発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
28 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 渡邉 茉奈美
    2017 年 28 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,妊婦の抱く虐待不安の様相を明らかにすることであった。妊婦45名(初産婦28名,経産婦17名)を対象に半構造化面接を実施し,虐待不安に該当する語りについてKJ法を参考に分類を行った。その結果,妊婦の語る虐待不安は,「I.虐待親への共感的反応」と「II.虐待をする親と思われることへの不安」,「III.虐待的な行動に関する不安」の3種類に分類できた。さらにその詳細を見てみると,Iには,『自分の育児と虐待との紙一重感』,『虐待をする気持ちがわかる』,『虐待はひとごとではない』,IIには,『加害者と思われることへの不安』と『子どもが虐待と捉えることへの不安』,IIIには,『手をあげることへの不安』や『自分の感情を制御できないことへの不安』など8種類の下位分類が含まれることがわかった。これらの結果から,従来では捉えきれなかった虐待不安の多様性が明らかになった。また,虐待不安を抱くプロセスについては,初産婦と経産婦とで違いがあることが示唆された。今後は,より詳細に虐待不安を抱くプロセスのパターンを検討し,妊婦の抱く虐待不安の様相とそのプロセスのパターンの組み合わせによる具体的な妊婦支援の提案を行っていく必要があるだろう。

  • 大谷 多加志, 清水 里美, 郷間 英世, 大久保 純一郎, 清水 寛之
    2017 年 28 巻 1 号 p. 12-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,発達評価における絵並べ課題の有用性を検討することである。44月(3歳8ヵ月)から107月(8歳11ヵ月)の幼児および学童児349人を対象に,独自に作成した4種類の絵並べ課題を実施し,各課題の年齢区分別正答率を調べた。本研究では絵並べ課題のストーリーの内容に注目し,Baron-Cohen, Leslie, and Frith(1986)が用いた課題を参考に,4種類の絵並べ課題を作成した。課題は,ストーリーの内容によって「機械的系列」,「行動的系列」,「意図的系列」の3つのカテゴリーに分類され,最も容易な「機械的系列」の課題によって絵並べ課題の課題要求が理解可能になる年齢を調べ,次に,人の行為や意図に関する理解が必要な「行動的系列」や「意図的系列」がそれぞれ何歳頃に達成可能になるのかを調べた。本研究の結果,全ての課題において3歳から7歳までに正答率が0%から100%近くまで推移し,機械的系列は4歳半頃,行動的系列は5歳後半,意図的系列は6歳半頃に達成可能になることがわかった。また課題間には明確な難易度の差があり,絵並べ課題のストーリーの内容によって課題を解決するために必要とされる知的能力が異なることが示唆され,適切なカテゴリー設定を行うことで絵並べ課題を発達評価に利用できる可能性が示された。

  • 田 玲玲, 平石 賢二, 渡邉 賢二
    2017 年 28 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では青年期前期の子どもと母親における親権威の概念を分析し,母子における親権威の概念の不一致と母子間葛藤,子どもの心理的適応との関連を明らかにすることを目的とした。中学生の母子287組を対象として,母子における親権威の概念(親権威の正当性,規則への服従に対する認知),子どもの認知した母子間葛藤(葛藤の量,葛藤の激しさ)と子どもの心理的適応(抑うつ,不安,自尊感情)を調査し,分散分析と相関分析,共分散構造分析を行った。結果は以下の通りである。(1)子どもは母親より親権威の概念を低く評価し,親権威を拒否した。(2)高学年の母子は低学年の母子より親権威の概念を低く評価し,親権威を拒否した。(3)女子は男子より高いレベルの葛藤の量と激しさを報告した。(4)母子における親権威の概念の不一致は,母子間葛藤とネガティブな関連があり,さらに子どもの心理的適応とネガティブな関連があった。これらより,青年期前期の子どもと母が親権威に対する認知の不一致を理解することで,母子間葛藤の生成プロセスを明らかにすることができ,子どもの心理的適応に意義があることが示唆された。

  • 佐々木 尚之, 高濱 裕子, 北村 琴美, 木村 文香
    2017 年 28 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,ダイアドデータの特性を活かしたマルチレベル・アプローチを用いることによって,祖父母から親への育児支援頻度および祖父母と親の回答が一致しない要因を検証することを目的とした。関東と関西の都市部に居住する親(G2)とその祖父母(G1)186組が回答したデータを同時にモデル化することにより,ダイアド内の相互依存性および測定誤差を考慮しつつパラメータ推定した。その結果,祖父母側ではなく親側の要因によって育児支援頻度が規定されることが明らかになった。つまり,支援する側の年齢,時間的余裕,経済状況,健康状態にかかわらず,支援される側の需要の大きさによって育児支援頻度が増加していた。具体的には,1)G2の年齢が若い,2)G2の学歴が高い,3)G2の夫婦ともにフルタイムで就労している,4)G2の主観的健康観が低い,5)G2の援助関係満足度が高い,6)G1とG2が同居もしくは歩いて15分程度の距離に居住している,7)G3が男の子もしくは男きょうだいのみの場合に,祖父母からの支援をより頻繁に受けていた。祖父母と親の回答が一致しない要因は援助関係満足度と居住距離のみ有意であった。平均的に,親にくらべて祖父母の方が支援頻度を過小評価する傾向があり,援助関係に満足するダイアドおよび近距離別居するダイアドほど支援頻度に対する回答が一致しなくなっていた。

  • 榊原 良太, 富塚 ゆり子, 遠藤 利彦
    2017 年 28 巻 1 号 p. 46-58
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,子ども・保護者との関わりにおける保育士の認知的な感情労働方略と精神的健康の関連,そして職務関与がそれをいかに調整するかについての検証を行った。現役の保育士を対象とした質問紙調査を実施したところ,最終的に1798名のデータが得られた。階層的重回帰分析の結果,反芻,破局的思考,園への原因帰属が,他の方略と比較して情緒的消耗感,転退職意図と強い正の関連を有すること,肯定的再評価は,効果量は小さいながらも,唯一情緒的消耗感,転退職意図の両方と有意な負の関連を有することが示された。また,反芻と破局的思考については,職務関与との間に交互作用効果が確認された。単純傾斜分析の結果,職務関与が高い場合に,反芻,破局的思考と転退職意図との正の関連が見られなくなるという,「緩衝効果」の存在が確認された。こうした職務関与の緩衝効果は,従来の理論ならびに知見とは異なる現象である。最後に,本研究から得られた示唆と本研究における限界について,議論を行った。

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