顎裂部への二次的骨移植は犬歯萌出前に施行することにより欠損補綴を用いない顎裂部咬合形成が可能とされる.しかし,同部の永久歯排列に関する詳細な報告はほとんどない.今回われわれは,骨移植後の咬合形成について今後の治療計画に反映させることを目的に,顎裂骨移植部の咬合形成を犬歯萌出状態により2群に分け臨床的に検討した.対象は1987年から1998年までに新潟大学歯学部附属病院口腔再建外科(旧第1口腔外科)で顎裂部への骨移植術を施行された88例とした.裂型別内訳は片側性口唇顎裂26例,両側性口唇顎裂2例,片側性口唇口蓋裂52例,両側性口唇口蓋裂8例であった.顎裂単位では犬歯未萌出群が51顎裂,犬歯萌出群が48顎裂であった.顎裂部咬合形成法は,犬歯または側切歯による閉鎖排列(C),側切歯の歯冠補綴(Cr),ブリッジ(B),義歯(D),歯の移植(T),インプラント(1),未補綴(N),不明(U),空隙あり,矯正治療中(O)に分類した.犬歯未萌出群ではそれぞれカテゴリCが28,Crが2,Bが1,Tが1,Nが1,Uが2,0が16顎裂で,一方犬歯萌出群ではそれぞれカテゴリCが22,Crが1,Bが14,Dが1,Tが3,Iが1,Nが2,Uが2,0が2顎裂であった.裂型別では,片側,両側性口唇顎裂,片側性口唇口蓋裂ではカテゴリCがそれぞれ15,4,29顎裂と最も多かったのに対し,両側性口唇口蓋裂ではカテゴリBが6顎裂と最も多かった.当科における骨移植術施行後の咬合形成は犬歯未萌出群61%,犬歯萌出群(骨架橋不良例を除く)52%において欠損補綴治療に頼らずに達成されており(カテゴリC,Cr,T,I),共にカテゴリCが最多であった.特に犬歯未萌出群ではカテゴリ0をあわせると92%の症例で空隙のない永久歯排列が実現可能で,犬歯萌出前に骨移植を行う意義を十分支持する結果となった.犬歯萌出群や両側口唇口蓋裂症例ではブリッジが比較的多かった.骨移植が犬歯萌出後であっても,抜歯・非抜歯症例にかかわらず1次目標は矯正治療か,あるいは欠損補綴によらない歯の移植やインプラントの応用による閉鎖排列が望ましいと考えられた.
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