日本口蓋裂学会雑誌
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37 巻, 1 号
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原著
  • 岩田 敏男, 安田 篤史, 名和 弘幸, 宮澤 健, 後藤 滋巳
    2012 年 37 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    乳歯列期,混合歯列前期に適用した急速拡大装置の治療効果を評価するため,初診時と拡大後の歯列石膏模型と正面頭部X線規格写真(正面セファロ)を用い,歯列弓幅径と顎顔面部の変化を検討した。
    対象は愛知学院大学歯学部矯正歯科を受診したHellman歯年齢IIA~IIIA期の片側性唇顎口蓋裂患者13例(男児8名,女児5名,平均年齢7.0歳)であり,以下の計測を行った。
    1.模型にて拡大前後の上顎乳犬歯(C),第一乳臼歯(D),第二乳臼歯(E)間の歯列弓幅径を測定した。
    2.正面セファロにおいて篩骨鶏冠頸部を通り左右の頬骨前頭縫合内側点(Z)を結ぶ線に対する垂線を顔面正中線(Mid-line)と規定し,Mid-lineと以下の計測点間距離を測定した。左右に計測点のあるものは拡大前後でそれぞれ裂側/健側比を算出した。
    ・左右C,D,E尖頭・咬頭頂
    ・左右Jugal process(J)
    ・上下顎健側中切歯近心接触点(U1, L1Mid)
    ・左右骨鼻腔最外側点(NC)
    ・Anterior nasal spine(ANS)
    ・左右頬骨弓最外側点(Zy)
    ・Menton(Me)
    ・左右Z
    拡大前後の平均値をt検定にて比較し,以下の結果を得た。
    1.拡大ネジ6mmの拡大量に対しての拡大率は約60~70%であったものの2週間で平均3.9~4.5mmの拡大量を得る事ができた。
    2.初診時においてMid-lineと裂側CおよびD間は健側に比べ有意に狭窄していたが,急速拡大後は歯列対称性に改善傾向が認められた。
    3.U1Mid,L1Mid, ANS,Meは急速拡大後にMid-lineに対する偏位が有意に悪化する事はなかった。
    4.Mid-lineとJ, NC, Zy,Zの裂側/健側距離比は初診時,急速拡大後とも1に近似した値であった。
    以上より,唇顎口蓋裂患者に対する乳歯列,咬合歯列前期における急速拡大装置による歯列の拡大は有用であると思われた。
  • ―頭部X線規格写真を用いた新しい評価法の試み―
    片嶋 弘貴, 新垣 敬一, 天願 俊泉, 砂川 元
    2012 年 37 巻 1 号 p. 9-21
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,片側性唇顎口蓋裂患者を対象とし,Hellman Dental AgeのIIIA・IIIB・IIIC・IVAにおける歯科矯正治療開始前の顎顔面形態の把握を側方頭部X線規格写真分析により行っている。加えて,我々は唇顎口蓋裂の一貫治療における顎発育に対し,術者(口腔外科医)と矯正歯科医が共通の認識を有することが,適切な医療の提供につながるものと考えており,顎顔面形態を把握するための頭部X線規格写真について,より簡便な方法の開発が必要と考えられ,これを用いた新しい評価法(Goslon-cephalo法)の試みを報告する。
    対象は,当科で一貫治療の下に口唇形成術ならびに口蓋形成術を施行した片側性唇顎口蓋裂患者のうち,歯科矯正治療開始前の患者64名を対象とした。方法は,対象患者の側面頭部X線規格写真を用いて分析した。さらにGoslon-cephalo法による上下顎の歯槽関係の評価を行い,Type別に5段階に分類した。これらの結果から,より簡便に外科的矯正治療の必要性の有無を鑑別する方法を模索し検討した。
    それぞれの時期における正面および側方頭部X線規格写真の分析結果は,IIIA期ではAngle of convexity, A-B plane, Gonial angleがそれぞれ小さい値を示した。IIIB期では,IIIA期の特徴に加えてInterincisal angleが大きくなり,U1 to FH およびU1 to SNが小さい値を示した。IIIC期では,さらにL-1 to mandibular planeが小さい値を示した。
    IVA期では,Gonial angleが大きい値を示し,IIIA期よりIVA期にかけて徐々に増大傾向を示す結果となった。また,IIIA期からIVA期までを通して,∠SNAが-1.0 S.D.以上小さくなっていた。
    潜在的に外科的矯正治療へ移行する可能性が高い不良群(Type 4 & Type 5)の症例は64 症例中12症例(18.8%)であった。
    分析結果から,良好群(Type 1 & 2)は∠SNAおよび∠SNBが全ての時期でともに小さい値を示し,調和のとれた顎間関係であった。一方で不良群(Type 4 & 5)は∠SNAは全ての時期において小さい傾向を示したが,∠SNBの値にはばらつきが認められた。これらの因子は一貫治療の咬合管理において重要な指標となりうる可能性が示唆された。
  • 朱 海英, 新垣 敬一, 天願 俊泉, 後藤 尊広, 砂川 元
    2012 年 37 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    【目的】唇顎口蓋裂患者は,歯列不正などが原因となり,齲蝕に罹患する割合が比較的高いことが示唆されてきた。今回われわれは,唇顎口蓋裂患者において齲蝕と顎発育との関連性を調べることを目的とし検討を行った。
    【対象】資料としては琉球大学医学部附属病院歯科口腔外科を受診し,継続して一貫治療を行ったIIA期の片側性唇顎口蓋裂患者66名と健常児10名とした。唇顎口蓋裂患者のうち,口蓋形成術後早期より口蓋床を使用し,早期に咬合誘導を開始した27例を咬合管理群,それ以外の39例を非咬合管理群とし,上下顎の石膏模型を用いて比較検討を行った。
    【結果】(1)齲蝕罹患率と一人平均齲蝕歯数では,咬合管理群は齲蝕あり17例(62.96%)で非咬合管理群齲蝕あり28例(71.79%)であった。一人平均齲蝕歯数において咬合管理群は2.30本で非咬合管理群は4.44本であった。
    (2)咬合管理群と非咬合管理群における齲蝕罹患の程度による顎発育の様相をみると上下顎の幅径と長径の計測値には差が認められなかった。
    (3)咬合管理群における重度齲蝕群と軽度齲蝕群における上顎は,非対称性を示していた。一方で,齲蝕無し群は対称性を呈していた。非咬合管理群では3群とも上顎が非対称性であった。
    (4)咬合管理群と非咬合管理群が舌房容積には類似の計測値を示した。健常児に比較すると,両群とも有意に小さい値を示した。
    (5)重度齲蝕群の正中線の偏位率は76.9%であり,軽度齲蝕群は57.9%であった。さらに齲蝕無し群が52.3%であり,健常児は20%であった。
    (6)前歯部に重度齲蝕を有する症例は軽度齲蝕群と齲蝕無し群より顎裂部の角度が有意に大きかった。
    【結語】今回の研究から,唇顎口蓋裂患者において,齲蝕と顎発育には関連性がある可能性が考えられた。
統計
  • 二ノ宮 邦稔, 内田 満
    2012 年 37 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    口唇裂・口蓋裂は,比較的発症頻度の高い先天異常であり,単独例,他の先天異常との合併,症候群の1症例として多くの報告をみる。我々は,1968年から2003年12月までの35年間に当科で経験した口蓋裂単独例について,合併先天異常を検討したので報告する。
    診療録上詳細な記載があった183例で,これに対し合併先天異常の調査を行なった。合併先天異常が見られたのは183例中57例・31.1%(男21例,女36例)であった。57例の中で性差をみると1:1.7と女性に多くみられた。口蓋裂の裂型別にみると,硬口蓋裂の合併先天異常は43例(男13例,女30例),軟口蓋裂では18例(男8例,女10例),粘膜下口蓋裂では合併先天異常は見られなかった。合併先天異常の種類は,舌小帯短縮症が7例,顔面の異常として斜視が4例,耳の異常として副耳1例,小耳症1例,耳介変形が2例であった。心疾患としては,心房中隔欠損症が4例と多かった。体幹の異常としては,鼡径ヘルニアが5例みられた。四肢の異常は12例で,先天性股関節脱臼が3例と多かった。中枢神経系の異常は19例で,精神発達遅延が11例にみられた。症候群・染色体異常は24例にみられ,Robin sequence,Apert syndromeがそれぞれ11例であった。
  • ―日本とラオス国の比較をまじえて―
    藤井 亜矢子, 新垣 敬一, 後藤 尊広, 仲間 錠嗣, 天願 俊泉, 片嶋 弘貴, 朱 海英, 砂川 元
    2012 年 37 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    【目的】口唇裂・口蓋裂患者を持つ母親の妊娠期間における生活習慣調査を日本およびラオス人民民主共和国(以下ラオス国)において行い,母胎環境を中心とした環境要因についての検討を行った。
    【対象と方法】対象は,当センター受診中の口唇裂・口蓋裂患者の母親24名(以下症例群)と,先天異常を有さない子供の母親22名(以下対照群)ならびに2011年ラオス国における医療援助で手術を施行した口唇裂・口蓋裂患者の母親26名(以下ラオス群)とした。アンケートはすべて現地の言語で記載されたものを用い,インフォームドコンセントを得た上で現地のスタッフによる対面調査とした。なお,本研究は琉球大学医学部附属病院倫理委員会で承認された。
    【結果】
    1)妊娠判明時期は,症例群よりも対照群で平均2.9週早かった。
    2)ラオス群の母親における出産時平均年齢は27.4歳であり,これはラオスでの出産年齢としては高い可能性が考えられた。
    3)日本において在胎週数,出生時体重,妊娠初期の喫煙や飲酒の状況,妊娠期間中の食生活や薬剤服用状況には,各群間に有意な差は認められなかった。
    【結語】妊娠を可及的早期に知ることは,以後の妊娠初期の生活習慣に,喫煙・飲酒を自制するといった変化が早期に生じることにつながり,口蓋裂発生への進展を防ぐ可能性が示唆された。
症例
  • 加藤 大貴, 藤原 久美子, 古川 博雄, 新美 照幸, 外山 佳孝, 長瀬 好和, 麻生 昌邦, 井村 英人, 南 克浩, 大野 磨弥, ...
    2012 年 37 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    口唇部の先天性瘻孔は,通常下唇,口角に発生し,上唇部に発生することはまれである。生後20日目,男児の右側口唇顎裂に先天性側方上唇瘻孔と鼻瘻孔が合併したまれな症例を経験したので報告する。臨床所見として,患児の右側赤唇と右側鼻翼部に瘻孔が認められた。生後6ヶ月時に全身麻酔下にて口唇形成術と瘻孔切除術を施行した。病理組織学的検査では,瘻孔壁は重層扁平上皮で覆われていた。術後3年が経過した現在,経過は良好である。
  • 府川 靖子, 府川 俊彦, 鳥飼 勝行
    2012 年 37 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2012/04/25
    公開日: 2012/05/11
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは,片側性唇顎口蓋裂で上顎劣成長と著しい上顎歯列弓の狭窄を伴う症例に対して,上下顎移動術に際し,上顎骨の骨延長術に工夫を加えて良好な結果を得たので報告する。患者は初診時年令16歳2ヶ月の男性で,受け口と叢生を主訴として来院した。上顎歯列弓の拡大後,術前矯正治療を経て,下顎は下顎枝矢状分割術で後方移動,上顎はLe Fort I型の骨切り術後に骨延長術で前方移動を行った。術後矯正治療および鼻口唇修正手術により咬合ならびに顔貌は満足のゆく結果となった。治療期間は4年6ヶ月を要した。治療後6年6ヶ月,保定治療終了後3年6ヶ月を経過したが,拡大した上顎歯列弓と骨格的な後戻りもほとんどみられず,長期に良好な咬合が維持されていた。
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