地理学評論 Series A
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82 巻, 4 号
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論説
  • ──韓国・セマングム干拓問題を事例として──
    淺野 敏久, 金 枓哲, 伊藤 達也, 平井 幸弘
    原稿種別: 論説
    2009 年 82 巻 4 号 p. 277-299
    発行日: 2009/07/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    韓国全羅北道のセマングム地域で大規模な干拓事業が行われている.同国最大の干潟を失うことや事業目的が不明確な公共事業の必要性への疑問などから,セマングム干拓問題は大きな社会問題となった.本稿ではこのセマングム干拓問題を事例として,地域開発に関連した環境問題論争が持つ空間的な特徴を,市民・住民運動団体の主張に焦点を当てて検討した.新聞記事による出来事の整理と5年間の断続的な現地調査(環境運動関係者への聞取り)に基づいた分析の結果,全国・道・地区という三つの空間スケールごとの「セマングム問題」の存在と,その時間的な変化が明らかになった.また,異なる空間スケールを射程に入れた環境問題の争点が,地域的に異なる論争の場において複層的に存在しており,全体としての「セマングム問題」は,各運動体の事情や思惑に応じて,交流や連帯という手段によって,構成・提起され続けていることも確認した.
  • 水谷 知生
    原稿種別: 論説
    2009 年 82 巻 4 号 p. 300-322
    発行日: 2009/07/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    現在,九州と台湾の間の島々を示す地域名称として「南西諸島」,「琉球諸島」,「薩南諸島」などが重層的に用いられている.本稿ではこの地域の地域名称の使用,浸透の経過を政治的な背景とともに明らかにした.「南西諸島」をはじめこの地域の島々の地域名称の多くは,明治期に海軍省水路部により付与されたが,「薩南諸島」は民間で用いられ,広く使われるようになった.地域名称は教科書類によって一般に浸透し,名称の整理には教科書検定制度が役割を果たした.奄美諸島は,江戸期には,薩摩藩の直轄領でありながら対外的には琉球領として扱われたが,明治初期の日清間での琉球領有を巡る論争の際,日本政府は「琉球諸島」を沖縄諸島以南と整理し,奄美諸島を含めないこととした.一方,第二次世界大戦後,米国は軍事上の必要性から奄美諸島以南を日本本土と切り離す意図を持ってこの地域をRyukyu Islandsとした.「琉球諸島」の名称の使用には特に政治的な意図が多く働いた.
短報
  • ──西高東低冬型を対象として──
    木村 広希, 川島 英之, 日下 博幸, 北川 博之
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 4 号 p. 323-331
    発行日: 2009/07/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    気候学研究においては,特定の気圧配置を示す事例を選ぶ必要から,過去の気圧配置を分類することがある.気圧配置の分類は多くの場合,目視で行われており,長期間かけて行うことや複数人で行うことがある.これらの場合,判断にぶれが生じたり,分類結果が研究者の主観に左右されたりする可能性がある.本稿では,この気圧配置の分類に,パターン認識手法であるサポートベクターマシンを用いて,分類を自動化することを提案する.本研究では,日々の気圧配置からの西高東低冬型の検出を目的とし,実験により提案手法の有用性を検討した.JRA-25のデータを用い,1981~1990年を学習期間,1991~2000年を検証期間として実験を行った結果,最良で90%以上の適中率で西高東低冬型を検出できることがわかった.これより,学習データの与え方に主観が影響するものの,分類の際の負担を軽減でき,判断基準が変わることなく,ある程度の精度で気圧配置を分類できると考えられる.
  • 金 玉実
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 4 号 p. 332-345
    発行日: 2009/07/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    中国におけるアウトバウンド観光は,経済発展と規制緩和によって大きく発展しており,日本を訪れる中国人観光客も著しく増加している.本研究の目的は,日本における中国人旅行者の観光行動にみられる空間的特徴を明らかにすることである.中国の旅行会社が企画する訪日パッケージツアーの旅程を分析した結果,空間的には,東京と大阪を結ぶ中心軸が明らかになり,両都市における買物と名所見物が観光行動の中心となっている.これに,大都市近郊の温泉や火山,景勝地などを周遊する観光行動が付加されている.中国人の訪日観光に対しては,依然としてさまざまな制約が存在し,そのため,1回の旅行で多数の観光地訪問と観光体験が求められている.
  • 宮 由可子, 日下 博幸
    原稿種別: 短報
    2009 年 82 巻 4 号 p. 346-355
    発行日: 2009/07/01
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
    関東平野で冬季に吹く局地風「空っ風」について気候学的な解析を行い,日変化や鉛直構造を明らかにした.結果は以下の通りである.①空っ風日の地上風は明瞭な日変化を示す.関東平野の北西~西北西風の卓越する地域では,日中の風速は冬期平均の2倍近くに達する.②空っ風日の境界層上部の風速は昼前に小さく,夕方に大きくなる.③空っ風日の大気の安定度は冬期平均のそれに比べて弱い.これらの特性は,空っ風日には多くの運動量が地上まで輸送されていること,空っ風が熱対流混合風の性格を持っていることを示唆している.④空っ風日の相対湿度・日降水量は日本海側で高く関東平野で低い.1日当たりの日射量は日本海側で少なく関東平野で多い.これらの傾向は冬期平均に比べてより顕著である.以上の結果は,空っ風がフェーン現象を伴っており,この現象がもたらす晴天が混合層の発達をより助け,熱対流混合層の性格をより強めていることを示唆している.
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