陸水学雑誌
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69 巻, 3 号
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原著
  • 小松 伸行, 石井 裕一, 渡邊 圭司, 本間 隆満, 北村 立実, 根岸 正美, 岩崎 順
    2009 年 69 巻 3 号 p. 193-208
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     網生簀による内水面養殖業が盛んに営まれてきた霞ヶ浦において,水環境への影響評価を目的として,堆積物中のリンの存在形態から主要養殖漁場周辺の特性を検討した。強熱減量や全有機炭素量,全窒素量およびC/N比については,養殖漁場と非養殖漁場との間に明らかな違いはみられなかった。これに対し全リン含有量は養殖漁場で非養殖漁場よりも高く,その差は主に無機態リンの含有量の違いによるものであった。養殖漁場内の堆積物は養殖に伴う糞などの堆積が起源と考えられるHCl抽出(Ca結合)リンを多く含有することで明確に特徴付けられており,HCl抽出リンが養殖の影響を示す指標として有効であることが明らかになった。また,養殖漁場内にはHCl抽出リンと同時に溶出可能(Fe結合・Al結合)リンが堆積物に付加されていることから,養殖漁場内の底泥が非養殖漁場と比較して高いリン溶出ポテンシャルを有している可能性が示唆された。
短報
  • 中井 大介, 大塚 泰介, 中原 紘之, 中野 伸一
    2009 年 69 巻 3 号 p. 209-221
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     付着藻類群落の発達過程に及ぼす微細懸濁物質堆積の影響を,人工水路を用いた実験により調べた。化学的に安定な微細炭化珪素粒子を添加した人工水路および添加していない人工水路において発達した付着藻類群落の,クロロフィルa 量,種組成および立体構造を比較した。水路に設置した基板を1,3,9-12,20-23日後に回収して観察し,計6回の繰り返し実験を行った。微細懸濁物質の有無は付着藻類群落の種組成とクロロフィルa量に大きな違いをもたらさなかった。一方,群落の発達過程および立体構造には違いが見られた。クロロフィルa量は微細粒子を添加していない水路では9-12日目から20-23日目の間に,減少することが多かったのに対して,微細粒子を添加した水路では引き続き増加した。微細粒子を添加した水路では,微細粒子が藻類細胞と共に堆積し,間隙の少ない密な構造が形成されていた。この構造が,光合成による気泡の発生および水流による付着藻類の剥離を抑えたと考えられる。
  • 草野 晴美
    2009 年 69 巻 3 号 p. 223-236
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     湧水性端脚類の1種,ヒメアナンデールヨコエビJesogammarus fluvialis Morinoの地理的分布と生息場所の環境ついて,1986年から2006年にかけて調査を行なった。東海から中部にかけての広域調査により,本種は鈴鹿山脈周辺と富士山周辺の2つの地域に分かれて分布することがわかった。高密度の生息は湧水源流周辺に限られ,湧水が流入する河川本流では生息しないか,または密度が低かった。また本種が生息していた湧水流には,5つの共通する特徴が見られた。すなわち,(1)水温は10~17℃の範囲内である,(2)底質は砂礫である,(3)平野部または平坦な地形にある,(4)開空度が高い,(5)沈水性または抽水性の水生植物が繁茂する。本種はこのような湧水流でミズムシや水生昆虫などともに,主に水生植物に付着して生息していた。また微小分布の調査からは,密な植物体に密集する傾向があること,スラッジの堆積やエビや魚などの捕食者の存在が生息を抑制する要因となっていることが示唆された。
  • 近藤 邦男, 山口 啓子, 植田 真司, 清家 泰, 三田村 緒佐武
    2009 年 69 巻 3 号 p. 237-245
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     青森県の下北半島に位置する汽水湖尾駮沼において,日本の絶滅危惧種の一種に指定されているウネナシトマヤガイ(Trapezium liratum)の空間分布,生息密度および成長過程等について調査した。本種の高い生息密度は,1)水深1.0~1.5 m,2)大きな岩礁,3)多くの転石やマガキの貝殻,および4)アマモ(Zostera marina)の高密度分布,の以上4項目の環境条件が全て備わった水域でのみ観察された。また,フィールドにおけるケージ飼育実験により,尾駮沼における本種の成長過程に関する知見を得た。殻長および重量の増大が確認されたのは春季から秋季にかけての期間(5月から10月)であり,11月から4月の期間は成長停止期であった。成長と水温との関係から,本種の成長は月間平均水温が15℃以上の期間に限られ,15℃未満の期間では成長はほとんど停止状態になることが明らかにされた。
  • 高野 敬志, 日野 修次
    2009 年 69 巻 3 号 p. 247-253
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     日本産Aphanizomenon flos-aquaeの系統を明らかにするため,日本国内の6ヶ所の湖および池に出現したA. flos-aquaeについて,遺伝子を用いた解析を行った。rbcLX (rivulose - 1, 5 - bisphosphate carboxylase遺伝子)の一部を増幅した後,塩基配列を決定してお互いを比較した。本研究で扱ったA. flos-aquaeは,その塩基配列の違いから3つの型に分類された。塘路湖,諏訪湖および余呉湖で出現したA. flos-aquaeの塩基配列が一致し,更に達古武沼と京都大学内池に出現したものが一致した。茨戸湖に出現したA. flos-aquaeの塩基配列は,霞ヶ浦で分離された無菌株のものと一致した。塩基配列の一致は,A. flos-aquaeが分離された湖および池の地域性を反映しているものではなかった。従って,日本国内には,様々な遺伝子型のA. flos-aquaeが潜在的に分布していることが推定された。塩基配列の一致が認められたA. flos-aquaeは,それぞれ形態的な特徴の一致が認められた。塘路湖,諏訪湖および余呉湖に出現したA. flos-aquaeは束状のコロニーを形成したが,他のものは単独の糸状体で出現した。更に,達古武沼および京都大学内池に出現したA. flos-aquaeは,細胞間のくびれの強さ,アキネート形成の有無および異質細胞の形状の違いで茨戸湖に出現したものと区別できた。このことから,rbcLXの解析によるA. flos-aquaeの系統分類は,特定の形態的特徴の違いによる分類によっても支持されていた。
  • 守屋 節男, 山内 健生, 中越 信和
    2009 年 69 巻 3 号 p. 255-258
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
     2006年および2007年の4-5月に,広島県呉市にて上陸中のゲンジボタル幼虫を採集し,17,20,23℃に設定した恒温器内で全暗状態にて飼育し,羽化成虫の性比(雄比)を調査した。その結果,羽化時の性比は,2006年が60.3 %,および2007年が64.7 %で,両年とも有意に雄に偏っていた。また,すべての温度区で雄が有意に多く羽化し,温度条件による性比の変動はみられなかった。
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