1.はじめに
日本学術会議の提言などが学習指導要領改訂に反映され、小学校・中学校の社会科、高等学校地理歴史科の『新学習指導要領・解説』が平成29〜30年(2017〜18年)にかけて公表され、令和4年(2022年)度から地理歴史科で新しい必履修科目「地理総合」が設置されることとなった。
第24期日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会では、第23期に発出した提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」(2017年8月8日)で掲げられた5つの骨子と、その後より顕在化した新たな課題を整理し、提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて—持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成—」を2020年8月25日発出した。
2 具体的な提言内容
(1) 「地理総合」による地理改革
・「地理総合」は、ESDやSDGsにつながる基礎的科目として、暗記中心から内容を一新すべき。
・第1学年で履修させ、入学時の通学路や学校周辺の安全確認を、ハザードマップや様々な防災情報を活用しながら、地図やGISの学習とリンクさせて行うべき。
・歴史系教員をはじめ、現職教員の研修制度を早急に確立させるべき。
(2) 地理的な見方・考え方を問う大学入試のあり方
・大学入試(大学入学共通テスト、国公立大学二次試験、私立大学一般入試)において、文系・理系に関わらず、地理で受験できる大学を増やすべき。
・「地理探究」は従来の地理Bとは異なるため単独の入試科目として扱わず、入試科目に「地理総合」を含めるべき。
・単に知識・技能を問うのではなく、地理的な見方・考え方や「思考力・判断力・表現力」を問うことが重要。
(3) 「地理総合」を支えるための大学地理教育の変革
・大学生は高校時代に必ず「地理総合」学んでいるため、大学における国際理解や国際協力、防災、持続可能な社会づくり等の科目内容を充実させるべき。
・教員養成や教職大学院では、教科専門性を十分修得できるようにすることが重要である。
(4) 小学校・中学校・高等学校間及び諸教科間の関連性を活かした地理教育改革
・小・中・高の接続と指導内容の一貫性を確保すべき。特に、小中高連携した防災・減災学習を実現させ、コロナ禍、災害が頻発する国難、地球危機に主体的に対応し、活動できる生徒、学生を育てるのが地理教育である。
・フィールドワーク(野外調査)は重要であり、「生活科」「理科」「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」と連携を図ること考慮すべきである。
(5) 「地理総合」を支えるための社会的環境整備の充実
・地理教育で活用できるオープンデータを整備・維持管理すべき。
・関連学協会、関連省庁、地方自治体、NPO/NGO等による協力関係を築くことが重要。
3 おわりに
本提言発出後、提言は文部科学省をはじめとする関係省庁、各都道府県・政令市の教育委員会、関連学協会へ発送された。さらに、地理学連携機構と連携しながら「地理教育フォーラム」を運営し、誰もが自由に使える教材素材集の公開を準備している。そして、2020年10月1日から第25期日本学術会議がスタートし、新しい地理教育分科会が設置され、本提言の具体的な課題を遂行する。
文献
1)日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会、提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」、2017年8月8日。
2)日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会、提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて—持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成—」、2020年8月25日。
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