現在、水稲平年収量は、実収量を年次効果と被害率による重回帰式にあてはめた結果をもとに関係方面の専門家の意見を取り入れて決定されている。しかしながら、現行の算定方式にはいくつかの理論上の問題点があるので、実収量と被害量の和で定義される基準収量をベースにすべきだと考える。基準収量は被害がなっかたとしたら得られるはずの収量で、滑らかに変化すると考えられる。しかしながら、実際のデータでは必ずしも滑らかに変化していない。この理由として、何らかの質的な栽培状況の変化により、ある年次を境に基準収量のトレンドが変化したとする仮説H
1と、被害程度の推定における何らかの系統的誤差が存在するという仮説H
1'を、トレンドは滑らかに変化するという帰無仮説H
0に対して設定した。各仮説のもとでif~then~というファジィルールをもつファジィモデルをあてはめた。データに最も適合した仮説(ルール数)はAICで評価した。この手法を全国、北海道、高知の昭和45年から20年次に亘るデータに適用したところ、全国と北海道は2つのファジィルールを持つ仮説H
1'が採択され、被害の程度が小さい時と大きい時で異なる基準収量のトレンドが推定された。一方、高知は2つのノンファジィルールをもつ仮説H
1が採択され、昭和51年を境に基準収量のトレンドが変化したことが示された。平年収量は、H
1が採択されたときには、各ルールのもとでの平均被害量を基準収量トレンドから差し引く算定方式を提唱した。一方、H
1'が採択されたときには、被害の程度が大きいときに被害の推定における系統的誤差があると仮定し、基準収量をこの系統的誤差分修正した後のトレンドから、同様に修正した平均被害量を差し引く方式を提唱した。
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