地盤沈下問題が顕在化する前の時期には,地下水揚水量の調査が行われることはきわめて少ない.このため,地下水流動や地盤沈下に関する信頼性の高いモデルを構築できないことが多い.本研究では,東京都区部を対象とし,既存の地下水揚水量データと国民総生産との関係を検討し,地下水揚水規制が始まる前の地下水揚水量の推定を試みた.その結果,両者の関係は,1959年前後において屈曲する区分線形関数により,よく近似されることがわかった.地下水揚水量と国民総生産の近似関係式を外挿して求めた過去の地下水揚水量の推定値は,世界恐慌や第二次世界大戦時の地盤沈下速度の低下や地下水位の変化と調和的であった.このような推定手法は,東京のような国家経済を牽引する大都市に対して有効であると考えられ,現在地盤沈下等の問題に直面しているアジアの大都市において,不足している地下水揚水量データを推定するための一手法として期待される.
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