本稿では,スマトラ中部リアウ州におけるアブラヤシ栽培の拡大と,それに伴う自発的な移住者の増加という現象に着目し,開拓空間におけるフロンティア社会の生業構造変化と社会階層の上昇移動プロセスを考察する.本稿の調査対象であるL村では,1980年代半ばの大規模な企業農園開発をきっかけとして,隣接する北スマトラ州から大量の移住者が流入している.L村の主な生業は,大きく個人農園経営者と農園労働者に分けられ,前者は個人農園だけで生計を成り立たせつつ,銀行からの融資等によってその規模を拡大させてきた.一方,後者に関しても,賃金を蓄積することで個人農園経営に参入することが可能であり,さらに一部は土地を追加取得することで大規模経営に至る者も存在した.このように,L村というフロンティア社会では,労働者層から兼業者層,そして大規模経営者層といった階層間の上昇移動が可能となることが明らかとなった.
「平成の大合併」後,旧市町村が「ローカル・ガバメントからローカル・ガバナンスへ」という変化を体現する空間単位として注目されている.本稿では,旧市町村がローカル・ガバナンスの構成単位として定着する可能性について,大分県佐伯市の旧町村地域政策である2つの事業を事例に考察した.具体的には佐伯市と合併した旧8町村のうち,旧直川村と旧米水津村におけるそれぞれの事業の実施主体と活動スケールを調べた.その結果,当初は両地域とも行政の主導によって旧村スケールの事業が展開されており,旧米水津村ではスケールが保たれたまま,徐々に住民主導に移行していた.一方,旧直川村では実施主体が小地域スケールの住民団体に置き換わっており,旧村スケールの住民主導の実施主体は現れていない.このことは,旧市町村スケールにおけるローカル・ガバナンスの勃興が,必ずしも期待できないことを示唆している.
本稿では,水産物直売所の開設が漁業経営にどのような影響を与えたのかを,大阪府岬町の深日漁業協同組合に所属する経営体を事例に考察した.深日においては,1950年代以降漁協が運営する共販市場が主な出荷先として機能してきたが,2017年4月にA店が町内に開店したことで流通構造が大きく変化した.直売を始めた経営体は漁獲金額を大幅に上昇させた.一方で,水産物の処理や箱詰め,店舗までの輸送といった作業が必要となり,集出荷作業に要する時間は増加した.加えて,直売の開始によって市場価値が低く共販市場で取引されてこなかった水産物の出荷先が確保されたことも判明した.この出荷の傾向は,くず魚を多く漁獲する底引網を営む経営体には有利に作用したが,その他の漁業種類を営む経営体には影響しなかった.このように,新たな流通システムが地域に導入される際,経営体間で変化の度合いにどのような差異があったのかは検討すべき重要な課題である.
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