本稿では, 所得格差が広がったとされる1990年代後半以降, 小地域レベルにおいて世帯収入階層による居住分化が進んだかどうかを検証し, その要因や背景について考察した.初めに町丁目単位での所得分布を推定する方法を提示し, 1998年と2003年の東京都大田区を事例にその空間分布を比較した.その結果, 5年間における世帯収入水準は全体的に低下する中で空間的にも居住分化の進展の兆しが見られた.これは持家世帯や単身世帯の居住分化が高まったことに付随するものと考えられるが, 貧困層の空間的隔離が問題視される北米の諸都市と比べればいまだ低い水準である.大田区で居住分化が進んだ要因を居住地移動から分析した結果, 近隣移動が居住分化の進展に寄与している可能性が大きいといえる.他方で大田区では脱工業化を背景として, 地区によっては区外からの流入も含めた短期間で大量の人口流入が居住分化を抑制していることも予想される.
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