システム農学
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19 巻, 2 号
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投稿論文
  • 余 亮, 柴崎 亮介, 張 栄
    2003 年 19 巻 2 号 p. 108-120
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    アメリカ農務省(USDA)が開発したEPIC(Erosion Productivity Impact Calculator)は穀物単収の推定モデルである。穀物収量は気候や土壌など地理的な条件に左右されるだけでなく、栽培暦や施肥条件などによっても大きく影響される。これらの条件の分布を示した空間データがあれば、EPICとGISを組み合わせることで、穀物収量分布の推定が可能になる。しかしながら、特に作付体系や栽培暦の分布に関するデータが入手できることは多くなく、空間分布データを利用することでEPICのようなモデルの収量分布の推定精度がどの程度改善されるのかを実証的に明らかにした研究はない。そこで、本研究では穀物の組み合わせや栽培暦分布などの空間データをEPICに取り入れ、黄河流域(中部)の穀物収量分布の推定実験を行った。空間データを利用することで、平均推定誤差が小麦では、21.7%から16.3%へ、トウモロコシでは、47.2%から22.3%へと改善できることがわかった。このことは、適切な空間データさえあれば、EPICとGISの統合システムが収量分布の推定に有効なツールになり得ることを示している。EPICは収量推定を行うだけでなく、窒素の溶脱や土壌の流出も推定できることを考えると、GISとEPICの組み合わせは、流域単位で環境保全などに留意した穀物生産のあり方などを検討する際にも適用できる可能性があると言えよう。
  • 竹澤 邦夫
    2003 年 19 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ノンパラメトリックDVR (DeVelopmental Rate) 法は作物の生育ステージを予測するための有効な方法 である。従来のノンパラメトリック DVR 法は、生育期間の日々の環境データのヒストグラムを用いるもので あった。これは、0次の B-スプラインを利用して回帰関数を作製することに相当する。これに対して、3次 のB-スプラインを利用すれば、環境データをより直接的に利用できるようになる。
  • 吉田 正夫, 高橋 寛至, 太田 寛行, 渡辺 眞紀子, 稲永 麻子, 鈴木 創三
    2003 年 19 巻 2 号 p. 130-140
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ピナツボ火山噴火直後の1992年から1996年にかけて、リモートセンシング技術を用いて火山泥流被害地の拡大と植生回復の追跡調査を行った。ピナツボ火山東側のバンバン川流域では、1991年から1996年にかけて下流域から上流域へと泥流被害地は拡大し、1996年までに約12,000haが泥流の被害を受けた。また、この河川流域では下流域から1993年に植生の回復が見られ、徐々に植生回復地帯が広がっていき、1996年には泥流被害地の約6,200haにおいて植生が回復した。バンバン川流域における現地調査で、泥流物質表層の分光反射率とその水分含量を測定した結果、1,550-1,750nmの波長帯(Landsat TM バンド5の波長帯に相当)の分光反射率と水分含量との間に高い相関関係がみられた。1992年のラハール地帯において、Landsat TM バンド5デジタル値が87から103の範囲は、翌年(1993)植生が回復するための最適な水分状態を示していたと推察できる。また、1995年から1996年では、バンド5デジタル値が92から110の範囲で示された水分状態であった。バンバン川流域において、下流域から植生が回復してきた。この下流域では細粒径のラハール物質の堆積が顕著であった。Landsat TM バンド5は、ピナツボ火山被害地での植生回復と泥流物質表面水分量との関係を推定するのに有効であった。
  • 関川 清広, 木部 剛, 小泉 博, 鞠子 茂
    2003 年 19 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    果樹園の土壌炭素収支を明らかにすることを目的として、甲府盆地北東部(山梨市)に位置する山梨県果樹試験場旧圃場のブドウ園において、1998年9月から2000年12月まで研究を行い、特に土壌炭素貯留についてモモ園との比較を行った。土壌からの炭素放出として通気式‐IRGA法によって土壌呼吸速度を測定し、土壌呼吸速度と地温との関係に基づいて年間の土壌呼吸量を求めた。土壌への炭素供給として、果樹と下層植生由来のリター供給量、施肥量などを調査、測定し、一部については推定を試みた。土壌呼吸による炭素放出量は422.7 g C m-2 y-1、そのうち従属栄養微生物による呼吸量は222.5 g C m-2 y-1と推定された。土壌への炭素供給量は401.0 g C m-2 y-1で、そのうちブドウ由来が34 %、下層植生由来が54.5 %、施肥などによるものが11.5 %であった。これらの放出量はモモ園のおよそ半分、供給量はモモ園の場合の1/3程度であった。土壌炭素収支は178.5 g C m-2 y-1と正の値を示し、モモ園生態系と同様に、ブドウ園生態系の土壌も炭素のシンクであることが明らかとなった。下層植生(栽培対象以外の植物)による炭素供給の割合が著しく大きい点も、モモ園生態系と同様であった。下層植生由来の炭素供給量が多い場合、果樹園生態系の土壌は炭素を年々貯留し続ける傾向にあると結論される。しかし、ブドウのように棚仕立ての場合、立木仕立てのモモ園より土壌炭素の年間貯留量は少なかった。これは、棚仕立て果樹園では林冠がうっ閉し、葉群下に到達する光強度が弱いことにより、立木仕立て果樹園に比べ下層植生の生産量が少ないためである。したがって、果樹園生態系における土壌炭素の年間貯留量は、果樹の仕立て方によって影響を受けることが明らかになった。
  • KAEWTHIP Juraiporn, 川島 博之, 大賀 圭治
    2003 年 19 巻 2 号 p. 151-159
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    食糧の生産と消費に伴う窒素負荷発生量が、タイにおいてどのように変化するか予測した。窒素負荷が農耕地、家畜、人間より生じるとした物質収支モデルを作成した。タイでは人口増加が続いている。また今後、経済成長に伴い1人当たりの動物性タンパク質の消費量も増加してゆくと考えられる。この増大する動物性タンパク質需要を満たすために、飼料用の粗粒穀物需要が増大する。タイにおいて飼料用粗粒穀物を今後も自給すると考えると、タイにおける窒素肥料使用量は増大せざるを得ない。タイにおける食糧生産と消費に伴う窒素負荷量は1980年と2000年でそれぞれ21万トン、146万トン/年であった。2030年には299万トン/年に増加すると予測される。特に、タイ中央部、北東部ではその増加が著しい。
短報
  • 鞠子 茂, 木部 剛, 関川 清広, 広田 充, 木下 典子, 望月 久美子, 及川 武久
    2003 年 19 巻 2 号 p. 160-165
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    オープントップチャンバー法は従来最も信頼度の高いとされる通気式密閉法の欠点を改良した新しい土壌呼吸測定法である。しかし、本法の土壌呼吸測定に関わる問題点については十分な検討がなされていない。そこで、チャンバー内の環境改変と測定に悪影響を与える環境条件について検討するための試験研究を行った。草本群落内に設置したオープントップチャンバーシステムにより測定された土壌呼吸は日中に高く、夜間に低いという日変化を示した。この時間変化の94%は温度依存性によって説明できた。このことから、オープントップチャンバー法は土壌呼吸を十分な精度で測定できることが明らかとなったが、同時にチャンバー内部の地温の低下(パラソル効果)や強風に弱い可能性を示唆するデータも得られた。今後は、これらの現象が普遍的なものであるかを確認する試験を行い、必要に応じて測定システムを改良していくことが必要と考えられた。
技術報告
  • 下荒地 勝治, 佐藤 洋平, 橋本 禅, 鳥井 清司, 堀 勝也
    2003 年 19 巻 2 号 p. 166-173
    発行日: 2003年
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル オープンアクセス
    ほ場整備事業においては換地処分が行なわれるが、その場合、担い手への農地の面的集積が強く求められている。しかし換地による農地の面的集積は、耕作者にはメリットがあっても貸し手にはメリットが無く、貸し手の同意を得にくいことから、それを実現することは極めて困難になっている。本報告はこの膠着状態を打破するため、換地での面的集積を促進・阻害する事項・事象を借り手・貸し手の2者について取り上げ、面的集積に向けてのステージとして、圃場整備事業開始、大区画化、所有地の団地化、利用権設定地の面的集積の4段階から分析した。そして面的集積は、貸し手のデメリットを解消することで促進されるという仮説を導き、この仮説の現実の換地への適用性について、面的集積を実施した担当者に評価して貰った。そしてその評価結果に基づき、面的集積の促進手段を提言している。
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