管理会計研究の目的は,管理会計実務の発展経過,存在理由を説明するとともに,実務に有用な革新的な管理会計手法を開発することである.そのため多様な実務家のニーズに適応するかたちで,管理会計研究には様々な方法論が存在する.そして,それぞれの方法論にはそれぞれの役割がある.従って,管理会計研究における方法論のコラボレーションを促進することによって,実り多い管理会計研究が発展する.今後は,人間感情の要素を取り入れた行動経済学ベースの管理会計研究が有用である.
本稿では,ゲーム理論を応用し,実務の説明理論構築を志向した分析的研究について,その意図と,それが管理会計の領域にもたらす貢献を明らかにする.伝統的に,このような分析的研究としてはエージェンシー理論を応用した研究が想定され,特に業績管理会計に関連するテーマを分析してきた.しかし,近年,戦略管理会計,特にポジショニング・アプローチのように市場における企業間の関係を対象とするテーマが増えてきたが,このようなテーマの分析には産業組織論の応用が有用である.そして,いずれにせよ,分析的研究は,伝統的知見の拡充を意図しており,管理会計教育への貢献を第一に考えていると言える.また,革新的な技法を提供することや,業績を改善するための方策を示すことはないが,分析的研究は教育を通した実務へ貢献も重視している.さらに,分析的研究が実務との関連を強めるために,それ以外の研究方法との連携を重視しなければならず,その点にも言及する.
本稿では,アーカイバルデータを用いた実証研究(以下,実証研究とする)の特徴と課題を一般的な実証研究の枠組みに沿って概説し,管理会計研究における今後の実証研究のあり方について検討する.近年,日本の会計研究においても実証研究が増加傾向にあり,これは管理会計研究でも顕著である.実証研究は様々な研究テーマ・課題の下で設定された仮説を統計的な手法を通じて検証するものであり,その知見の蓄積は,管理会計研究および実務に対して大きな貢献を果たしうる.しかしながら,実証研究には多くの限界があり,それを把握しておくことは重要である.そこには,仮説設定におけるバイアス,変数を特定化する際の分析者の主観性,実証モデルの選択,検証結果の解釈の問題が含まれる.こうした問題を解決するためには,検証手続きの精緻化,適切な統計手法の適用とともに,他の方法を用いた研究とのコラボレーションが重要となる.
本稿では,管理会計における実験研究の方法論妁な意義を整理すると共に,管理会計研究をより豊かにしていくために実験が担っていくべき役割について検討を行う.実験研究は,(1)dataのハンドリングが容易,(2)事前検証が可能(意図せざる帰結の発見が可能),(3)内的妥当性が高いという優位性を持つ.また,実験研究には,2つのタイプがある(複数人間の意思決定を取り扱いメカニズムの検証が得意な経済実験と,個人単体の意思決定を取り扱いヒトの心理バイアスの検証が得意な心理実験).管理会計では,主にマネジメント・コントロールの領域で実験が用いられ,また,特に心理実験のウェイトが高い.今後は,心理実験と経済実験との融合を図り,また,他の研究手法と良好なコラボレーションを図っていくことが望まれる.
管理会計の学術的研究を進めていく上で統計的手法を用いた実証分析や数理モデルによる分析の有用性が認識される一方で,管理会計研究の対象が現実の会計実践であることを考慮すると実務を直接的に捉えようとする質的研究方法の有用性も否定されるわけではない.本稿では,管理会計研究における質的研究方法論を検討し,その意義を考察する.管理会計研究の実務への有用性という観点から,質的研究方法は有効であり,管理会計研究において(1)管理会計技法の発見,(2)新しい管理会計手法の開発,(3)管理会計技法の運用に関わる発見,(4)管理会計プロセスの記述・説明・分析への貢献が期待される.その一方で,質的研究方法の限界あるいは課題もあるため,トライアンギュレーションあるいはマルチ・メソドロジーによってそれらを克服する努力は必要である.
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