南九州地域における畜産経営と地下水の硝酸汚染との関係に関する基礎資料を得る目的で、宮崎県内のA酪農経営(搾乳牛40頭および育成牛25頭飼養、飼料畑6ha所有)における窒素フロ-を検討した。A酪農経営で使用されている井戸(井戸深約70m)の硝酸態窒素濃度を測定するとともに、1994年10月より翌年9月までの飼料給与量、乳量、圃場に投入されたスラリ-量、飼料作物生産量とそれらに含有される窒素量などを実測した。井戸の硝酸態窒素濃度は測定開始時(1994年5月)に10ppmを越えており、2年後には11.5ppmを示した。A酪農経営では家畜に対する年間窒素給与量7,326kgのうち、自給飼料によるものは26%で、残りの74%は購入飼料に依存していた。窒素給与量の22%が家畜生産物(牛乳、子牛の生産、増体および低泌乳牛の更新)へ移行し、71%がふん尿として排泄されると推定された(ふん尿窒素はスラリ-として貯留され、飼料作物圃場に2回/年散布される)。ふん尿窒素のうちの41%(2,110kg)がスラリーとして飼料畑に散布されたが、残りの59%(3,066kg)がゆくえ不明であり、スラリ-貯留中に漏出および空中への揮散などによって損失したと推定された。飼料作物(秋期~春期;イタリアンライグラス、春期~秋期;トウモロコシ/ソルゴー混植)による年間窒素吸収量は2,142kgで、スラリーと化成肥料による窒素施用量(450kg/ha)の79%に相当した。以上の結果から、1.A酪農経営は、大部分が海外に由来する購入飼料を通じて窒素が系内へ多量に持ち込まれること、2.そのために、窒素循環に関して相当量の窒素を系外に排出する開放系として機能していること、3.排出された窒素の一部が、地下への漏出を通じて井戸水の硝酸態窒素濃度を高めている可能性のあることが示唆された。
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