熊本機能病院言語治療室において,1984年5月から1989年1月までの4年9カ月間に言語評価および治療を行った159例の口蓋裂患者のうち,中学生以上の31例について治療方針,治療内容,治療結果を示し,治療上の問題点となった要因について検討した.
対象の内訳は,中学生7例,高校生6例,大学生3例,社会人15例,性別は男性18例,女性13例,年齢は12歳11カ月から62歳11カ月であった.
口蓋の再手術の適応があったものが10例,再手術と構音訓練の適応があったものが9例,構音訓練の適応があったものが5例,計24例(77%)に言語改善のための治療の適応があった.
治療適応24例中実際に治療が行われたのは12例(50%)であり,治療実施率は高いとはいえなかった.
治療の結果言語に改善がみられたのは10例(42%)であり,小学校低学年で構音訓練を終了する揚合と比較して改善率は低かった.
治療の実施率が低かったのは,治療を希望しなかった,あるいは中断によるものがあったからである・その要因は,言語障害に対する認識が希薄であること,通院のための時間がかかり過ぎ仕事・学業の遂行に支障をきたすことなどであった.
低年齢期に正常言語を獲得するためには,ことばに対する正しい認識を持つことが必要であり,そのためには初回手術後手術担当者から言語担当者へのスムーズな連携治療の必要性が示唆された.
言語の経過観察や構音訓練を終了するにあたっては,上顎・歯列の矯正や成長に伴う口腔形態の変化が鼻咽腔閉鎖機能や構音に影響する可能性があること,訓練終了の判定時期が早すぎると習得した正常構音に崩れを生じる可能性があることなどを考慮して,慎重に時期を決定することの必要性が示唆された.
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