地理学評論 Series A
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最新号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論説
  • 鈴木 修斗
    2023 年 96 巻 1 号 p. 1-32
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,軽井沢町およびその周辺の新興別荘地区へと移住した現役世代移住者の価値観・ライフスタイルと移住行動の関係を分析することを通して,アメニティ移住の現代的特徴を考察した.軽井沢町では北陸新幹線軽井沢駅開業後,東京圏からの移住者が増加している.特に町西部の新興別荘地区である追分地区で人口増加が著しい.そこに移住した調査対象者たちはホワイトカラー職に従事し,新幹線通勤やテレワークを利用する者もいる.調査対象者たちは東京圏の子育て・教育環境や,仕事・居住スタイルへの疑念から移住を決意し,交通利便性や良好な居住環境を鑑みて軽井沢町とその周辺地域を移住先として選択した.また,自然環境の良さ,学校や駅への近接性,地価の安さ,生活利便性の高さなどから追分地区を居住地として選択した.移住後の日常生活では,軽井沢町およびその周辺地域の居住環境がもつ諸条件を巧みに活用しながら,生活の質を向上させていた.

  • 小林 茂
    2023 年 96 巻 1 号 p. 33-56
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    明治期日本の海外における気象観測について,清国海関での観測を基盤とした中国沿岸の気象サービスを考慮しつつ,電信ネットワークとの関係を検討した.初期は気象担当官庁がなく,清国海関総税務司のロバート・ハートの提案を受け止めることができなかったが,長崎医学校化学教師のヘールツによって上海,厦門,香港の気象データとの交換が1873年から実現され,長崎測候所によって1882年に受け継がれることになった.ただし朝鮮半島や華北に関する気象データは,それぞれの地域の事情により交換で入手することが困難で,日清戦争後に台湾や琉球列島で観測点の増大が実現したに過ぎない.日露戦争期に至ると,軍用電信線を追うように臨時観測所が設置され,中国国内の電信網が利用できる日本領事館にも臨時観測施行場所が開設された.中央気象台技師の和田雄治がこれを推進し,他方海底電信線や望楼を通じた艦船への天気予報や警報の伝達も実現された.

総説
  • 高岡 貞夫
    2023 年 96 巻 1 号 p. 57-73
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,自然地理学の観点からの野生動物研究の可能性について論じた.まず,主に生物学によってなされた近年の生物地理学の進展について概観した.次に,野生動物の分布とジオ多様性の関係を考えるうえで地形に着目することが有効であるとの考えに立ち,既存研究をもとに野生動物の分布に対して地形がどのような役割を持つのかを整理した.さらに,地形を軸にした山地のジオ多様性と野生動物の関係に関する研究課題の例を地すべり地と山岳池沼の研究について示した.地形をもとに把握したジオ多様性を小スケールでの生態生物地理学的な研究に生かすことが,分子系統地理学による大スケールの分布パターンの研究成果をプロセス面から裏付けることに貢献する.その際,動物分布を成因論的に理解するために,ジオ多様性の発達史と動物分散の歴史の双方の視点をもつのが良い.これらのうち後者について特に詳細な検討が必要である場合には,景観遺伝学との連係が有効である.

短報
  • 柏木 純香
    2023 年 96 巻 1 号 p. 74-93
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,農業ICTが産地に受容される過程を,仲介者の機能に着目しながら明らかにした.具体的な事例として,西尾市のキュウリ産地における経営・栽培管理システム(富士通のAkisai)の導入の取組みを取りあげた.得られた知見は以下のように整理される.第1に,JAあいち経済連は仲介者として,主に産地外の組織と産地内のキュウリ部会部会員を結び付け,産地外の組織が部会員へ資源を提供することを促進していた.第2に,JA西三河は仲介者として,部会員に対面接触により知識を移転し,産地内でAkisaiの利用者を増加させるとともに,利用者となった部会員がAkisaiを継続的・効果的に利用できるようにしていた.第3に,JA西三河とJAあいち経済連はキュウリ部会と富士通と共に,産地内で繰り返しAkisaiを農業実践に適したかたちに改良していた.その際,JA西三河が終始中心的な役割を果たしていた.

  • 菊池 慶之
    2023 年 96 巻 1 号 p. 94-109
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    2012年のFIT導入以降,急速に増加するメガソーラーは,不動産投資の一形態として開発されることも多い.本稿は,日本におけるメガソーラーの地域的展開の特徴を明らかにするとともに,メガソーラー開発に関わる主体間の関係を分析することで,地方圏における土地の金融化のメカニズムとその影響を明らかにすることを目的とするものである.全国と岡山県の津山都市圏におけるメガソーラー開発を検討した結果,日本におけるメガソーラーは,大都市圏などの大規模発電事業者が,地方圏の土地資源を利用し,世界中の投資家のために開発・運営を行う構図が浮かび上がる.このような形態の開発は,地方圏の土地を金融市場に結び付けることで土地利用を急速に変化させる典型的な不動産を通じた金融化の進展とみることができる.また,金融化された開発においても,地元自治体の関与が地域の主体の事業参加を促すことが示唆される.

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