日本口蓋裂学会雑誌
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11 巻, 1 号
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  • 谷本 啓二
    1986 年 11 巻 1 号 p. 1-22
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋裂術後患者の嚥磯鞭明らかにするため, 嚥下パターンと口腔諸組織の強調機能についてX線映画法を用いて検討した.被験者は19名の口蓋裂術後患者(男性10名, 女性9名)と17名の健常者(男性15名, 女性2名)で, 口蓋裂術後患者は鼻咽腔閉鎖の良否により良好群と不良群に分類した.口腔書組織の運動等は, 生理的に有意義な時点((1)嚥下開始, (2)鼻咽腔閉鎖, (3)舌沈下, (4)嚥下第1相と第2相の境界, (5)嚥下物の喉簾谷到達, (6)嚥下物の食道到達)を設定し, 定性的観察に加えて駒ごとに定量的に分析した.舌機能については, 舌の沈下度とによって評価した. 口蓋裂術後群の中には, oral weaknessや嚥下時hesitationを示すもの観察され, 嚥下所要時間は不良群では対照群に比べ有意に長かった.嚥下運動における口腔諸組織間の時間的相互関係については, 鼻咽腔閉鎖と舌下の相対的時間関係の変化が最も特徴的であった.すなわち, 対照群では鼻咽腔閉鎖が舌沈下より早く起こるのに対し, 不良群では逆に鼻咽腔閉鎖が非常に遅れて起こり, 良好群でも同様に遅れがみられたがその値は小さかった.舌の沈下度は口蓋裂術後群では対照群に比べて有意に大きく, 不良群でその値は最大となり, 嚥下時における鼻咽腔閉鎖機能不全に対する代償作用と考えられた.舌骨運動は舌運動機能を反映し, 各群の間で異なったパターンを示す傾向があった.以上の結果より, 口蓋裂術後患者では鼻咽腔閉鎖機能障害の程度に応じて舌翻機能の異常が認められ, 特に不良群においては鼻咽腔閉鑓動と舌運動の間の翻性が欠如することが示唆された.
  • 冨 武司
    1986 年 11 巻 1 号 p. 23-46
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口唇裂手術の参考とすることを目的として, 日本人幼児の正常モデルを得るために, 3~6歳の幼稚園児501名について, 顔面写真の計測をおこない次の結果を得た.計測に関しては被験者の姿勢は眼耳平面が水平となるように独自に考案作成した小児専用頭部固定器を使用し, 全てを同じ条件で撮影をおこなった.
    1)3歳児の鼻翼幅は29.0mm±2.0, 鼻柱幅は6.4mm±0.7, 鼻孔幅は6.7mm±0.8であった.
    2)正中部上唇高径は13.7mm±2.1, 鼻柱基部-Cupid弓ピークの長さは13.4mm±1.8, 鼻翼基部-Cupid弓ピークの長さは13.0mm±1.6, 鼻翼基部-口角間距離は20.9mm±2.4, 口裂幅は33.2mm±1.8, 口角-Cupid弓ピーク間距離は14.4mm±1.7, Cupid弓ピーク間距離は8.3mm±1.6, Cupid弓角度は145.8度±4.3であった.
    3)上唇赤唇の厚さは正中部で5.1mm±1.3, Cupid弓ピーク部で5.6mm±1.3, 下唇赤唇の厚さは正中部で7.3mm±1.7であった.
    4)これらの数値は個体差が大きく有意な性差, 左右差はみられなかった.
    5)3~6歳の間の発育はわずかであり, 個体差をうわまわるものではなかった.
  • 古澤 清文, 古郷 幹彦, 西尾 順太郎, 井上 一男, 浜村 康司, 山岡 稔, 松矢 篤三, 宮崎 正
    1986 年 11 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    嚥下運動時の口蓋帆挙筋の収縮様式を解明する目的で, 上喉頭神経内枝に電気刺激を与えることにより, 反射性嚥下動作を誘発し, その時の口蓋帆挙筋の等尺性収縮を記録, 分析するとともに, 筋電図活動と対比観察した.
    1)上喉頭神経内枝に単0電気刺激を与えることにより誘発された口蓋帆挙筋の等尺性収縮の収縮開始時点から最大張力の得られるまでの時間は45±3.1msec, 最大張力を示す時点から張力が半減するまでの時間は32±1.8msecであり, 刺激時点から反射性誘発筋放電および張力波形発現までの潜時は, それぞれ20±1.2msec, 27±1.9msecであった.
    2)刺激頻度10Hz以上の反復電気刺激によって反射性嚥下運動が惹起され, 嚥下回数は, 30Hzの刺激頻度で最も多く認められた.
    3)反射性嚥下運動時の口蓋帆挙筋からの筋放電は, 397±50msecの間観察され, 筋放電の発現は, 顎二腹筋前腹および顎舌骨筋よりも早期に認められた.
    4)反射性嚥下運動時に認められた口蓋帆挙筋の張力曲線は, 0峰性で, 収縮力は張力発生後187±19msecで急激に減弱した.
  • 荒尾 宗孝, 神谷 裕二, 甲村 雄二, 名務 和宏, 深谷 昌彦
    1986 年 11 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂に合併する奇形には非常に多くの種類があるが, そのうち眼球の奇形, 特に眼球形成不全または無形成を伴った症例は少なく, 本邦ではほとんど認められない.
    今回, われわれは5か月の男児の両側性口唇口蓋裂に, 右側眼球無形成と副耳を伴った症例を経験したので, その概要について報告するとともに, その発生原因についても考察を加えた.
    また, 唇顎口蓋裂に他の奇形を合併するものの中には,症候群として命名されているものが多数あるが, 本症例に概当する症候群は認められなかった.
  • 第1報1歳代および2歳代手術例の言語成績について
    吉増 秀實, 大平 章子, 塩田 重利, 橋本 賢二, 天笠 光雄, 佐藤 和子, 石井 純一, 冨塚 謙一, 門脇 伸子, 大山 喬史, ...
    1986 年 11 巻 1 号 p. 62-69
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    昭和52年1月から昭和57年12月までの6年間に東京医科歯科大学歯学部第1口腔外科で3歳未満に初回口蓋形成手術を行った唇・顎・口蓋裂患者のうち330例に関して, 術後2年後の鼻咽腔閉鎖機能について検討し, また, このうち266例について4~5歳時の構音を評価した.鼻咽腔閉鎖機能および構音の評価は日本音声言語医学会口蓋裂言語小委員会の試案を用いて行った.また, 手術時に口蓋裂幅, 術前術後の口蓋垂一咽頭後壁問距離, push back距離について計測し鼻咽腔閉鎖機能との関係を検討した.
    その結果, 鼻咽腔閉鎖機能良好例は, 1歳代手術例では258例中229例(88.8%), 2歳代手術例では72例中61例(84.7%)であり, 裂型別では唇顎口蓋裂では, 193例中160例(82.9%), 口蓋裂では137例中130例(94.9%)で, 口蓋裂が唇顎口蓋裂より良好な鼻咽腔閉鎖機能を示し, 1%の危険率で有意差が認められた.一方, 手術時の計測値からみると, 唇顎口蓋裂は口蓋裂より裂幅が有意に広く, また, 口蓋垂一咽頭後壁間距離は術前術後とも大きく, このことが鼻咽腔閉鎖機能の予後と関係しているように思われた.しかし, 片側性唇顎口蓋裂のなかで鼻咽腔閉鎖機能軽度不全例, 不全例と判定されたものも良好例と同様の口蓋裂幅, 口蓋垂一咽頭後壁間距離を示し, 鼻咽腔閉鎖機能不全の原因として, 裂に伴う筋の走行の異常や, 術後の癩痕による軟口蓋の運動障害なども関与していると考えられた.また, 異常構音に関しては, 鼻咽腔閉鎖機能不全があると出現頻度は著しく高く, 特に, 声門破裂音は鼻咽腔閉鎖機能と関係が深いことが示された.さらに, 口蓋化構音および側音化構音は口蓋裂より唇顎口蓋裂に有意に多く観察され, 裂型間の咬合状態の違いや上顎の狭窄, 鼻腔一口腔痩のほか口蓋形成術前の顎裂や硬口蓋裂の存在による舌位の変化などが誘因となっていると推察された.
  • 三村 保
    1986 年 11 巻 1 号 p. 70-77
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂患者においては, 口唇形成の際に口腔前庭部のみならず口蓋前方部をも確実に閉鎖しておくことが, 口蓋形成術後の痩孔を防止する上で大切である.顎裂部閉鎖の芳法としてVeauによるvomer flapの改良法が種々考案されている.しかし破裂幅の広い場合にも確実な閉鎖を得ることができ, しかも口唇形成の手順に妨げとならない方法は見当たらない.
    著者は両側の口唇破裂縁の皮膚粘膜を弁として口腔側を被う方法を考案し, 良い結果を得ているので報告した.術式は以下の通りである.
    1)皮切デザインは三角弁法を用い, 赤唇部は既報の「良好な赤唇形態を得るための方法」による.
    2)両側口唇の破裂縁に沿って, 歯槽突起前端の齪唇移行部に基部を持つ, おおむね矩形の長い皮膚粘膜弁を作成する.外側唇側には長い弁が, 中間唇側には短い弁ができる.
    3)鼻翼内面の皮膚と鼻中隔前方部粘膜を用いて鼻腔底を形成する.
    4)外側唇側の長い弁を中央部で折り返しU字形に縫合する.
    5)中間唇側の弁は基部から後方に翻転し固定した後, 外側唇側の弁と縫合する.以上によって顎裂部口腔側は, 平行な3本の弁を並べた形で閉鎖される.
    片側性唇顎口蓋裂患者28例の口唇形成に本法を行った結果, 弁はいずれも良好な治癒を示し, 脱落や離開をきたした症例は皆無であった.このうち現在までに口蓋形成術を終了したものは18例である.口蓋形成術後, 鼻口腔痩を全く認めなかったもの16例, 口蓋前方部に小痩孔を認めたもの2例と良い結果を得た.
  • 両側口蓋裂について
    河合 幹, 栗田 賢一
    1986 年 11 巻 1 号 p. 78-85
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋裂形成手術には現在, 各種方法が用いられているが, その基本的目的は軟口蓋の延長と口蓋諸筋の再建にある.しかし鼻咽腔垂直距離の長い症例や口蓋帆挙筋機能の低下した症例では術後鼻咽腔閉鎖機能不全をきたしやすい.そこでわれわれは軟口蓋を口蓋帆挙筋の収縮方向へ手術時に引き上げ, 鼻咽腔垂直距離を減少させる手術方法(palatal pull upward method)を考案し片側性口蓋裂について, その手術方法を発表したが, 今回はその概念を両側性口蓋裂に応用したので, その手術方法について記載する.
  • 前畑 満雄, 仁平 孝幸, 大木葉 孝宣, 花田 晃治
    1986 年 11 巻 1 号 p. 86-93
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    新潟大学歯学部附属病院矯正科において矯正治療を受けた唇顎口蓋裂患者のうちで, 保定期間の終了しているものから70名を抽出し,「矯正治療に対する患者による術後評価」についてのアンケート調査を行った.質問紙により, 1.治療の動機, 2.治療後の顔貌に対する反応, 3.治療後の歯並びに対する反応, 4.口腔機能に対する反応, 5.治療による心理的変化, 60通院, 治療に対する感想, 7.患者をとりまく経済的, 社会的背景からなる7項目を調査した.その結果, 歯並びに対しては大部分の人は満足し, 性格は明るくなり, 自信の向上を示した.反面, 矯正治療後, 鼻・口元の形, 発音に関して不満を訴える人がかなりいた.さらに, 本調査から矯正治療を受けるにあたっての苦労は大きいものであったことがうかがいしれた.
  • III.手術施行による心理変化
    夏目 長門, 鈴木 俊夫, 吉田 茂, 服部 吉幸, 服部 孝範, 河合 幹
    1986 年 11 巻 1 号 p. 94-104
    発行日: 1986/06/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口唇, 口蓋裂の治療において, その内容をより良い形で進めていくために, 母親および家族の患者に対する認知的, 感情的側面ならびに行為的側面の変化について, 日常生活において最も患者と密着度の高い母親に対し, 時系列的変化の視点より, 各治療段階において自由記述方式による質問調査を行っているが, 今回は口唇裂, 口蓋裂手術後について, 口唇裂(Cleft lip)104名, 口蓋裂(Cleft palate)71名, 口唇・口蓋裂(Cleft lip and palate)218名, 計393名について集計を行い, 以下の如き結論を得た.
    1.手術が施行されることにより, 母親および家族の心理的圧迫は大幅に軽減される.この傾向は, 口唇裂手術においてとくに著明であった.
    2.母方の祖父母は, 術前より患者の母親に対して協力的で, 術後も著しい変化はみられなかった.
    3.父親の姉妹の中で, 術前より利己的で, 患者の母親に対して非協力的な場合は, 術後もあまり変化はしていなかった.
    4.近所の人々の態度は, 比較的無関心であり, 今だにこうした疾患に対する啓蒙は, 充分とはいえないことが推測された.
    5.母親の心配事項は, 術後においても容貌に関するものが多く, 一次形成手術後は一応安心するものの, 完全でないことに対する不安が残るものと思われる.また, 口蓋裂単独群では手術後も言語に対する不安をもつものが多く, 術直後に言語判定のできぬことが原因と思われる.また, 歯列矯正, 顎の成長といった口腔機能の改善への不安をもつものも多く, 手術後は, これらの母親の不安に対する心理的対応が重要だと思われた.
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