日本認知心理学会発表論文集
日本認知心理学会第10回大会
選択された号の論文の152件中101~150を表示しています
ポスター発表3(記憶①)
  • 大塚 一徳, 宮谷 真人
    セッションID: P3-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    ワーキングメモリスパン課題は,測定された記憶成分と処理成分が,高次認知課題の得点と相関がある点が特徴である。これらの課題では,処理課題の遂行と同時に記憶しておくことが必要な記銘項目の再認数によって記憶成分を測定する。この記銘項目数の範囲を操作することでワーキングメモリスパン課題における記憶負荷を操作することが可能である。この記銘項目数は測定値の分布を考慮して床効果や天井効果を生じないように通常は適切に設定されている。本研究では,この記銘項目数を操作することで記憶負荷の異なる言語的,数的,視空間的な領域のワーキングメモリスパン課題を実施した。潜在変数分析の結果,記銘項目数の違いによる記憶負荷の違いによって,ワーキングメモリの処理成分,記憶成分及び流動性知能との相関は異なっていた。この結果をもとに,ワーキングメモリスパン課題における処理成分,記憶成分の関連性について検討した。
  • 分部 利紘, 綿村 英一郎, 高野 陽太郎
    セッションID: P3-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    体験した出来事の記憶を思い出す過程(検索過程)については多くの研究で、想起すべき記憶(ターゲット)の検索手がかりと連合した記憶のみが活性化されて想起されると考えられている。本研究では三つの実験を通じてこの想定を再検証した。実験の結果、ターゲットを検索する時点の活性値(base-level activation)が高い記憶であれば、ターゲットやその検索手がかりと連合していないような記憶であってもターゲットとともに活性化されることが示された。この知見は、検索手がかりとの連合強度だけでなく検索時の活性値の高さもエピソード記憶の検索処理の規定要因になることを示している。また本知見は、海馬依存性の記憶検索の機序やPTSD患者における侵入的想起についても重要な示唆を与えるものである。
  • 本間 涼子, 後藤 崇志, 齊藤 智
    p. 103-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    新奇な課題の遂行を成功させるには、課題に関する情報の集合のメンタルモデルである課題モデルを形成し、保持し、適切な時期に機能させる必要がある。また、課題文脈が変化したときには、古い課題モデルを抑制し、効率よく新しい課題モデルを形成する必要がある。本研究では、展望的記憶課題において、目標行動の実行を指示する手がかりの出現頻度が変化する状況を設定し(低頻度から高頻度へ)、その課題成績と、シフティング機能の関係を検討した。その結果、展望的記憶手がかりが高頻度になったフェーズの最初のブロックにおける手がかりの検出率とシフティング課題成績が相関を示した。課題モデルの調整には、シフティング機能が大きくかかわっていることが示唆される。
ポスター発表4(記憶②)
  • 科学館職員と大学生と高齢者における小学生の頃の科学館への好意度の分析
    清水 寛之, 湯浅 万紀子
    セッションID: P4-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
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    本研究は、科学館での体験に関する個人の自伝的記憶の特性を多面的に捉えようとする研究の一環として、科学館職員と大学生と高齢者を対象に質問紙調査を実施し、幼少期の科学館への好意度が科学館体験の自伝的記憶によってどのような影響を受けるのかを検討した。(a)科学館職員293名、(b)一般の大学生421名、(c)一般の高齢者98名、の3群(全812名)を対象に、小学生の頃のもっとも記憶に残る印象深い科学館体験についての調査を実施し、記憶特性質問紙(MCQ:オリジナル38項目+直接的影響に関する1項目)を用いてその特性を明らかにするとともに、調査参加者の群間比較を行った。その結果、記憶特性質問紙が5因子(鮮明、意味、感覚、時間、感情)によって構成されることが明らかになった。重回帰分析の結果から、これら5因子の平均評定値から小学生の頃の科学館への好意度への予測パターンが群間で異なることが示された。
  • 本間 喜子, 川口 潤
    セッションID: P4-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
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    記憶の意図的な抑制によって想起が困難となることが示されてきた.また,記憶抑制時に扁桃体の賦活低下がみられるという報告もあり(Depue et al., 2007),記憶抑制によって感情情報が変化する可能性が示唆されている.これらの点から,記憶の意図的抑制の効果は,感情情報の処理に何らかの影響を与え,気分変化をもたらすことが予想される.一方で,気分の変化は感情制御によってもたらされることも知られている(Gross, 1998).そこで本研究では,記憶の意図的抑制もしくは感情制御を行った後,手がかり再生および気分測定によって記憶と気分への影響を検討した.その結果,記憶抑制を行った場合でもネガティブ気分の改善が認められ,感情制御を意図した場合でも記憶低下が見られた.以上の結果から,認知情報の抑制と感情制御は関連した過程を含んでいることが考えられ,それらの相互作用については今後の検討課題である.
  • 自伝的記憶の主観的特性と感情調節との関連
    関口 理久子, 山田 尚子
    セッションID: P4-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
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    本研究では、大学生99名(男21,女78,19.3歳)に実行機能質問紙(関口・山田,2011)の改訂版、自伝的記憶の主観的特性を測定する質問紙(関口,2012)および日本語版感情調節質問紙(吉津・関口・雨宮,未刊行)を施行し、実行機能と自伝的記憶の主観的特性や感情調節方略との関連を検討した。感情調節方略との関連では、実行機能の行動統制と注意の保持が高いと感情の再評価方略または抑制方略を用いやすく、情報の切り替えや熱中が高いと感情の再評価方略を用いやすいことが示された。主観的特性との関連では、言語的に詳細に語れるか、知覚的に鮮明に思い出しているか、あるいは、再現感があるかは、実行機能のうち注意の保持、切り替え、効率、会話、自己意識などの下位尺度と有意に関連があることが示された。
  • 池田 和浩, 佐藤 拓, 荒木 剛
    セッションID: P4-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、否定的な体験の記憶に対する肯定的な語り直しが、思考統制能力の高低によって、自伝的記憶そのものに与える影響の差異を検討した。80名の参 加者は、TCAQへの回答と、過去のネガティブな体験(主に嫉妬体験)を語るよう求められた。その後、参加者は単純反復再生群、転換的語り直し群、語りな し群(統制群)の3群に分けられた。反復再生群の参加者は、1日おきに2回出来事を正確に再生し、転換的語り直し群の参加者は出来事をポジティブなかたち で語り直した。原語りから1週間後、参加者は最初に語った出来事とできるだけ同じ内容となるように記憶を再生するよう求められた。実験の結果、思考統制能 力の低い参加者は、転換的語り直しを行うことで、ネガティブな記憶そのものを有意に減少させていた。一方、思考統制能力の高い参加者は、単純反復再生を行 うことでネガティブ価を減少させていた。
  • 金敷 大之
    セッションID: P4-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    32名の大学生参加者を対象にして,空間の記憶における符号化特定性について検証した。約8×8m,6×6部屋の実空間をスタートからゴールまでたどることで符号化する課題,および同様の平面空間の移動を見ることによって符号化する課題を参加者に求めた。それぞれの符号化課題直後に,実空間をスタートからゴールまでたどるテスト課題,および平面空間(紙)にペンで再現するテスト課題が行われた。その結果,正答率に関して符号化特定性が見られた。
  • 加藤 みずき, 越智 啓太
    セッションID: P4-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
     強い情動を喚起するような刺激が呈示されると,記憶に促進,あるいは抑制の影響がみられることがわかっている。本研究では,情動を喚起するような刺激を呈示させ,刺激の感情価(快-不快)とArousal(覚醒度)の高さが,記憶成績に及ぼす影響について検討する。
    予備調査では,写真スライドを呈示して印象評定を行い,Arousal,感情価,スライドの言語化しやすさについて評定させた。評定された写真をArousal(高-低)と感情価(快-不快)の2軸で分け,4群(快-高覚醒/快-低覚醒/不快-高覚醒/不快-低覚醒)に分類し,本実験で用いる刺激とした。
    本実験では,4群の写真をランダムに呈示し,予備調査と同様に印象評定を行う。直後に再生テストを実施し,覚えている写真をすべて報告させる。写真についての記憶成績を分析することで,Arousalや感情価によって記憶にどのような影響が与えられているかを検討する。
  • 性格特性語が埋め込まれたテキストを用いて
    佐藤 浩一, 山崎 唯
    セッションID: P4-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    血液型ステレオタイプによってフォールスメモリーがどの程度生起するかを、文章を用いて検討した。(1)血液型A型のステレオタイプに合致する性格特性語12語を含む文章(記銘語例:勤勉、CL例:真面目)、(2)職業ジェンダーステレオタイプに合致する職業12語を含む文章(記銘語例:秘書、CL例:保育士)、(3)DRMパラダイムでCL「階段」に該当する12語(記銘語例:段々)を含む文章、(4)同様にCL「警告」に該当する12語(例:危険)を含む文章、(5)同様にCL「改良」に該当する12語(例:品質)を含む文章が作成された。参加者にはパソコンで文章を一文ずつ提示し、下線を引いた単語を覚えながら音読するように指示した。虚再認率は血液型ステレオタイプによる文章で最も高く、次いでDRMリストによる文章、ジェンダーステレオタイプによる文章となった。
  • 喜び顔と怒り顔との比較
    伊藤 美加
    セッションID: P4-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
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    アイテム法による指示忘却パラダイムを用いて,顔刺激において指示忘却が認められるのか,喜び顔と怒り顔とで指示忘却効果に違いは認められるのかを検討した。実験参加者は,32人の人物の喜び顔または怒り顔からなる刺激リストを学習した。リストの半数は顔刺激提示後に「忘れろ」と忘却手がかりが,残り半数は顔刺激提示後に「憶えろ」と記銘手がかりが提示された。リスト学習後,全ての顔刺激に対する再認テストが行われた。再認テスト時の顔刺激はすべて真顔であった(異表情再認課題)。その結果,忘却手がかりが提示された刺激は記銘手がかりが提示された刺激よりも記憶成績が悪いという指示忘却効果は,喜び顔で認められたのに対し,怒り顔では認められなかった。この結果は,顔刺激の感情価が指示忘却効果の生起に関わることを示唆する。
  • 行為文に対する意味処理と音韻処理の比較による再検討
    長 大介, 藤田 哲也
    セッションID: P4-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    Jacoby Shimizu,Daniels & Rhodes(2005)は学習時に深く処理された旧項目と再認時に同時提示した新項目が,学習時に浅く処理された旧項目と再認時に同時提示した新項目より後の新項目の再認成績が優れることを示した。これは再認時の検索対象を特定の情報源(深い処理項目リストvs.浅い処理項目リスト)に制限することで,符号化時の処理モードが復元されるという情報源制限検索(source constrained retrieval)説で説明された。長・藤田(2011)は行為文による一般化を検討したが,新項目の再認成績に違いは認められなかった。これは学習時に行為イメージを生成したため,それを検索するだけで再認が行われたとした。本研究では学習時に行為イメージの生成を必要としない処理を行うことで符号化時の処理モードが用いられることを確認し,情報源制限検索の適用範囲を明らかにした。
  • 行為文に対する実演の有無による検討
    藤田 哲也, 長 大介
    セッションID: P4-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    Jacoby,Shimizu,Daniels & Rhodes(2005)が示したとおり,前件発表では,行為文を記銘材料にした場合でも,意味的処理と音韻的処理を対比させた場合には,新項目再認において処理水準効果が認められ,これは情報源制限検索(source constrained retrieval)説で説明可能な結果であった。本研究では,行為文に示された行為を実演するSPTs条件と実演をしない文条件とを比較した。通常の再認ではSPT効果が見られ,実演したSPT条件で学習した行為文の方がよく再認されたが,その後の新項目再認においてはSPT効果は見られなかった。長・藤田(2011)同様に,通常の再認では差が生じるような符号化操作を行っても,必ずしも再認時にそれと同様の処理モードが導入されるとは限らないことが示された。
  • 井上 和哉, 武田 裕司
    セッションID: P4-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は,シーン内に提示された標的の視覚探索時に形成される表象と記憶課題時に形成される表象を比較することであった。記憶課題では,学習シーンの提示から10秒後にブランクが提示され,続いてテストシーンが提示された。参加者はブランクの前後で特定のオブジェクトが変化したかどうかを報告した。探索課題では,参加者はシーンに含まれるミニカーを探索し、その向きを報告した。課題に対する構えを操作するために,ブロック内の課題の出現比率(80%対20%)を操作した。記憶課題で標的のトークンが変化する実験の場合,記憶成績は記憶課題に構えていたブロックの方がその逆よりも高かった(実験1)。一方,標的のタイプが変化する実験の場合,記憶成績は構えによらず同程度であった(実験2)。これらの結果は,視覚探索中も物体のカテゴリ情報は記憶課題と同程度に保持されるが,物体の細部はあまり記憶されないことを示している。
  • 猪股 健太郎
    セッションID: P4-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    境界拡張は,記銘した画像を想起する際,実際の画像よりも広い範囲の見えを想起する現象として知られている。本研究では,言語ラベルの適合性が境界拡張に与える影響を検討した。実験では,主な被写体の描写されていない均質なテクスチャーの写真を記銘するよう教示された。その際,テクスチャーと意味的に適合したラベルがあわせて呈示される条件,適合しないラベルがあわせて呈示される条件,ラベルが呈示されない条件が設けられた。各条件における,評定法による境界拡張の程度の測定の結果,適合したラベルが呈示される条件において,それ以外の条件よりも顕著であった。すなわち,見えの情報を補足する言語ラベルによって,見えの内容の理解がなされることで,顕著な境界拡張が生起した。このことから,境界拡張は肌理を自動的に小さく想起する現象ではなく,意味的な処理が関与していることが示唆された。
  • 西山 めぐみ, 大塚 幸生, 川口 潤
    セッションID: P4-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年の統計学習(statistical learning)に関する研究により,視覚刺激の呈示順序の規則性が顕在的に意識されることなく学習されることが明らかになっている(e.g., Brady & Oliva, 2008)。本研究では,学習―テスト間におけるオブジェクトの形態的特徴の相違が視覚的統計学習の成績に及ぼす影響について検討を行った。実験は,規則性を含む刺激列を観察する学習フェイズ(偶発学習)と,学習フェイズに基づき熟知性を判断するテストフェイズから構成された。テストフェイズでは,オブジェクトの形態的特徴が操作された。実験の結果,学習―テスト間で形態的特徴が同一である条件と同様に,異なる場合にも視覚的統計学習が成立することが明らかになった。これは,視覚的統計学習の柔軟性を示すものであり,視覚的統計学習が日常生活における様々な認知的処理に寄与している可能性を示唆している。
  • 津田 裕之, 齋木 潤
    セッションID: P4-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    ワーキングメモリ(WM)は様々な認知能力に幅広く影響を持つが、その容量限界や記憶表象の性質については未解明な点が多い。近年有力なモデルとして、WMは離散的かつ固定精度の表象を記憶容量に対応する数だけ保持していると考えるモデルがあるが、一方でそのような制約を想定しない、柔軟なリソース配分が可能とする説も唱えられており、最近の論争となっている。こうした相反する見方は実験条件、特に記憶項目となる刺激の相違に由来する可能性が考えられるため、本研究ではバイオロジカルモーションという従来の研究とは質的に異なるタイプの刺激を用いてこの問題を検討した。その結果、上記のそれぞれの説を支持するようなデータが刺激の提示条件の操作によりどちらも出現する事が明らかになった。これは、記憶表象は課題状況に応じてその振る舞いが変化するものであり、上記の2つのモデルは必ずしも相互排他的ではないという可能性を示唆する。
  • 須藤 智, 山口 一大, 小西 なつみ, Lin Polong, 原田 悦子
    p. 118-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    Haradaら (2010)はICT機器操作の学習過程を年齢群で比較した処、若年成人では問題解決過程で何らかの体系性を持った操作ルールが抽出されるが,高齢者群ではそうでない可能性を示した。そこで本研究では、問題解決の中での学習を計測するGroton迷路課題(Snyder et al.,2005)を用いて、年齢群・性差・実験実施時間の効果を検討する実験を行った。高齢/若年成人各24名が、発話思考をしながら同じ「隠れた迷路」を5試行に渡って解答した。その結果、一般エラー(ルールに則って間違った道を選択)数は、若年者では第2試行以降,大きく減少することが示された。課題達成時間では二次の交互作用が認められ、高齢者・女性・午後実施群で操作時間が増加した。これらの結果を踏まえ、問題解決に伴う学習過程と認知的制御機能との関係について考察する。
  • 伊藤 真利子, 岡戸 涼, 綾部 早穂
    セッションID: P4-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    実験参加者自身により選択された項目の記憶保持は,実験者により割り当てられた項目に比べて優れる(自己選択効果)。本研究では,符号化時の自己選択により選択肢項目間の記憶の弁別が促されるか否かを検討した。実験参加者は,自身で選択(自己選択群)した単語,または実験者が選択(強制選択群)した単語を偶発学習した。10分後,全ての実験参加者はテスト項目として提示された各単語について記憶源の弁別をするように求められた。すなわち,実験参加者は各単語について選択した単語か,非選択の単語か,新しい単語かを判断した。その結果,強制選択群よりも自己選択群において弁別成績は高く,自己選択により選択肢項目の記憶が弁別されやすくなる可能性が支持された。
  • 伊藤 友一, 服部 陽介, 川口 潤
    セッションID: P4-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    人間は,将来自分の身に起こると思われる出来事について自己を投影し,ありありとイメージすることが出来る。そのような能力は,エピソード的未来思考と呼ばれている。エピソード的未来思考においては,過去のエピソード記憶から得た詳細情報を柔軟に統合するシステムが想定されている。特に近年の研究で,詳細情報を統合する際に,中央実行系が重要な役割を担っていることが指摘された。そこで,本研究では,中央実行系に高い負荷をかけた場合,詳細情報の統合が困難となり,イメージの詳細さが低下するかどうかを検討した。具体的には,エピソード的未来思考中に二重課題に取り組ませることで,中央実行系への負荷の程度を操作した。その結果,高い負荷をかけられた参加者において,未来のイメージの詳細さの低下を示す結果が得られた。本研究は,詳細情報を統合し,イメージを精緻化するために,中央実行系が重要な役割を担っていることを示している。
  • ―若年者と高齢者の比較―
    松田 崇志, 清水 寛之, 松川 順子
    セッションID: P4-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,様々な記憶課題に対する困難度判断と記憶成績の予測における若年者と高齢者の違いについて検討した。調査対象者は,若年者64名(専門学校生)と65歳以上の高齢者29名であった。調査対象者には,刺激の呈示時間の4条件(2秒・4秒・8秒・無制限)と刺激項目数の5条件(8個・16個・24個・32個・40個)を組み合わせた20通りの記憶課題を印刷した質問紙を配布し,それぞれの記憶課題に対する困難度判断と記憶成績の予測を回答することを求めた。その結果,若年者では,呈示時間が増加すればするほど,記憶課題の困難度を低く評定していたが,高齢者では,呈示時間が増加したとしても,記憶課題の困難度判断に変化はなかった。呈示時間(学習時間)と記憶課題の困難度の関係性についての認識が若年者と高齢者では異なっており,高齢者にとっては呈示時間の変化が記憶課題の困難度判断に重要ではないことが示唆された。
  • 神田 尚, 山村 豊, 井田 政則
    セッションID: P4-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的はワーキングメモリの測定方法を検討し,検査用紙を用いて簡便に実施ができるワーキングメモリ検査を開発することである。実施が簡便な新版ワーキングメモリ検査 (新版トレールメイキングテスト,高中低課題,高中低左右課題,概念的Nバック課題,メンタルローテーション,他) を作成し,それらと従来からのワーキングメモリテスト(演算スパンテスト,リーディングスパンテスト,他)を大学生に実施した。新版ワーキングメモリ検査の結果を因子分析したところ,「転換的注意機能」「分割・選択的注意機能」「抑制的機能」の3つの因子が抽出された。構造方程式モデリングによる分析の結果,新版ワーキングメモリ検査のスコアと従来型ワーキングメモリテストのスコアの間にはかなり高い正の相関がみられた。このことから,本研究で作成した新版ワーキングメモリ検査が,ワーキングメモリテストとして有効であることが示唆された。
  • 富田 瑛智, 山本 紗弓, 松下 戦具, 森川 和則
    セッションID: P4-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    既知の顔は未知の顔よりも,再認成績が良いことは既知性効果と呼ばれる(吉川, 1993)。この既知性効果は既知顔が連想されやすい未知顔に対しても生じることが示されている(吉川, 1997)。この未知顔における既知性効果は,連想された既知顔と未知顔を比較することで顔の形態情報をより詳細に符号化できたことによるのか,既知顔の意味記憶が活性化したことによるのか明らかでない。そこで,既知顔と平均顔を50%の比率で合成した合成顔と未知顔と平均顔を50%比率で合成した顔を学習し,再認時に既知顔(未知顔)の割合を段階的に変化させた画像群から学習した顔を選択させた。その結果,既知顔が連想される顔は学習時よりも既知顔方向に歪んで記憶されていることが示された。既知人物の想起は,未知顔の示差特徴の抽出に有利に働くこと、および既知性効果は意味記憶の活性化のみで説明できないことが示された。
  • 遠藤 香織, 苧阪 満里子
    セッションID: P4-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    リーディングスパンテストは,ワーキングメモリの個人差を反映するテストとしてよく知られ,これを用いて多くの研究がなされてきた。しかし,ワーキングメモリにおける個人差の評価に適した得点化法についての研究は,非常に少ない。今回は,主な四つの得点化法である総正再生数,正再生率,総正答セット再生数,スパン得点に加え,Cowan(2001)を参考にした新たな得点化法Memory Capacity Kについて報告する。Cowan’s Kをもとにした新たな得点化法Memory capacity Kの利点は,次の5つである。1)得点分布が広く連続的である,2)一度に記憶できた情報量を推測し得る,3)少ない文条件や試行数からでも成績の算出が可能,4)他の得点化法による成績と高い相関をもつ,5)正規分布にしたがう。また,この得点化法を用いることにより,一般的に,課せられる数が増えると,記憶できる数も増加することがわかった。
ポスター発表5(知覚・感性)
  • 綾部 早穂, 上野 安那, 小川 緑, 中野 詩織
    セッションID: P5-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    ニオイを嗅いだときに何のニオイかを同定することが困難であることは多くの先行研究で指摘されている。嗅覚独自の言語体系の欠如による符号化の困難さもあり、他者にニオイの情報を伝達し、嗅覚経験を共有することは他の感覚モダリティに比べて難しい。本研究では、ニオイの特徴を伝達しその感覚を共有する場面でのコミュニケーションにおいて、どのような言語的表現が有効であるのかを探ることを目的とした。実験参加者は同性の友人同士の2人1組で4種類のニオイのマッチング課題を遂行した。互いに相手が嗅いでいるニオイは分からず、オノマトペでニオイの特徴を伝え合うように教示した群と自由に言語表現をさせた統制群を設けた。結果として、統制群において具象的な表現がされる場合に嗅覚経験が共有されるとも限らないこと、その一方でオノマトペのような感覚的表現においても個人差が大きくこの場合も嗅覚経験の共有が困難であることが示された。
  • 絶対年齢推定課題による自己若年視傾向へのアプローチ
    小西 正人, 東 泰宏, 藤澤 隆史, 長田 典子, 小坂 明生, Shin Young-suk
    セッションID: P5-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    自己がイメージする自分の年齢を主観年齢と定義し研究を行っている。日本人、米国人、韓国人における顔画像を用いた自己の主観年齢は、総じて実年齢より若く知覚される傾向がある。 しかし、我々が定義した主観年齢は他者との相対で決まるため、自己を若く知覚する傾向(自己若年視)と他者の年齢を高めに推定する傾向(他者老年視)の両方の要因が混在する。そこで本研究では、これらの要素を考察するため、顔画像に対し「何歳に見えるか」を判断する絶対年齢推定課題を日本人、米国人、韓国人に実施し、比較検討を行った。その結果、日本人および韓国人には主観年齢と同様の自己若年視が起こることが確認された。そして、従来の主観年齢の結果との比較では、米国人では有意な差がみられたが、日本人と韓国人には差がみられず、日本人と韓国人の年齢推定においては、自己若年視傾向の要因として考えられている社会心理的要因が強く働く可能性が示された。
  • 石川 晋, 松田 憲, 楠見 孝
    セッションID: P5-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,学習を1週間ごとに計3回行った後,5分後もしくは1週間後に評定を実施した。刺激の呈示傾向として,学習毎ごとに呈示回数を操作し,上昇,一定,減少の3条件を設定し,その呈示傾向が単純接触効果にどのような影響を及ぼすのかを検討した。実験の結果,5分後評定の好意度は直前の学習で多く接触した条件で上昇したことから,評定直前の呈示回数が好意度に影響していることが示唆された。また,1週間後評定において好意度,親近性,懐かしさの上昇が確認された。過去の反復接触と時間経過が,刺激へのノスタルジア感情を引き起こし,それによって刺激への好意度も高まることから (Kusumi et al., 2010),本研究においても遅延により刺激への懐かしさが高まったことで,好意度や親近性が上昇したと考えられた。さらに,刺激の総呈示回数を増やし,各学習における条件間の呈示回数の幅を広げて呈示した場合,学習初期から刺激を多く呈示することで,好意度が高くなることが示された。
  • 日本語文字呈示時におけるfMRI研究
    真崎 大, 矢山 隆三, 赤塚 諭, 下斗米 貴之, 饗庭 絵里子, 長田 典子
    セッションID: P5-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    文字に色を感じる色字共感覚が知られている.メカニズムはいくつかの仮説があるものの,十分な解明がなされていない.色字共感覚研究は,世界中で盛んに行われているが,日本語文字に関する研究はほとんど行われていない.本研究では,色字共感覚者と非共感覚者に対してfMRIを用い,英数字及び日本語文字の視覚刺激呈示時の脳活動計測を行い,集団解析による比較を行った.その結果,日本語文字呈示時には,非共感覚者にも色知覚野での活動が見られた.日本語文字を呈示することで,非共感覚者の脳内においても共感覚的処理が生じている可能性が示された.そこで,色字共感覚者と非共感覚者の切り分けを客観的に行うことができる指標を作成する.具体的には,実験参加者に有色の数字とひらがなを呈示し,各文字と色の組み合わせに対する情動に関して評価してもらう.再度評価をしてもらい,その際の各文字と色に対する評価の一致度について分析を行う.
  • 田中 観自, 小野 史典, 渡邊 克巳
    セッションID: P5-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    数字を視覚刺激として呈示した場合、小さい数字は注意を左に、大きい数字は注意を右に向けることが知られている。本研究では、異なる数字を二度呈示した場合、どのように注意が向くのかを検討した。1-5、5-1、9-5、5-9の4種類の組み合わせが準備され、視野の中心に呈示された。被験者は2つの数字が順に呈示されたのを観察後、その右か左に呈示されるターゲットの検出を行った。一度目の数字(300ms)が消えてから二度目の数字が表示されるまでの間隔は100msに固定され、また二度目の数字が消えてからターゲットが表示されるまでの間隔(ISI)は200, 400, 600msであった。その結果、ISIの効果は見られなかったが、1-5、5-9を呈示した時に右側への反応が速いことが示された。これは数字の大小の相対関係によって注意がシフトすることを示唆している。
  • 自らの社会的判断を過信するのは、物理的知覚の客観性を過信することによるものなのか
    神原 歩, 遠藤  由美
    p. 130-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、錯視が意見の対立によって生じる偏見的認知を緩和することを示した。意見の対立が争いを生む理由の一つとして、人は対立する他者を、個人の動機や立場によって歪んだ見方をしていると(以下、バイアス)認知する傾向が報告されている。この傾向は、人が自己の見方を客観的なもの(状況の正しい反映の結果)と捉えるばかり(Naïve realism)、相反する見方を状況などに帰属することができず、その見方を行う人の内的属性に帰属する結果であると説明されている。本研究は、自己判断の客観性の過信は日々の物理的対象の知覚において、自分の見方が正しいという想定が不都合をきたさないことによって強化されたものであると仮定した。そこで、錯視によって知覚に対する疑念を生起することがバイアス認知に与える影響を検討した。その結果、錯視経験は対立する他者へのバイアス認知を低減することが示された。社会的判断の客観性の過信は、知覚の過信に起因している可能性が示唆された。
  • -男女ペア提示からの選択におけるストループ様効果-
    松野 隆則, 植本 彩香
    セッションID: P5-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
     先行研究では、単一のトイレマークの性別認知において、色情報がストループ様の干渉効果をもたらすことが指摘されている。本研究では、彩色されたトイレマークを男女ペアで提示し、選択反応にストループ様の干渉効果が生じるかを検討した。28名の女子大学生に、形2種類(抽象的図形・具象的シルエット)と色ペア2種類(黒赤・青ピンク)の4通りの組み合わせから構成されたトイレマークをペア提示し、色または形を手がかりとして指定された性別の刺激を選択する際に、形と色の情報が整合的なペアと不整合なペアとで、選択反応時間やエラー率に違いがないか調べた。形による判断おいて色情報が干渉効果を持っていただけでなく、色による判断においても形情報が干渉効果を持つことが明らかにされ、マークに使用された色や形の弁別性との関連が示唆された。2方向の干渉効果の質的な違いについても議論されている。
  • 高瀬 雅良, 饗庭 絵里子, 田中 里弥, 藤澤 隆史, 赤塚 諭, 下斗米 貴之, 長田 典子
    p. 132-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    和音は, 音楽聴取で喚起される情動に大きな影響力を持つ。先行研究の多くは単一の和音を対象としているが, 音楽では和音進行が重要な役割を持っていると考えられる。本研究においては, 和音進行聴取時の脳活動と心理的な印象について,fMRI およびSD 法を用いた検証を行った。その結果,長三和音を含む和音進行の聴取によって, 眼窩前頭皮質(BA47)での賦活が 確認された。また, 和音進行の印象には不協和度・モダリティ(長調的/短調的)・緊張度の3因子があることが示された.さらに和音進行前あるいは進行後の和音の印象 に有意な変化が生じる和音進行が存在することが明らかになり,和音進行の結果として得られる印象が,単一の和音によって得られる印象とは 異なることが分かった。長三和音が特に明確な印象を引き起こす和音であることも示され, 脳活動との間にも整合性が見られた。
  • Navon課題を用いた検討
    小松 佐穂子, 箱田 裕司, 東 まどか, 成澤 知那美
    セッションID: P5-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,表情および人物情報の顔認知能力とglobal-local処理傾向の関係について検討した。実験1では,表情認知能力とglobal-local処理傾向の関係について検討した。表情認知能力を調べるために,真顔と表情の画像合成を行って強度を変化させた表情画像に対し,認知される感情を回答する表情認知課題を実施した。global-local処理傾向を調べるために,数字を用いたNavon課題を実施した。そして表情認知能力とglobal-local処理傾向との関係について検討した。実験2では,Garnerパダライムによる表情と人物の選択的注意課題を用いて,表情認知能力および人物認知能力を検討し,global-local処理傾向との関係について検討した。実験1および2を通して,顔の認知能力の個人差とglocal-local処理傾向の個人差の関係について検討した。
  • 松井 孝雄, 水野 りか
    セッションID: P5-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    2刺激を呈示し第2刺激への反応時間を測定する実験において刺激間間隔(ISI)をブロック内でランダムに配置される要因にすると、短いISIの試行に対する反応時間が増大する。本研究では第2刺激が現れず反応も求められない試行(キャッチ試行)を加えて第2刺激出現の予測可能性を低めることが反応時間増大効果にあたえる影響を検討した。その結果、反応時間が全体として長くなる一方で短いISIの試行での反応時間増大効果が小さくなることが示された。
  • 嶺本 和沙, 吉川 左紀子
    セッションID: P5-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年,特定の表情を見続けると,後続の同じカテゴリの表情がわかりづらくなるという,表情に対する順応という現象が示された。本実験では,この現象を引き起こしているのは,「表情」そのものの情報なのか,「中性表情からの距離」という情報なのかを検討するために,怒り・幸福・恐怖・悲しみの4つの表情について,先行して提示する順応刺激に用いる表情の表出強度を変化させ,後続のテスト刺激に対する正答率の変化を調べた。その結果,順応刺激の表出強度が強くなるほど,テスト刺激の正答率が低くなり,より強い順応が起こることが示された。これは,表情に対する順応とは各表情と中性表情からの距離が重要な情報であり,この情報は私たちの表情認知過程にも用いられていることが示唆する結果である。また,この結果は表情のカテゴリに関わらず同じ傾向を示したため,表情が持つ固有の意味や機能は,表情に対する順応には影響がないことが示された。
  • 土田 昌司
    セッションID: P5-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    オノマトペ(擬声語)は、物事の状態をそれらしい音として字句に表現している。このため、一般の形容詞以上に直接的、感覚的な表現である。土田(2011)では、オノマトペとそれに対応する形容詞を用いた文章による実験により、わかりやすさは形容詞、状況のリアルさはオノマトペの方が高く感じられた。文章の意味の理解と状況の現実感には違いがあるといえる。この研究では、オノマトペの使用者が本人あるいは第三者としての立場である場合の評価であるといえる。オノマトペは場の雰囲気のような感覚的な内容の伝達に優れている可能性がある。本研究では、評価者が他者にオノマトペあるいは形容詞による表現を使用される立場を想定して、このときの気分を評定させ、これらにどのような違いが生じるかを検討した。感情を表すオノマトペでは、形容詞に比べネガティブな気分をストレートに伝達できていることがわかった。
  • 高橋 翠
    セッションID: P5-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    「女らしさ」が知覚される女性顔は魅力的と評価される一方で、「男らしさ」が知覚される男性顔は必ずしも高い魅力的ではない。この問題に対して筆者は、「男らしさ」が知覚される容貌と怒りの表情は知覚的に類似しているために、無表情・直視という顔の魅力評価研究における標準的な評定条件では、評定者に「自身に怒りが向けられている」と解釈され、脅威的と評価される(怖いという感情が経験される)ことが魅力評価を抑制している可能性を指摘してきた。そこで本研究では、魅力評定時に評定対象となる男性が、誰に対して(評定者/他者)、いかなる理由で怒りを示しているのか(社会的正義に基づく義憤/対人関係トラブルによる憤り)ということを示す文脈を呈示した。その結果、より「男らしい」男性顔はそれほど「男らしい」印象が与えられない容貌に比べて、怒りの理由と対象の情報である文脈情報が魅力評価により大きな影響を与える可能性が示唆された。
  • 法理 樹里, 井手 正和
    セッションID: P5-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
     空間手がかり法ではあらかじめ手がかりを与えておくと与えていないときに比べ,手がかり位置に提示されるターゲットの処理効率が上がることが知られている (Posner, 1980)。日常場面では,実験場面における矢印などの手がかりとは異なり,他者の動作が自身の注意手がかりとなることがある。そこで本実験では,手がかり刺激として指差し画を用い,空間手がかりとしての効果を矢印画と比較した。指差し画は上下左右を指差しした4つの上半身実写像を用い,矢印画も同様の方向にむけられた4つの画を用いた。3条件のSOA (150ms・300ms・600ms) の後,画面の上下左右のいずれかに呈示したターゲットに対して単純検出課題を行った。以上の方法を用いて,本研究では,他者の指差し画と矢印画が注意の補足に及ぼす効果と各SOA間での効果の差異を検討した。
  • 菊地 史倫, 秋田 美佳, 阿部 恒之
    セッションID: P5-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は触覚と嗅覚の相互作用に着目し、リップクリームに香りを付加したときの使用感に与える影響について検討した。20人の女性の大学生は、香りがないリップクリーム(統制条件)と香りを付加したリップクリーム(レモン条件・バニラ条件)を数回使用した後に、その使用感と嗜好について評価を行った。参加者は全ての実験条件に参加したが、実験は1日に1条件のみ行われた。その結果、レモン条件は伸びの軽さなどの「快適感」の評価が高く、唇に保湿感があるなどの「効果感」の評価が高い傾向が見られた。また、バニラ条件は唇がべたつかないなどの「べたつきのなさ」の評価が低く、唇のべたつきについて否定的に評価されていた。さらに、レモン条件は商品としての魅力が高いなどの嗜好の評価が高い傾向が見られた。これらの結果から嗅覚と触覚の相互作用が確認され、香りの種類によってリップクリームの使用感に与える影響が異なることが示された。
  • 近藤 あき, 高橋 康介, 渡邊 克巳
    セッションID: P5-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    順番に呈示される顔刺激に対して魅力度の評価を行うと、個々の顔刺激に対する評価は、直前の評価が高いほど高く、低いほど低くなるというバイアス(系列効果)が生じる(Kondo, Takahashi, & Watanabe, 2012)。本研究では正立顔と倒立顔に対して魅力度の評価を行ったときの、評価値の相関と系列効果を調べた。その結果、正立顔の評価と倒立顔の評価の間には高い相関が見られた。一方、系列効果は、正立顔においても倒立顔の評価においても生じたが、正立顔の評価では、先行する顔画像と現在の顔画像の性別が異なるときには、同じ場合に比べて系列効果が弱まることが示された。このような顔画像の性別による効果の違いは、倒立顔を評価した時には生じなかった。この結果は、正立顔でも倒立顔でも評価自体は変わらないが、両者の系列効果のパターンに違いがあることを示唆する。
  • 作業の種類と事前情報および“効果”の既知性との関係
    後藤 靖宏
    セッションID: P5-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    香りが作業遂行と気分に及ぼす影響を,事前情報と香りの既知性の観点から調べた.実験1では,グレープフルーツの香りの“効果”を意図的に操作し,クレペリン作業と気分に及ぼす影響を調べた.実験2では,更に作業を「知的作業」と「単純作業」に分け,香りがそれぞれに対してどのような影響を与えるのかを詳細に検討した. 2つの実験から,香りには,作業の種類を問わずその効率や結果を変化させる効果は薄いということを示す結果が得られた.一方,気分評価に対しては,香りに関してあらかじめもっている知識に合致するようにその評価が変化する可能性が示された.これらの結果から,香りには,作業のような具体的・客観的に評価しうるような側面を劇的に改善させる効能は期待しにくい反面,気分のような主観的な側面についてはそれを好転させうると言うことが出来よう.
  • 興梠 盛剛, 松田 憲, 楠見 孝
    セッションID: P5-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    先行研究によって幾何学図形を用いた単純な物体運動に対して生物性認知が生じることが示されている(i.e., Heider & Simmel, 1946)。松田・黒川・興梠・楠見(2010)は物体運動の変化回数と変化タイミング,加速度を操作し,複雑な運動をする対象ほど当該対象への生物性認知と好意度の上昇を示した。また尾田・富川(2009)は単純な運動を行う図形対象への情動の推定が可能であることを示した。松田ほか(2010)における生物性認知を伴った好意度の上昇は対象物体への情動の認知が影響したことが考えられる。本研究では松田ほか(2010)で使用された刺激を用いて対象物体から基本6情動が認知可能であるかを検討した。その結果,低頻度変化条件では悲しみ,高頻度変化条件では喜びや驚きの評価が上昇した。高頻度変化条件での情動認知が松田ほか(2010)における好意度上昇に影響したことが示唆される。
  • 新井田 統, 原田 悦子, 上村 郷志
    セッションID: P5-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,情報機器の操作時に感じる不満の原因の一つである待ち時間について,認知的アプローチによる問題解決を目指し,待つ行為の認知課程を明らかにすることを目的としている。本報告では,通信状態を事前に「通知」することが待ち時間に対する満足感に与える影響を評価した。実験では,492名の参加者が携帯電話でのメール送信時に発生する待ち時間への満足度を評価した。回線状況の事前通知は,「回線状況に問題が無いことを伝える」「混み合っていることを伝える」「混み合っていることを謝罪する」の3つの条件を設定した。その結果,長い待ち時間長において謝罪条件と問題有条件が問題無条件より高い満足度を示し,また,短い待ち時間長では,謝罪条件が問題あり条件より高い満足度を示した。これより,待つ行為への満足度評価は,単純な時間長からだけでなく,待ち時間の認識および社会的相互作用要因により影響を受けることが明らかとなった。
  • 中垣 辰徳, 松田 憲, 楠見 孝
    p. 144-
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    Matsuda, Nakagaki & Kusumi(2011)は,仮想空間におけるアバターの印象形成に背景情報の情動価及び,刺激の反復呈示が及ぼす影響について検討した。本研究では背景の情動情報を順序と提示する組み合わせによって操作することで,アバターの印象形成に,Aronson & Linder (1965)の示した,与えられる情報の変化によって印象形成に影響を与える,ゲイン・ロス効果 が現れるかの検討を行った。背景情報の変化からより良い印象をアバターが得ることができれば,仮想空間上でであったアバターと交流を始めるかどうかの判断に影響すると考えられる。参加者には学習段階としてアバターと背景の一致不一致評定を課し,評定段階ではアバターのみを呈示した上で好意度,教育水準,信頼度を7段階で評定させた。その結果,教育水準評定において条件間で,背景快→不快条件のほうが背景快→快条件よりも評定値が高く,ゲイン効果とは逆の影響がみられた 。 
  • 上川 峻典, 猪目 博也, 下斗米 貴之, 藤澤 隆史, 饗庭 絵里子, 長田 典子
    セッションID: P5-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年,緊急車両等の警光灯に回転灯ではなくLEDを用いたものが増えてきている.LEDは回転灯と異なり,光の点滅具合すなわち点滅パターンを自由に設計出来る利点がある.そこで接触事故を減らし,出来るだけ早く視認出来る点滅パターンの設計が求められている.本研究では点灯時間,滅灯時間,波形の立ち上がり時間,LEDの輝度を様々に変化させたLEDの点滅パターンを作成し,Bradely-Terryの一対比較モデルによって視認性(誘目性)に対する各条件の影響を評価した.その結果,特定の滅灯時間にピークを持つ視認性の高い領域が存在することが明らかになった.また,視認性に対して滅灯時間の主効果と点灯時間と滅灯時間の交互作用が確認され,点灯時間と滅灯時間に関する視認性マップを作成し,その構造を明らかにした.これは光強度との交互作用が出ていないことから,光強度に依存しない現象であると推測される.
  • 松下 戦具, 柳澤 洋希, 富田 瑛智, 森川 和則
    セッションID: P5-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    この研究では、人が自分の顔、知人の顔および他人の顔を見た時に知覚される歪みの大きさが調べられた。実験参加者は、標準刺激として正像の顔写真、比較刺激として正像と鏡像とが合成された顔写真を観察し、どちらがより歪んで(左右対称から離れて)見えるかを回答した。比較刺激の合成比率は系統的に操作され(正像20%:鏡像80%から正像-20%:鏡像120%のカリカチュア)、その比率によって歪みの度合いが操作された。実験の結果、正像と鏡像とを比較したときは、本人の顔においてのみ、正像がより歪んで知覚されることが明らかにされた。また、本人の正像の歪みの大きさ100%に相当する鏡像の歪みの大きさは約105%であることが示された。これらの結果は、自分の鏡像への順応が日常的に起こっており、知覚レベルの判断においても残効をもたらすことを示している。
  • 森本 敬子, 松田 憲, 長 篤志, 木下 武志
    セッションID: P5-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    この研究は、通信販売時における商品を試着することができないという商品に関するリスクを調べるため、実際の服地と服地画像との間でどのように触感の差がでるか調査しました。 私たちは4cm×4cmの24種類のテクスチャ(服地12個、服地画像12個)を、16人の被験者に見せ、触感の評価を依頼しました。 結果、服地が陰影のできやすいもの(凹凸、きめの粗いもの)は明るい服地のものが、服地と服地画像との呈示条件間に触感の差がでました。一方,服地に陰影ができにくいもの(平らな、きめの細かいもの)は暗い服地のものが服地と服地画像との呈示条件間に触感の差がでました。 また因子分析を行い、服地と服地画像、色の違いによる触感の決定要因が異なることがわかりました。
  • 羽津川 雅弘, 松田 憲, 長 篤志, 三池 秀敏, 楠見 孝
    セッションID: P5-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,単純接触効果において刺激の呈示回数,及び背景画像の操作による新奇な印象の付随が,人物の顔の評価にどのような影響を及ぼすかについての検討を行う。自分達の実験では,ニュートラルな顔の画像とテクスチャ画像を使って,背景の条件(毎回背景が同じか,異なるか),呈示回数の条件(3回,6回,9回),そして性別の条件(男性画像か,女性画像か)を操作し,実験を行った。実験は個別で行い,参加者には顔とテクスチャを組み合わせた画像を連続的に呈示した後,好意度,親近性,新奇性,再認についての評定を行わせた。今回の研究で女性刺激の評価は呈示回数や背景の変化の関係に依存する結果が得られた。また,男性刺激の評価はそのような傾向がないことが示唆された。
  • 竹島 康博, 行場 次朗
    セッションID: P5-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    生体は複数の感覚情報を統合することで外界を知覚しており,聴覚情報であっても見え方に影響を与えることがある。近年,聴覚情報によって視知覚が変容する現象が数多く報告されており,音の提示によって通り抜けているように見えていた軌道が跳ね返っているように見える現象や,ピッチがだんだん上がる,もしくは下がる音を提示することによって多義的だった運動方向が一義的に定まるといった現象が報告されている。しかし,これらの現象は多義的に見えるような複合刺激を用いており,より単純な刺激でも同様に変容するかはあまり検討されていない。そこで,本研究では仮現運動に聴覚刺激を同期して提示し,そのピッチの変化が運動軌道を変容させるかを検討した。その結果,同期させた音のピッチが下がる条件で軌道が下方に変化する割合が高くなった。ピッチが上がる条件では上方に変化する傾向は見られたが,有意な差ではなかった。
  • 蔵冨 恵, 吉崎 一人, 伏見 崇宏
    セッションID: P5-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,一致・不一致試行の出現確率が適合性効果に及ぼす影響を検討した。刺激-反応適合性パラダイムを用いたこれまでの研究では,一致試行の出現確率が低い事態に比べて,それが高い事態において,適合性効果が増加することが示されている。しかし,適合性効果が,一致試行出現確率に伴って連続的に変動するのかは検討されていない。そこで,本研究では一致試行出現確率を5段階設定し,適合性効果の変動を検討した。本実験では,80名の成人が参加し,左右視野どちらかにランダム呈示されるフランカー刺激の中からターゲットの同定を行った。左右視野における一致試行の出現確率は17%,25%,50%,75%,83%のいずれかであった。実験の結果,適合性効果が18%で最も小さく,83%で最も大きくなり,一致試行の出現確率の増加に伴って,適合性効果の増加が見られた。このことは,視覚情報選択性の調整が一致試行出現確率に依拠して行われることを示唆している。
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