現代は変革の時代であり,企業活動の構造と方法を絶えず変革することが求められている.変革のベクトル合わせという役割期待のもとに,現代の管理会計システムには変革において企業が進むべき方向性を示す戦略が組み込まれており,戦略的管理会計と呼ぶことができる.本稿では,戦略的管理会計システムが「市場志向のシステムである」,「学習する組織を支援するシステムである」,「戦略的変数を組み込んだシステムである」という3つの特徴を有することを指摘した上で,特に市場志向のシステムという観点から検討を行っている.そして,市場と組織の相互浸透,ルース・カップリング,伸縮的分業といった概念を導入し,ネットワーク組織におけるマネジメント・コントロール・システムを研究することが現代の管理会計研究の重要課題であることを明らかにしている.
戦略管理会計論におけるダブルループ・フィードバック概念とフィードフォワード概念への関心の高まりを受けて,本稿ではフィードフォワードとフィードバック,シングルループとダブルループ,およびアウトプットとアウトカムなどコントロールの基礎概念について整理したうえで,戦略的コントロールにおけるシングルループの限界とダブルループの必要性,さらにフィードバックの限界とフィードフォワードの必要性について検討している.そして戦略管理会計を分析するためのフレームワーク構築の一つの試みを提示し,原価企画,ABC/ABM/ABBおよびBSCにおけるダブルループ・フィードバックとフィードフォワードのメカニズム,およびフィードバックからフィードフォワードへの展開動向について考察している.
本論文は,1990年代から顕在化し始めた日本企業の停滞と業績低迷現象を,外部要因ではなく,企業の経営管理上の問題に起因することを指摘するとともに,問題構造の解明にあたって,管理会計の視点からの分析が必要であることを主張している.具体的には,カンパニー制と成果主義報酬システムの運用失敗に関して,分析を行っている.加えて,管理会計の研究成果を活用した,業績向上に向けての取り組みが重要であることを記述している.
企業価値を高めるためには,全てのステークホルダーを満足させ,継続的な協力関係を維持しながら,複数の目標間のバランスをとりつつ環境の変化に適切に対応することが必要である.企業価値を表す指標の一つとして経済的残余利益の指標があるが,その指標にもステークホルダーの要求を反映したコストを考慮に入れる必要がある.本稿では具体的な企業価値を高める戦略決定法として,単年度のそのような経済的残余利益目標をクリアーしつつ,プロジェクトの実行による割引キャッシュフロー最大化モデルを立てて調整する方法を提案した.そして,このモデルの解をもとにして,目標・施策展開による実施法について考察した.
近年,原価計算の基礎的構造を分析した研究が多く見られる.それらのなかでもNoreen(1991)は,活動基準原価計算(ABC)の構造について分析し,製品の販売価格設定や生産中止等の意思決定に用いる関連原価の計算に必要な基礎的原価データをABCが提供するための3つの条件を導出しており,その後の研究にも大きな影響を与えているものとして注目されている.本稿では,意思決定に必要な関連原価を計算するための基礎的データを原価計算システムが提供するためにNoreen(1991)が示した条件を詳細に分析する.そのために,まず各条件の導出過程を明らかにし,その貢献を示す.その上で,各条件の特性を分析し,それらの相互関係を明らかにする.さらに,各条件との関連で,ABCは,意思決定によって影響を受ける変数とコスト・ドライバーとの関係を明確に表せるということを論証する.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら