本稿の目的は,日本企業を対象として,販売費および一般管理費のコスト・ビヘイビアを調査することにある.具体的には,日本企業においてコスト・ビヘイビアの非対称性,すなわちアクティビティの水準が大きくなったときのコストの増加額が,アクティビティの水準が小さくなったときのコストの減少額よりも大きいことが観察されるかどうかを検証する.検証の結果,コスト・ビヘイビアが非対称的であることが確認されたが,アメリカ企業を対象としたAnderson et al.(2003)の結果と比べると,日本企業においては,コスト・ビヘイビアの非対称性はより長期にわたって観察されることが明らかになった.本稿ではまた,アクティビティの変化の大きさとキャパシティの利用度が,コスト・ビヘイビアの非対称性にどのような影響を与えているかを検証することにより,コスト・ビヘイビアが非対称的になる原因について考察している.
バランスト・スコアカード(balanced scorecard;BSC)およびその支援ツールである戦略マップは,今日では営利企業のみならず,パブリックセクターや非営利組織にまで浸透しつつある.さらに,組織の持続可能な成長を追求するために,CSR(corporate social responsibility)に関連する戦略目標をBSCや戦略マップのなか盛り込もうとする動きもある.しかしながら,これらの戦略目標を,株主価値の向上をターゲットとする他の戦略目標とのロジカルな関連性を保ちながら,BSCあるいは戦略マップ上に描き込むことは困難である.というのも,前者はしばしば後者に対して,リスクないし制約要因として機能するからである.本稿では,戦略目標間の因果連鎖およびトレードオフを識別・分析するためのアプローチとして3次元戦略マップを提案する.各種の戦略目標はこれまでほぼ同質のものとして検討されてきたが,このアプローチに従うならば,それらのなかでどれが組織的なミッションを実現するうえでの重要成功要因であり,またどれがリスク・制約要因となるかを明らかにすることができるであろう.