発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
29 巻, 2 号
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原著
  • 森澤 亮介, 吉井 勘人, 長崎 勤
    2018 年 29 巻 2 号 p. 53-60
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では自閉スペクトラム症(ASD)児を対象に,「情報提供」と「要求」の習得を促すことにより,必要に応じて他者に支援を行う相互支援を円滑にし,協同活動を成立させることができるのかを検討した。ASD児とパートナーの二人で1つのパズルを完成させるゲームにおいて,中断条件を設定し「情報提供」「要求」の習得を促した。その結果,「要求」「情報提供」が生起し,パズルゲームのルールの中で,パートナーが必要としている時に,パートナーにとって必要な手助けを行うことができるようになった。またパズルを完成させる目標を達成した際にはパートナーと喜び合おうとする「情動共有」も生起し,協同活動が成立することが示唆された。さらに日常生活場面においても,教員との協同活動が成立したり,クラスメートへの援助行動が,生起する様子が観察されたりした。以上のことからASD児においても「情報提供」と「要求」の習得を通して,「情動共有」を促し,協同活動を成立させることができるようになることが示唆された。

  • 瓜生 淑子
    2018 年 29 巻 2 号 p. 61-72
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    小・中学生約3,000人に対して慢性的な心身の不調感・不快感を質問紙法で尋ね,因子分析によって「疲労感」「集中不全感」「イライラ感」「抑うつ感」の4因子を得た。そこから,1)4因子の関係性については,「疲労感」が他の3因子に影響を与え,加えて,学業にかかわる因子と解釈された「集中不全感」も,「イライラ感」「抑うつ感」に影響を与えているというモデルが採択された。2)その「疲労感」には,睡眠時間や朝食摂取状況などから合成された「生活実態」変数が説明変数となるモデルを示し,短眠化などの生活習慣上の問題が規定しているとした。3)因子に対応する4つの下位尺度得点について3要因(学校種・性・家庭の文化階層)の分散分析を行うと,いずれの得点も概ね,中学生・女子の方が高かった。しかし家庭階層については交互作用があり,心身の健康に及ぼす階層の影響は小中学生で異なるという二面性が指摘された。小学生では家庭階層下位群の生活習慣の問題が疲労感を高め,そのことが心身の不調感・不快感全体に結びついていると解釈された。これに対し,中学生では家庭階層上位群の不調感・不快感の下位尺度得点が上昇し,階層差が有意ではなくなった。家庭階層上位群の中学生の場合,高い学業達成期待に起因する心的負荷や勉強時間の増大による生活時間の圧迫が,「疲労感」や「集中不全感」を上昇させ小学生で見られていた家庭階層差を消失させると解釈された。

  • 西尾 千尋, 工藤 和俊, 佐々木 正人
    2018 年 29 巻 2 号 p. 73-83
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    乳児が一歩目を踏み出すプロセスを明らかにするために,乳児3名について家庭で観察を行った。独立歩行開始から1ヶ月以内の自発的な歩行を対象に,歩き出す前の姿勢,手による姿勢制御の有無,一歩目のステップの種類,物の運搬の有無の4つの変数を用いて歩き出すプロセスを分析した。まず乳児ごとに歩き出すプロセスを分析したところ,立位から正面に足を踏み出すだけではなく,ツイストして一歩目から方向転換をする,物を拾い立ち上がりながら一歩目を踏み出すなど多様なプロセスが現れた。最も頻繁に用いたステップの種類はそれぞれ異なり,各乳児に特徴があった。さらに,それぞれの部屋において,乳児が歩き出した場所と歩き出しのプロセスの関係について検討したところ,歩き出す前に進行方向と同じ方向を向いているのかどうか,その際に姿勢を保持するのに利用出来る家具があるのかどうかにより足を踏み出す方法が制約されていることが示唆された。歩行という運動の発達を,個体とそれを取り巻く部屋という環境から成る一つのシステムに現れるタスクとして捉えられることについて考察した。

  • 柳岡 開地, 津田 彩乃, 西村 知沙
    2018 年 29 巻 2 号 p. 84-94
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,3歳児がある行為系列を繰り返し経験するなかでスクリプトを獲得する過程を縦断的観察により明らかにすることを目的とした。特に,スクリプトの特徴である,入れ替わることのない不変順序と入れ替わりが可能な可変順序の区別と,行為系列の階層化に着目した。研究1では,新入園児12名が朝の用意に取り組む様子を2ヶ月間観察した。結果,約1ヶ月半でほとんどの子どもが不変順序,可変順序ともに園で教わった一定の順序で行為系列を実施していたが,約2ヶ月の時点では行為間の順序が可変的な場合,園で教わったのとは異なる順序で行為を実施する子どもが複数みられるようになった。研究2では,新入園児と学齢は同じものの前年度から通園している既入園児10名を対象に観察したところ,研究1と同様に可変順序の行為間のみ園で教わった順序で行為を実施しないものが複数いた。また,研究1・2を通して,予め園の先生により朝の用意系列をいくつかの行為のまとまりに分けてもらったところ,その行為グループ間の順序は園で教わった通り実施するのに対し,グループ内の行為間では可変順序の学習が進む傾向がみられた。以上より,園で教えられた順序通り行為系列を実施するようになった後,形成された行為グループに基づいて行為間の順序が不変か可変かを学習するというスクリプトの獲得過程が示唆された。

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