管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌
Online ISSN : 2434-0529
Print ISSN : 0918-7863
33 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
論文
  • 増岡 慶次, 屋嘉比 潔
    2025 年33 巻1 号 p. 3-24
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
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    標準的な保守主義推定モデルでは,利益を株式リターンに回帰することによって保守主義の程度を定量化する.しかしながら,Banker et al. (2016)は,保守主義の推定においてコスト下方硬直性が交絡要因となる可能性を指摘している.コスト下方硬直性は,売上高の増加時と減少時で利益のビヘイビアを非対称にし,その結果として,利益と株式リターンの間に非対称な関係を生じさせる.分析の結果,わが国においても保守主義の推定においてコスト下方硬直性をコントロールしなければ,保守主義の推定値は20.7%過大推定されるという証拠が得られた.また,経営者の所有権と保守主義の経験的関係を検証したShuto and Takada (2010)について再現テストを行い,コスト下方硬直性をコントロールした場合に,彼らの分析結果は部分的に頑健ではなくなるという知見を得た.本研究の結果は,わが国データを用いた保守主義に関する研究においても,コスト下方硬直性が交絡要因となることを示している.

  • 藤田 志保
    2025 年33 巻1 号 p. 25-41
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    本論文の目的は,職能別中期経営計画がどのように機能しているのかについて明らかにすることである.この目的を果たすため,大手製薬企業X社のケース・スタディを行った.その結果,X社における職能別中期経営計画は,①戦略共有,②戦略修正,③業績評価システムとして機能していることを示した.

  • 劉 美玲, 窪田 祐一, 三矢 裕
    2025 年33 巻1 号 p. 43-61
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    アメーバ経営が小集団部門別採算制度という管理会計システムによって漸進的イノベーションを生み出し,短期的な効率性・生産性を向上させることは,多くの先行研究が明らかにしてきた.しかし,短期的な目標の達成ばかりを追求しては将来の成長のための革新的イノベーションの創出を軽視してしまう可能性がある.それでは,アメーバ経営はどのように革新的イノベーションの創出を促しているのであろうか.このことについて先行研究ではあまり議論されてこなかった.本稿は,漸進的イノベーションと革新的イノベーションの両方を促す両利き経営に注目した.アメーバ経営を管理会計とフィロソフィの両輪から捉え,アメーバ経営において両利き経営はどのように実施できるのかについて,事例研究を通じて調査を行った.調査の結果,アメーバ経営において,(1)管理会計は既存の知識の活用をドライブすること,(2)フィロソフィは新しい知識の探索をドライブすること,(3)知識の活用による成果が知識の探索をサポートすることがわかった.

  • 王 志
    2025 年33 巻1 号 p. 63-79
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    余剰生産能力を用いて新たな注文を引き受ける際に,従来,その価格は通常の販売価格より低くても変動費を上回ればよいとされているが,長期的に考えると,固定費部分を回収し損なうため,余剰生産能力が削減対象になりかねない.これに対し,王(2022, 2024)は余剰生産能力があることによって,顧客注文が来たときに,迅速な対応が可能となり,通常の販売価格より高い販売価格を提示しうることを検証した.しかし,王(2022, 2024)は余剰生産能力をどのようにして顧客の求めている短納期に結びつけるかを明確にしていなかった.そこで,本研究は王(2022, 2024)の研究成果を踏まえて,customer-responsive timeのフレームワークに基づき,株式会社エーワン精密の事例を用いてその解明に取り組んだ.

  • 足立 洋
    2025 年33 巻1 号 p. 81-96
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,ケース・スタディの手法により,中小企業の経営者による管理会計導入の意思決定に対する影響要因の考察を行う.先行研究では,企業の属性や経営者の受けた教育,会計専門職の影響などの要因が検討されてきた.これに対し本稿では,中小企業の大半が同族企業であることに着目する.より具体的には,経営者一族の親族間関係の中で共有されている価値観や哲学を資源の束として捉える「ファミリネス」という概念を援用し,それが経営者が管理会計導入を意思決定する際の大きな影響要因になっていることを論じる.本稿で考察する同族中小企業の事例では,経営者が先代社長であった父親から受け継いだファミリネスが,他社への出向経験や会計システムとの出会いを経て,原価管理の導入に結び付いた.

  • 野坂 和夫
    2025 年33 巻1 号 p. 97-113
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    退職給付に係る負債の財政負担が大きい企業と退職給付費用の経営成績に与える影響が大きい企業は,毀損したコーポレート・レピュテーションの回復を目的とし,また,多額の退職給付額が発生する将来の不確実性に対応するため,企業価値最大化を目指してリスク・マネジメント戦略としてのCSR活動を積極的に採用すると考えられる.本論文の目的は,退職給付に係る負債・退職給付費用と,リスク・マネジメント戦略としてのCSR活動の関連性を実証的に明らかにすることである.本論文の結論は,退職給付に係る負債・退職給付費用の多寡が,リスク・マネジメント戦略としてのCSR活動を誘発することを示唆した.

  • 鈴木 孝則
    2025 年33 巻1 号 p. 115-137
    発行日: 2025/03/28
    公開日: 2025/04/08
    ジャーナル 認証あり

    この論文の目的は,株主(プリンシパル)と経営者(エイジェント)の関係を探るプリンシパル・エイジェントモデルにもとづき,企業のコーポレート・ガバナンスにおける報酬契約の設計の重要性を指摘し,自己申告にもとづく報酬システムの新しいアプローチを提案することである.業績指標の精度を統制環境と統制能力および統制活動の積とモデル化し,エイジェントの統制能力の自己申告値に応じて精度が適切な水準に自動調整される仕組みを内包した報酬契約を設計することで,プリンシパルの期待効用を最大化できること示す.さらに,エイジェントの自己申告値が比較的低水準の場合,プリンシパルは,自己申告を前提とする報酬契約からこれを前提としない報酬契約への修正を検討し,その可能性をエイジェントに事前に宣言することで,期待効用をさらに最大化できることを示す.このアプローチにより,内部統制と報酬システムの連携が企業ガバナンスの成果向上に貢献することが示唆される.

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