本論文は流通機能の機関代替性を電子商取引の登場という文脈で理論的に分析する。具体的には既存の小売業者と電子商取引に従事する新しい小売業者の間の競争を記述する新しい円環型都市モデルにより, 次の2つの問題を分析する。第1の問題は, 流通機能は均衡において2つのタイプの小売業者と消費者の問でどのように分担されるのかという問題である。第2の問題は, 2つのタイプの小売業者の費用条件の変化は流通機能を機関間においてどのように代替させるのかという問題である。これまでは, 効率的に流通機能を担うことが出来る機関が市場での競争に勝ち, その機能を実際に担うと一般に考えられてきた。本論文は小売業者が同質な費用条件に直面せず, 価格支配力を持つことを前提とすると, この命題は必ずしも成立しないことを明らかにする。すなわち, 第1の問題に関しては効率的に流通機能を担える小売業者がそうでない小売業者を戦略的な観点より必ずしも市場から排除しない場合があることを示す。また, 第2の問題に関しては費用面で劣る一部の小売業者の費用条件が改善すると社会的な流通費用を大きくするように流通機能が機関間で代替されることを示す。つまり, 流通機能の機関代替性を議論する場合には市場構造を考慮する必要があることが本論文で明らかにされる。
抄録全体を表示