日本口蓋裂学会雑誌
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15 巻, 1 号
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  • 加藤 嘉之, 本橋 信義, 黒田 敬之
    1990 年 15 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 1990/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂患者における術後性廠痕組織に関しては様々な観点から検討されているが,その機械的性状に関する報告はほとんどみられない.われわれは皮膚粘弾性を測定するskin elastometerを用いて,これら患者の口唇部廠痕組織の機械的性状について定量的評価を行った.
    被験者として片側性に口唇閉鎖手術の術後性癩痕組織を有する者41名(片側群),両側性に有する者12名(両側群),唇顎裂を有さない者46名(正常群)の計3群99名を用いた.各被験者の上口唇に設定した3点について皮膚粘弾性曲線を求め,表皮層および皮膚全体の機械的性状をそれぞれ反映する,立ち上がり角度(α)と最大伸び(λ)を計測した.各計測値について健常組織と廠痕組織の比較検討を,群内,群間および個体内で行い次の結果を得た.
    1.綴痕組織は,同一裂型内においても,異なる裂型問の比較においても,健常組織に比して,その機械的性状はきわめて特異的であり,その特徴として,皮麟の伸びが少なく,柔軟性に乏しいことが示唆された.
    2.これら癩痕組織と健常組織の機械的性状差は,αよりもλにおいてより明瞭に浮き彫りにされ,綴痕組織の皮層構造変化が表層部より内部構造において大きいことが示唆された.
    3.個体内での健常組織と搬痕組織の比較検討から,療痕組織の機械的性状は,個々の症例により,きわめて変異に富むことが示唆された.
  • 矯正治療に伴う顎態の変化
    薮野 洋, 米田 尚登, 山田 建二郎, 井藤 一江, 岩見 優子, 山内 和夫
    1990 年 15 巻 1 号 p. 9-20
    発行日: 1990/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂者の顎顔面頭蓋の形態的特徴といわれている下顎角の開大や下顎下縁平面の急傾斜は,一説に舌房容積が小さいことに起因するとされてきた.一方,これらの特徴は非口蓋裂者の対咬接触状態の不良な者においても認められた.そして,唇顎口蓋裂者における対咬接触状態と顎態との関係を検討したところ,矯正治療前の顎態については,下顎角の開大や下顎下縁平面の傾斜度が舌房容積よりむしろ対咬接触状態と関連が深いという示唆が得られた.
    そこで本研究は,唇顎口蓋裂者の矯正治療に伴う対咬接触衝数や舌房容積の変化と顎態の変化との関係を調査することにより,顎態と対咬接触状態との関係について知見を得ようとしたものである. 片側性唇顎口蓋裂者26名の矯正治療前と治療後の経年的側方頭部X線規格写真と口腔膜型を分析したところ:
    1.治療前・治療後とも,対咬接触歯数の少ない者の方が下顎角が開大し,下顎下縁平面が時計方向に回転していた.
    2.治療前・治療後とも,上顎舌房容積の大小と∠Go,∠SN-MP,∠GZNの問に関連は認められなかった.
    3・矯正治療に伴う対咬接触歯数の変化量と∠Goの変化量との間に負の相関が認められ,対咬接触歯数の増加が大きかった者の∠Goの減少量が大きかった.
    以上の結果から,唇顎口蓋裂者における下顎角の開大や下顎下縁平面の急傾斜等の形態的特徴は,舌房容積が小さいことによるというより,むしろ対咬接触歯数が少ないことに起因していることが示唆された.そして,咬合状態の変化が咀噛筋機能動態を変え,下顎骨がそれに応じて再形成されるものと考えられた.
  • 年長者(中学生以上)について
    三浦 真弓, 楠田 理恵子, 堀 茂
    1990 年 15 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 1990/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    熊本機能病院言語治療室において,1984年5月から1989年1月までの4年9カ月間に言語評価および治療を行った159例の口蓋裂患者のうち,中学生以上の31例について治療方針,治療内容,治療結果を示し,治療上の問題点となった要因について検討した.
    対象の内訳は,中学生7例,高校生6例,大学生3例,社会人15例,性別は男性18例,女性13例,年齢は12歳11カ月から62歳11カ月であった.
    口蓋の再手術の適応があったものが10例,再手術と構音訓練の適応があったものが9例,構音訓練の適応があったものが5例,計24例(77%)に言語改善のための治療の適応があった.
    治療適応24例中実際に治療が行われたのは12例(50%)であり,治療実施率は高いとはいえなかった.
    治療の結果言語に改善がみられたのは10例(42%)であり,小学校低学年で構音訓練を終了する揚合と比較して改善率は低かった.
    治療の実施率が低かったのは,治療を希望しなかった,あるいは中断によるものがあったからである・その要因は,言語障害に対する認識が希薄であること,通院のための時間がかかり過ぎ仕事・学業の遂行に支障をきたすことなどであった.
    低年齢期に正常言語を獲得するためには,ことばに対する正しい認識を持つことが必要であり,そのためには初回手術後手術担当者から言語担当者へのスムーズな連携治療の必要性が示唆された.
    言語の経過観察や構音訓練を終了するにあたっては,上顎・歯列の矯正や成長に伴う口腔形態の変化が鼻咽腔閉鎖機能や構音に影響する可能性があること,訓練終了の判定時期が早すぎると習得した正常構音に崩れを生じる可能性があることなどを考慮して,慎重に時期を決定することの必要性が示唆された.
  • 舘村 卓, 和田 健, 浜口 裕弘, 古郷 幹彦, 松矢 篤三, 高田 健治, 西尾 順太郎
    1990 年 15 巻 1 号 p. 29-44
    発行日: 1990/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    4歳1カ月時における咽頭弁移植術施行後に睡眠時無呼吸症候群を呈した一症例に対して,口腔内視診,睡眠時ポリグラフ検査,側方頭部X線規格写真分析,レントゲンビデオ検査,聴覚的音声検査を施行した・その結果,本患児の顎口腔および咽頭部における諸器官の構成は睡眠時無呼吸症候群を惹起し得る要素を術前より有していた可能性があったこと,咽頭弁移植術施行後,睡眠時に十分な経鼻腔吸気量が確保できず,呼吸運動に伴う軟口蓋の挙上運動が障害され,口蓋垂および軟口蓋と舌背が接触することによって経口腔吸気抵抗が上昇し,睡眠時無呼吸症候群が顕症化したことが明らかとなった.
    本患児に対して種々の症状改善のための処置がなされたが,とりわけ軟口蓋挙上装置を装着したことによって著明に症状が改善した.本患児の治療から,咽頭弁移植術施行にあたっては,患者の年齢,顎形態,咬合状態ならびに顎口腔ならびに咽頭部における諸器官の相互の構成と経年的変化について,術前の検討が充分になされる必要があることが示唆された.
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