【目的】終末期がん患者の呼吸困難に対する酸素吸入の実施頻度は高いが,臨床実態についての報告はほとんどない.今回,入院中の終末期がん患者に対する酸素吸入の実施頻度および有害事象について検討した.【方法】2016年1月から2018年6月に自施設の緩和ケア病棟を死亡退院した全例を対象とした後方視調査.入棟時すでに酸素使用していた症例は除外した.【結果】解析対象患者は257例,酸素吸入群が195例(76%).酸素吸入の死亡前の実施累積割合は7日前36%,3日前54%,1日前76%であった.有害事象は,束縛感64例(31%),せん妄症状悪化27例(14%),鼻腔・口腔出血25例(13%),乾燥5例(3%),自覚症状悪化4例(2%)であった.有害事象に伴う酸素吸入の中断は76例(39%)を認めた.【結論】死亡直前期の酸素吸入は死亡3日以内に半数で開始されていた.酸素吸入の有害事象として,束縛感やせん妄症状悪化を認める可能性がある.
東北大学病院でがん患者のケアに携わる病棟で働く看護師を対象とした無記名の自記式質問紙調査の「看護師のがん看護に関する困難感尺度」の回答分布について2016年と2010年の結果を比較した.2010年は512人に調査票を配布し,分析対象は356人であった(70%). 2016年は524人に調査票を配布し,分析対象は332人であった(63%). 2010年と2016年の調査と比較・検討した結果,知識尺度の正答率は,各項目で有意に上昇した(すべてp<0.05). 一方,自らの知識・技術に対する困難感では多く項目で有意に上昇し,システム・地域連携と看取りに対する困難感は有意に減少した(すべてp<0.05). 6年間で緩和ケア知識は上昇し,看取りおよび地域連携の困難感は減少した一方で,自らの知識・技術のうち,がん治療に関連した項目の困難感が上昇したことは,近年のがん治療の進歩や複雑さを反映しているのかもしれない.
【緒言】緩和ケア病棟で診断した後天性血友病Aの事例を報告する.【症例】86歳男性.1年前に胃がんと診断されたが本人に治療の希望がなく経過観察されていた.経過中に全身の皮下出血が多発し,貧血も増悪したため入院.血液検査で活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長を認めたが原因は不明であった.入院後も皮下出血は持続し,疼痛を伴った.緩和ケア病棟に入院後,血液検査でAPTTのみが延長していたため凝血学的検査を行い,後天性血友病Aと診断した.免疫抑制療法を検討したが経過中に抗菌薬が無効の誤嚥性肺炎を合併し,予後は短いと予想されたため免疫抑制療法は行わなかった.緩和ケア病棟入院後20日目に死亡した.【結語】後天性血友病Aは稀な出血性疾患だが,既往歴や家族歴のない突然の出血とAPTTのみの延長が認められた場合には後天性血友病Aを疑うべきである.
【目的】国内外のアドバンスケアプランニング(ACP)を比較し,わが国で今後求められる知見について検討する.【方法】医中誌およびMEDLINEで検索可能で2019年6月までに発行された日本語または英語の論文を対象に文献検討を行った.前者ではシソーラス「アドバンスケア計画」で検索可能な原著論文,後者ではMeSH「ACP」で検索可能なレビューを対象とした.【結果】MEDILINEで849本のレビュー(約500本が米国での執筆),医中誌では186本の原著論文が検索された.日本のACP研究の数・エビデンスレベルは米国に比べ遅れを取っていること,行政および学会等で共通したACPの定義が設定されていないこと,在宅療養者を対象とした介入研究の知見はほとんどないことが明らかとなった.【結論】日本の文化的・社会的背景を考慮したACPの定義設定とともにとくに在宅療養者への効果的な介入についてのエビデンスの構築が求められる.