地理学評論 Series A
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91 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論説
  • 申 知燕
    2018 年 91 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,ニューヨーク大都市圏におけるコリアタウンを事例に,グローバルシティにおけるトランスナショナルな移住者の移住行動を明らかにしようとした.戦後の資本主義と新自由主義経済,アメリカの移民政策の変化は,ニューヨークにおいてさまざまな韓人移住者集団を発生させた.彼らは,アメリカでの永住を目標に1980年代までに移住した旧期移住者と,1990年代からトランスナショナルな移住を行った高学歴・高所得の新期移住者に分類できる.旧期移住者は集住地を経て郊外へ再移住しており,生活全般においてコリアタウンに依存する.一方で,新期移住者は大都市圏各地に分散して居住しながら,人的ネットワークの交差点,もしくは韓国式のサービスを得る場所としてコリアタウンを利用する.このような動きは,新興国の経済成長段階が移住者集団の性格を変化させ,その多様な移住者集団によって,グローバルシティの都市空間が変化していることを意味する.

  • 中島 虹, 高橋 日出男, 横山 仁, 常松 展充
    2018 年 91 巻 1 号 p. 24-42
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,東京タワーの5高度(4, 64, 169, 205, 250m)における気温観測値(2001~2010年度)を用いて,晴天弱風夜間の東京都心における温位鉛直分布の特徴を明らかにした.解析に先立ち,強風時には鉛直方向に温位が一様となることを仮定して,観測値を補正した.通年の晴天弱風夜間を対象に,毎時の温位傾度鉛直分布にクラスター分析を施し,温位の鉛直分布を類型化した.このうち,下層から上層まで安定な場合や上層が強安定で下層が弱安定な場合は,冬季(11~2月)にはその頻度が夜半前から増加し日の出頃に極大となるが,夏季(5~8月)には全く現れない.上層の強安定層は都市上空の安定層の底面とみなされ,冬季夜間の混合層高度は約200mまたはそれ以上と考えられた.この高度は1960年代の観測結果よりも高く,都市化の影響が示唆された.また,温位鉛直分布の時間変化には,鉛直混合の促進・抑制とともに上空安定層底面の上昇・低下の関与が考えられた.

  • 福井 幸太郎, 飯田 肇, 小坂 共栄
    2018 年 91 巻 1 号 p. 43-61
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    飛騨山脈の四つの多年性雪渓で,地中レーダーで氷厚を,測量用GPSで流動を観測し,氷河の可能性を探った.その結果,カクネ里雪渓と池ノ谷雪渓は厚さ30mを超える氷体を持ち2m/年以上の速度で流動していたことから氷河,内蔵助雪渓は厚さ25mの氷体を持つが流動速度が3cm/年と遅いため多年性雪渓に移行しつつある氷河,はまぐり雪雪渓は現在流動していない多年性雪渓であることが分かった.日本で氷河と判明した多年性雪渓は合計六つになった.また,飛騨山脈の氷河の特性を現地観測データから検討した.その結果,気候条件的に現在の飛騨山脈では氷河が存在可能であること,平衡線高度が同じ地域内で大きくばらつくこと,カクネ里雪渓と池ノ谷雪渓は1955~2016年の61年間で面積がそれぞれ12, 16%減少したことが分かった.

短報
  • 田中 圭, 中田 高
    2018 年 91 巻 1 号 p. 62-78
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    広島市北郊で2014年8月20日未明に発生した土石流は山麓緩斜面に広がる住宅地を襲い,74名の犠牲者を伴う大災害を引き起こした.このような被害が発生した理由として,高度経済成長期における急速な宅地開発であると指摘されている.本稿では41名の犠牲者が集中した八木3丁目を対象に,撮影時期の異なる空中写真から作成したDSMを基に建物の建築時期を推定し,GISを用いて建築時期別に建物被害と土石流との関連について分析を行った.また,発災前にUAVを用いて撮影した範囲において,発災後に撮影を行い,それら画像からDSMなどを作成し,災害の状況を詳細に比較検討した.これらの分析結果から壊滅的な被害を受けた建物は,高度経済成長期以降に渓流の谷筋に建築されたものに集中したことがわかった.単純な高度経済成長期による宅地開発ではなく,土石流の発生危険度が高い地域に建物が建築され続けたことが,被害拡大の素因であることが明らかになった.

  • 梶田 真
    2018 年 91 巻 1 号 p. 79-96
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,第二次世界大戦期周辺における都市内部構造研究,具体的にはHoytの扇形モデルと,HarrisとUllmanによる多核心モデルが提起されたプロセスと背景を検討した.世界大恐慌,そして第二次世界大戦による研究活動や資料利用の制約の下で,これらのモデルは,軍務やビジネスといった実務を通じて得られた資料や議論を通じて構築された.一方,ShevkyとBellによる社会地区分析の出現は戦後,これらの制約が解消され,資料公開の進展や分析技術の発展によって研究者に新たな地平が開かれたことを示す,象徴的な成果であった.

  • 埴淵 知哉, 中谷 友樹, 村中 亮夫, 花岡 和聖
    2018 年 91 巻 1 号 p. 97-113
    発行日: 2018/01/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    近年の国勢調査においては,未回収や未回答に起因する「不詳」の増加が問題になっている.本研究は,小地域レベルの「不詳」発生における地理的特徴を探り,地域分析への影響と対処法について検討することを目的とした.2010年国勢調査を用いて「年齢」,「配偶関係」,「労働力状態」,「最終卒業学校の種類」,「5年前の常住地」に関する不詳率を算出し,都市化度別の集計,地図による視覚化,マルチレベル分析をおこなった.分析の結果,「不詳」発生は都市化度と明瞭に関連していると同時に,市区町村を単位としたまとまりを有していることが示された.このことから,国勢調査を用いた小地域分析において「不詳」の存在が結果に与える影響に留意するとともに,今後,「不詳」発生の傾向を探るための社会調査の実施や,データの補完方法についての基礎研究を進める必要性が指摘された.

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