肢や、椅子坐位からの立ち上がり等の動作は下肢のCKCによって行われている。そこで、下肢CKC下での筋出力調節課題を行うことにより、先行研究で行われている下肢のOpen Kinetic Chain(OKC)との筋出力制御メカニズムの違いや筋出力調節の特性を知ることを本研究の目的とした。【方法】対象は、健常成人10 名(男女各5 名、年齢平均22.0 ± 1.5 歳)である。今回は、一側の下肢のみ課題を実施するため左右下肢間の機能差の影響を考慮し、Chapmanの利き足テスト(ボールを蹴る・缶を踏みつける・片脚飛びをできるだけ速くする)を実施し、全対象者の利き足は右側であった。対象者の測定肢位は、椅子坐位にて股関節90°屈曲・膝関節屈曲30°・足関節底屈・背屈中間位で、固定されたプレート上に設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に足部を置き、運動課題としてキッキング動作を指示した。最初に、同条件下で等尺性のキッキング最大随意収縮(Maximum voluntary contraction: MVC)を測定し、これを基に10%・20%・30%MVCを算出した。運動課題は、各%MVCの目標筋出力に5 秒で達する漸増運動、続いて目標筋出力を5 秒保持する保持運動、その後筋出力保持から5 秒間で完全脱力する漸減運動の3 種類の課題で構成した。対象者の正面に設置したPCモニターには、対象者自身の発揮した筋出力値がリアルタイムに示され、モニター上に表示される標的力線図(筋出力目標ライン)上からキッキングによる筋出力値ができるだけずれないように指示した。なお、各%MVCで漸増・保持・漸減運動(力量調節課題)を3 回ずつ行い、一課題ごとに10 秒間のインターバルを設けた。また、対象者には主観的運動感覚の内省報告をさせた。データ解析は、標的出力である各%MVCの目標筋出力値と実際の筋出力値の誤差を検出し、各力量調節課題3 回分の平均値(絶対平均)を検討指標とした。統計学的分析は、各%MVCでの各力量調節課題成績に相違があるのか、また各力量調節課題成績が%MVCの相違により誤差が異なるのか、一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者には事前に本研究の目的と方法を紙面にて説明し、同意を得たあとに測定を実施した。また、実験プロトコルは、学内論理委員会の承認を得た。【結果】各%MVCでの力量調節課題成績に有意差は認めなかった。一方、漸増課題と漸減運動ではいずれも10%MVCと30%MVCとの間に有意差を認め(前者より順にp=0.03、p<0.01)、いずれも30%MVCで誤差が大きかった。また、いずれの%MVCでも漸増運動より漸減運動の誤差が大きい傾向であった。対象者の内省報告からは、「漸増運動よりも漸減運動の方が難しい」「10%・20%・30%MVC全課題において、予想よりも負荷が大きい」などの表現がみられた。【考察】膝伸展によるOKCを用いた先行研究では、漸減運動で%MVCが小さい程追従能力が低下すると報告しているが、今回の結果は漸増・漸減運動ともに%MVCが大きいほど程追従能力が低下したことから、OKCとCKCでは筋の収縮様式や運動抑制機構が異なっていることが考えられる。筋出力時には、サイズの原理により繊細な運動では小さい運動単位が、粗大な運動では大きい運動単位が動員されるため、筋出力が大きくなると緻密な制御が困難になり結果にもこのような点が反映されているのではないかと考える。一方、漸減運動の方が漸増運動より誤差が大きい傾向であったが、漸減運動はその制御特性として、漸増運動とは異なり筋弛緩の作用にて行われており、漸増運動時と漸減運動時とでは神経系に対するコントロールが異なると考えられている。そして、漸減運動の場合は、単に筋を弛緩するだけではなく、微細な筋出力調節が加わることで行われていることから、漸減運動時の筋弛緩のコントロールがより複雑になった結果であると考える。また、漸増運動より漸減運動時の方が運動関連領野が広範に賦活するという報告もあることから、漸減運動時の方が課題難易度が高いということも今回の結果に反映されたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】CKCにおける筋出力調節能力の特徴を知ることは、未だ確立されていない筋出力調節能力評価方法とともに、下肢トレーニングへの応用が期待できる。
  • 吉田 晋, 堀本 佳誉, 大谷 拓哉, 三和 真人
    セッションID: A-P-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】運動を開始する際、視覚などの感覚による空間的な座標情報をもとに運動プログラムが生成される場合と、身体内部モデルをもとに自発的に行われる場合があり、それぞれ運動生成に関わる皮質領域は異なることが分かっている。前者では運動前野‐小脳の、後者では補足運動野‐大脳基底核の関与が考えられている。また感覚情報をもとに運動プログラムを生成する際には空間的な座標情報を一度身体の座標(肢の位置、関節角度など)に置き換える必要があり、この際感覚で得られた空間座標情報は一次保存される必要がある。ワーキングメモリーと呼ばれるこの一時記憶については前頭前野の関与が知られている。一方で、運動の準備状態や判断、期待といった心理過程を反映する事象関連脳電位として随伴陰性変動(CNV)がある。これは予告信号を与えた後に命令信号で課題を行わせる際の命令を待っている間の活動を記録するものであり、歩行開始時の皮質活動記録にも応用されている。今回われわれは予告信号として空間記憶課題を付加して歩行開始時のCNVを測定し、空間記憶が運動プログラム作成プロセスにどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることを目的とした。【方法】被験者はインフォームドコンセントを得た健常成人ボランティア10 名とした。コントロール課題としてスクリーン上に赤丸(予告信号)を呈示し、青(命令信号)になったら任意の方向、歩幅で一歩踏み出す課題を単純反応時間課題(以下simple)、3 × 3 のマス目に△☆◇の3 種の図形をランダムに配置した視覚刺激を予告信号として呈示し、次にそのうちのいずれかの図形が現れたらその図形があったマス目上にステップする課題を空間記憶課題(以下memory)として行わせた。施行間隔は8 〜10 秒の間でランダムとし、予告信号と命令信号の間隔は2 秒とした。脳波は頭部外に基準電極を置き、10‐20 法24chに加え、前頭部FC3、FC4、CP3、CP4 およびFCz、CPzの計30chより導出し、予告信号の1sec前から命令信号の1.5 秒後までの4.5 秒間について眼球運動などのアーチファクトの混入部分を除外した40 〜50 回について加算平均しCNVを求めた。CNV振幅値については、予告信号の1 秒前から100msec間の平均値を背景活動とし、命令信号の100msec前までの平均値との差として求めた。前頭部、頭頂部の主な電極間について電極位置(10)×課題(2)の二元配置分散分析を行い、空間記憶課題の有無により皮質活動に違いがあるか検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、学内の倫理審査委員会の承認を得て行われた。【結果】両課題とも予告刺激呈示後約500msecより前頭中心部を中心に緩徐な陰性電位(CNV)を認めた。空間記憶課題では予告信号呈示後約400 〜500msec後に前頭部から頭頂部電極を中心にP500 を認めた。CNVの振幅値はmemory課題で高い値を示したが有意差は見られなかった(F(1.7)=4.69;p=0.067)。主要電極ごとでの比較では左前頭部FC3 でのみmemoryが有意に大きかった。頭部上における分布ではmemory課題の500msec前後で前頭部に活動の増加を認めた。【考察】memoryではP500 が観察された。これは記憶保持に関連する電位とされており、空間情報を一時的に保持していたことが示唆される。頭皮上分布もmemoryのみ500msec前後で前頭部が大きく変化し、空間記憶に前頭部の活動が関与したことが推測された。CNV振幅値はmemoryで大きく、simpleに比べ多くの皮質活動を要したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動制御の障害が外界からの感覚を認知するプロセスによるのか、またその後の知覚-運動統合プロセスによるのかで、アプローチは異なるはずであり、こうした障害を評価するための基礎資料となりうると考えている。
  • 志村 圭太, 柳澤 健, 小山 貴之, 伊藤 貴史, 今井 智也
    セッションID: A-P-44
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】これまでの神経生理学的研究で、一側下肢肢位を変化させると対側下肢の運動ニューロンに影響を及ぼすことが明らかになっている。一側下肢を屈曲位あるいは伸展位に変化させた時の反射機構について、Magnusは脊髄イヌ・ネコを用いた交叉性反射の研究を行った。これによると一側の膝蓋腱を叩打した時に対側下肢の伸張された筋群に遠心性インパルスを生じ、交叉性反射が起こるとされている。また、交叉性反射への影響は近位関節ほど強くなることが明らかにされている。一方ヒトを対象にした柳澤らの研究では、一側股関節を他動的に伸展位から屈曲位に変化させると対側ヒラメ筋H波が増大すると報告しており、この結果は交叉性反射の影響によるものと考えられている。このように、一側下肢肢位の変化が対側下肢運動ニューロンの興奮性に与える影響は単シナプス反射の研究により明らかにされているが、随意運動に対する影響を検討したものはない。一側下肢肢位の変化に対する対側下肢随意運動への影響を検証することは、一側下肢の筋力増強を目的とした理学療法において有効な対側下肢肢位を明らかにする上で重要と考えられる。そこで今回は、一側股関節屈曲角度の変化が対側足関節底屈筋力に及ぼす影響を明らかにすることを目的として健常者を対象に実験を行った。【方法】研究対象者は下肢および体幹に整形外科的・神経学的疾患による障害がない健常成人男性18 名とした。対象者の平均年齢(SD)は28.3(4.5)歳 、平均身長(SD)は172.8(5.7)cm、平均体重(SD)は66.9(8.4)kgであった。対象者に関節トルク測定装置上(BIODEX medical system社製BIODEX system 3)で両上肢を胸の前で組ませ背臥位をとらせ、検者は対象者の左下肢に足関節底背屈筋力測定用アタッチメント装着し、左股関節0°屈曲位、左膝関節0°伸展位、左足関節20°底屈位に固定した。体幹は非伸縮性のバンドで固定した。次に、対象者の右下肢を専用アタッチメントにより解剖学的基本肢位、他動的に膝関節0°伸展位のままで股関節15°・30°・45°・60°屈曲位に保持し、これら5 通りの右下肢肢位で左足関節底屈の最大静止性収縮を行わせ、最大底屈筋力を測定した。各肢位での一回の筋力測定時間は5 秒間、測定回数は3 回とした。筋疲労の影響を考慮して各試行の間には1 分間の休息、右下肢肢位を変える際には5 分間の休息を設けた。測定肢位の順序はブラックボックスからくじを引かせることで無作為化した。データ解析では左足関節最大底屈筋力(Nm)と最大底屈筋力体重比(Nm/kg)をそれぞれ従属変数、右股関節屈曲角度(0°・15°・30°・45°・60°)を説明変数とした反復測定分散分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は東京厚生年金病院倫理委員会および首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会の承認を得た。また、対象者には事前に研究の主旨を文書ならびに口頭で説明し、同意が得られてから実験を行った。【結果】左足関節最大底屈筋力の平均値(SD)は基本肢位で30.8(14.8)Nm、15°屈曲位で33.2(16.1)Nm、30°屈曲位で34.3(17.1)Nm、45°屈曲位で35.6(16.3)Nm、60°屈曲位で36.7(16.1)Nmだった。また、左足関節最大底屈筋力体重比(SD)は基本肢位で45.5(19.1)%、15°屈曲位で49.0(21.4)%、30°屈曲位で50.5(22.3)%、45°屈曲位で52.7(21.8)%、60°屈曲位で54.3(22.3)%だった。反復測定による分散分析の結果、足関節最大底屈筋力および体重比に対する主効果は認められなかった。【考察】統計学的解析の結果、一側股関節屈曲角度の変化が対側足関節最大底屈筋力に及ぼす影響は認められなかった。先行研究において一側股関節屈曲位は対側ヒラメ筋のH波を増大させることが明らかになっており、これはα運動ニューロンの興奮性を高めたと解釈できる。本研究ではこのような反射の影響が随意運動にどう発現するか足関節底屈筋力を指標に検討したが、結果は足関節底屈筋力に有意な効果を与えなかった。この理由として反射の影響の大きさが挙げられる。脊髄動物を用いた先行研究では、交叉性反射の影響が近位関節ほど大きくなるということが明らかになっている。しかし、今回研究対象としたのは下肢遠位の足関節であり、反射の影響を受けにくかったと推察される。したがって、今後はより近位の膝関節や股関節での検討を加える必要があると考える。また、その際に一側下肢肢位を屈曲位のみに保持するのではなく伸展位も合わせて検討することで、交叉性反射の影響をより明らかにすることができると考える。【理学療法学研究としての意義】一側股関節肢位が対側下肢筋力に与える影響を明らかにするためには、今後近位関節を対象に検討を加える必要性が考えられた。
  • 芥川 知彰, 榎 勇人, 室伏 祐介, 田中 克宜, 近藤 寛, 石田 健司, 谷 俊一
    セッションID: A-P-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】筋力増強運動のプログラム設定では,筋収縮形態,運動強度,運動頻度などの要素が重要であり,運動強度に関しては最大筋力を元に設定することが一般的である.また,最大筋力は治療の効果判定にも用いられる.つまり,正確な最大筋力を測定し,運動効果の向上を目指す上で,各筋収縮形態に応じた特性を理解しておくことは重要である.我々は第46 回本学会において,視覚フィードバック(visual feedback;VF)の方法と筋収縮形態の違いにおける最大筋力発揮パフォーマンスを検討した結果,同一の筋収縮形態ではVFの違いによる効果を認めなかったが,等速性運動で等尺性運動よりVFの効果が高い可能性があることを報告した.しかし,実際の筋力測定場面では設定しない筋力の目標値を設定した点,対象者が等速性運動に不慣れであった点などが影響した可能性が考えられた.今回は,それらの問題点に配慮した上で新たに測定を行い,男女の性差についても考察を加えた.【方法】対象は,下肢に整形外科的既往のない健常成人14 名(女性7 名,男性7 名,平均年齢25.1 ± 4.3 歳)とした.筋力測定は筋力測定機器(川崎重工社製,MYORET RZ-450)を用いた等尺性(膝90°屈曲位で1 回)及び等速性(膝屈曲30-80°,60deg/secで1 回3 セット)膝伸展運動の2 種類を,足関節上前面にパッドを当てて計測した.まず,最大下収縮での練習で各運動に慣れさせた後,VFなしで筋力を2 回測定した.次に,数値によるVF(数値VF),棒グラフによるVF(グラフVF)を2 回ずつ順不同に与え,1 分以上の休憩を挟んで測定した.数値と棒グラフはモニタに映し出され,対象者には「画面を見ながら数値(棒グラフ)ができるだけ大きくなるよう力を出してください」と指示した.また,対象者の筋疲労を考慮し,等尺性運動と等速性運動は別日に実施した.全測定終了後,各対象者に力を出しやすかったVFを聴取した.データ処理では,VFなしでの最大値に対する各VF条件下の最大値の筋力比を算出し,筋収縮形態別に数値VFとグラフVFを比較した.また,筋収縮形態の違いによるVFの効果を比較する目的で,各VFの等尺性運動と等速性運動の筋力比も比較した.差の検定にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.さらに,各対象者の値の大きかったVFを筋収縮形態別に求め,性別によって好むVFおよび有効なVFに関連がないかを確認するため,Fisherの正確確率検定を行った.いずれの統計も有意水準は5%未満とした.【説明と同意】結果への影響を考慮し,測定前の説明は安全性についてのみ行った.測定終了後に研究の趣旨を説明し,発表でのデータ使用に同意を得た.【結果】等尺性運動のVF条件下における筋力比の中央値(四分位範囲)は,数値VF:103.8(97.0-108.4)%,グラフVF:105.8(100.0-112.1)%であり,グラフVFで有意に大きかった.等速性運動の筋力比は,数値VF:108.8(103.9-115.7)%,グラフVF:108.9(106.8-116.9)%で,VFの違いで有意差は認めなかった.等尺性運動と等速性運動の比較では,両VFとも有意差はなかった.力を出しやすかったと答えたVFは,女性では数値VF:3名,グラフVF:4名,男性では数値VF:4名,グラフVF:3名であった.等尺性運動で有効なVFは,女性で数値VF:0 名,グラフVF:7 名,男性で数値VF:2 名,グラフVF:5 名であった.等速性運動で有効なVFは,女性で数値VF:3 名,グラフVF:4 名,男性で数値VF:4 名,グラフVF:3 名であった.Fisherの正確確率検定において,いずれも性別との有意な関連は認められなかった.【考察】今回,最大筋力発揮パフォーマンスにおけるVFの効果を実際の測定場面に則して再検討した結果,性別に関係なく等尺性運動においてグラフVFが有効であった.数値VFでは,ピーク値が画面に表示され続けるため,リアルタイムの数値が把握できないという機器の仕様上の問題点がある.一方,グラフVFでは,ピーク値が線で表示され続け,リアルタイムの筋力も上下する棒グラフでフィードバックされるため,5 秒間の収縮中に力を発揮しやすかったことが考えられる.等速性運動においては,1 回の伸展運動が1 秒以内で終了するため,2 つのVFの間でその効果も表れなかったものと推察できる.前回の結果と異なり,筋収縮形態の違いでVFの効果に差を認めなかった要因としては,等速性運動に慣れさせた後に測定を実施したことが関与していると考えられた.今後は,VFの種類を増やしたり,他のフィードバックとの組み合わせを交えたりしながら,筋力発揮を最大限に引き出すのに最適な方法を模索していきたい.【理学療法学研究としての意義】筋力発揮を最大限に引き出す方法を解明しようとする我々の取り組みは,臨床で広く普及したhand-held dynamometerなどを用いた簡便な筋力測定と組み合わせることで,理学療法評価の発展に寄与できると考える.
  • 古田 国大, 宮地 庸祐, 鈴木 惇也, 宮津 真寿美
    セッションID: A-P-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は日々生活する上で、多様に変化する外部環境に適応する必要がある。その状況では、知覚と運動、また知覚や運動から生じる情動を含めた「知覚—運動—情動」の3 要素が複雑かつ相互に作用している。例えば治療場面では、立位練習時に、対象者に安心感を与える為に壁や支持器具など外部環境設定の工夫をする。これは、外部環境を知覚する際、物理的な支持としての機能のみでなく、環境の操作により生じる情動の変化も姿勢制御に影響していると考える。これまで我々は、側方に壁がある環境では、それがない環境と比較して足圧の中心変位が前方へ移動すること、すなわち知覚と姿勢制御の関係性について報告している。しかし、壁に対する圧迫感などの情動が、姿勢制御に影響するかについては言及していない。そこで本研究の目的は、側方の壁から受ける主観的圧迫感が足圧の中心変位や重心動揺軌跡長などに及ぼす影響を明らかにすることとした。【方法】対象は健常高齢者20 名とし、明らかな認知症症状や変形性関節症を認めるものは除外した。基本情報は、平均年齢74.0 ± 8.3 歳、平均身長151.8 ± 7.8cm、平均体重50.0 ± 7.3kg、全員独歩自立であった。測定は重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGS-31)を用いた。測定条件は、被験者の右側に壁がある条件(以下右壁)、左側に壁がある条件(以下左壁)、側方に壁がない条件(以下壁なし)の3 条件を無作為に行い、それを6 回施行し、2 回目から5 回目の測定値の平均値を代表値とした。壁と被験者との距離は、壁側の上肢が壁から約10cm離れる距離に設定した。測定値は総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積、X及びY方向の中心変位を使用した。測定肢位は、閉脚立位で開眼30 秒とし、被験者の目線の高さに合わせたマーカーを重心動揺計の後端から4m前方に設置し、注視させた。また、重心動揺計上の立位位置を一定にするために、あらかじめ閉脚立位時の足のアウトラインを台紙にかたどっておき、その台紙の足型に合わせて重心動揺計に乗るよう指示した。測定後に、アンケート用紙を用いて側方の壁の主観的印象を数値化してもらい、その中から壁から受ける圧迫感の有無を抽出した。圧迫感の数値が右壁及び左壁の両方において、壁なしと同じであった者を圧迫感なし群(以下圧迫無群)、壁なしよりもどちらか一方でも高かった者を圧迫感あり群(以下圧迫有群)とした。結果の統計学的解析は、statcel2を用い、圧迫感の有無と壁の3 条件を要因として各測定値について2 要因の反復測定分散分析を行い、Post hoc testとしてTukey法を行った。有意水準は全て5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、愛知医療学院短期大学の倫理委員会の承認を得た上で行い、研究の説明を行い文書による同意の得られた者を対象とした。【結果】総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積は、圧迫感の有無と壁の3 条件の2 要因において交互作用及び主効果はなかった。X中心変位は、壁の3 条件で主効果があり、Post hoc testでは壁なしと左壁、右壁と左壁で有意差を認め、側方に壁が存在すると壁側に中心変位が移動する結果となった。また、交互作用はみられなかったが、圧迫無群は圧迫有群と比較して壁の3 条件による差が大きい傾向にあった。Y中心変位は、壁の3 条件で主効果があり、Post hoc testでは壁なしと右壁、右壁と左壁で有意差を認め、側方に壁が存在すると中心変位が前方へ移動する結果となった。Y中心変位の交互作用はみられなかった。【考察】総軌跡長、単位軌跡長、実効値面積は2 要因の影響を受けなかったことから、重心動揺の大きさや揺れ方は壁の有無や圧迫感による変化がないと推察できる。そして、X中心変位の結果より、圧迫無群は壁のある条件で中心変位が壁側へ移動しやすかったが、圧迫有群ではその移動は少なかった。これは、圧迫無群と圧迫有群で、壁という構造体の知覚作用が異なっていたと考えられる。つまり、壁に対する主観が知覚運動相互作用に関係している可能性を示唆する。また、Y中心変位の結果は、両群共に壁のある条件で中心変位が前方へ移動した。これは、前後方向の動きである為に圧迫感の影響を受けず、周辺視野からの奥行き知覚により惹起されたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】外部環境設定から得られる情報は、それを知覚する対象者によって情報の質が異なり、その質の差により足圧中心の変化に差がみられることが示唆された。また、臨床現場において、日頃我々は外部環境の持つ意味を意識して介入をしているが、本研究の結果は、それを数値化して具体的に提示できたことに意義がある。
  • 新家 美里, 大井 優, 高杉 あゆみ, 坪井 美公, 三宅 優紀, 中嶋 正明
    セッションID: A-P-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】近年,我が国の高齢化は急速に進行しており,転倒による骨折が機転となり寝たきりとなる者の急増が大きな問題となっている。高齢者の転倒の内的要因には,感覚要因と運動要因が複雑に絡み合って発生する姿勢制御能の低下がある。姿勢制御の戦略には,Ankle strategyやHip strategy,Stepping strategyがある。我々は,これらの戦略に加え姿勢制御には,脊柱による戦略(Spinal strategyと仮に命名する)が大きく関与していると考えた。姿勢保持筋である深部体幹筋は,脊柱を分節的にコントロールする働きがあり,Spinal strategyがこの深部体幹筋によるコントロールにあたると言える。近年,深部体幹筋を促通する器具としてコアヌードルが開発された。この器具は,スポンジ製の2 本チューブを並列に連結したもので,その上で運動をすることによって深部体幹筋の活動を促通できる。本研究では,コアヌードルを用いたコアエクササイズが姿勢制御能を向上させるか否かを重心動揺計を用いて検証した。【方法】対象は,吉備国際大学の学生7 名(男性4 名,女性3 名:年齢22.0 ± 0.4 歳,身長166.0 ± 7.5cm,体重55.4 ± 11.0kg)である。姿勢制御能の評価には,重心動揺計G-620(ANIMA Co. Ltd)を用いた。測定条件は開眼と閉眼の2 条件とした。各条件下で,姿勢制御能の評価をコアエクササイズの前後で行った。評価課題は,30秒間の片脚立位保持を課した。運動課題は,コアヌードルの上で背臥位をとり以下の3 種類の運動とした。1)コアヌードルの上で背臥位となり,肩関節90 度屈曲位,肘関節伸展位にて手掌を合わせた状態で上肢を保持し,両下肢は伸展位で肩幅に開き床につけた状態を開始姿位とした。肩関節を左右交互に水平外転し開始肢位に戻す運動をメトロノームに合わせて4 秒周期で10 回行わせた。2)1)と同様に背臥位をとり,両上肢は体側で床につけた状態を開始姿位とした。両下肢を股関節90 度屈曲位,膝関節90 度屈曲位に保持し10 秒間保持させた。3)1)と2)を組み合わせた運動である。2)と同様に両下肢を挙上した状態で,1)と同様に両上肢を左右交互に水平外転させる運動をメトロノームに合わせて4 秒周期で10 回行わせた。姿勢制御能の評価パラメータとして,総軌跡長,外周面積,実効値面積を用いた。統計処理は,2 群間の比較にt-検定(対応あり)を行い,有意水準は5%にて検討した。統計解析ソフトにはStatView Version 5.0 softwareを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,吉備国際大学倫理委員会の承認を受けた。対象者に対しては,本研究における趣旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。【結果】開眼条件では,総軌跡長は運動前106.9 ± 17.5cm,運動後100.5 ± 34.0cm,外周面積は運動前5.6 ± 1.8cm2,運動後5.7±2.9cm2,実効値面積は運動前2.6±0.6cm2,運動後2.8±1.9cm2となり,すべてのパラメータで有意差は認められなかった。一方,閉眼条件では,総軌跡長は運動前237.8 ± 50.3cm,運動後119.4 ± 39.3cm,外周面積は運動前17.5 ± 5.9cm2,運動後12.3 ± 3.5cm2,実効値面積は運動前7.5 ± 2.7cm2,運動後5.1 ± 1.1cm2となり,すべてのパラメータで減少が認められた。【考察】開眼条件では,すべてのパラメータに変化は認められなかったが,閉眼条件ではすべてのパラメータで減少が認められ,姿勢制御能の向上が示された。閉眼条件では,視覚からの情報が制限され,姿勢制御における筋骨格系や感覚系,平衡機能などの影響がより大きくなる。本研究で行った深部体幹筋へのアプローチは姿勢制御における筋骨格系や感覚系,平衡機能へ影響するものであるため,視覚情報が制限された閉眼条件でのみ減少し,開眼条件で変化が認められなかったと考える。先行研究においても,Lordらは,立位姿勢での重心動揺を測定し,閉眼立位姿勢では転倒群・非転倒群との間で重心動揺に有意差があるが,開眼立位姿勢では差が認められないことを報告している。このことから,転倒には,視覚情報が制限された場合の重心動揺が大きく影響すると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究から,深部体幹筋の促通により姿勢制御能が向上され,転倒予防効果が賦活されることが示唆された。姿勢制御の戦略には,Ankle strategyやHip strategy,Stepping strategyがあるが,姿勢制御には脊柱による戦略(Spinal strategy)が大きく関与していることが明らかとなったことは転倒予防の理学療法学研究として意義深いことである。コアヌードルを用いたコアエクササイズにより,Spinal strategyを賦活し,姿勢制御能を向上させ得たことは,今後の転倒予防に有用な情報となりうる。
  • 行宗 真輝, 脇本 大樹, 木藤 伸宏
    セッションID: A-P-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】動作前の筋放電休止期(Pre-motion Silent Period:PMSP)は,急速な自発的動作に先行して主動筋に出現する筋放電の休止期であり,弾性エネルギーが蓄積により,筋力増強が得られることが報告されている.PMSPに関する研究は,上肢筋に関する研究が多く,下肢筋に関する報告は少ない.歩行時の立脚初期に中殿筋は急激な荷重に即応して衝撃吸収や前額面の身体安定性の保持に貢献している.そこで,歩行時の立脚初期に中殿筋はPMSPを生じることで,その後の前額面股関節モーメント発揮に関して有利に働いているのではないかと仮説を立てた.股関節周囲筋である中殿筋のPMSPに関して報告はなされていなため,PMSPが起こるか否かも不明である.本研究では立脚初期を反映する動作である片脚立位動作を課題に用いた.片脚立位動作時の中殿筋のPMSP出現ならびにPMSP出現時と非出現時の下肢関節の運動力学的相違を明らかにし,PMSPの機能的役割を明らかにすることを目的とした.【方法】被検者は,健常男性10 名(平均年齢21.2 ± 0.4 歳)とし,下肢に整形疾患や外傷の既往のない者とした.課題動作は体重の70,80%を左脚に荷重した両脚立位から聴覚刺激を合図に素早く左片脚立位動作を行った.左片脚立位動作中の左中殿筋のSPを計測するために筋電計Telemyo2400(Noraxon社製)を用いた.表面筋電図マニュアルに従い,左の中殿筋,大殿筋,大腿筋膜張筋にdisposable電極(ブルーセンサー:Mets社製)を貼付した.得られたデータから,PMSP開始時間,PMSP 持続時間,PMSP出現時の中殿筋活動電位量を求めた.PMSP出現時の中殿筋活動電位量は,全波整流後,単位時間あたりのIEMGを算出し,予備筋活動の単位時間当たりのIEMGで補正した相対的IEMG(%IEMG)で示した.左片脚立位動作中の運動力学的データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し,赤外線カメラ8 台からなる三次元動作解析システムVICON MX(Vicon社製)を用いて計測した.同時に床反力計(AMTI社製)2 枚を用いて計測した.得られたデータから演算ソフトBodybuilder(Vicon社製)を用いて,内部股関節外転モーメントとパワー,内部膝関節外反モーメントを算出した.聴覚刺激から右床反力が0Nになるまでを解析区間とした.内部股関節外転モーメントと内部膝関節外反モーメントは聴覚刺激時の値を基準とし,最大値との差を増加量,最小値との差を減少量,最大値と最小値との差を変化量とし,それぞれ求めた.股関節パワーにおいては正のパワーの積分値,負のパワーの積分値を求めた.統計解析にはR(Free software:GNU project)を用い,PMSP出現時と非出現時の比較にはWelchの検定を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,広島国際大学倫理委員会の承認を得た.また,被検者に対して研究の目的と内容を十分に説明し,文章による同意を得た後に実施した.【結果】各被験者のPMSP出現率は5 〜90%で平均30 ± 25.7%であった.PMSP開始時間は270 ± 92msec,PMSP持続時間は145 ± 81msec,PMSP出現時の中殿筋活動電位量は23.3 ± 6.75%IEMGであった.以上の結果より,中殿筋の%IEMG が33.3%未満となり,その持続時間が50msec以上のものをPMSP出現と定義した.全被験者の解析対象200 施行のうち,PMSP出現60 施行,非出現140 施行であった.PMSP出現と非出現の比較において内部股関節外転モーメントと内部膝関節外反モーメントの増加量,減少量,変化量に有意な差は認められなかった.また股関節パワーの正のパワーの積分値,負のパワーの積分値に有意な差は認められず,床反力鉛直成分の減少量においても有意な差は認められなかった.【考察】本研究結果より,片脚立位動作において中殿筋のPMSP出現が確認され,その出現率は上肢筋と同様に個人差が大きいことが明らかとなった.また,本研究結果ではPMSP出現と非出現の運動力学的パラメーターにおいて有意な差は確認されなかった.上肢筋の開放運動においてPMSP出現時に伸張性収縮が生じることで弾性エネルギーが蓄積され,その後の筋収縮時に放出されることで筋力増強が得られることが報告されているが,本研究の動作課題は閉鎖運動であり,下肢関節は冗長性を利用し,膝関節や足関節間で調節を行った結果,PMSP出現による運動力学的パラメーターの変化を捉えるまでに至らなかったと推測した.【理学療法学研究としての意義】PMSPが内部股関節外転モーメント発揮やパワーに機能的貢献することを本研究は明らかにすることはできなかった.しかしながら本研究結果より,片脚立位動作において中殿筋のPMSP出現が確認された被験者がいることやその出現は被験者間で変動があることを明らかにしたことは理学療法学研究として意義のあるエビデンスである.
  • 中野 英樹, 植田 耕造, 大住 倫弘, 森岡 周
    セッションID: A-P-47
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】理学療法において,運動観察や運動イメージは,運動機能回復を目的とした有効な介入手段の一つである (Mulder T, 2007).先行研究において,手指のタッピング運動や対象物への上肢到達運動における運動観察,運動イメージ,運動実行中では類似した脳領域が賦活することがfunctional magnetic resonance imaging (fMRI) を用いて明らかにされている (Macuga KL, 2012; Filimon F, 2007).しかしながら,fMRIを用いた測定は身体の拘束性が高く,実際の日常生活とは異なる環境である.さらに,上肢の主な機能の一つである物品使用時における脳活動については明らかにされていない.そこで本研究では,身体の拘束性が低く,日常生活と同様の環境で脳活動の測定が可能であるfunctional near infrared spectroscopy (fNIRS) - electroencephalogram (EEG) システムを用いて,片手および両手の物品使用における運動観察,運動イメージ,運動実行中の脳活動について検討した.【方法】対象は,本研究に参加の同意を得た健常成人36 名(男性19 名,女性17 名,平均年齢23.0 ± 5.3 歳)とした.全ての被検者は,Edinburgh Handedness Inventoryにて右利きを示した.被験者は,背もたれのある椅子に座り,片手(箸と金槌)および両手(折り紙)の物品使用における運動観察,運動イメージ,運動実行を行った.運動観察条件—運動イメージ条件—運動実行条件を1 試行とし,計3 試行実施した.各条件のプロトコルは,rest (15 s) - task (15 s) - rest (15 s) - task (15 s) - rest (15 s) とし,その時の脳活動を測定した.脳活動の測定は,fNIRS(FOIRE-3000, 島津製作所製)とEEG(Active Two System, Biosemi社製)を用いた.fNIRSは,運動関連領野を覆うように光ファイバフォルダを装着した.パラメータは,酸素化ヘモグロビン (oxyHb) とし,NIRS-statistic parametric mapping (SPM) を用いて解析を行った.EEGは,国際10-20 法に基づいて32 チャンネルで測定した.パワースペクトラム解析を用いて,mu帯域 (8-13 Hz) のevent-related desynchronization (ERD) を算出した.有意水準は全て5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した.全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た.なお,本研究は当大学の研究倫理委員会の承認を得て実施した (H23-33).【結果】SPM解析の結果では,箸使用の運動イメージと運動実行,金槌使用の運動観察,運動イメージ,運動実行,折り紙使用の運動実行において運動前野に相当する領域にoxyHbの有意な増加を認めた (p < 0.05).パワースペクトラム解析の結果では,箸・金槌・折り紙使用の運動観察,運動イメージ,運動実行において感覚運動領域 (Cz) にmu帯域のERDを認めた.二元配置分散分析の結果,使用した物品と条件の間に有意な交互作用は認めず,使用した物品および条件にも主効果を認めなかった (p > 0.05).【考察】箸使用の運動イメージと運動実行,金槌使用の運動観察,運動イメージ,運動実行では,感覚運動領域のmu ERD および運動前野のoxyHbの有意な増加を認めた.この結果は,運動観察と運動イメージでは,運動実行に類似した心的なシミュレーションを適切に行っていたことを意味する.一方,箸使用の運動観察,折り紙使用の運動観察と運動イメージでは,感覚運動領域のmu ERDを認めたが,運動前野のoxyHbの有意差は認めなかった.箸および折り紙使用は巧緻性を伴った視覚的情報を多く含む.このことから,これらの運動観察ではミラーニューロンシステムの活動に必要な意味のある情報 (Craighero L, 2007) が想起されなかったこと,また運動イメージでは視覚情報優位のイメージを行っていたことが示唆された.【理学療法学研究としての意義】理学療法において,運動観察や運動イメージは,運動機能回復を目的とした介入のツールとして用いることが多い.本研究結果は,使用する物品から想起される感覚モダリティを考慮した上で,運動観察や運動イメージを臨床応用する必要性があることを示唆した.
  • 立本 将士, 山口 智史, 前田 和平, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平, 田中 悟志
    セッションID: A-P-47
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】脳卒中片麻痺患者の下肢運動機能へのアプローチに,両脚交互運動であるペダリング運動がある.ペダリング運動は,歩行に類似した筋活動や中枢神経系の賦活が可能であり,運動後に脊髄や大脳レベルでの可塑的変化が報告されている.しかしながら,両脚交互運動において,この運動制御を学習するという行動変容を示す報告はなく,学習に伴う中枢神経系の変化については検討されていない.そこで本研究では,下肢ペダリング運動による学習効果を行動実験および皮質内興奮性の変化から検討した.【方法】健常男性9 名(平均年齢25.3 ± 2.7 歳)を対象とした.ペダリング運動は,StrengthErgo240(三菱電機エンジニアリング社製)を使用し,設定はアイソトニックモード5Nmとした.行動実験は,ペダル回転速度を変動させることにより,ディスプレイ上を上下に移動するマーカーを不定周期の上下曲線に合わせるトラッキング課題とした.課題は,学習前課題,学習課題,学習後課題から構成された.学習前課題と学習後課題では,同様の曲線によるトラッキング課題を2 分間実施し,学習課題による学習の効果を評価した.学習課題では,10 分間のトラッキング課題を3 回繰り返した.学習後課題は,学習課題終了後に安静状態で30 分経過後に実施した.皮質内興奮性の評価は,二連発経頭蓋磁気刺激法を用いた.経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation:TMS)は,右下肢一次運動野に刺激し,左下肢の前脛骨筋(tibialis anterior : TA)から運動誘発電位(motor evoked potential : MEP)を誘発した.刺激条件は,試験刺激を安静時運動閾値の1.2 倍,条件刺激を微弱な随意収縮中の運動閾値の0.8 倍とした.安静時運動閾値は,50 μVのMEPが50%の確率で誘発される強度とし,収縮時運動閾値は随意筋電図を超えるMEPが50%で誘発される強度とした.条件-試験刺激間隔は,2msと13ms とし,ランダムに各10 回刺激した.評価は学習前課題の前(PRE),学習課題中の3 回の課題直後(Task1,Task2,Task3),学習後課題の後(POST)の計5 回行った.また対照条件では,学習課題内の3 課題に代えて,各10 分間の安静とし,すべての対象者で日を変えて実施した.データ解析は,トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(root mean square : RMS)を算出した.皮質内興奮性の変化は,MEPの最大振幅値を算出後,試験刺激から得られるMEP振幅に対する,2msおよび13msでの振幅比を算出した.なお2msは皮質内抑制,13msを皮質内促通とした.統計解析は,ペダリング条件および対照条件それぞれで,学習前課題と学習後課題を対応のあるt検定で比較した.ペダリング群は,課題反復による学習効果を検討するため,Task1,2,3 において反復測定分散分析を用いた.皮質内抑制と皮質内促通は,それぞれで二要因反復測定分散分析(介入×時間)を行った.多重比較検定は,Bonferroni補正した対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後,全対象者に研究内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】ペダリング条件では,学習前課題6.18 ± 2.19 から学習後課題4.55 ± 1.28 で,学習課題前後でRMSが有意に減少し,学習効果を認めた(p=0.016).一方,安静条件では6.02±1.65から5.65±1.15で,有意差を認めなかった(p=0.388).ペダリング条件における学習課題においては,主効果を認めた(F[2,16]=24.42,p<0.001).多重比較検定の結果,Task1 と2,2 と3,1 と3 にそれぞれ有意差を認め,ペダリング課題の繰り返しにより学習効果を認めた(p<0.05).皮質内抑制において,介入と時間の交互作用(F[4,32]=10.17,p<0.001)および介入と時間の主効果(介入:F[1,8]=34.09,p<0.001,時間:F[4,32]=14.61,p<0.001)それぞれを認めた.多重比較検定の結果,ペダリング条件で皮質内抑制は,PREと比較しすべてのTaskを含むPOSTまでに,皮質内抑制の有意な増大を認めた(p<0.05).これはペダリング運動によって,皮質内抑制の脱抑制が誘導され,その効果が30 分後まで持続したことを意味している.一方で,皮質内促通においては有意な変化を認めなかった.安静条件においても,どちらも有意な変化を認めなかった.【考察】本研究の結果から,両脚交互運動において運動学習が成立することが示された.また,ペダリング運動後に皮質内抑制は減少し,皮質内抑制の脱抑制が運動の学習に関与することが示唆された.今後,ペダリング運動が中枢神経疾患においても,同様の学習が可能であるか,さらに,下肢運動機能の再獲得に有効であるか検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】下肢運動における新しい運動学習課題を提案し,運動学習に伴う変化を行動実験,電気生理的手法により明らかにした点で意義がある.
  • 鈴木 伸弥, Mezzarane Rinaldo, 中島 剛, 二橋 元紀, 大塚 裕之, 小宮山 伴与志
    セッションID: A-P-47
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】ヒトの歩行運動中、低強度の足部皮膚神経刺激により、非刺激側下肢において、障害物接触時の修正反応に類似した運動応答ならびに筋電図応答が観察されることが報告されている (Haridas and Zehr 2003)。しかしながら、歩行中における足部皮膚神経入力が対側下肢筋の筋伸張反射経路の興奮性調節に及ぼす影響は明らかになっていない。Pierrot-Deseilligny et al. (1973) やDelwaide et al. (1981) は、安静時あるいはヒラメ筋の随意収縮中に、足部皮膚神経刺激により、対側のヒラメ筋H反射の振幅が増大することを報告しているが、歩行時における交叉性効果の動態や機能的意義、関与する神経機構については不明な点が多い。我々は、歩行中および立位において、足部皮膚神経刺激が対側のヒラメ筋のH反射に及ぼす影響を比較検討した。【方法】健常成人12 名(男性7 名、女性5 名、平均年齢27 歳)を対象とした。右脚のヒラメ筋の表面筋電図(EMG)を双極導出法により記録した。左右足底の踵部に感圧抵抗センサーを貼付し、踵接地を同定した。試験刺激として、右の後脛骨神経(膝窩部)に電気刺激(矩形波、幅1 ms、単発)を行い、ヒラメ筋H反射を誘発した。試験刺激強度は、誘発される対照H反射の振幅が最大M波振幅の10 〜30%となるように調節した。条件刺激として、試験刺激に先行して、左足関節部の浅腓骨神経(SPN)に電気刺激(矩形波、幅1 ms、5 連発、パルス間3 ms)を行った。条件刺激強度は、対側のヒラメ筋のEMGに反応が生じる閾値強度(知覚閾値の1.6 〜2.4 倍)に設定した。条件刺激‐試験刺激間隔は、立位において、H反射の促通が最大となる間隔を対象者ごとに選択した(100 〜130 ms)。運動課題は、トレッドミル歩行ならびに立位でのヒラメ筋の等尺性収縮課題とした。歩行課題では、快適速度(約4 km/h)でのトレッドミル歩行を実施し、踵センサーを用いて右立脚相初期にヒラメ筋のH反射を誘発した。立位課題では、両脚立位において、歩行立脚相初期のヒラメ筋の背景EMG量と同レベルのEMGを持続的に発揮するように求めた(最大随意収縮時筋電図量の約10%)。ヒラメ筋H反射のピーク間振幅ならびにヒラメ筋加算平均EMGの平均振幅を、SPN刺激の有無および課題間で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、千葉大学教育学部倫理委員会の承認を得て、全ての対象者に対して、十分な説明を行い、書面で同意を得た上で、本研究を実施した。【結果】立位において、SPN刺激により、対側のヒラメ筋H反射の振幅は対照H反射の平均120%に増加した(P<0.01)。一方、歩行立脚相初期でSPNを刺激した場合、対側のヒラメ筋H反射の振幅は対照H反射の平均90%に減少した(P<0.05)。立位課題と歩行課題間における対側のヒラメ筋H反射に対するSPNの条件刺激効果の違いは、統計学的に有意であった(P<0.001)。どちらの課題においても、SPN刺激により対側のヒラメ筋のon-going EMGに顕著な変化は生じず、SPN刺激を基準とした全波整流後加算平均EMGの平均振幅には各課題間で有意差を認めなかった。【考察】低強度のSPN刺激により、対側のヒラメ筋H反射に対して、立位におけるヒラメ筋の随意収縮中と歩行中とでは異なる交叉性効果をもたらすことが明らかとなった。SPN刺激単独では、対側のヒラメ筋のon-going EMGに顕著な反応が生じなかったことから、ヒラメ筋のα運動ニューロンプールの興奮性は変化しなかったと考えられた。つまり、今回明らかにしたヒラメ筋H反射経路に対する交叉性効果は、group Ia線維終末部におけるシナプス前抑制を介したものであると推測された。皮膚刺激と対側の足関節底屈筋の伸張反射経路の興奮性減弱は、足部と障害物との接触時の緩衝作用による身体の安定化あるいは身体の円滑な推進に貢献することが考えられた。【理学療法学研究としての意義】歩行中に障害物につまずいた場合、身体平衡を補償する機構は、転倒を予防する上で重要である。我々が明らかにした足部皮膚感覚情報に由来する対側肢の筋伸張反射の制御機序は、筋伸張反射の亢進した痙性麻痺患者において、転倒予防に向けた歩行トレーニング手法の開発に有用な知見となる。
  • 松井 滉平, 刀坂 太, 網本 怜子, 文野 住文, 鬼形 周恵子, 鈴木 俊明
    セッションID: A-P-47
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】運動イメージは、随意運動が困難な患者に対して身体的負荷を増加することなく、中枢レベルでの運動を反復できる有効な治療手段の一つとして考えられている。そこで我々は中枢神経疾患患者の特徴である筋緊張亢進に対して、これを抑制させる一つの手段としてリラックスイメージを利用することができるのではないかと考えた。本研究では最大収縮後の弛緩を利用したイメージをすることにより脊髄神経系機能の興奮性変化を検討し、その後のF波の変化について考察した。【方法】対象は、本研究に同意を得た健常者20 人(男性15 人、女性5 人)、平均年齢21.2 ± 0.69 歳とした。方法は以下のように行った。まず被験者を背臥位とし、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した(安静試行)。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30 回とした。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼で天井を注視させた。次に最大収縮後の弛緩をイメージさせる前段階として左側母指と示指による5 秒間の最大努力による持続的対立を2 回行い、最大ピンチ力を測定した。そして最大収縮後の弛緩の練習を行った後に十分な休憩を取り、次にこれをイメージした状態で左母指球筋よりF波を測定した。さらに運動イメージ試行直後、5 分後、10 分後、15 分後においてもF波と同様に出現頻度・振幅F/M比を測定した。本研究では最大収縮後の弛緩の運動イメージの効果を検討するために、運動イメージ試行、直後、5 分後、10 分後、15 分後それぞれについてDunnett検定を用いて安静試行と比較した。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。なお、本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を得ている。【結果】振幅F/M比、出現頻度はともに安静時と比較して有意差を認められなかったが以下の傾向があった。最大収縮後の弛緩を利用した運動イメージにおいて、振幅F/M比は安静時と比較してイメージ中は減少傾向であり、イメージ直後は増加傾向にあったが、その後は安静時に近づいた。出現頻度についてイメージ中は安静時と比較して減少傾向であり、5 分後、10 分後、15 分後に関しては徐々に減少傾向がみられた。また立ち上がり潜時に関しては各試行での差異は認めなかった。【考察】振幅F/M比および出現頻度は脊髄神経機能の興奮性を表す指標とされている。本研究の結果より、振幅F/M比は安静時と比較して運動イメージ中は減少傾向がみられた。またイメージから5 分後、10 分後では振幅F/M比は減少傾向がみられた。このことから運動イメージから5 分後、10 分後では脊髄神経機能の興奮性が減少させることが示唆される。次に運動イメージにおけるF波出現頻度は安静時から一様に減少傾向がみられる結果となった。このことから最大収縮後の弛緩を利用した運動イメージは、イメージ直後から15 分後にかけて持続的に脊髄神経機能の興奮性を減少させる可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】本研究より臨床において中枢神経疾患患者に対して筋緊張抑制するために最大収縮後の弛緩を利用したリラックスイメージは有用である。しかし、イメージ直後は脊髄前角の興奮性が増加したため、今後は脊髄前角細胞の興奮性を増加させないために、治療者側が具体的にイメージの設定・指示をする必要があると考える。
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