発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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26 巻, 3 号
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原著
  • 浦上 萌, 杉村 伸一郎
    2015 年 26 巻 3 号 p. 175-185
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    心的数直線の形成は,数量概念の発達において非常に重要であると考えられている。その過程は大別して2つの立場から捉えられてきた。一つは,対数型から直線型へという質的変化を重視する移行の立場で,もう一つは,数量を見積る方略や基準点に着目する比率判断の立場である。本研究では,これらの立場では捉えきれなかった,関数に適合する以前の数表象の実態を検討するとともに,心的数直線の質的変化と基準点の使用との関連や見積る際の方略を検討した。分析対象者は,0–20の数直線課題が4–6歳児58名,0–10の数直線課題が4–6歳児27名であった。分析の結果,関数に適合する以前の数表象として,大小型などの5つの型が見出された。また,移行と比率判断との関連や方略を検討することにより,直線型であっても数直線の両端と中点を基準点として使用し,比率的に見積っているとは限らないことなどが明らかになった。これらの知見を踏まえて,幼児期における心的数直線の形成過程を考察した。
  • 松本 拓真
    2015 年 26 巻 3 号 p. 186-196
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの受身性は,Wing & Gould(1979)から指摘され,思春期以降のうつやカタトニアの要因として注目され始めているが,それ以前の時期では適応の良さとして軽視されがちだった。本研究では思春期以前に受身性が固定化する要因を明確にすることを目的に,自閉症スペクトラム障害の子どもを持ち,受身性を意識している親11名に半構造化面接を行った。データを修正版グラウンデッドセオリーアプローチにより分析したところ,15概念が生成され,6カテゴリーが抽出された。【支援への受身的な状態】から「意志表出主体として認められる」ようになる間に【意志か社会性かの揺れ動き】という独特の状態が介在し,受身性の固定化への影響が示唆された。このカテゴリー内には,【やるけどやらされてる感】という特殊な状態があり,親の求めに応じられるがゆえに受身的になる特徴が見られ,自己感の問題が推測された。その状態は親に強要か適切な指導かという葛藤や子どもの人生全てを背負うかのような責任感という苦悩をもたらしていた。また,受身性から脱却する変化の前に親が深刻な悲嘆や強い後悔を体験することも見い出され,子どもの受身性により生じた親の苦悩が受身性の固定化の一因となる相互作用が示唆された。本研究で得られたモデルはサンプルの偏りなどの点で限定されたものではあるが,更なる検討により精緻化が可能だと考えられる。
  • 大伴 潔, 宮田 Susanne, 白井 恭弘
    2015 年 26 巻 3 号 p. 197-209
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    日本語を母語とする子どもにおいて動詞の多様な形が生産的に使われるようになる過程や順序性の有無については,ほとんど明らかになっていない。本研究は,子どもの発話を縦断的に分析することにより,動詞語尾レパートリーの獲得の順序性の有無を明らかにするとともに,母親が使用する動詞の表現形との関連性について検討することを目的とした。研究1では,4名の男児の自発話の縦断的データに基づき,1歳から3歳までの期間の動詞語尾レパートリーを分析したところ,動詞語尾形態素の獲得に順序性が存在することが認められた。順序性を規定する要因として,養育者からの言語的入力,形態素が表す意味的複雑さ,形態素の形態論的・統語論的な複雑さが考えられた。研究2では,3組の母子を対象に母親の動詞語尾形態素を分析し,子どもの形態素獲得の順序性と母親からの言語的入力との関連について検討した。その結果,子どもの形態素獲得順序が母親の形態素使用頻度およびタイプ数と相関するだけでなく,母親同士の間でも形態素使用頻度・タイプ数について有意な相関が認められた。この知見は,母親の発話が文脈に沿った形態素使用のモデル提示となっていることを示すとともに,自由遊び場面での話者の観点や発話の語用論的機能に関する一定の傾向があり,意味内容と発話機能に関するこのような傾向が子どもの形態素獲得の過程に反映する可能性が示唆された。
  • 川本 哲也
    2015 年 26 巻 3 号 p. 210-224
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は成人形成期の人のアイデンティティと複数の社会的関係性がいかに関連するかを検討することであった。分析対象者は385名(男性:210名,女性:175名;M=22.4,SD=2.4,レンジ:18–29歳)であった。対象者のアイデンティティは多次元自我同一性尺度(MEIS;谷,2001)を用いて測定され,社会的関係性は,改訂版親密な対人関係体験尺度(ECR-R;Fraley, Waller, & Brennan, 2000; 島,2010)を用い,養育者・友人・恋人に対するアタッチメント・スタイルを測定した。対象ごとのアタッチメント・スタイル,年齢,性別を独立変数とし,アイデンティティの各側面を従属変数とした重回帰モデルを用いた共分散構造分析を行い,以下の結果を得た。「自己斉一性・連続性」は養育者に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「対自的同一性」は年齢からの効果が有意であり,「対他的同一性」は友人と恋人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「心理社会的同一性」は年齢と,友人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。この結果から,主観的なアイデンティティの側面は養育者との関係性と関連し,社会的なアイデンティティに関しては友人や恋人との間の関係性が関連することが示唆された。
  • 髙坂 康雅, 小塩 真司
    2015 年 26 巻 3 号 p. 225-236
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,髙坂(2011)が提示した青年期における恋愛様相モデルにもとづいた恋愛様相尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証することであった。18~34歳の未婚異性愛者750名を対象に,恋愛様相尺度暫定項目,アイデンティティ,親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係の影響などについて,インターネット調査を実施し,回答を求めた。高次因子分析モデルによる確証的因子分析を行ったところ,高次因子「愛」から「相対性―絶対性」因子,「所有性―開放性」因子,「埋没性―飛躍性」因子にパスを引き,各因子から該当する項目へのパスを引いたモデルで,許容できる範囲の適合度が得られた。また,ある程度の内的一貫性も確認された。「恋―愛」得点について,アイデンティティや親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係のポジティブな影響と正の相関が,恋愛関係のネガティブな影響と負の相関が確認され,また年齢や交際期間とは有意な相関がみられなかった。これらの結果はこれまでの論究からの推測と一致し,妥当性が検証された。また,3下位尺度得点には,それぞれ関連する特性が異なることも示唆された。
  • 垣花 真一郎
    2015 年 26 巻 3 号 p. 237-247
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    幼児の仮名文字の読みの正答率に影響する文字側の諸要因を検討した。清音文字,濁音文字,半濁音文字の正答率のデータは3–5歳の183名のデータを用い,拗音表記の正答率のデータは3–6歳の277名のデータを用いた。検討した要因は,(1)文字別の出現頻度,(2)字形の複雑さ,(3)五十音図の掲載順,(4)母音,(5)類似文字の有無,(6)濁音規則の例外,であった。文字種ごとに,文字別の正答率を目的変数,各要因を説明変数とした重回帰分析を行った。清音文字については,(6)を除く要因を検討した結果,五十音図の掲載順要因が有意であり,出現頻度,類似文字の有無が有意傾向であった。濁音文字については,(1)~(6)を検討し,出現頻度が有意であり,五十音図の掲載順,類似文字の有無が有意傾向であった。拗音表記については,(1),(2)のみを検討したが,出現頻度のみが有意であった。本研究の結果は,仮名文字の習得過程には,文字の形態を識別する視知覚の発達といった言語普遍的な側面だけでなく,文字別の頻度や五十音図といった言語・文化固有の側面が関与していることを示唆している。
  • 木下 孝司
    2015 年 26 巻 3 号 p. 248-257
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児が,言語だけでは伝えにくい技能を,他者の熟達が進むようにいかに教示するのかを検討した。34名の幼児を対象に,折り紙を使ったかぶとの作り方を,「折り紙がうまく作れず,一人で上手に作れるようになりたい」と紹介された学習者に教えるように求めた。あわせて,心の理論課題と,技能の学習プロセスを内省する課題も実施した。その結果,以下のことが明らかになった。1)年中児も年長児もともに,実演が中心であったが,年長児は教え始める際に,学習者の注意を自分に向けさせる発話が多かった。2)年中児は学習者の失敗を直接修正して代行することが多いのに対して,年長児は学習者自身が折ることを促す間接的な教え方をする傾向が認められた。3)心の理論課題の得点と,教示中に学習者の様子をモニタリングすることの間に有意な相関があった。また,自身の学習プロセスを自覚することと,学習者を主体にした間接的な教え方をする傾向の間にも有意な相関が認められた。以上のことから,年長児以降,他者の技能を向上させることを意図した教示が可能になることが示唆された。
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