発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
27 巻, 2 号
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原著
  • 陳 晶晶, 茂呂 雄二
    2016 年 27 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,未来への個人の感情・態度が現在の行動に与える影響を,ポジティブ・ネガティブの両側面から検討することを目的としている。研究1では児童・生徒の未来展望尺度の開発を行い,尺度の信頼性と妥当性の検討を行った。因子分析の結果より,児童・生徒の未来展望は「自信」,「心配」,「未来社会への信頼」の3つの下位尺度から構成できることが示された。研究2では,未来へのポジティブとネガティブな感情・態度と学校適応感との関連を検討するために,小学4年から中学3年にかけての児童・生徒の未来展望と学校適応感を調べ,重回帰分析を用いて学校段階ごとに検討した。その結果,自信と心配がともに学業場面における適応感に影響し,未来社会への信頼と心配がともに友人関係における適応感に影響することが明らかになった。研究3では,「中1ギャップ」問題の解明に新たな知見を提示することを目指し,小中学校間の移行前後における未来展望の変化を縦断的に調べた。その結果,中学入学後の子ども達の心配が有意に上昇し,未来社会への信頼が有意に下がることが明らかになった。移行に伴う心配の有意な上昇は,中学進学後に生起する多くの不適応問題の解明に,1つの有用な情報を提示していると考えられる。

  • 沖潮(原田) 満里子
    2016 年 27 巻 2 号 p. 125-136
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,障害者のきょうだいである筆者による自己エスノグラフィを通して,障害のある妹との関係や社会との関わりを明らかにした上で,障害者のきょうだいを生きることの内在的な本質を探ることを試みている。また,対話的な自己エスノグラフィという従来の自己エスノグラフィの批判を乗り越え得る方法を適用したことから,自己エスノグラフィにおける対話の可能性についても検討を行なった。筆者が妹の発達を感じるという判断がこれまで生きてきたどのような文脈の中で起きたのかという研究設問に対して,筆者の自己物語をデータとし,さらに分析に関する対話者との対話もまたデータとし,円環的にデータ収集と分析を繰り返した。結果では,筆者の妹の発達の捉え方の変化が時系列に整理された。次いで,妹の発達を期待していなかった自分自身の発見という筆者の物語から,障害者のきょうだいが,存在するだけで価値があるという家族的な価値観と,経済的な活動等ができることに意味がある社会的な価値観の狭間で揺らぐさまが明らかになった。さらに,筆者が望んでいた妹との切り離しに対して疑問を抱くようになった姿がみられた。このことから,青年期の発達課題でもあり社会的言説でもある,人は自立して生きていく,つまり障害者もそのきょうだいも別々に生きていくというストーリーへの追従と,それへの抵抗の間に揺らぐという点が障害者のきょうだいの心理的特徴として明らかになった。

  • 浜田 恵, 伊藤 大幸, 片桐 正敏, 上宮 愛, 中島 俊思, 髙柳 伸哉, 村山 恭朗, 明翫 光宜, 辻井 正次
    2016 年 27 巻 2 号 p. 137-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学生および中学生における性別違和感を測定するための尺度を開発し,性別違和感が示す,内在化問題および外在化問題との関連について検討することを目的として調査を行った。小学校4年生から中学校3年生までの5,204名(男子2,669名,女子2,535名)を対象として質問紙を実施し,独自に作成した性別違和感に関する13項目と,抑うつおよび攻撃性を測定した。因子分析を行った結果,12項目を含む1因子が見出され,十分な内的整合性が得られた。妥当性に関して,保護者評定および教員評定による異性的行動様式と性別違和感との関連では,比較的弱い正の相関が得られたが,男子の本人評定による性別違和感と教員評定の関連には有意差が見られなかった。重回帰分析の結果では,性別違和感と抑うつおよび攻撃性には中程度の正の相関が示された。特に,中学生男子において性別違和感が高い場合には,中学生女子・小学生男子・小学生女子と比較して抑うつが高いことが明らかになった。

  • 溝上 慎一, 中間 玲子, 畑野 快
    2016 年 27 巻 2 号 p. 148-157
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,青年期のアイデンティティ形成を,自己の主体的・個性的な形成に焦点を当てた自己形成の観点から検討したものである。個別的水準の自己形成活動が,抽象的・一般的水準にある時間的展望(目標指向性・職業キャリア自律性)を媒介して,アイデンティティ形成(EPSI統合・EPSI混乱)に影響を及ぼすという仮説モデルを検討した。予備調査を経て作成された自己形成活動尺度は,本調査における因子分析の結果,4つの因子(興味関心の拡がり・関係性の拡がり・将来の目標達成・将来への焦り)に分かれることが明らかとなった。これらの自己形成活動を用いて仮説モデルを検討したところ,個別的水準にある自己形成活動は直接アイデンティティ形成に影響を及ぼすのではなく,抽象的・一般的水準にある時間的展望を媒介して,アイデンティティ形成に影響を及ぼしていた。自己形成活動からアイデンティティ形成への直接効果は見られたが,小さな値であり,総じて仮説モデルは検証されたと考えられた。

  • 野田 航, 伊藤 大幸, 浜田 恵, 上宮 愛, 片桐 正敏, 髙柳 伸哉, 中島 俊思, 村山 恭朗, 明翫 光宜, 辻井 正次
    2016 年 27 巻 2 号 p. 158-166
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,単一市内の全公立小・中学校の児童・生徒(小学3年生から中学3年生)を対象とした縦断データの分析を行うことで,攻撃性の安定性に関して検討した。3つの学年コホート(合計約2,500名)の小・中学生の5年間の縦断データを対象に,潜在特性–状態モデル(Cole & Maxwell, 2009)を用いた多母集団同時分析を行った。攻撃性の測定には,小学生用攻撃性質問紙(坂井ほか,2000)を用いた。分析の結果,攻撃性は特性–状態モデルの適合が最も良好であり,特性変数と自己回帰的な状況変数の双方が攻撃性の程度を規定していることが明らかとなった。また,性差が見られるものの,攻撃性は中程度の安定性をもつことも明らかとなった。さらに,特性変数による説明率は,学年段階が上がるにつれて上昇することが明らかとなり,小学校中学年頃までは攻撃性の個人差はまだそれほど安定的ではないが,思春期に移行する小学校高学年頃から中学校にかけて個人差が固定化していくことが示された。

展望
  • 熊木 悠人
    2016 年 27 巻 2 号 p. 167-179
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    幼児期,分配行動には様々な発達的変化が見られる。しかし,なぜそうした行動上の発達的変化が起こるのかについての議論は,これまで十分になされていない。本稿では,幼児期の分配行動の変化の発達的基盤を明らかにすることを目的とした。まず,分配行動についての実証的な発達研究を概観し,幼児期の分配行動には,他者の要求や情動表出に応じた分配から,平等な分配,選択的な分配への発達的変化があることを示した。その上で,それらの行動の変化には他者を喜ばせるという利他的動機,社会的規範の順守,自身の長期的な利益に対する期待という分配動機の変化が関連している可能性を議論した。さらに,即時的な自分の利益に対する欲求の抑制という視点から,実行機能の発達が分配行動に果たしている役割を考察し,幼児期の分配行動の発達モデルを示した。最後に,分配行動発達のメカニズムのさらなる理解のため,今後の分配行動研究の方向性についての試論を行った。

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