陸水学雑誌
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61 巻, 1 号
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  • 井内 国光, 坂本 光, 柿沼 忠男
    2000 年 61 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    本研究は実験水槽を用いて被圧帯水層における塩水侵入と不圧帯水層における淡水レンズの定常挙動を再現し,それらと淡塩水境界面モデルおよび分散モデルでの数値解析結果との比較検討を行ったものである。得た結果を要約すれば次のようである。
    被圧帯水層の塩水侵入については,淡塩水境界面モデルにおける境界要素法は実験結果と良い一致を示し,有効な解析手法であることが示された。また, Dupuit近似を採用した解析は,水位勾配が大きいときには誤差は大きいが,塩水が内陸部まで侵入する場合には適用可能であり,解析解が求められるという容易さを考えると,これもまた有用な手法であることが示された。さらに,分散モデルの解析では,速度依存分散係数を用い,海との接点での境界条件としてCauchy型を採用した場合が,より実験結果の再現性が良いことも判明した。
    淡水レンズについては,淡塩水境界面モデルでDupuit近似を採用した場合,解析結果は実験結果より少し上方に位置するものの比較的良い一致を示し,分散モデルの解析では,遷移領域の幅などが比較的良く再現できた。
  • 森 雅佳, 香川 尚徳
    2000 年 61 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/12/11
    ジャーナル フリー
    河川上流部の比較的浅いところでは河床に付着する藻類が生息していて,一種の透析培養系をなすと考えられる。筆者らは愛媛県下の石手川上流のそのような場所で1985年1月から1997年12月まで毎月1回水質調査を行い,藻類の光合成作用を反映するとみられる溶存酸素(DO)濃度(mgL-1)を制御する環境要因の検討を行った。毎月の調査で得られた試料のうち,平水時の110試料について重回帰分析を行った結果,光合成作用の指標となる△DO濃度(溶存酸素濃度-飽和溶存酸素濃度:mgL-1)がカルシウムとマグネシウムのモル濃度の比(Ca/Mg),溶存態反応性リン(SRP)濃度(μgL-1)及び水温(WT:℃)の重回帰式で示された。
    △DO=0.616Ca/Mg-0.235SRP+0.037WT-1.70(R2=0.513,P<0.001)
    Ca/Mg比が藻類の光合成活性に及ぼす影響を確かめるために室内培養実験を行った結果,Ca/Mg比が5以上では藻類の光合成活性に対して正に作用し,4以下の時には負に作用することが認められた。石手川のCa/Mg比は3.87から6.04の範囲であることから,△DO濃度がCa/Mg比と正の関係を持つと考えられた。
  • 花里 孝幸, 吉岡 崇仁
    2000 年 61 巻 1 号 p. 21-23
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    In order to evaluate the effect of climatic warming on freshwater environment, limnological stud-ies have been performed and predictions of future impact have been given. In this special issue, seven papers produced by eight authors are presented, which review limnological studies on climatic warming as to diverse subjects such as distribution of water temperature and water movement in lakes, rivers and ground water, chemical properties of rivers and lakes, communities of plankton and fishes, and material cycles in watershed ecosystems. The papers are predicting future events oc-curring in freshwater environment as a result of climatic warming by using the data obtained in field observations at different temperature conditions and in some laboratory experiments. The pre-dictions are, however, still qualitatively. Quantitative predictions should be given to evaluate the effects precisely. For this purpose, experimental studies are desired to be encouraged more, and the predictions should be done being tied up with development of meteorology which gives accurate predictions of regional and local climatic changes associated with the climatic warming.
  • 新井 正
    2000 年 61 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化に関して,水温分布,水温予測の研究法,予測結果を概観した。現段階では,河川・湖沼ともに水温上昇は気温上昇よりは小さいこと,湖沼の循環型が変わる場合があること,水温成層は強くなること等が予測されている。しかし基準となる大気大循環モデルに差違があるため,予測値は不安定である。基礎となる観測値が非常に少なく予測を困難にしているので,今後は特異年に集中的な調査を行うべきである。特異年の例として,諏訪湖の結氷とエルニーニョの関係について述べた。
  • 佐倉 保夫
    2000 年 61 巻 1 号 p. 35-49
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    一般に,孔内温度プロファイルは地下水流動と過去の気候変化に影響されていることが知られている。地球物理学者は熱流量を見積もる補正のために,地下水流動の効果を温度プロファイルから取り除こうとしてきた。水文地質学者はまた地下の温度分布は地下水流動の影響を受けており,温度データが地下水の流速や流れの方向を推定するため利用できることを知っていた。地球物理学の文献には,地下の温度分布に対する表面温度の効果を扱った研究は多くあり,水文地質学の文献には地下の温度分布に対する地下水流動の効果を論じた研究は多く見られる。しかし,同時に両方の効果を扱った研究はほとんど存在しない。本研究では,地下の熱環境に対する地下水流動と過去の気候変化を検討した論文をレヴイウーする。次に濃尾平野において観測された地下の温度プロファイルと地温の逆転現象は,都市化に伴う地表面の温暖化だけの効果ではなく,両者の複合した影響による例として紹介する。
  • とくに河川の水文特性への影響を中心に
    森 和紀
    2000 年 61 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    湿潤温帯気候下に位置する河川流域を対象に,気温上昇に随伴する水文気象要素の長期変化の特徴について検証し,続いて過去に出現した典型的な気温上昇期における河川水質の変化の事例に関し考察した。木曽三川流域における過去102年間の年降水量・年蒸発散量,および年流出量の長期変化について検討した結果,1980年代以降,年降水量の減少に加え年流出率も低下傾向にあることが認められた。この事実は,流量の減少に伴う希釈効果の低下が今後引き起こすと予測される平均的な流況のもとでの河川水質の悪化を示唆するものである。次に,過去に出現した気温の上昇現象として最も典型的であった1994年夏期の事例に基づき,木曽川における河川水質の周年変化について1984年~1993年の10年間の平均値との比較検討を行った。例年にない高温が夏期に記録された1994年の河川水質には,水温の上昇と流量の減少を背景としたBODの上昇,溶存酸素濃度の低下,大腸菌群数の増加が認められ,気候変動が河川水質に顕著な影響を与えたことを指摘した。
  • 小倉 紀雄
    2000 年 61 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の陸水生態系へ与える影響について既存の研究事例をまとめ,考察した。温暖化・乾燥化に伴い,湖沼へ流入する河川水量の減少,湖水滞留時間の増大,湖水での硫酸還元・脱窒・生物活性の増加などにより湖水のアルカリ度の増加やpH上昇が認められている。また,氷河が後退し,集水域土壌・岩石の風化や酸化が進み,湖水へ流入する塩基性陽イオンの増加により湖水のアルカリ度の増加やpH上昇も報告されている。一方,集水域土壌の硝化活性が増大することにより,渓流水の硝酸イオン濃度の増加が認められている。また,著者らにより20年間継続して調査されてきた都市湧水の水質変化と温暖化との関連について考察した。
  • 花里 孝幸
    2000 年 61 巻 1 号 p. 65-77
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の湖沼プランクトン群集に及ぼす影響について,これまでの報告を整理し,考察を加えた。
    温暖化が進むと湖の深水層の溶存酸素濃度が低下し,植物プランクトン群集ではラン藻が優占するようになる。この影響は湖の富栄養化に似ている。動物プランクトン群集では,高温耐性の低いアミやDaphniaが減ることになる。また,多くの動物プランクトン種で成熟サイズの低下が起きる。温暖化は暖水性の魚の分布域を広げ,逆に冷水性の魚の分布域を大きく狭める。この変化は動物プランクトンの種組成や分布を変えることになる。また,それ以外にも様々な生物問相互作用に影響を与えると考えられる。温暖化は生物多様性にも影響し,プランクトン群集の種多様性を低下させるとみられている。
    さらに,温暖化の進行に伴い湖水中の有害化学物質濃度や紫外線量が増大し,プランクトン群集に対しより深刻な影響が及ぶだろう。これらの結果,湖沼生態系の構成種が小型化してエネルギー転換効率が低下するという,生態系の構造的機能的変化が生じるものと考えられる。
  • 谷口 義則, 中野 繁
    2000 年 61 巻 1 号 p. 79-94
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化に伴う水温の上昇が,淡水魚類に及ぼす影響に関する研究は,主に1990年代に入ってから盛んに行われてきている。これらの研究の多くは,対象魚種の水温に対する生理反応データに基づく分布変化予測と生物エネルギーモデルを用いた個体群動態の予測に大別される。しかし,実際には,温暖化が淡水魚類に及ぼす影響は,温度上昇そのものだけでなく,他の局所的環境撹乱因子との複合効果などを通じてもたらされると考えられる。さらに,多くの場合,従来の温暖化の影響予測では,個体群の遺伝構造の変化,生活史の可塑的変化および捕食者一被食者関係や競争などといった生物問相互作用の変化を介した影響に関する議論が欠落している。そのため,温暖化に対する淡水魚類群集の反応に関して十分に適正な予測が未だ得られているとは言い難い。また,温暖化によってもたらされると予測される淡水魚類の絶滅や分布変化は,食物網や物質循環の動態など生態系の諸特性に波及的な効果を及ぼすものと考えられるが,このような視点からの研究も未だ行われていない。今後は,長期間の観測データの蓄積や大規模操作実験によって温暖化の影響をメカニスティックに解明することに主眼を置くこと,さらに多分野の研究者が相補的に共同しうる研究体制を構築することなどが必要と考えられる。
  • 集水域研究の重要性
    吉岡 崇仁
    2000 年 61 巻 1 号 p. 95-100
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    陸上と陸水の二つのサブ生態系からなる陸域生態系での物質循環の観点から,地球温暖化に対して陸水環境がどのように応答するのかに関して考察した。陸水環境は,集水域からもたらされる様々な物質によって循環系が維持されており,地球環境変化の影響は,陸上生態系を通して間接的にも及んでいる。
    ここでは,集水域の代表である森林生態系と陸水生態系の間での,有機物とNO3一の代謝過程から,これらが地球環境変化に対してどのように応答するのかを考えるとともに,今後の陸水学研究における,陸上・陸水の複合領域研究としての集水域研究の重要性について考察した。
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