前報において,熱処理ポリビニルアルコール(PVA)繊維をキュアリング法によってN-メチロールアクリルアミド(N-MAM)で橋かけ化を行なえば,酸ホルマール(F)化を行なうことなく,耐熱水性と弾性度,特に,湿弾性の向上が得られることを認めたが,引張りおよび結節強伸度の低下が著しかった。しかし,アクリルアミドメチル化時にN-MAMの重合抑制剤を使用すれば,水に不溶のホモポリマーを生ずることなく,引張りおよび結節強伸度の低下が明瞭に防止できた。
そこで,引張りおよび結節強伸度の劣化を更に防止して,十分な耐熱水性と弾性向上とを付与するために,本研究ではキュアリング法に代って,オートクレーブ法による加圧湿熱法を試みた。熱処理PVA繊維をN-MAM,PVAの凝固剤としての硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4),エーテル化触媒としての硫酸(H
2SO
4),およびN-MAMの重合抑制剤としてのヒドロキノンモノメチルエーテル(MQ)の混合水溶液に浸漬し,加圧高温下でアクリルアミドメチル化反応を行ない,さらにアルカリ処理によって橋かけ化構造を導入した。MQの存在下では,N-MAMによる不溶性ホモポリマーを生ずることなく,湿熱加圧法によるアクリルアミドメチル化は容易に進行し,その好適反応条件はN-MAM2%,(NH
4)
2SO
445%,H
2SO
40.5%,MQ0.3%,170℃,60分反応であり,反応度は約0.08mmol/gであった。
アルカリ処理による橋かけ繊維の引張りおよび結節強伸度の劣化は前報のキュアリング法よりも著しく少なく,橋かけ化度が増加しても,それらの低下はきわめて少なかった。また,耐熱水性は常法F化繊維と同程度にすぐれており,乾,湿の弾性度は著しく向上した。特に湿弾性の向上は前報キュアリング法よりもさらに顕著であった。以上のような諸効果は,膨潤状態における橋かけ化が均一に行なわれたためであろうと推定した。
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