システム農学
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23 巻, 2 号
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招待論文
  • -農地観測からシステム科学まで-
    石塚 直樹 , 安田 嘉純
    2007 年23 巻2 号 p. 93-101
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2017/07/31
    ジャーナル フリー

    農家は作物の生産量を高め、収入を高めることを考えている。そのため、施肥の最適化、病虫害の発生や予防、土壌水分の最適化と灌漑、気象条件、管理コストなどが問題となる。また植物の分布は、さまざまな環境条件によって支配され、強く依存している。環境条件の変動は、しばしば“環境ストレス”と呼ばれ、環境ストレスは、病虫害、栄養障害、環境汚染など様々な障害の源となる。環境変化に対する農作物の生理機能の変化を非接触で容易に測定できれば、作物の生育診断や管理、収量の予測、環境のモニタリングなどに利用できるようになる。人間の視覚の代行をする観測機器を用いて、物体や現象を非接触、非破壊で観察または測定することをリモートセンシングとよんでいる。リモートセンシングは物体を空間的、または、分光的、時間的尺度で測定することを可能としている。特に、衛星リモートセンシングは一貫した測定方法で地球全体を観察できることが特徴である。リモートセンシングは農業の方法を変える可能性を持っていると期待され、早くから利用が考えられたが実利用は思うように進んでいない。しかし、リモートセンシングは様々な時間・空間スケールで観測が可能だからこそ、農業のみならずシステム科学的にも新しい「発見」できる可能性を持っている。

  • 秋山 侃
    2007 年23 巻2 号 p. 103-110
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2017/07/31
    ジャーナル フリー

    近年の衛星センサの高精度化や、画像解析関連のハードならびにソフトウェアの進歩、あるいは地理情報システム(GIS)の普及など周辺環境の整備に伴い、リモートセンシング情報の農業・環境分野での利用場面は格段に広がっている。そこで、農業リモートセンシング・ハンドブック第2部1章では、農業統計や作物管理分野に応用されている23課題を収録した。最初に、地上でのスペクトル計測や、Ground truthデータを取得するような基礎的な研究や、将来の衛星画像解析のために必要な多波長センサを搭載した航空機観測の解析結果を紹介した。続いて国内外の農業省や自治体、あるいは農業団体などが行なう各種農業統計業務を支援できるような作物栽培面積の推定や作付分布図の作成に関わる人工衛星画像による解析例を示した。また、衛星情報を作物の生育管理に適用し、高品質・低コストの栽培技術の創出に役立てることも可能になった。例えば北海道では、良食味米の生産のための子実タンパク含有率を推定する技術、小麦収穫適期判定のための成熟度の判定技術などが開発され、すでに地域農業システムの一環として実用化されている。また、根菜類を中心とした輪作作物を対象とした成分(デンプン価、糖度など)評価も行なわれ、草地分野ではGISとの連携の元に草地更新の指標作りに貢献している。海外、とくにアジア域では水田分布図作成や営農形態の表示、アメリカやヨーロッパ共同体では穀物の生産予測ならびに被害補償額の算定にも適用されている。

  • 小川 茂男
    2007 年23 巻2 号 p. 111-118
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2017/07/31
    ジャーナル フリー

    農業・農村空間に広がる農地、施設、作物情報を把握する上で、衛星データを用いた解析事例が蓄積されてきた。その特徴として、日本国内では土地利用や作付けが多彩・複雑で、かつ、高い推定精度を要求されることから、IKONOS データ(解像度が1m、4m)や連続した複数の衛星データ、補助データ(GIS データ等)を用いることで解析精度を向上させた研究事例が多くみられた。海外では大縮尺の地図や統計データが得にくいこともあり、Landsat やSPOT 衛星データを用いた、焼き畑農業の実態や集落周辺の土地利用分布、10 年以上の衛星データから土地利用の変遷を調査するなどの事例が報告されている。超高解像度衛星データでは、目視判読によって果樹園の状態、ため池や農業用施設等の情報が読み取れ、ゆがみも少ないことから、適切な水・土地資源管理計画、鳥獣害対策を策定する上でも貴重であることが報告されている。本報告では、以上のようなインフラ整備・農地管理・土地利用の調査に衛星データを応用した事例を地域・テーマ毎に概要を紹介する。

  • 岡本 勝男
    2007 年23 巻2 号 p. 119-126
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2017/07/31
    ジャーナル フリー

    気候変動は、異常気象を増加させる可能性を秘めている。異常気象は、自然災害を引き起こし、人間の生命と農業生産に大きな影響を及ぼす。リモートセンシング技術は、地上観測が不可能または困難な場所で、迅速にデータを収集することを可能にした。そこで、衛星リモートセンシングに基づく観測と予測手法に注目し、環境パラメータの推定と自然災害の検出および予測手法を概観する。本稿で扱うのは、環境評価、災害把握、防災である。環境評価は、動物生態学から大陸規模の砂漠化評価までを含んでいる。災害把握は、火災と火山活動、土壌浸食、水害、旱魃、塩害を含む。これからは、リモートセンシング技術と地理情報システム(GIS)、行政システムを組みあわせて、いかに効果的に災害を予測し、実際に災害が起こる前に、いかにしてその被害を防ぐか、という段階に来ている。

  • 斎藤 元也
    2007 年23 巻2 号 p. 127-134
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2017/07/31
    ジャーナル フリー

    衛星データで、日本と世界の農業を短波長赤外カラー画像で把握する方法を検討した。水田は、湛水されることが最大の特色である。イネが小さい間は、ほぼ水面を観測することとなり、黒から青に見える。水域では、年中この状態であるが、水田は稲の生長に伴い、植生が増えるので緑が増加する。稲が稔り刈り取りとなると、稲わらを観測することになり明るい色調になる。畑作は輪作体系が取られ、作物が生育している所と裸地のところが混じった模様となる。また、畑と草地が混在する場合も多く、多時期の画像を見て、ずっと植生があるところが草地と考えられる。草地は短波長赤外カラー合成画像で、明るい緑色または黄緑色に見える。これは、ほぼ広葉樹林地と同じであり、区別するのはこの短波長赤外カラー合成画像では難しい。しかしながら、L バンドの合成開口レーダ(SAR)では、樹林地の後方散乱係数が高いので、短波長赤外カラー合成画像とSAR 画像の両者を使うことで草地の抽出が出来る。

研究論文
  • 金 元淑, 入江 満美, 山口 武則, 牛久保 明邦
    2007 年23 巻2 号 p. 139-152
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    近年中国では、高度経済発展により、廃棄物量の急激な増大と種類の多様化から廃棄物問題は大きな環境問題として浮上している。本研究では、廃棄物の一種である都市ごみに着目し、現在、中国における都市ごみの種類、収集システム、総排出量、無害化処理率について、その実態を明らかにした。また、中国における都市ごみ総排出量の増加原因を北京市・上海市・吉林省での現地調査に基づき、比較しながら都市ごみの排出量増加の原因を分析・解明した。さらに、北京市、上海市、吉林省の都市ごみの適正処理システムや中国における堆肥化処理の可能性について検討した。
  • 劉 晨, 王 勤学, 渡辺 正孝
    2007 年23 巻2 号 p. 153-164
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    農業生態系から三峡ダムに輸送された窒素負荷量の変化を分析するため、長江上流流域にある350 県について1980-2000年の5年毎の農業統計データや気象等の観測データを空間情報システムと結合し、窒素収支に関するデータベースを構築した。また、水域への窒素流出モデルにより、長江上流農業生態系から各主支流に輸送された窒素の量および空間的変化を解明した。その結果、農業生態系から長江に流入した窒素の量は長江上流全域流出量の83%を占め、1980 年の5.60×105t から、2000 年の1.61×106t まで、2.9 倍に増加したことが明らかとなった。河川における自浄作用等での減少率が37%とすれば、1980、1985、1990、1995 年、および2000 年に長江上流農村生態系から三峡ダムに輸送された窒素の総量は、それぞれおよそ0.35×10 6 、0.47×10 6 、0.59×10 6 、0.64×10 6 、および1.01×10 6t となった。農業生態系から水域への窒素輸送総量のうち、農業生産による水域に輸送される窒素の量は1980 年の3.45×10 5t から2000 年の1.39×106t まで、4 倍以上に増加した。一方、農村で発生した排泄物が水域へ直接輸送された窒素の量は2.14×105-2.67×105t であり、1980 年から1990 年の間には増加し、1990 年から2000 年の間には減少した。2000 年には、長江上流地域の各10 支流域への窒素輸送総量のうち、嘉陵江流域への輸送量が35%を占め、三峡ダム流域への輸送量は15%、烏江、沱江及び岷江流域への輸送量はそれぞれ11%を占めていた。1980 年の窒素排出源は主に成都市と重慶市の周辺農村地域に集中していたが、1990 年代には四川盆地の全範囲、及び四川盆地周辺の丘陵地に広く拡大した。化学肥料使用量の急増が肥料効率の低下や河川窒素負荷量の増加の主な要因であった。計算された各支流の窒素輸送量は先行研究で報告された観測値にほぼ一致していた。このように三峡ダム完成後には貯水池における藻類異常増殖などの富栄養化の顕在化が懸念される。
  • 高橋 英博, 寺元 郁博, 吉田 智一, 大黒 正道
    2007 年23 巻2 号 p. 165-175
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    水稲生産調整に係る圃場作付状況の現地確認作業は、梅雨時の高温多湿で気象環境条件が厳しい中で、非常に多くの圃場を短期間に一斉に歩いて見回るという対応が多くの自治体でなされている。また、確認作業の実施にあたっては、対象圃場の多さから、地区の代表者等を案内役として同行する対応も見られる。しかし、現場では確認作業のための人員の確保が年々困難となっており、省力かつ効率的な確認方法が求められている。そこで、農地管理等に導入が進んでいるGIS でのデータ整備を前提に、屋外での利用に適したペン操作が可能なタブレットPC やPDA で動作するモバイルGIS をベースとして、確認作業を効率的に実施する圃場作付状況確認システムを開発した。本システムでは、対象圃場を確実かつ迅速に特定するために、GPS とともに現行の確認作業の際に農家により設置されている生産調整確認票を使用する。この確認票の様式を変更し、遠方から視認可能な識別記号の表示に特化させることにより、基本的に車で移動し、車内から確認作業を実施することができる。本システムを用いた現地試験の結果では、対象圃場が分散して確認作業の能率が低下するような条件においても運転手とシステムのオペレータの2 人1 組で1 時間あたり約80 筆の確認作業が可能であった。作業能率は、同ルートを歩いて確認作業を実施したと仮定した場合の約3 倍と効率的である。また、車外に出て確認する必要があった圃場は約1 割で、確認作業の大部分を車内で行えることから、作業時の環境改善、軽労働化が図れることが確認できた。
研究速報
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