地理学評論 Series A
Online ISSN : 2185-1751
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91 巻, 3 号
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論説
  • 大谷 侑也
    2018 年 91 巻 3 号 p. 211-228
    発行日: 2018/05/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    本研究は東アフリカ中央部に位置するケニア山(5,199m)の氷河の減少が周辺域の水環境・水資源にどのような影響を与えているのかを,実地観測,同位体比分析,年代測定,聞取り調査等から明らかにすることを目的とした.研究対象地域山麓部(約2,000m)では,降水量が概して少ないため,農業用水や生活用水をケニア山由来の河川水,湧水に依存している現状がある.調査と分析の結果,山麓住民が利用する河川水の涵養標高の平均は4,650m,湧水は平均4,718mとなり,氷河地帯の融解水が麓の水資源に多く寄与していることが明らかになった.また年代測定の結果,山麓湧水は涵養時から約40~60年の時間をかけて湧出していることがわかった.ケニア山の氷河は2020~2030年代には消滅することが予想されており,今回の結果から将来的な氷河の消滅は山麓の水資源に少なからず影響を与える可能性が示唆された.

  • 坂本 優紀
    2018 年 91 巻 3 号 p. 229-248
    発行日: 2018/05/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,長野県松川村におけるスズムシの鳴き声の地域資源化に着目し,サウンドスケープの持つ地域資源としての有用性を明らかにしたものである.観光資源の少ない松川村では,居住地の異なる住民主体の二団体により,スズムシの鳴き声という聴覚的地域資源を活用した取組みが行われてきた.スズムシの鳴き声は,古くから住民に親しまれており,地域資源としての活用が問題なく受け入れられた.しかし二団体の活用方法は異なっており,その要因として音を聞いてきた環境の違いによる,サウンドスケープの差異が指摘できる.また松川村においてスズムシの鳴き声は,地域アイデンティティ醸成の機能を果たしたが,特に注目すべきは,地域資源化の過程において,地域に対する再理解と新たな視点の獲得が行われたことである.本稿における考察の結果は,視覚的景観を重要視してきた日本の地理学において,聴覚を用いた地域理解の可能性を広げる点で重要な意義を持つ.

  • 上杉 昌也, 樋野 公宏
    2018 年 91 巻 3 号 p. 249-266
    発行日: 2018/05/01
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

    犯罪発生の集積パターンの特定やその要因の説明のため,犯罪研究においてミクロな空間単位が重視されつつある.本稿は従来よりもミクロな空間単位である街区レベルの犯罪発生要因を明らかにすることを目的とし,街区レベルの犯罪機会理論と近隣(町丁字)レベルの社会解体理論について検証した.東京都杉並区における空き巣発生を対象としたマルチレベル分析の結果,街区レベルの対象や監視性の違いが近隣内での犯罪率の差異を説明すること,またこれらとは独立に近隣レベルの社会的環境もまた街区レベルの犯罪発生に寄与していることが明らかになり,日本の都市住宅地において,異なる空間レベルで統合された犯罪機会理論と社会解体理論が有効であることが示された.これらの知見は,異なる犯罪発生プロセスがそれぞれの空間レベルで作用することを示唆するものであり,犯罪現象の統合的な理解や解明に加えて,防犯対策など実践面での応用も期待される.

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