システム農学
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16 巻, 2 号
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総説
  • 広岡 博之
    2000 年 16 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ダイオキシンとは、ポリ塩化ジベンゾーpージオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナーPCB(Co-PCB)を含めた化合物の総称で、特に2、3、7、8の位置に塩素を持つ7種のPCDDと10種のPCDFが毒性を持つとされている。このようなダイオキシンの人への暴露に関する社会の関心が高まってきている。この研究では文献サーベイを行なって、牛肉へのダイオキシンの汚染径路について検討した。本サーベイの結果、わが国の大気は、ごみ焼却施設が多いため中都市以上の都市で汚染が激しく、また、土壌は除草剤の使用によって農村地域ほど汚染の度合いの高いことが示唆された。日本の牛肉のダイオキシン濃度の報告値は、他の国の報告値とほぼ同程度であった。将来的には、ダイオキシン汚染に関する問題の特定と解決のために、包括的な研究とデータの収集にもとづくシステム論的アプローチの必要性が示唆された。
投稿論文
  • 広岡 博之
    2000 年 16 巻 2 号 p. 129-136
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、牛肉中のポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に関する蓄積機構を予測するモデルを開発し、そのモデルを用いて、牛肉中のPCDDとPCDFに対する大気と土壌中のPCDDやPCDFおよび飼料摂取割合(摂取飼料中の粗飼料の割合)の影響を調べた。このモデルは、大気、土壌、飼料(濃厚飼料と粗飼料)および牛を含む径路をもとに構築した。飼料へのPCDDとPCDFの蓄積に関する重要な径路は、大気中における蓄積、根からの吸収、大気から葉への移送・吸収の3径路であり、また、牛肉への蓄積は牛の生物濃縮係数を用いて予測した。日本の農村地域における環境条件と肉用牛に関する飼養条件を想定したとき(ダイオキシン濃度は大気中で0.06pgTEQ/m3、土壌中で40pgTEQ/g、舎飼いで粗飼料摂取率は10%と仮定)、牛肉中のダイオキシン濃度は、0.118pgTEQ/gであった。本モデルを用いたシミュレーションの結果より、大気や土壌中のダイオキシン濃度が高いほど牛肉中のダイオキシン濃度は高くなり、また粗飼料を給与された牛の牛肉ほどダイオキシンの汚染が進んでいることが示唆された。
  • 竹澤 邦夫
    2000 年 16 巻 2 号 p. 137-142
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    それぞれの予測変数が分布によって表現されている加法モデルを導出するための方法として、ペナルティ付きの重回帰式を利用する方法を開発した。この方法に基づく数値計算を行うためにはGCVPACKに所収されているdsnsm.fが利用できることが分かった。この方法により、日平均気温の分布と年次を予測変数として用いて水稲の収量(10aあたりの生産量(kg))を推定するための加法モデルを作製した。その結果、分布の平均値を利用した加法モデルよりも、分布をそのまま利用した加法モデルの方がGCV(Generalized Cross-Validation)の点で優れていることが分かった。
  • 魏 永芬, 秋山 侃
    2000 年 16 巻 2 号 p. 143-155
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    流域における窒素などの物質の動態を評価する場合、土地を覆う植生の影響は無視できない。しかし山岳森林帯では地形起伏によって生じる影が正確な土地被覆解析を困難にしている。そこで、本研究では、長良川上流の山岳地帯に対し、多時期衛星データのバンド間比演算処理によって影の影響を軽減し、得られた画像と他のバンドから新たな画像を合成する手法を開発した。その結果、森林植生を常緑針葉樹林・常緑広葉樹林・落葉広葉樹林・針広混交林の4種類に、また常緑針葉樹林を林齢別に4段階に分類することができた。さらに、得られた衛星画像の分類結果を衛星データと同年次の各種統計データにより検証し、森林植生全体についておおむね一致していることを証明した。最後に、適用例として20年離れた二時期の土地被覆の変化を検出した上で、土地被覆項目毎の変化傾向について論述した。
  • 西村 誠一, 伊藤 一幸, 唐 艶鴻, 小泉 博
    2000 年 16 巻 2 号 p. 156-162
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    異なる方角(東、南、西、北)を向いた水稲個葉における個葉光合成速度の日変化を測定した。晴天日の個葉光合成の日変化は、葉の向いている方角によって異なっていた。これは、主に葉面での受光量の日変化の違いによるものと考えられた。しかしながら、葉温、蒸散、気孔コンダクタンス等については、葉の向いている方向によって若干の差異は認められるものの、おおむね似かよった日変化を示した。光-光合成曲線についても同様に、葉の向いている方向による顕著な差異は認められなかった。東・西・北向きの葉における日総受光量は、南向きの葉に比べてそれぞれ37%、28%、80%低かった。これに伴い、日総光合成量もそれぞれ20%、3%、36%低い値を示した。一方、日総蒸散量は、いずれの方角を向いた葉においても南向きの葉の±10%の範囲内であった。これらのことから、個体の部分部分によって気孔開度の局所的なバラツキは小さいこと、しかしながら、局所的な葉面光環境の不均一な実態に基づいて個葉光合成の日変化にバラツキが生じていることが明らかになった。
  • 劉 晨, 吉村 哲彦, 守屋 和幸, 酒井 徹朗
    2000 年 16 巻 2 号 p. 163-172
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、中国では、経済成長に伴う所得の増加、西洋風の食習慣の流入や食生活の多様化に伴って、牛肉の需要が急速に増大している。肉牛の飼養には大量の穀物を消費するため、牛肉生産量の増加は食糧問題という観点からみると大きな課題を抱えている。本研究では、中国における牛肉を中心とした肉類生産の現状について統計資料に基づいて調査を行うとともに、肉類に対する人々の嗜好や消費に関してアンケート調査によって明らかにした。統計資料の調査結果から、中国の牛肉の生産量とGDPは相関係数0.996という高い相関があることが示された。北京市、武漢市、赤峰市を対象としたアンケート調査の結果、人々の肉類に対する嗜好は、地域の生活、風土、文化、歴史の違いを反映して、地域によって異なっていることが示された。外国食文化の導入に関しては、首都である北京市が最も進んでいた。多くの回答者が牛肉を食べる量を今後増やしたいと答えていることから、今後も中国における牛肉の需要は増加を続けるものと思われる。しかし一方で、比較的高価な牛肉は、これらすべての地域で今もなお非日常的なものであることが示された。霜降牛肉に関する質問では、これらすべての地域で「食べたくない」とした回答が「食べたい」とした回答をやや上回った。巨大な人口を抱える中国の牛肉消費が今後も増え続ければ世界の穀物需給に及ぼす影響も非常に大きなものになるため、中国に適した肉牛生産システムの確立が必要であると考えられる。
技術報告
  • 吉田 正夫, 徳留 昭一, バルベロ フェルナンド B., エバンゲリスタ アイリン Ma., ミコサ アレジャンドロ, カベソン ウイルヘ ...
    2000 年 16 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    アジアの多くの国の経済は自然資源に依存してきた。その自然資源の中でも作物生産に直接関係する土壌資源が最も重要視されてきている。コンピュータ土壌情報システムは国全体の土壌の物理的・化学的性質を理解するのに大いに役立つ。多くのアジア諸国ではSoil Taxonomyを用いて土壌分類を行っており、その地域には、熱帯特有なオキシゾルやアルヂゾルという土壌が共通して広く分布している。そのような状況の中で、フィリピン・農業省・土壌水管理局でSoil Taxonomy 土壌分類法を基にした土壌情報システムを構築した。 この土壌情報システムは次のような特徴を持っている。すなわち、膨大な土壌のデータの入力し更新をすることによって検索ができ、必要なデータの作表が容易となる。また、地形情報(道路、河川等)を持ったディジタル型の土壌図、土壌pH分布図等の主題図と3次元土壌図の作成が可能となる。 Soil Taxonomy 土壌分類法を採用したこの土壌情報システムはSoil Taxonomyを採用しているアジア諸国に普及していく可能性もあり、この土壌情報システムを介してアジア諸国の土壌を相互に研究もできると考えられるので、フィリピンの事例を紹介する。
短報
  • 戸田 任重, 中佐 錦, 沖野 外輝夫, 川島 博之
    2000 年 16 巻 2 号 p. 183-187
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    行政データを用いて原単位法により、千曲川流域(犀川流域を含む)における窒素負荷発生量の変遷を過去30年間にわたり調べた。流域内の窒素負荷発生量は22,000~25,000 ton N yr-1であり、最大の窒素負荷発生源は畜産廃棄物、次は人間排出物(屎尿+雑排水)、農耕地からの流出の順であった。家畜飼養頭数・農耕地面積の減少にともない、畜産・農耕地由来の窒素負荷発生量は減少している。流域内の化学肥料流通量は、標準施肥量から算出した農耕地における必要施肥量を1980年頃より下回るようになり、その分、畜産廃棄物の農地還元が進んでいるものと推察した。化学肥料使用量の減少とそれを補う形での畜産廃棄物の農地還元、さらに屎尿処理施設・浄化槽・下水処理施設の普及の結果、千曲川への窒素負荷流入量は、1990年代半ばには1970年に比べ約40%減少し14,000 ton N yr-1程度になっている。今後さらに窒素負荷流入量を削減するには、下水処理効率の改善と農耕地からの窒素流出防止が効果的であろう。
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