吸入麻酔導入を動物に応用する場合, 保定に要する時間を短くする必要から, 高濃度の麻酔薬を吸入させる急速導入法 (Rapid Inhalation Induction; RII) が好ましい。そこで5%が最大濃度である市販の気化器を用いて本法を実施した。ビーグル犬24頭に対してイソフラン (OI) , セボフルラン (OS) , イソフルラン+67%笑気 (GOI) , セボフルラン十67%笑気 (GOS) について各麻酔濃度5.0%でRIIを行い, 導内時間, 導入時の体動, 循環器・呼吸器系に及ぼす影響を比較した。その結果, 5%濃度ではイソフルラン群がセボフルラン群よりも導入時間が有意に短かった。さらに笑気を加えた群 (GOI, GOS) では, それぞれ加えない群 (OI, OS) よりも導入時間が短く, 円滑な導入が可能であった。循環動態については全群で導入時の心拍数の上昇が顕著であり, これに伴い心拍出量, 心筋酸素消費量の指標としてのRPPも大きな変化を示した。気管挿管後は1.5MACで維持したところ, 約10分で循環器・呼吸器系ともに安定した値を示した。両麻酔薬のMACは当然異なるため, 単純な比較はできないが, 5%の最大スケールを持つ市販の気化器を用いた場合, 犬に対するGOIを用いたRIIは臨床上有用な導入法の一つになりうると考えられた。
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