二酸化塩素および亜塩素酸ナトリウムの酸化機構を研究する上には,その分解機構を明らかにすることが必要である。本報においては還元剤として比較的簡単な化合物,ヨウ化カリウムを用い,主として亜塩素酸ナトリウムの分解過程を研究した。亜塩素酸ナトリウムはその過程において分解して必ず二酸化塩素を発生する。この系においては亜塩素酸ナトリウムと二酸化塩素の酸化作用はやや異なっており,亜塩素酸ナトリウムは低いpHにおいて反応しやすく,二酸化塩素は比較的高いpHにおいて反応しやすい。pH5.5付近において二酸化塩素の反応性が極めて大となり
3NaClO
2+2KI→2KIO
3+3NaCl (a)
の反応が定量的に行なわれる。著者は式(a)の反応において,pH5.2~5.3の場合,さらに詳細に亜塩素酸ナトリウムの分解の過程を追及し,亜塩素酸ナトリウムに対し種々の割合のヨウ化カリウムを加えたときの反応生成物を見た。この結果反応は先の式(a)で述べた分解の過程において
9HClO
2+KI=6ClO
2+3HCl+3H
2O+KIO
3 (b)
の反応が起ることを明らかにした。また更に低いpH3.1において実験した結果,反応は式(a)よりも(b)に近づくことを見た。
この反応において酸化電位の測定を行ない,亜塩素酸ナトリウムの溶液にヨウ化カリウムの溶液を滴下して,電位を実測し,pH5.5付近においては式(a)による当量点が明瞭に得られるが,それより低いpHにおいては得られないことを見た。
また亜塩素酸ナトリウムとヨウ素との反応を調査し,この反応は次の二式によることを確かめた。
15NaClO
2+2I→10ClO
2+2NaIO
3+5NaCl+4Na
2O (c)
5NaClO
2+4I+2H
2O→5NaCl+4HIO
3 (d)
この反応においても,pHが大なる影響を及ぼし,pHが大なるほど式(d)による反応が多くを占め,同じpHでは,NaClO
2:I
2の反応比が影響し,ヨウ素に対し添加亜塩素酸ナトリウムの量が多いほど,反応は式(c)に近づく。
更にまた,二酸化塩素とヨウ化カリウムとの反応を調査し,同様にこの反応も次の二式で説明される。
6ClO
2+5KI+3H
2O=5KIO
3+6HCl (e)
ClO
2+5KI=KCl+2K
2O+5I (f)
この反応においても,溶液のpH,反応物質の最初における存在割合が多くの影響を有し,実際の場合には(e),(f)の中間の反応を示すことが多い。更に同時に電圧滴定的な研究を行ない,これらの反応の説明を試みた。これを要するに亜塩素酸ナトリウムの反応は,途中で必ず二酸化塩素の発生を伴うから,その作用は常に亜塩素酸ナトリウムと二酸化塩素との相加作用であることに留意すべきである。
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